Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

L’ELISIR D’AMORE (Wed, Apr 22, 2009)

2009-04-22 | メトロポリタン・オペラ
コミカルな演技の意外な上手さと彼らしさのある”人知れぬ涙”の歌唱で
予想外の大健闘を果たしたマッシモ・ジョルダーノと、
ヴィラゾンのオール公演キャンセルに伴って転がり込んで来た代役の大チャンスを
今ひとつ生かしきれなかった感があり、ジョルダーノと明暗を分けることになったピッタスに続き、
3人目のネモリーノは、今日一日だけの登場となるジョセフ・カレイヤ。
彼はつい先日まで公演が続いていた『リゴレット』で、Bキャストのマントヴァ公を歌っていましたが、
今回のように一日だけ、別の演目で登場してくれる、というのは、
歌う方は大変でしょうが、観客としてはなかなか楽しみです。
(その『リゴレット』では一日だけベチャーラがマントヴァ公を歌った日もありました。)

マントヴァ公のようなヴェルディものの軽めのテノール役は
カレイヤのコーリング・カードになっているような気がするのですが、
ヴェルディを歌うのとは、また違ったものが要求されるベル・カント・レパートリーの、
特にコメディックなセンスが必要とされるこの『愛の妙薬』で、
カレイヤがどのような歌唱を聴かせてくれるのか、期待が高まります。
知名度と実力を総合したら、現在のところは、ピッタスはもちろん
ジョルダーノよりも上である、とまずは言ってよいカレイヤなので、
3人の中で一番良いものが出てきても驚きません。

つい先日観た『リゴレット』では、2006年に彼のマントヴァ公を聴いたときよりは、
少し歌い方が変わったように感じられる部分が出てきたせいもあって、
もしかすると、『愛の妙薬』には少し声が立派かな?と思ったのですが、
聴き始めて、それはほとんど気にならなかったです。
ただし、立ち上がりに、『リゴレット』の記事で説明をしたような、
鼻で止まってしまって、そこから抜けていかないような音の高音がしばらく聴かれました。
20分くらいすると、突然良く抜けるようになり始めるのですが、
今度は、逆に一幕の最後あたりから、本当に微妙なものですが疲れが見られはじめ、
インターミッションの後はまた瑞々しい声に戻るのですが、幕の終わりにはやはり少し疲れた声になって、、の繰り返し。
疲れると言っても、それこそジークフリート役なんかを歌っているわけではなく
声のポジションを高く、軽く保つことのできるベル・カント・ロールですし、
他の二人(ジョルダーノとピッタス)は全然そういうことを感じさせなかった分、余計に気になりました。
彼の場合、今後出ずっぱりが続くような主役級の役を演じる場合、
この立ち上がりの問題とスタミナの問題をどう克服するか、という課題があるかもしれません。

なぜ、そうも疲れてしまうのか、という要因の一つは、もしかすると、
いつも押しの方に走りがちな、彼の歌唱にあるかもしれません。
ベル・カントは特に、柔らかい歌声で”抜き”を作ったり、繊細に歌い上げる部分が必要
(しかし、それはそれで大変な神経を使うので、決して楽なわけではない。)なんですが、
彼の歌はそれが若干希薄です。
それが一番はっきりと出てしまうのが、残念なことに、アリアの”人知れぬ涙”です。
張りのある声と、二年前にくらべると”押し”といいますか、少し貫禄がついてきたせいもあって、
観客からの反応は上々でしたが、音を慈しむような、一つの音の中でのシェーディング、カラーリング、
強弱の変化、というものがほとんどなく、曲のなかに、はっ!とさせられる瞬間がないために、
立派に歌い上げられるままに終わってしまう、という感じです。
かと言って、ベル・カントの歌唱に必要なテクニックが欠けているわけではなく、
技術は割としっかりしているので、余計に残念です。

こと”人知れぬ涙”だけに関して言えば、私はジョルダーノの歌の方がずっと魅力的だと思います。
ジョルダーノのこのアリアは、ネモリーノの気持ちを水彩画で現わしたように、
ネモリーノがこの瞬間に抱いているはずの、微妙な複数の違った感情が、きちんと曲のなかで表現されていて、
しかも、彼の個性も感じます。
ひきかえ、カレイヤのそれは、微妙なニュアンスに欠け、このアリアについては、
何一つ彼らしいものを感じることは出来ませんでした。

逆に、彼のネモリーノの良さは、”人知れぬ涙”以外の部分にあります。
最初にまとめてカレイヤのネモリーノのマイナス点や課題をあげたので、
彼の歌唱に不満だったのかと思われるかもしれませんが、決してそうではなくて、
全体的には彼の歌は非常に良かったと思います。

まず、彼はリズム感が極めて良く、今日、初めて、それも一回きりの公演のために
歌っているとは信じ難いほど、指揮者への反応もよくて、
音のある符はもちろん、休符にまで躍動するようなリズム感があるのが聴いていてすごく気持ちがいいです。
多少音の入りや共演者とのコンビネーションがずれても、あっという間に軌道修正してしまう能力も見事です。

誰が相手でも重唱で相手とぴたーっとはまったハーモニーを聴かせることが多く、
(特にニ幕でベルコーレ、アディーナと一緒に出した和音の美しさは最高でした。)
基礎能力の高い歌手ですので、これで”人知れぬ涙”のところで書いたような
繊細な技術とセンスがつくと、まだもっと歌が良くなるポテンシャルを感じます。



彼は目の色がものすごく綺麗で、もう少しでイケメンになりそうな気もするのに、
どこのパーツがおかしいのか、そうなり損ねているところが魅力でもあるわけですが、
舞台に立っているのを遠目でみる分には、背がそこそこあって、肩幅ががっちり、
足が細く、顔がやや大き目なので、映える姿かたちです。
なので、下手をすると、ネモリーノというにはちょっと見栄えが良すぎて、
嫌味な感じになってしまう可能性もあるのですが、彼はそれを逆手にとって、
”ばかわいい”と名づけたくなるような、見栄えの良さを生かした役作りをしています。
下手にかっこ悪く、また間抜けに見せるのではなく、少し頭の回転が遅そうながら、
キュートなネモリーノです。

今日鑑賞したのは31番ボックスという、ほとんどオケを横から眺めているに近いような、
舞台に近いサイドのボックスだったのですが、そのせいで、
オケの音がものすごく大きく聴こえてきて(というのは、歌手の声が前に飛んで行っているのに、
それをブロックするようにオケの音がピットから立ち上がってくるので、、。
よって、この席は、ビジュアル的にはものすごく良く歌手が見えるので最高なんですが、
オーディオ的にはやや厳しい座席です。)
歌が若干聴こえにくく感じる部分もありました。

カレイヤはピッタスと同じく、ニ幕のドゥルカマーラとの二重唱、”20スクードだって! Venti scidi!"で、
ハイCを出しましたが、音のピッチは正確なものの、全くボディのないすかすかな音に
なってしまったように聴こえたのですが、そこにオケが割と大きな音で被ってくる個所でもあり、
座席のせいで感じた錯覚なのか、他のまともな座席で聞いてもそう感じたのかは、ちょっと確信がもてません。

カレイヤは意外と演技も上手で、たった一回の公演でも、ピッタスよりずっと上手にこの役の、
この演出でのエッセンスを掴んでいて、手持ち無沙汰に見える個所が全くなかったです。

ただ、アディーナとベルコーレが結婚の話をしている間にふてくされて、
バスケットから取り出したりんごの皮をむきながらその皮を二人に向けて飛ばす場面では、
ピッタスが器用にしゃーっと皮をむいて、すぱーっ!と飛ばしていたのに対し
(この人、毎日、りんご食べてんのかな?と思いました。)
カレイヤはもたもたもたもた、、やっと小さな、ほとんど剥いたというよりは引きちぎったといったに近い
身付きの皮を放り投げていました。いつも奥さんに剥いてもらっていると、こういう演技でツケがまわってきます。

また、特に後半で、それをやらないと笑いがとれない、という、
細かいけれど必修の演技を忘れてしまった部分があって、
例えば、お金がなくてドゥルカマーラから二本目の妙薬を買えないとわかった後に、
テーブルの端に肘をついて憂鬱そうなネモリーノのところに、
アディーナから結婚式を夜まで延期したいといわれたらしいベルコーレが現れ、
テーブルの逆の端にネモリーノと全く同じポーズで座るシーンがあるのですが、
カレイヤがそれを忘れて早々と立ち上がりながら歌い始めてしまったので、
この場面の笑いは流れてしまいました。

さらに、ベルコーレに兵隊入隊の契約のサインをした直後、
ライバルを自分の掌中にとりこんでしめしめなベルコーレと握手をかわすと、
ベルコーレが憎しみをこめてぎゅーっと握る手に力を込めた、という状況を客に伝えるために、
ネモリーノのほうが体をよじって痛がる演技で表現しなければならないのですが、
それもカレイヤは忘れてしまったようで、ここはベルコーレ役を演じたヴァサロが機転を利かし、
彼の方がネモリーノに手を思いっきり握られたように転換したアドリブに切り替えていたのは見事です。

実際、今日の準主役イタリア人コンビ、ヴァサロとアライモは、
ものすごく細かい面白い演技を色々していて、私はこんなに舞台に近くでこの演目を観たのは
今回が初めてなので、何度も笑いがこみ上げてきました。

ベルコーレ役のヴァサロは漫画の王様のような巻き毛のかつらに赤い頬紅をたっぷりつけて、
嬉々として時に”フィー!!”という奇声を発しているし、
ドゥルカマーラ役のアライモは、アディーナからもらった”トリスタンとイゾルデ”の本を取り出しながら、
イゾルデの妙薬が欲しい、と言い出すネモリーノから本を受け取って、どれどれ、、と中身を見るのだけど、
どちらが本の上か下かわからない仕草のアドリブを放り込み(これは以前観た二つの公演ではなかった演技)、
ドゥルカマーラはもしかすると、字まで読めないような、
怪しくいかがわしいペテンのドットーレ(”先生”)であることをほのめかせて
観客をにやっとさせるなど、とにかく芝居が細かく、ためらいがなく、そして、テンポがよい。
今日はこの二人の機転の利いたコミカルな演技が、主役の二人をおおいに助けていたと思います。
そういえば、ドゥルカマーラの助手役で出演している、歌のない役者さんが、
ドゥルカマーラが村人に自己紹介およびセールス・トークをするカヴァティーナ
”村の衆よ、お聞きなされ Udite, udite, o rustici"を歌っている間に、
村人にむかって、ゆっくりと”ドゥ・ル・カ・マー・ラ”という口振りをしているなど、細かい演技が満載です。
先の例でもわかるとおり、笑いをとる演技というのは、その中の小さな歯車がなくなったり、
狂ってしまうと、周りがどんなにがんばっても、笑いを生み出すことが出来ない、と言う点で、
ものすごく緻密かつ繊細な作業だと実感します。

その緻密な作業でことごとく外してしまったのは、アディーナ役のニコール・キャベル。
彼女の演技上の最大の欠点は、顔の表情のヴァリエーションが三つくらいしかないこと。
どんなシーンでも、同じ顔が次々と出てくるだけで、それがまた極めてテンポが悪く、
せっかくビジュアル系で売り出そうとしているんでしょうが、この演技力のなさ、
テンポ感の悪さは命取りになると思います。
『魔笛』のときと、演技の面は全く同じ印象で、特に、コミカルな演技が要される場面でそれが顕著です。
彼女の演技を見ると、ゲオルギューのコミカルな演技はいかに上手かったかというのを実感します。



また、このアディーナ役にはキャベルの声質はマッチしない部分が多く、
彼女の独特の歌い方は、時にメゾがアディーナを歌っているような錯覚に陥りました。
それから、彼女はリズム感がないのか、パートを良く覚えていなくて、
つい気持ちよく音を延ばしているうちに、次の音に入る入りを間違ってしまうのか、
とにかく、リズム面でのミスが多い。
シリウスで放送された4/15の公演では、まるでプッチーニか何かの作品を歌っているかのように、
勝手に彼女の気持ちよいように音にためをつくったりしていて、
そんなことはベル・カントでやっちゃいかん!と、切れていたのですが、
切れていたのは私だけではなかったようで、
4/18の公演を観た友人によると、指揮のベニーニが彼女に切れまくり、
あまりにリズム感の悪い彼女に、指揮台で指で3の数字を作ると、まずそれを、彼女に向けて、目を突くような仕草をし、
その後、その指を自分の顔の方に”かっ!”と向けるジェスチャーをしていたそうです。
それは、つまり、”俺をしっかり見ろっつってんだ、このばかやろうっ!!”というメッセージで、
それを観た私の友人はお腹を抱えて笑いそうになったそうです。
ベニーニ、もはや、平土間前方やサイドのボックスの客にどう思われてもいいほど、
キャベルに切れていたことになります。

そのベニーニの怒りは、今日も特に前半で持続していたようで、
キャベルが何かをミスると、”ぴくっ!”と来るような感じで、
指揮棒を持ったまま、腕をまっすぐ下に緊張して伸ばす仕草をしますが、これが、
もう、私、かなり、ぎりぎり来始めてます、というサインで、
その後、キャベルがテンポに乗り遅れて次々と音のリズムを外しだすと、
最初はうしろの壁にほとんどもたれる位のゆったりした距離を保って指揮していたのが、
段々じりじりと前に前に移動しはじめ、
指揮台があるために、もう前に行けません!というぎりぎりの場所で、猛烈に指揮棒を振り回しながら、
”キーっ!!何で俺のいうことがこうもこの女はわからないんだ!!!”
という表情で必死になって彼女をあおりたてているのがサイドの席からは見えました。
キャベルの間の抜けた演技を見ているより、彼を見ている方がおもしろくて、気が散って大変です。



そんな彼女にリベンジをしようとしたのか、
一幕のアディーナ、ネモリーノ、ベルコーレの三重唱で、
ジャンネッタがベルコーレに”あなたの兵があなたのことを探してます!”と言いに来る直前まで、
かなり早いテンポで3人が歌う個所がありますが、
思わず私の目が丸くなったくらいのものすごいスピードまでテンポをあげ、
オケは必死でテンポについていかないといけないわ、
キャストはもう歌詞が早口言葉のようになっているわ、ですごいことになっていて、
後ろで、”いーひっひっひ!このアマめ、このテンポについて来れるものならついて来てみろ!”という
ベニーニの声が聴こえたかと思いました。
これが出来たのも、ベニーニがここにいたるまでのカレイヤの歌唱を聴いて、
彼はどんな指揮にもついてこれる、という確信を得たのと、
ヴァサロに信頼を置いていたからでしょうが、
意外にも、ここはキャベルがしっかりついてきて、
図らずも、ものすごくエキサイティングな三重唱になってしまいました。
ベニーニ、作戦失敗!

しかし、かと思えば、一幕のネモリーノとの二重唱”優しいそよ風に Chiedi all'aura lusinghiera"のような、
ゆっくりと余裕を持って歌ってほしいところでいきなりキャベルが音に早く入りすぎて、
その後もずっと音が走り気味になり、またまたベニーニがきりきりとしながらオケを急かす、という、
もうこのキャベルとベニーニの二人は漫画のようなコンビです。
アディーナからメロディーをバトン・タッチされて歌う一方のカレイヤは、
ゆったりとメロディー・ラインをとっていて、本当に上手い。
こういうところはカレイヤのセンスが光ります。

さらに、キャベルはニ幕の途中まで、声のサイズも小さいうえに音に艶がなく、
先ほど書いたように、メゾ的な声のテクスチャーがあって、
これで声が大きいと面白いタイプになると思うのですが、
テクスチャーと重量感が上手く一致していないというのか、どういうレパートリーに登用すればいいのか、
非常に難しい人だと感じました。

まるで、レベルの全く違う歌手が一人、プロフェッショナルな集団に落とされたような違和感があったほどで、
これで彼女がカーディフ(2005年)で優勝したというのは、一体、なぜ、、??と思い始めた頃、
どんなマジックが起こったのか、突然、ニ幕の二重唱”何という愛情でしょう! Quanto amore!"から、
彼女の歌が豹変。演技も彼女らしく、若々しいアディーナ像を作りだし、
おや?今のはなかなか良かったぞ、、と思っていたら、
”人知れぬ涙”をはさみ、彼女が自分で買い戻したネモリーノの入隊契約書を彼に差し出しながら歌う
”お取りなさい、私のおかげであなたは自由よ Prendi, per me sei libero"以降の
彼女の歌は、まるで今までとは別人が歌っているような素晴らしい出来でした。
声のサイズが大きくなることはありえないですが、高音になんともいえない艶と
独特のしなやかな音色が備わり、音の細かい動きも非常に繊細にとらえて歌いこなしており、
一つ一つの音の色づけも巧み。
この歌唱のような歌がカーディフの時に出たなら、それは優勝しても納得。
ベニーニもさすがにこの歌には、”おや?”という表情を浮かべていました。
ということで、彼女の歌唱や力について断定的な評価をするのはまだ難しいです。
とりあえずは、こういう魅力的な歌をいつも(に近い率で)出せるようになってほしいです。

結局、聴いた3人のテノールの中では、もっとも歌唱、演技とオールラウンドに
バランスがとれたネモリーノだったカレイヤ。
ピッタスの公演の時には失われてしまった、この演目本来の楽しさが
今回の公演に戻ってきた、
その点では、ジョルダーノとカレイヤが互角でしょうか?
でも、三つの中から、もう一回観たい公演をどうしても一つだけ選べ、と言われたら、
私はジョルダーノの公演をとるかもしれません。
好みの問題、ということで。

Nicole Cabelle (Adina)
Joseph Calleja (Nemorino)
Franco Vassallo (Sergeant Belcore)
Simone Alaimo (Doctor Dulcamara)
Ying Huang (Giannetta)
Conductor: Maurizio Benini
Production: John Copley
Set and Costume design: Beni Montresor
Lighting designer: Gil Wechsler
Stage direction: Sharon Thomas
Grand Tier Side Box 31 Front
SB

*** ドニゼッティ 愛の妙薬 Donizetti L'Elisir d'Amore ***

最新の画像もっと見る

75 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「愛の妙薬」3公演比較記事 ()
2009-04-26 15:09:50
よく知っている演目だと、やっぱり面白い~、と思いながら読ませていただいておりました。
何を隠そう、私にとってはオペラ開眼の1作がこの「愛の妙薬」でした。オペラってこういう演目もあったのか! と(笑)。
もともと活字中毒で映像が苦手、“泣ける”とキャッチコピーがついたものには断固手を出さない人間にとりましては、
「カルメン」とか「椿姫」とか「ボエーム」って、・・・そういうのがお好きな人はどうぞ、としか思えないものだったのです(苦笑)。

なので、私はロジーナもノリーナも好きです(笑)。
あまり考えさせずにその役を楽しませてくれる限りにおいては、ですが。
(特にノリーナは、匙加減を間違うと老人虐待に見えますからね~。)
むしろ、いつぞや読んだ本で、「ばらの騎士」の元帥夫人を“嫌な女”と書いている文章がありまして、
(見たことがない演目なので、映像なり実演なりに接した場合にどう思うかは分かりませんが)
あ、分かる分かる、と思いながら読んだ私でありました。

私の初の1枚はマチェラータ音楽祭公演の映像だったのですが、
この映像でアディーナを歌ったヴァレリア・エスポジトが、歌が上手いってこういうことか、と素人ながらに思わせるほど素晴らしかったです。
それぞれの場面で歌の表情が全然違っていて、彼女自身の成長をきちんと見せてくれたことではピカイチでした。
(いえその、バトルもゲオルギューも見ていないのですけど・・・)
シュロットのドゥルカマーラが若くてカッコイイんですが、こういう演出、この演目では珍しいのですね(笑)。

ビリャソンのネモリーノには、市販映像にはなっていない、バルセロナ公演の映像でノックアウトされました(笑)。
(こういうやつです。http://www.youtube.com/watch?v=19kSUbF-gpQ
           http://www.youtube.com/watch?v=TByoo3-Gw-A  )
演出のせいもあるのか(字も書けますし)、頭が弱いという感じはあまりしなくて、思い込んだらどこまでも・・・がちょっとずれている、
というのが私の印象です。(アルコールが入っている場面のコミカルさは特筆モノでしたが。)
そうそうベルコーレと握手して痛がる演技も上手かった(笑;こういうのってお約束なんですね)。
ベルコーレ役のバリトンが、リアルな軍服のよく似合うガタイのいい人だったので、余計に可笑しかったです。

実はビリャソンの正規盤、ウィーン公演のDVDも買っているのですが、1、2回見ただけでお蔵入り。
演出はオーソドックスだし、キャストも一番有名人を揃えているのですが、だからって気に入るとは限らないのだな、と。
残念ながら一番キャスト間のケミストリーが感じられなかったのがこれでした。
返信する
許せない女 (Madokakip)
2009-04-27 10:46:46
 彩さん、

>私にとってはオペラ開眼の1作がこの「愛の妙薬」

そうでいらっしゃいましたか!
私は基本的には誰も死なないオペラはあまり好きでないのですが(笑)、
この『愛の妙薬』だけは別で、大好きな作品の一つです。

私がノリーナやロジーナを好きでないのは、
彼らの機知が結局彼らの欲しい物を手に入れるのに実際に役立ってしまうという、その要領のよさなんですよね。

それに比べて、カルメンは自分の生き方をまっとうするためには自分の命を捨てることも辞さないし、
ヴィオレッタは身を引く、という方法でしか、
自分の愛を表現できない、その要領の悪さが魅力的です。
それに比べると、ミミは、貧乏のせいで結局失敗してしまいますが、
実はマインドセットは結構ロジーナやノリーナに近いものがあって、
私はあまり好きなキャラクターではありません。

というようなことをなぜ書いたかというと、
その要領のよさ、というのが、
喜劇的オペラにありがちな一つのパターンとすると、
『愛の妙薬』では、話が都合よくすすんでいくモーターが、
登場人物の機知とかではなく、まさに”都合よい勘違い”、
”誤解の連鎖反応”といったところにある点が、
私がこの作品を好きな理由なんだと思います。

ついでに言うと、お読みになった本がどういう脈絡で『ばらの騎士』の元帥夫人を”嫌な女”と言っていたのか頂いたコメントだけからでは量りかねますが、
総合的な観点では、私には嫌な女には全然思えません。
何もかも持っていそうで、何も持っていない、という、
その空虚さ、寂しさを、シュトラウスの音楽が十全に表現しているせいもあるとは思いますが、、。

ヴィラゾンのバルセロナの映像、ありがとうございます。
確かにおっしゃるとおり、
>頭が弱いという感じはあまりしな
いですね。
この二つの映像からだけですと、私が観たこの役の中では、
間違いなく、最も頭が弱くないネモリーノのグループに入ります。
(”人知れぬ涙”の方、歌唱に力が入りすぎて、
ネモリーノにしてはちょっと私には格好よすぎに見えるくらいです。
その分、さすがに歌の出来は、
彼のこの役には若干ロブスト気味に聴こえる高音が好みが分かれることをのぞけば、
非常に良いですが。)
メトのガラで観たのとは全然違う役作りで、面白いです。
あのガラの時は、頭の簡素さに合わせて、
ヴィラゾンの顔が、どんどん”へのへのもへじ”に見えてくるような気がしましたから。

>演出はオーソドックスだし、キャストも一番有名人を揃えているのですが、だからって気に入るとは限らない

ウィーンというと、ネトレプコと共演したものでしょうか?
彼女のアディーナの役作りは、ガラの時もピントがずれているように思いましたから、
ケミストリーが上手く働かなかったのは、
そのせいもあるかもしれないですね。
それにしても、ちょっとしたことの違いが全体の印象にものすごく影響するのが、
この演目を見る楽しさの一つでもありますね。
返信する
人それぞれ ()
2009-05-06 19:32:42
連休前に体調崩して、家で安静状態の連休でした。
幸か不幸か、おかげで積ん読(?)オペラDVDも3本消化できましたが・・・(笑)。

いつだったか、音楽雑誌を立ち読みしてたら、さるメゾさんが、オルロフスキーなんて役は絶対やらない、
と話しておいでだったのを読んだことがあります。
ふーん、じゃあカルメンはいいのか・・・と私などは思ったものですが。
(マリア・カラスがカルメンを歌いたがらなかった、という話を読んだことがあるもので。)

> 私は基本的には誰も死なないオペラはあまり好きでないのですが(笑)、
そういえば、私、推理小説好きのくせして、“人が死ななくて面白ければ、それにこしたことはない”
なんてどこかに書いたことがあったのを思い出しました(笑)。
音無し動く絵なしで、自分のペースで読める小説や漫画だと、少々しんどい話でもいけるのですけどね。

ドニゼッティの「愛の妙薬」や「連隊の娘」は、笑ってほろっとさせて、最後はハッピー! というバランスがとてもいいと思います。
私にとっては、舞台や映像で数時間付き合うには、こういうテイストが一番理想的なんですよ。

> ウィーンというと、ネトレプコと共演したものでしょうか?
それです。映像で見ていると、何となく舞台の統一感というか、方向性が見えてこなかった・・・です。
キャスティングの視覚的なちぐはぐさも、余計強調されてしまっていた感じ。
新演出でもなく、演出家がてこ入れにきたわけでもないので仕方ないのかもしれませんが・・・
それでも映像で出しときゃ売れるという計算なんですかね。

ネトレプコのアディーナは・・・。割と象徴的だったのが、ネモリーノが“妙薬”を飲んで酔っぱらう場面で、
ビリャソンが、リンゴでジャグリングしたシーン(アドリブでしょうが)。
観客が拍手するのはいいとして、そこでアディーナが拍手しちゃ駄目じゃん! と(笑)。
それこそ仲良しなら、遠慮無く気の利いたアドリブでも返していれば、少しは見直したのでしょうが・・・。
返信する
アドリブ返し (Madokakip)
2009-05-07 13:51:47
体調を崩されたのこと、せっかくの連休に残念でしたが、
お加減はよくなられましたか?
ゆっくりと休養する時間を体が必要としていたのかもしれませんね。
私も、オペラの公演の間が空いたり、
会社に行かなくてよい週末などになると、
突然気が抜けるのか、体調を崩すことがあります。
でもそういう時はせっかく週末なのに、とか、
せっかく空きの時間なのに、と残念な気持ちを、
オペラのDVD&CD鑑賞に燃えることで昇華させます。
彩さんの場合と全く同じです

>笑ってほろっとさせて、最後はハッピー! というバランスがとてもいい

特に『愛の妙薬』はドニゼッティの音楽もさることながら、
この台本がすごくよくできていると思いますよね。

ネトレプコとヴィラゾンが共演したウィーンの『愛の~』は全幕は残念ながら未視聴なんですが、
そうですか、あまり評判がよろしくないですね(笑)。

>遠慮無く気の利いたアドリブでも返していれば

ヴィラゾンのりんごのジャグリングなんか、
”ふん、何よ、そんな程度の技で。”ってな感じで軽くあしらって、
すぐ横で短剣でジャグリングし始めるくらいのアドリブ感を見せてほしいですよね(笑)。
返信する
カレヤ?カレイヤ?のご報告@新国 (sora)
2010-04-18 21:55:45
新国「愛の妙薬」の初日に行ってきました。
今日じゃありません。
これから観る人は読まないで!


ホフマンHDで聴いたのが初めてになります。
まず初めに、結構低め?暗い?声なんだなぁと思いました。
そして、madokakipさんの上記METのレポートを改めて読みまして、似たような感想になりました。
ちょっと、、、上手いんですけど、、、重唱も上手いし、声も立派なんですけど、、、
かなりな一本調子ですね(私の感想です)。
声量もあってしっかりした歌唱なので、余計にそう感じるのかもしれませんが。
「人知れぬ涙」立派過ぎ。もっとかわいく悩んでくれ。(結構な拍手とブラボーをもらっていましたが。)
そういえば、ホフマンの時はけっこうビブラートが気になるかな?と思っていましたが、生で聴いたらあまり気にならなかったです。

因みに今回の演出、METのチェネレントラと同じで、私はちょっと好きじゃなかったので危惧していたのですが、案の定合わなかったです。。。(これのせいで私のテンションも下がっています。カレヤごめんね。)
ウォーナー(指輪)に続き、またおバカな自分発見です。トリイゾの妙薬に焦点を当てて?本の世界をポップでファンタジーに表していた? うーん、なんで私はバカなんだろう。この演出、何が言いたいんだか分かりませんでした。ポップなんですけど、私にはなんか暗いんですよね。このオペラの陽気な感じが全然しないんです。(結構ウケてるお客さんもいたので、感性の問題だと思います。)
以下のリンクは舞台写真です。
http://entertainment.jp.msn.com/events/info/classicart/article.aspx?articleid=268280

指揮と演奏は、、、とりあえずオケも明らかに1月のベルガモ・ドニゼッティよりも上手いんです。上手いんですよほんと。(東フィル)
でもなんか、、、指揮が割とスピード感あってきびきびしてたもので、、、きびきびはいいんですけど、、、ちゃんと音色もあるんですけど、、、明るくないのです(私には。)
ベルガモの方が雰囲気がはまってて良かったです。

という初日の感想です。
もう聴きに行かないですが、今日はどうだったかなぁ~。

返信する
soraさ~ん (みやび)
2010-04-18 22:38:58
ハムレットの続きにだらだらと書いてしまいましたが、今日行ってきました。

あちらには書かなかったですが、演出に関しては、私はあまり、というか全く深読みせずに、ポップな感じを楽しんでしまいました。プロダクション・ノートにいうような「本をひっくり返したように楽しくて軽快でカラフル」な感じ。でも、ちょっと暗いところがある、とおっしゃるのは当たりかもしれないですね。「この作品の特徴であるアイロニーやファンタジー」といっていますが、soraさんは「アイロニー」の部分を演出から感じ取っていらっしゃるのかもしれません。

私は、以前にTVで観たウーゴ・デ・アナが演出したラ・ヴォーチェの公演が暗いなぁ~と思って好みではなかったのですが、あれと比べるせいか今回の演出はOKでした。

オケは…今日もちゃんと演奏していました。1月のベルガモは行かなかったですが、多分、技術的には東フィルの方が上手いんじゃないかと思います…。「雰囲気」となると、お国柄が出るのかもしれないですね。
返信する
みやびさ~ん (sora)
2010-04-18 22:57:25
(笑)
なんかこの演出の美術(色合い)が私は苦手なんですよねきっと。(いつもよく分からないのですが、演出と美術って総合的に演出家に集約していいのでしょうか?)
もちろん単純にかわいいなぁと思ったところもあったのですが。(飛行機とか、パーティのコントら辺とか)

「暗い」といえば、そうだそうだ、一つ思いだしました。ベルコーレが初めてアディーナに迫る場面。めっちゃ横柄な感じがしました。私は愛妙を観たのはこれで3回目ですが、そんなこと思った事無かったんです。
どういうアイロニーを出したかったのでしょうか。。。

そいうえば、「トスカ」忘れてました。。。
カウフマン見たかったなぁ。
エミリー・マギーさんいかがでした?
返信する
二日目行ってきました~ (boku)
2010-04-18 23:17:58
ちょっと今回言いたいこと一杯ですよ~
何でしょう、ベルカント物は生ではほとんど聴いたことないんですが今回は~、舞台にも歌にもちょっとのれなかったです。
感想は後日、書かせていただきます。

>soraさん、
>この演出、何が言いたいんだか分かりませんでした。
はい!(挙手!)はい!(挙手!)、自分もそうです!
ここ最近ヴォツェック、トスカ、リングと凝った舞台が多いだけにシンプルな舞台がつまらなく感じたかもしれませんが、
抽象的過ぎるのか、安上がりに作っている感が漂っているのを感じ取ってしまったのか(床などドンジョバと同じものだそうです)、
あんまり好きな舞台ではなかったです。(みやびさん、すみませーん)
リエヴィ、ドニゼッティは初めてだそうですがちょっと雑な舞台だったように思います。
実際舞台裏はすかすかで舞台装置が少なくてシンプルなのが多いことが良く分りました。
予算減らされたんでしょうかね。面白くはあるんですけどね~。

カレイヤ赤いかつら似合ってない、、、
返信する
カレイヤ、妙薬 (Madokakip)
2010-04-19 04:40:23
soraさん、

そうですね。カレイヤの声はもともとそんなに軽い声じゃないですし、
みやびさんもおっしゃっているように、ここ二、三年だけでも、声が重たくなったような感じがします。
ヴェルディの軽めのテノールの役、それからフランスものあたりが今の彼には一番良いかもしれませんね。

ふーむ、、、妙薬で暗い感じがする、、、ですか、、面白いご指摘であると同時に、
それはいかんですね(笑)
この作品には深い裏も何もないですし、ただただ楽しい方がぴったり来ると個人的には思います。
あとはおっしゃる通り、演奏の上手さとは別の、ブッファ系ベル・カント作品特有の“雰囲気”、
これが大事ですよね。
とにかく、一に楽しく、二に楽しく、三にホロリ、です!
返信する
アイロニー? (Madokakip)
2010-04-19 04:44:04
みやびさん、

実際に舞台を見ないでこういうことを言うのはいけないかもしれませんが、
soraさんに紹介頂いた写真からも底抜けな明るさは感じないですね。
ファンタジーはともかく、この作品、アイロニーなんてありますでしょうか?
ちょっと考えすぎじゃないかと思いますね。
演出する人って、何かをやらなきゃ!!と意気込み過ぎる時があるように感じます。
それが有効な作品もありますが、ベル・カントでは空回りすることが多いですよね。
みやびさんのような深読みしないでご覧になった場合は影響はフラット(ゼロ)ですが、
soraさんやbokuさんのような気になってしまった場合はネガティブ、ということで、
いずれもポジティブではなく、アイロニーを含めた意味はあまりなかったような印象も受けます。
返信する

コメントを投稿