うどん 熊五郎のブログ

日替わりメニューの紹介や店での出来事など徒然なるままにつづりたいと思います。

連載8

2012年07月29日 | 学習室
熊五郎と12名の仲間達


 二学期に入り、再び彼等に再会すると、いつも通りの授業が展開されていった。相変わらず脱線の連続である。その日は午前中、たまたま外出していたため珍しく背広にネクタイ姿で授業をすることになった。いつもは作業着姿であったり、ジャージ姿であったり、服装に無頓着な熊五郎は一般の学習塾の講師のように背広にネクタイ姿で講義をすることはなかったのである。その姿を見るなり田島が
「先生。その姿どうしたの? なんか似合わないよ。」
と指を指しながら笑い出した。
「どうして? そんなにおかしいか?」
「だっていつもの先生じゃないもん。何か変。」
「たまにはいいだろう。俺だってこういう時もあるんだ。」
生徒達は初めて見る背広姿に戸惑いを隠さないでいる。そこに猪野沢が割って入った。
「先生もネクタイ持ってたんだ。」
「馬鹿言ってんじゃないよ。背広とネクタイぐらいは持ってるよ。」
「へエー。先生、何着ぐらい持ってんの。」
「上下揃ってるのはこれだけ。俺の一張羅なんだからよく拝んどきな。」
と言いながら熊五郎は黒板の前に立ち、モデルのように一回転した。大爆笑である。そしていつも通りの授業が始まった。『けじめを付けよう』が学習室の決まりである。
 裏山の木々も紅葉を始めた秋のことである。遠足で埼玉古墳群に出かけることになった。対象は小学一年生から三年生まである。歴史的な史跡を訪れる場合、必ず事前にその時代背景等を授業中に解説し、予備知識をつけることにしている。遠足を週末に控え熊五郎は古墳についての解説を始めた。
「みんな、古墳て知ってるかい。深井さん知ってる?」
「昔のお墓でしょ。」
ここから熊五郎の嘘八百講義が始まった。
「深井さん。それは違うんだよ。本当はね。昔のトイレだったんだ。」
「先生、それ本当?」
「実はね、昔はトイレなんか無いからみんな野原でしていたんだ。だけど野原だと人に見られて恥ずかしいよな。だからシャベル持って小さな丘の上に穴を掘ってうんこしてたんだ。」
「へえー知らなかった。」
横井は熊五郎の話を信じ切っているようだ。
「みんなが同じ丘にするから次の人が掘っても大丈夫なように掘った穴の上に土を盛り上げておくんだ。そうして何年もすると丘の片方の土が削られて平になり、うんこした方が段々高くなっていって今の形が出来たんだよ。よく考えてご覧。和式トイレって知ってるだろう。横から見るとそっくりだろう。あれは昔の人が古墳をまねして作った形なんだ。」
そう言いながら前方後円墳の上方からと横からの絵を黒板に描いた。なるほど、その形はどことなく和式トイレの形に似ている。説得力のある説明に深井まで熊五郎の話を信じ始めている。
「だから、古墳て言うのは元々『古い糞』古糞って書いたんだけど汚いイメージがあるから古墳て書かれるようになったんだよ。」
「先生。いろんな事よく知ってんだね」
志多は感心しきりのようである。熊五郎は内心『しめた!』と思った。騙されれば印象に強く残り真実をより鮮明に記憶に定着させることができる。熊五郎がよく使う指導法の一つでもある。
「解った? 今のは全部嘘。今の話、信じちゃいけないぞ。本当は深井さんの言ったことが正解。昔の人のお墓なんだよ。」
「俺もおかしいなって思った。確か学校の遠足で行ったとき、先生が昔のお墓って話してくれたもん。」
関口が安堵の表情を見せた。
「でも、もう忘れないだろう。古墳って何だか。」
さらに熊五郎は古墳の名付け方や前方後円墳、円墳、方墳などの違い、古墳時代の日本人の生活や身分制度などを説明していった。こうした型破りな指導法も彼等には既に普通のこととして受け入れられていた。64
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