うどん 熊五郎のブログ

日替わりメニューの紹介や店での出来事など徒然なるままにつづりたいと思います。

連載25

2012年09月04日 | 学習室
 学習室では次年度に採用するテキストを二月頃決める。塾教材専門業者もダイレクトメールや電話、時には直接事務室を訪れ、自社テキストの売り込みに訪れるが、熊五郎自作の過去問集を見せると春期講習などのテキストの売り込みをあきらめてしまうこともある。中には商品として検討したいと申し出た業者もあったが、あくまでも学習室に入会している生徒のために作られたもので商品化より学習室の独自化を図るためにこれからも活用したいと思っている。次年度採用のテキストも決まり、新学期までのほんのわずかな時期が熊五郎の家族には貴重な時間であった。そしてこの時期、必ず家族揃ってスキーに出かけるのが岩野家の恒例行事になっていた。
「お父さん。今年は草津だったよね。」
娘と四つ違いの息子は嬉しそうである。ワゴン車に乗り一行は草津へ向かった。ホテルについて荷物を降ろし、持てる荷物だけを持って玄関に向かおうとした時である
「お父さん、車の鍵は?」
妻が話しかけてきた。
「まだ、車に付いてるよ。なんか忘れ物したのかい。」
「エッ。本当。やだ私、ドアをロックして来ちゃった。」
「嘘だろう。帰れないじゃん。どうする。」
「どうするって言われても・・・。とにかく何処か窓が開いてないかしら。」
「降りるとき、窓みんな締めてきたから無理だろうな。」
すると、息子が車の横で叫んでいる。
「お父さん。この窓、空いてるよ。」
駆け寄ると一センチほど後部座席の窓が開いている。とりあえず、窓を全開にすることは出来たが、車の構造上、小柄な妻でも入れそうもない。
「俺が入る。」
開いた窓を発見した息子が体をよじらせながらやっとの思いで車内へ入り込み無事、事なきを得た。二泊三日の家族旅行も終わり帰路についた。
「お父さん、お疲れ様。子供達を指導して、行き帰りとも運転だから大変よね。居眠り運転しないようにね。」
助手席に座った妻の優しい労いの言葉が耳に入った。ところが五分も経たないうちに助手席から妻の寝息が聞こえ始めたのである。優しい言葉を掛けてくれたはずの妻が堂々と寝ているのである。三十分ほどして熊五郎は起きていた娘に
「お父さん、喉が渇いたからジュース買ってきてくれ。」
と言いながら自動販売機の前に車を止めた。すると突然、今の今まで眠っていたはずの妻がむくっと起きあがったかと思うと
「私、コーヒーお願いね。」
その行動に娘も熊五郎も唖然とするぱかり。二人とも目が点になっている。
「お母さん。寝てたんじゃなかったの。」
娘の言葉にさらりと答えた。
「今、起きたの。それよりコーヒーね。」
妻の行動は時として突拍子のない行動や言動がしばしば見られた。おっちょこちょいな性格だがその反面、面倒見が良く、友達仲間では常に中心的な存在であった。家族旅行では必ず何かしら妻の珍行動、珍言動で振り回される。付いたあだ名が『しじみさん』である。茶の間で親しまれているサザエさんをもじったもので、熊五郎によるネーミングである。109
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