「植草一秀の『知られざる真実』」
2015/08/13
米国にただひれ伏す行為こそ批判されるべきだ
第1217号
ウェブで読む:http://foomii.com/00050/2015081313300028082
EPUBダウンロード:http://foomii.com/00050-28736.epub
────────────────────────────────────
歴史に向き合うとはどのようなことか。
歴史の真実を見つめ、その真実に基づいて自省し、未来に向かくことである。
歴史から目をそらし、自己を正当化して、未来を誤ることではない。
敗戦50年の節目に、村山富市首相が「談話」を発表した。
国会決議は行われなかったが、日本の戦争責任を明らかにしたものである。
「侵略」、「植民地支配」、「痛切な反省」、「心からのおわび」
の文言が明記された。
歴史に向き合い、未来を切り拓くための「談話」であった。
この「村山談話」によって、歴史問題には一つの区切りがつけられた。
この「談話」を踏まえて、日本は近隣諸国との友好関係構築に力を注ぐべきで
ある。
ところが、安倍晋三氏がこの問題を蒸し返した。
新たに「談話」を発表することを表明し、そのなかで、「村山談話」に明記さ
れた
「侵略」、「植民地支配」、「痛切な反省」、「心からのおわび」
の文言を除去したいとの思惑が示されてきた。
これは、正しい歴史への向き合い方ではない。
過去の過ちを正視し、それを認めたうえで反省し、謝罪する。
そして、正しい未来を構築することを指向する。
これは間違った行動ではないのだ。
その正しい歴史への向き合い方を否定し、自己正当化に走っても、得るものは
何もない。
鳩山友紀夫元首相が8月12日、日本が朝鮮を植民地支配した時代に独立活動
家を収監したソウルの西大門刑務所跡地を訪問し、独立活動家らをしのぶ記念
碑に献花したうえで、靴を脱いでひざまずき、7秒間合掌した後に頭を下げ
た。
鳩山元首相は内外の記者団に
「(植民地統治をした日本が)拷問というひどい仕打ちを与えてしまい、命を
奪うことまで平気でやったことに、心からのおわび、追慕の思いをささげた
い」
と述べた(共同通信)。
また安倍晋三首相が発表する戦後70年談話について
「植民地統治や侵略、それらへの反省と謝罪が当然含まれなければならない」
と述べた。
これこそが、歴史に向き合う正しい姿勢である。
歴史に向き合い、過去の過ちを反省して謝罪する行為は、賞賛こそされるべき
ものであって、避難されるべきものでない。
反省し、謝罪する行動は、自信と勇気がなければできないことである。
自信と勇気がない人間は、過ちを過ちとして認めることもできなければ、反省
し、謝罪することもできないのだ。
真実を正視し、認めるべき過ちを認め、反省し、謝罪する。
このことによって、和解が成立するのである。
和解によって、未来が開けるのである。
米国の映画監督であるオリバー・ストーン氏が一昨年の8月6日、原爆の日に
広島で講演した。
オリバー・ストーン氏はこう述べた。
「第二次大戦で敗戦した2つの主要国家はドイツと日本だった。両者を並べて
比べてみよう。
ドイツは国家がしてしまった事を反省し、検証し、罪悪感を感じ、謝罪し、そ
してより重要な事に、その後のヨーロッパで平和のための道徳的なリーダー
シップをとった。
ドイツは、60年代70年代を通してヨーロッパで本当に大きな道徳的な力と
なった。
平和のためのロビー活動を行ない、常に反原子力であり、アメリカが望むよう
なレベルに自国の軍事力を引き上げることを拒否し続けてきた。
2003年、アメリカがイラク戦争を始めようというとき、ドイツのシュローダー
首相は、フランス、ロシアとともにアメリカのブッシュ大統領に“No”と言っ
たのだ。
しかし、第二次大戦以来私が見た日本は、偉大な文化、映画文化、そして音
楽、食文化の日本だった。
しかし、私が日本について見る事の出来なかったものがひとつある。
それは、ただのひとりの政治家も、ひとりの首相も、高邁な道徳や平和のため
に立ち上がった人がいなかったことだ。
いやひとりいた。それは最近オバマ大統領の沖縄政策に反対してオバマにやめ
させられた人だ。」
オリバー・ストーン氏が「いやひとりいた」と述べた、その元首相こそ、鳩山
友紀夫氏である。
日本では、過去の真実から目をそらし、自己を正当化し、反省も謝罪も拒絶す
る、
偏狭なナショナリズム
がはびこり始めている。
その行為が近隣諸国との関係を悪化させ、日本の未来を危うくする。
敗戦から70年を迎えるこの夏。
日本は過去の反省を忘れたかのように、戦前の日本に引き戻す戦争法案が国会
に諮られている。
国民の多数がこうした歴史回帰の行動に反対しているのに、一部の偏狭なナ
ショナリズムを持つ人々が、こうした愚かな行為を牽引している。
いまこそ、多くの覚醒した国民、主権者が立ち上がり、歴史修正主義の誤りを
正面から指摘して、日本の進路を誤らないようにしなければならない。
「村山談話」で日本の過去の問題に、一つの区切りがつけられた。
それをわざわざ蒸し返しているのが安倍晋三氏である。
非生産的で無益な歴史の蒸し返しである。
結局のところ、
「侵略」、「植民地支配」、「反省」、「おわび」
の四語が談話に再収録されるのかどうかだけが焦点になっている。
閣議決定
の方針も脆くも崩れ去った。
最終的に、上記の四語が踏襲されるなら、何を目的にした「談話」か、さっぱ
りわからないということになる。
大事なことは、真実を直視することだ。
真実から目をそらし、事実を隠蔽し、自己を正当化し、他者を非難すること
が、問題の解決を遅らせるのである。
歴史の直視、自省、謝罪によって、未来が切り拓かれることを忘れてはならな
い。
オリバー・ストーン氏は広島の講演でこう続けた。
「みなさんに聞きたいのは、どうして、ともにひどい経験をしたドイツが今で
も平和維持に大きな力を発揮しているのに、日本は、アメリカの衛星国家とし
てカモにされているのかということだ。
あなた方には強い経済もあり、良質な労働力もある。なのになぜ立ち上がろう
としない?」
第二次大戦の日本の戦争責任を裁いた東京裁判は、戦勝国が「事後法」を用い
て一方的に裁いたもので多くの問題点がある。
しかし、日本は敗戦国として東京裁判を受け入れてサンフランシスコ講和条約
に調印した。
これによって日本は国際社会に復帰した。
小菅信子氏は著書
『戦後和解─日本は〈過去〉から解き放たれるのか』
(中公新書・第27回石橋湛山賞)
http://goo.gl/Y7Ntds
のなかで、第二次世界大戦後のドイツと日本の戦後平和構築の方法について、
「敗戦国の国民を、戦争指導者や加害者と、彼らに騙(だま)されて戦争協力
した一般国民とに分けて、その一般国民と、戦勝国の国民や被害者・戦争犠牲
者との間の関係を修復して、最終的に和解へと導いていこうとする方法」
であったと指摘している。
「戦争指導者や加害者と、彼らに騙(だま)されて戦争協力した一般国民とに
分けて」
「一般国民と、戦勝国の国民や被害者・戦争犠牲者との間の関係を修復して、
最終的に和解へと導こう」
としてきたのである。
それを、いまになって戦争責任を否定するような言動を発することは、歴史的
な和解の構図を自ら破壊するものであると言わざるを得ない。
戦争責任を否定し、戦前の日本に回帰しようとするのではなく、サンフランシ
スコ講和条約第六条に明記された、
「連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、
且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければなら
ない。」
という条文の実現を目指すべきだ。
「沖縄の普天間基地を閉鎖し、代替施設を辺野古に造らない」
という沖縄の要請を実現することに日本政府は尽力するべきなのだ。
敗戦から70年も経過したいまなお、米国の命令にひざまずき、屈服し続けて
いることが問題なのである。