熊本熊的日常

日常生活についての雑記

「ヘンダーソン夫人の贈り物」

2006年12月29日 | Weblog
イギリス映画によくあるように、とにかく信念を貫く、なにがあっても諦めずに貫く美学を作品化している。実話に基づく作品特有の力強さもあり、観終わって良い気分に浸ることができた。

舞台は1937年から第二次大戦中盤までのロンドン。1937年、ヘンダーソン夫人は未亡人になる。既に一人息子を第一次大戦で失っており、夫に先立たれたことで孤独の身になってしまう。尤も、貴族で経済的には全く不自由のない身分である。彼女にとっての問題は世話を焼く対象を失い、暇を持て余してしまうことなのである。

ある日、夫人は閉鎖されて売りに出されている劇場の前を通りかかる。それを見て思うことがあり、夫人はその劇場を買い取る。しかし、劇場運営など経験がない。知人に現在失業中で劇場の支配人を経験したことがあるという人物を紹介してもらい、彼をその劇場の支配人として雇う。ロンドンは劇場の激戦区。常に斬新な試みを続けないと客をつなぎとめることができない。オープン当初は当たっていたヘンダーソン夫人の劇場も、間もなく企画を他の劇場に真似されて客を失い、経営が行き詰まってしまう。そこへ劇場経営に関して素人であるはずの夫人がある企画を持ち出す。規制の網をくぐって実現させたその出し物は大いに当たるが、それも束の間、第二次大戦が始まりロンドンは連日のようにドイツ軍の空襲を受けるようになり、近隣の劇場はどこも休業を余儀なくされる。半地下の構造をもつ夫人の劇場は空襲の被害も殆どなく、ただ一軒、営業を続ける。但し、客は兵隊ばかり。女性の姿は殆どない。それでも連日満員なのは、夫人の企画によるものだが、彼女がその男性受けする企画を持ち出したのは、21歳という若さで戦死した息子へのオマージュであり、いつ戦死するかもしれない兵士たちへの「贈り物」だったのである。

戦火のなかで営業を続けることができたのは、建物の構造もさることながら、夫人の息子や兵士たちへの思いと、それを受けとめる劇場関係者たちの思いが堅牢だったからだ。息子のことになると俄然強くなるのはどこの母親も同じであるようだ。空襲の爆音が響くなか、夫人も支配人も出演者たちも決して怯むことなく劇場の営業は続く。そのジョンブル魂が清々しく、台詞もユーモアとウィットに富み、観ていて心が晴れ晴れする作品だった。

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