時評が語るその時代

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中国という国(93)

2023年05月12日 | 日記

2030年代強権狙う「習・プーチン」同志に共倒れの危機?ロシア大統領のプーチンがウクライナへの軍事侵攻に踏み切った直後だというのに、中国の外交・安全保障関係者らは自信満々だった。プーチンと同じように2030年代まで見据えた超長期政権を狙う中国国家主席の習近平も、当初は似た感覚だったに違いない。侵攻した2月24日に先立つ同4日の北京冬季五輪開幕日、中ロ首脳は北京でがっちり握手し、無制限の友好協力をうたったが、北京冬季パラリンピック開催中にプーチンはウクライナ侵攻に踏み切った。結局、無制限の友好協力は、中国の期待にすぎなかった。プーチンが主催国のトップである習の顔を立てたのは半分のみと中途半端な形に終わった。多くのウクライナ市民が犠牲になる事態は重圧だったが、それでも中国側では「ロシア軍が(侵攻から)数日以内に首都を制圧して勝利するのは疑いなく、パラリンピック開幕中に戦闘は大筋終わる」という楽観的な分析が主流だった。国際政治上の利害だけをみるなら、米国から圧力を受ける中国にとって有利な情勢になるのは間違いない。焦るのは、欧州との結束にくさびを打ち込まれる米大統領のバイデンだ。そういう読み筋でもあった。だが、こちらも中国の判断が大きく外れ、事態は思わぬ方向に動いていく。

ウクライナの必死の反撃が予想以上だったばかりでなく、欧州連合(EU)と米国のロシア制裁での結束も崩れないどころか、むしろ格段に強まった。EU首脳らは、中国に対してロシアへの軍事・経済的な支援をしないよう強く求めた。長期に及ぶウクライナ侵攻で、対米共闘を含めて頼りになる同志プーチンの絶対的な権力が、ウクライナを巡る実質的な失敗の結果、衰えてしまうのは悪夢だ。それは、習が9年かけて着々と進めてきた権力集中という成果にも影を落とす。2030年代という目的地をめざすしかない運命共同体でもあるのだ。「中華民族の偉大な復興――」。共産党100年記念式典での習の宣言は、かつて中国を支配した帝国の領土回復も意味する。改革・開放で中国を豊かにした鄧小平の成果を越えて、建国の父である毛沢東並みの地位をめざす以上、運命にかかわる最も重要な課題は台湾統一である。プーチンのウクライナ侵攻が実質的に失敗すれば、内政上、大事な時期を迎えている習にとっても計り知れないダメージになる。習3選後、2030年代への足がかりとなる27年党大会での退場が早くも確定し、「レームダック(死に体)」への道を歩むことになりかねない。

では何か策はあるのか。ロシアとウクライナのトップ会談による本格的な停戦が実現する機が熟せば、中国も関係国による安全保障の枠組みに参加して、重要な役割を担う選択肢がある。その時は、習とウクライナ大統領のゼレンスキーの電話協議も用意できるが、肝心のプーチンの本音がわからないなか、踏み込むのは危険すぎる。そもそも、北大西洋条約機構(NATO)拡大反対を明記した2月4日の中ロ共同声明が存在する以上、中国は、明白な侵略の被害者であるウクライナに肩入れできない。それは習の内政上の個人的な利益にもかかわる。2030年代までトップとして共に歩む同志、プーチンを裏で支え続けなければ、先行き「共倒れ」になる危険さえあるのだ。習とプーチンの個人的な盟友関係は、今や中国外交の重荷になりつつある。  (この稿日経記事参照引用)