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村上春樹 計10冊

2012-08-26 23:32:19 | ブックレヴュー
村上春樹を比較的よく読んだのは中学・高校時代だからもう20年以上前のことになる。その当時読んだものでもっとも記憶に残っているのは「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」か。とはいえ、詳しいストーリーなどは覚えていない。
結局、ざっくり言ってしまえば、筆者にとって村上春樹は、「読めばそれなりに面白いが、それ以上に特別な感銘を受けた、という程ではない」くらいの位置づけだろうか。
とにかく、ここ10数年はあまり読んでいなかったのだが、再び手にとる契機になったのは昨年の震災だった。

阪神淡路大震災の後で、「その後」に様相を異にした世界観や、人々の心の光や闇に踏み込んだ作品群を村上春樹が発表していた、ということを筆者は知らなかったのだが、それらの作品が今度の震災後の状況とも重なる時代背景の中で、再び注目されている、ということを耳にしたので、読んでみることにした。

「神の子どもたちはみな踊る」がその作品。6つの作品からなる短編集で、それぞれの作品は震災を重要なモチーフにしている点では共通しているものの、完全に独立している。だが、6つの作品の順序には一つの流れを感じる。最後の作品に向かって、各作品の世界観が次第に明るくポジティヴになっているように思う。
ちなみに筆者がもっとも好む作品は短編集中第5作目、「かえるくん、東京を救う」だ。

で、この1冊で村上春樹をまた読んでみようかという気になり、そこへ「1Q84」の文庫化というタイミングもあったので、まずその第1、2巻を読んでみた。面白かった。
ただ、残りの4冊がそれぞれ2冊ずつ、翌月と翌々月にしか発売されないということだったので、その間に他の作品を読むことにした。

選んだのは「ねじまき鳥クロニクル」。構成も重層的で読みごたえがあり、ノモンハン事件なども出てきて歴史(殊に近現代史)好きにはたまらない、という面もあるのだが、筆者にはこの作家の作品特有の寝覚めの悪さ、というか、「軽い悪夢」的な読後感の悪さがちょっと引っかかった。

そのうちに「1Q84」を読破。上述の2作品に比べ、いろいろ考えされられるような要素は少ないと思ったが、エンタテイメントとしてはこの作家の作品中でも白眉ではないだろうか。
筆者であれば、もし村上春樹を初めて読む、という人間に薦めるのはこの作品。


(文中、敬称略させていただきました。)

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