Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

ORFEO ED EURIDICE (Sat Mtn, May 12, 2007)

2007-05-12 | メトロポリタン・オペラ
Sirius(衛星ラジオ放送)のメト・チャンネルのおかげで、
生で見たのと同じ演目、同じキャストを、日をそう置かずして聞き比べができるのは大変喜ばしいことなのですが、
それゆえに、ラジオ放送が時にいかにあてにならないか、最近とみに強く感じるようになったのは最大の皮肉といえましょう。

この”オルフェオとエウリディーチェ”も、先週のマチネをそのラジオ放送で聞いて、
ある程度”予想”をしてオペラハウスに向ったのですが、
ことごとく生で聴くのと違っていて驚いた次第です。

まず、この作品がカストラートを想定して書かれたこと、
またオルフェオが男性であることを思えば、
カストラートが絶滅(多分、絶滅したはず。。)した現在、
一番近いところにいるカウンターテナーによって上演されるのが理想とされるのもわかるのですが、
このカウンターテナーの声質がちょっぴり苦手な私。
私の愛聴盤である、コントラルトのキャスリーン・フェリアがオルフェオ役を歌った40年代の録音があまりにもすばらしくて、
そのこの世のものと思えぬ響きは、私、この録音を聞くたびに本当に冥界に行って帰ってきたような気さえするほどなので、
他の盤と総合的に判断しても、できればオルフェオ役は女声で聴きたい、というのが本音なのでした。
女性が男性を演じるというこの宝塚系のねじれは全く気にならずに役に溶け込めるのに、
カウンターテナーが歌うと、なんともおかまっぽく(失礼!)聞こえるレンジがあって、
本来、男性が男性の役を歌っているのでよりナチュラルに感じるはずが、
宝塚よりも奇異に聞こえてくるから不思議。。
おそらく、自然の声域よりもあまりにかけ離れたところから出てくる音なので、
その無理した感じが(だからこそ好きな人には評価されるところでもあるのですが)聴いていてこちらとしては少し辛いのだと思います。
そんな私の偏見を裏付けるかのごとく、ラジオ放送で聴いたときの印象では、
特に音域が厳しくなると少し音のベースがふらつくように感じられ、
”ほーらね。だから無理して男性が歌わなくっても!”なんて思っていたのです。
それから、ラジオではエウリディーチェ役のKovalevska(しかし、最近ロシア系が多いです。。また読めない!)がなかなかよかったように聴こえたのですが、
実際にオペラハウスで聞くと。。

まず、レヴァインの指揮、特に序曲が”なんだ、これは?”と驚くくらい遅いテンポでいきなり生き生き感の欠ける演奏で不意打ちをくらう。
セットは私の嫌いなアブストラクト系で、
写真のような3段ほどのテラス様の場所に、合唱のメンバーが、
歴史上の人物のコスチュームを着て、オルフェオの一挙手一同を見つめています。こわいです。



つまり、冥界のお話なので、歴史上の人物も皆そこにいるはず、ってことなんでしょうね。
しかし、私の見間違えでなければ、ヒトラーと思われる人も混じっていたようなんですが、いいんでしょうか、人種差別に敏感なニューヨークで。。
衣装のデザインはアイザック・ミズラヒ。
この人見ると、80年代および90年代初頭を思い出すのですが、
しばらく落ち目だったのに、なんだか最近グラミー賞のファッションチェックも担当したりなんかしていて、
すっかりマスコミへの露出度がアップしているな、と思ったらオペラの衣装担当デビューまで!!なかなかしぶといです。
この歴史上の人物の衣装はよいとしても、許せなかったのは、
ダンサーおよびアモーレの衣装。
まず、ダンサーについては、本当にたくさんいいたいことがあるのですが。
まず、このオペラ、登場人物が少ないためか、そこここに歌手の休憩時間として(と、私が勝手に解釈している)ダンスの場面が盛り込まれているのですが、このダンスが今回許せない出来。
まず振付がラッキー池田風。
本当はダンスが上手いくせに、ちょっとわざと下手かわいい、っていうか、へんな動きにしてみました!
僕ってほんとは能力あるんだけど、それを出さないのがかっこいいんだよね!というノリ。
その斜に構えた感じがホントやだ。
演出担当のマーク・モリスが振付も担当しているんですが、顔写真見ても、やっぱりそういうこと考えてそうな感じの顔つきしてるんだ、これが。
あ、そうそう、今日は少し機嫌が悪いので、かなり一方的な決め付けコメントが続きます、すみません。
とにかく、動きに微塵の美すらなく、若いダンサーが、がんばってるんだけど、
がんがん、無意識に踊ってくれるもので、またいらいらしてしまう。



前にもどこかで言ったと思いますが、無意識に声を出すこと、無意識に踊ること、
すべて私から見れば、舞台芸術においては大重罪!
特に昨日見たばかりのNYCBのロミオとジュリエットでの、ジュリエット役を演じた女性の痛々しいまでに細部にこだわった動きとそれに費やされた努力を思えば、
こんなばかばかしいダンスを見せられて腹が立たないわけがない。
私の隣に座っていた初老の女性も、しまいには、演奏中に、”いい加減にしてちょうだい!”といわんばかりに、片手を振っておられました。
なんだか、日本のテレビのコマーシャルってこういう動き、多いよね。。
うまく言えないのだけれど、そんな感想です。
そんなダンスをさらに腹立たしいものにしていたのが衣装。
私は少なくとも、どんなアプローチでも、何とか作品そのものに貢献しよう、という姿勢が見られれば評価することはやぶさかではない、
と自分の判断力を自負しているのですが、
このダンサーたちが着ていた衣装は、多分ミズラヒのNYショーで着ていても何の違和感もないほど、
見事にオルフェオとエウリディーチェとは、なーんの関係もないデザイン。
今の若い子が着てそうな服ばっかりで、自分のファッションショーと勘違いしてんじゃないかと思います。
それから、アモーレの衣装、衣装デザインを見たときは、
ちゃんとした衣装っぽかったのに、なぜか、出てきたハイディ・グラント・マーフィーは、
白の長袖Tシャツに、ピンクの半そでのパーカー、そしてチノパン。。。



まさか、リハの格好そのままで出てきたのでは、と思わせる格好。
アモーレが初登場するシーンは、舞台天井から宙吊りなのですが、
私が推測するに、その宙吊りのシーンに繊細な衣装だと耐えられなくて変更になったのではないかと思われます。

冥界からこの世に戻ってくるときの舞台デザインはなかなか良くできていて、
黒っぽい岩の真ん中に大きな裂け目があって、
そこを二人が歩いて行くという趣向。



写真の歴史上の人物100人セットとともに、私の苦手な抽象的な舞台デザインにしては、
アイディアとしてはうまく機能していたように思いますので、
かえすがえすもダンスのシーンが惜しい。

さて、肝心の歌に戻って、
まず、エウリディーチェに失望。
一瞬、椿姫のヴィオレッタ向きにも聴こえる印象的な声なのですが、
(そして、ラジオでもそういう印象だった)
ところが通しでオペラハウスで聴くと、とにかく押して、押して、押して、ばかりで、引くということを知らない。
声そのものではなく、歌い方がうるさすぎます。
このオペラは独特のスタイルがあって、
少し引いた(でも冷めてはいない)感じで歌うほうがより感情が伝わってくるように個人的には思います。
意外にも、ラジオで聞いたときの印象と反して良かったのがダニエルズのオルフェオでした。
主役3人のなかで、最もその”スタイル”を持って歌っていたように思います。
どんなにエモーショナルな場面でも、歌い崩さず、過熱せず、淡々と歌っているのが、
逆にその裏にある感情が染みわたるよう。
人って思いのたけをあまりに感情的にぶちまけられると引いてしまいますが、
とつとつと話されると逆にシンパシーを感じたりするもの。
なんだかそれと似ていると思いました。
そのきわみがオルフェオのアリア、”エウリディーチェを失って”。
もう少しで冥界から妻を助けだせるというところで、彼女の泣き落としにかかり、
(”私を見つめてくださらないとは、もう愛していらっしゃらないのね!”云々。しまいには、”こんな扱いを受けるくらいなら、天国で安らかな時間を送っていたかったわ!”と逆ギレ。オルフェオも、こんなやな女のどこがいいんでしょう?)
ついにアモーレとの約束を破って彼女の顔を見つめてしまったがために、
永遠に彼女が死んでしまった(とオルフェオが思っている)シーン。
(最後にアモーレの力で再度エウリディーチェは生き返り、ハッピーエンドになりますが。)
わざと感情を入れないようにしているかと思われるくらいの淡々歌唱なのに、
それが逆に切ないというこの逆説的効果。
そう感じたのは私だけではなかったようで、観客の拍手も大きかった。
本当に、ラジオほど、時としてあてにならないものはありません。



コーラス・マスターが新しい人になって(Donald Palumbo)初めての演目ですが、
合唱がここ最近では一番いい出来だったように思います。
来シーズンの他の演目での成果が楽しみ。

David Daniels (Orfeo)
Maija Kovalevska (Euridice)
Heidi Grant Murphy (Amor)
Conductor: James Levine
Production: Mark Morris
Dr Circ B Even
OFF
***グルック オルフェオとエウリディーチェ Gluck Orfeo ed Euridice***

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