Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: LA BOHEME (Mon, Dec 15, 2008)

2008-12-16 | メト on Sirius
この一ヶ月弱、イタリアものの上演が少なかったので、メトで一番のべ公演回数の多い演目ゆえ、
くちさがなく”毎年舞台に戻ってくるゾンビ”などとくさしていても、
やっぱり戻ってくるとなんだかほっとする『ラ・ボエーム』です。

去年のゲオルギューとヴァルガスのコンビでの公演ライブ・イン・HDにも乗ったし、
DVDまで発売されてしまいましたが、正直、あんまり二人の間のケミストリーも感じられなかったし、
あわてて映像化したのは失策だったんじゃないかな、と思う。

今年のAキャストは、ロドルフォが同じヴァルガスで、ミミにマイヤ・コヴァレフスカを迎えます。
彼女は2006年シーズンに『オルフェオとエウリディーチェ』のエウリディーチェ、
2007年シーズンに『カルメン』のミカエラでメトの舞台に立っています。
いずれも歌唱は花丸満点とはいいがたかったのですが、
美人なので一生懸命ゲルプ氏が売りだそうとしていて
(まだまだキャリアも浅いのに、今年のメトのシーズン・ブックでは、
大物歌手たちに混じってやたら彼女の写真が大きかったですから、、。)、
『ラ・ボエーム』の主役なんてはれるのかしら、、?とかなり懐疑的な私だったのですが、、。




はっきり言ってしまうと、技術的には全然駄目なところがてんこもり。
ここ数年メトでこの役を歌った他の歌手、ドマス、マランビオ、ネトレプコ、ゲオルギューあたり
とくらべても、ぜんっぜん技術的には上手くまとまってません。
ブレスの配分が悪くてとんでもないところに息継ぎを入れたり、
音量を小さくしながらきれいに声を収束させていくことも上手く出来ていないし、
指揮者と全く息が合っていない個所もありました。
普通だと、それ、駄目じゃん!って感じなんですが、しかし!
彼女のこの役は、そのまとまってなさゆえの独特の荒削りな魅力が私には面白く感じられました。
ただ、下手なだけの歌手を”面白い”と感じるほど私も物好きではないので一言付け加えると、
この役での彼女は、発声の仕方と歌唱のスタイルがいい意味でレトロな感じがするのがいいな、
と感じました。

綺麗に出ている時の声は、どことなくレナータ・スコットに似て感じられる瞬間もありました。
もちろん、歌唱技術のレベルは雲泥の差ですが。
(これしっかり書いておかないと、レナータに殺される~。)

言いたいのは、本人の努力によっては、
この役での彼女は化ける可能性があるのではないか、ということです。
もしも細かい歌唱技術に磨きがかかったなら、
今ミミ役を歌っている、または歌おうとしている歌手とは若干違った個性を出せる面白さを感じます。

一つ言うと、ドラマティック/エモーショナルな場面で
低音を出さなければならないときに音がやや下品なのは課題。
中高音で持っている音色が低音でも出せるようになるといいな、と思います。

ヴァルガスは決して絶好調ではなかったように思われました。
高音の支えが弱くてちょっとひやりとさせられる部分もありましたし、
音を外すことは一度もありませんでしたが、いつもに比べると、
少し声が引っ込んでしまっているように感じられる部分もありました。
今日も一幕のアリアは半音下げて歌っていたように思います。
ということで、私は彼がメトでこのアリアをオリジナルのキーで歌ったのを
まだ一度も聴いたことがないです。

ただ、心理的には、ずっと今日の公演の方を楽しんでいるような空気が伝わってきました。
ゲオルギューと共演したときはなんだか彼の方がとても縮こまっているような感じがしたのですが、
今日はコンディションのことを抜きにすれば、伸び伸びと歌っていて、
コヴァレフスカのメトでのミミ・デビューを支えようと一生懸命歌う様子が好感度高し。
その熱気が伝わったか、今日の観客、とても熱かったです。

クウィーチェンのマルチェッロ、グラデュスのコッリーネ、ハカラのショナール、
男性陣がしっかりとまとまっていて、ゲオルギューというスターはいなくても、
全体の舞台の有機度、まとまり方という意味では、今日の公演の方が断然上を行ってました。
『ラ・ボエーム』の舞台ってこれでいいんじゃないかな、と思います。

指揮はフランス人のシャスリン。
こんなに早い『ラ・ボエーム』聴いたことがない!というくらいのアップテンポ。
時に安っぽい音に傾くときもありましたが、ユニークではあります。


Ramon Vargas (Rodolfo)
Maija Kovalevska (Mimi)
Susanna Phillips (Musetta)
Mariusz Kwiecien (Marcello)
Oren Gradus (Colline)
Tommi Hakala (Schaunard)
Paul Plishka (Benoit/Alcindoro)
Conductor: Frederic Chaslin
Production: Franco Zeffirelli
ON

***プッチーニ ラ・ボエーム Puccini La Boheme***

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9 コメント

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半音下げ (シャンティ)
2008-12-17 08:03:09
>一幕のアリアは半音下げて歌っていた~

ヴァルガスもそうなんですか...。このアリアは私とクラウスさんの出会いの(?)曲なので、なにより思い入れがありますが、最近もヴィリャソンが 全曲盤で半音下げて歌っているので、ムッ!としていたところです。この2人は半音下げるのが 身についてしまっているのでしょうか? 譜面どおりに歌うことをモットーとしていたクラウスさんを敬愛しているので、大いに不満がありますね。 
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こっそり下げてます (Madokakip)
2008-12-17 11:59:19
 シャンティさん、

私も実は好きな作品、思い入れのある作品だと気になります。
アリア全体のカラーみたいなものが変わってしまいますし(なんか電球が消耗して暗くなる時のような感じに似てませんか?)、それに特にこのアリアの場合、なんといってもオリジナルのキーで歌われるときと比べると、最高音でのカタルシスが損なわれてしまいますよね。

半音下げは歌手がコンディションが悪い(と思い込んでいる場合も含め)時にたまに見られますね。
今日のヴァルガスは確かに他の部分も本来の歌唱と比べるとらしくなさが目立ったので、
やむなく選択したことかな、とも思うのですが、
でも、これまで私が実演、シリウスを含めて聴く機会のあったボエームでは、彼はこのアリアをオリジナルで歌ったことがないんですよね、、。
ってことは、いつも、、?

ヴィラゾンの全曲盤(ネトレプコと共演している盤ですよね?)、あれはライブを録音したものでしたっけ?
そうすると、録音日にたまたまコンディションが悪くて、下げることになってしまったのか、、。
そうでなきゃ、キーを下げて歌わなければならないような作品を何も無理してレコーディングしなくても、あなた、、とも思うのですが、、。
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全曲盤 (シャンティ)
2008-12-18 07:36:07
2007年4月ミュンヘンでのライブです。でも、今の技術ならそこだけ録り直しも出来そうな気もします。来週NHKで 映画版(2009年公開とは違うのかは不明)の放送があるらしいので、ヴィラゾンが常習犯なのか確かめられますが。(2人を通しで聴きたいとは思いません)
歌手がハイCを半音下げているとき、オケは”あ~ぁ”と思いながら、正しい音程を演奏しているのでしょうか?
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今頃確認できたはず (Madokakip)
2008-12-19 13:00:38
 シャンティさん、

このヴァルガス&コヴァレフスカが歌っている今シーズンの『ラ・ボエーム』、
一番初めはヴィラゾンとネトレプコのコンビを念頭に置いてキャスティングされたはずだったと記憶しています。

ヴィラゾンが昨シーズン体調を崩し全公演(『ロミオとジュリエット』)キャンセルしてしまいましたが、
多分その時に一緒にこの『ラ・ボエーム』の出演も保留→結局キャンセルのコースになってしまったようです。
ネトレプコの方はご存知の通り、赤ちゃんが出来たのがわかった時点でキャンセル。

なので、本当なら
今頃常習犯か確認できたんですよね(笑)。
しかし!ちょっと待ってくださいよ、、ヴィラゾン、確か二シーズン前に出演してましたよ、
この役で。
キーのことが気になった記憶があまりないので、
オリジナルで歌ったのかしら。
もうほんっとうに頼りない記憶力ですみません。

>歌手がハイCを半音下げているとき、オケは”あ~ぁ”と思いながら、正しい音程を演奏しているのでしょうか?

私が質問の趣旨を取り違えていたらすみません。
この”冷たい手を”の場合ですと、アリアが始まる少し前の弦の音から、移調が始まります。
オケのために準備されているスコアの中に、
ディヴィーシ(divici?)と呼ばれる、歌手のコンディションによっては、
半音または全音低くなるかもしれませんよ、
という部分が表示されていて、
別紙等で、その部分を半または全音低くした各楽器のパートの楽譜が挿入されるのですが、
オケのメンバーは、普通、公演の前に、
どちらを演奏しなければならないかの指示は受けています。
(ということは歌手は公演が始まる前に、自分がオリジナルで歌えるかどうか判断しなければなりません。)
なので、オケのメンバーたちの”あ~あ”は、公演前にすでに発生しているものと思われます(笑)。

だいぶ前の話ですが、メトで、ある有名歌手が
オリジナルのキーで歌おうとしていたものの、
あまりにコンディションが悪かったために、
公演が始まってから、アリアが始まるまでに、
楽譜担当の係の人が一生懸命移調させたスコアを準備した、
という話を聞いたことがありますが、
これは本当に極まれなことのはずです。

そもそも、下げて歌う、ということ自体も、
それなりに評価のある歌手が、あくまでコンディションが悪い(またはそこからくる心理的な負担を軽減する)ために下げる、ということが前提で、
もともと下げてしか歌えないような歌手が舞台に立つことは普通ありえないし、
またキャリアのない歌手が、”音下げてください”などと言おうものなら、
は~あ?と劇場側に思われるのは間違いなさそうです。

ならば、なぜ、ヴァルガスは私が観る回はいつも、半音下がっているのか、、
それは謎のままです(笑)。
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プロですね (シャンティ)
2008-12-20 21:59:07
くわしい御説明ありがとうございます。
オケの方々も プロとはいえ、その日によって移調された音程に直して演奏するなんてスゴイ!と尊敬します。
歌手も出だしの音を聴いて、しっかり半音下げて歌いだすのですね。
実際に聞きたいような... 聴きたくないですね。
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その前は (Madokakip)
2008-12-22 11:32:36
 シャンティさん、

>実際に聞きたいような... 聴きたくないですね

ははは、そうですね、できればオリジナルがいいですよね。
でも、半音だとかなりわかりにくくて、
本当は半音下がっていたのに、
”輝かしいハイCを聴かせた”みたいなコメントが堂々と新聞のレビューとして載ってたりした、という話もあります。
私も自分の好きなアリアは、ん?と思いますが、
そうでもないものだとかなり素通りで、全然気がついてないことの方が多いと思います。

とはいえ、それ自体、そう頻繁にあることではなく、
最近だと、去年、ヴァルガスが同じアリアで下げていた以外、
2006年の『ドン・カルロ』のエボリのアリアを、
ボロディナが下げて歌っていた公演があった
(全公演ではないです)位で、
他はあまり記憶にないです。
(気付いてないだけの可能性もありますが。)
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Che gelida maninaの半音下げ (keyaki)
2009-01-08 10:03:06
ヴィリャソンの映画版《ボエーム》は、ドイツ・グラモフォンのCDをサントラに使っているようですから、これって、当然スタジオ録音だと思いますが、アリアを半音下げています。
舞台では、よくあることですが、これはちょっと.....?です。ドミンゴも、舞台では、半音下げで歌います、と公言していますが、録音では、見事なハイCを聞かせています。録音は何回でもトライできるわけですから、この曲を録音で残したいのであれば、移調して歌うのは納得できませんね。

たまたま、今回のボエームの幕切れのMP3を6種類アップしましたが、その中では、このアリアはどうなんだろう...と興味が湧いて来て調べてみました。なんと6人中4人が下げ組でした。もしかしたら、メトには、移調した楽譜しか用意してないのかと思いましたが、さすがにパヴァロッティは正調「冷たい手」でした。
下げていた歌手は、ドミンゴ('77メト)、カレーラス('77メト)、バルガス(2009メト)、ビリャソン(録音)の4人。
正調組は、パヴァロッティ('74メト)、グリゴーロ(2007WNO)

まあ、半音下げがすぐ分かるのは、絶対音感のようなものがある人でしょうけど、だからといってねぇ....
2005年のビリャソンのChe gelida maninaのMP3を追加しましたので、また、聞きに来て下さいね。正調のも並べてアップしています。
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ごめんなさい (keyaki)
2009-01-08 10:34:52
上のシャンティさんのコメントを再度読み直したら、あのCDはライブなんですか。だとすると、まあ、仕方がないか....ですが、それにしても映画にするのであれば、ちゃんとスタジオ録音するのが今までのオペラ映画のやり方なんですけどね。なんか、この映画もやっつけ仕事って感じですね。
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発掘しました! (Madokakip)
2009-01-08 14:25:46
 keyakiさん、

もうあまりに気になってきて(笑)、
このヴィラゾン&ネトレプコの『ラ・ボエーム』のCD、
長らく行方不明になっていたのですが、
ついぞ、先ほど、棚に入りきらずに数本のタワーを作っているCDの山の中に、発見しました!!

確かにライナーノーツを見ると、ミュンヘンでのライブということになっています。
ただし、あいからず美辞麗句が好きで、
スリーブに、”ミュンヘンの公演に批評家が大激賞”みたいなことが書いてあるのですが、
その公演がperformancesと複数になっているのを見ると、
一日ではなく、複数日の公演が同じキャストであったということになります。
日にちが2007年4月としか書かれておらず、
はっきりした日にちが入っていないところを見ると、
ある程度複数の公演を部分で繋ぎ合わせたりしていることは
間違いないと思うのですが、
(これも汚いですよね。ライブというなら、
ちゃんとある一日のをまるまる使おうよ!と思います。)
それでも半音下がっているなら、
どの日もオリジナルでは歌っていない、ということですよね。

つい昨日ジョルダーノのロドルフォに食あたり状態になった私は、
このCDも怖くて聴けません(笑)。

>メトには、移調した楽譜しか用意してないのかと思いましたが

ははは!でももうそれでいいかもしれないですね。
最近の歌手ではほとんどオリジナルで歌えるテノールがいないように思えてきましたから。
グリゴーロがオリジナルで歌えるのが唯一の期待ですが、
メトにはいつ来てくれるんだろう、、。

>この曲を録音で残したいのであれば、移調して歌うのは納得できませんね

ほんとですよね。
最近のレコード会社やマネジメント会社主導の、
ほとんど毎回似たような顔ぶれの歌手による、やっつけ仕事的なCDの数々は本当に聴いていて腹が立ちます。
作品への愛情ってものが感じられません。

keyakiさんのブログへの追加部分も楽しく読ませていただきました!
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