to Heart

~その時がくるまでのひとりごと

少年は残酷な弓を射る

2013-02-06 12:55:17 | the cinema (サ行)

母さん、僕が怖い?
製作年度 2011年
原題 WE NEED TO TALK ABOUT KEVIN
製作国・地域 イギリス
上映時間 112分
脚本 リン・ラムジー 、ローリー・スチュワート・キニア
監督 リン・ラムジー
出演 ティルダ・スウィントン/ジョン・C・ライリー/エズラ・ミラー

イギリスの女性作家に贈られる文学賞として著名なオレンジ賞に輝く、ライオネル・シュライバーの小説を映画化した家族ドラマ
自由を重んじ、それを満喫しながら生きてきた作家のエヴァ(ティルダ・スウィントン)は、妊娠を機にそのキャリアを投げ打たざるを得なくなる。それゆえに生まれてきた息子ケヴィン(エズラ・ミラー)との間にはどこか溝のようなものができてしまい、彼自身もエヴァに決して心を開こうとはしなかった。やがて、美少年へと成長したケヴィンだったが、不穏な言動を繰り返した果てに、エヴァの人生そのものを破壊してしまう恐ろしい事件を引き起こす。

私たちは、ケビンについて話し合わなければならない
若い頃のエヴァは、恐らくは旅行作家としての自信に満ちて、自由奔放。
それを象徴するプロローグの熟した赤。そして狂気の鮮明過ぎる赤――。
しかし、
物語は日差しを浴びて揺れる白いカーテンの向こうに私たちを誘うのでした……

これは、、先日観た「ふがいないぼくは・・・」の逆バージョンの夫婦というか、
今、望んだわけではないのに妊娠し戸惑ううちに出産してしまったキャリアウーマンの人生。
単純に妻の妊娠を喜び、息子誕生を喜ぶ夫フランクリン........。対照的な、
出産直後、ベッドで見えない何かに魂を奪われたようなエヴァの表情がこの後の
全ての始まりを予感させます。

初めての子育ては誰もが手探り。
親になりたての誰もが多少の不安と怖れと緊張と、沢山の戸惑いを繰り返し、
それでも様々な要求を繰り返し、泣いて知らせる赤ちゃんの寝顔に見惚れるものだと思うけど、
エヴァは、自分にだけ懐かないケヴィンと孤独な闘いを始める事に…―



知恵がつくようになってからの、父親に対するのとは明らかに違うケヴィンの母に対する態度は、
恐らくもうその時には、エヴァは、漠然と気が付いていたのだろうと考えます。
妊娠中に、その命を喜ばれていないケヴィンに、悟られてしまったのではないか、、、
それが事実であるだけに負い目となって、エヴァは夫に話す事が出来ずに、
ケヴィンは成長し、今度は自ら望んで妊娠する――

親は見返りを望まず、無償の愛を子供に注ぐ。
それが当たり前のように云われるけど、、そうだろうか?
愛をこめて子供に尽くし、子供が自分を親として認知して笑いかけてくれる。
その幸せ。。それを求めるのが親だと思う。そして、
その瞬間をたっぷり味わいながら、親と子は絆を手繰り寄せていくのでは?

泣いて拒否られていた乳児のころから、堪えて学ぼうと努力もするエヴァに、
ケヴィンの悪意のある挑発も成長と比例してエスカレート。
夫はそんな事実から目を逸らし、よき父、優しい夫の部分だけを演じる。。。
それでもエヴァが踏ん張ってこれたのは、、
親としての責任感と、女としてのプライドもあっただろうけど、
そんなケヴィンとのサシの戦いの中で生まれた、彼女の母性だったのではないだろうか。

そして、矢は放たれる。――

記事を書きながら女の内の母性に絡んで「レボリューショナリー・ロード」を思い出していました。
が、この作品のエヴァは本当の意味で強いです。
このケヴィンに対して、悪意という表現を遣いましたが、悪意というからには、
ちゃんと意思を持っての行為であり、態度なわけで、
彼が欲しかったもの、無意識に求めていたもの、それは決してあの悲劇ではなかったのだと思います。

子供は生まれる時期も、親も選べない。
それを私たちは知っていなければいけない。
そして、どんな親も、子供と一緒に悩み、学び、親になっていくのだということも。

放たれた矢はどこに向かったのか
それを考える時、、ケヴィンの赤ちゃんの頃の鳴き声が甦り、彼の孤独の深さが胸を刺します。

仕事に生き甲斐を求めて、バリバリキャリアを積んでいるけど、結婚もしたい....。
そんな女性には、特に観て欲しいかも・・の作品でした。


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
子育て (rose_chocolat)
2013-02-06 13:42:52
>それが当たり前のように云われるけど、、そうだろうか?
親子もそれぞれ1人の人間、相性もあれば、
この親子のように生まれつきの因縁も絡みますから、親が子を愛すことは当たり前ではないと私は思いますね。
世間ではそれを標準として求めてきますが、そうはできない人も少なからず存在するし、言葉では説明できない複雑な想いもある。
子育てに対して、強制的に均質化させてしまう世論に、一矢報いるかのような内容でしたね。
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自分を見てほしい (ノルウェーまだ~む)
2013-02-07 10:51:12
kiraさん☆
たまにここまで酷くなくてもこういう子いますよね。
娘が小学校の時に凄く厳しい両親を持つ子がいましたが、学校で友達の体操服をトイレに捨てて大問題になりました。
その頃その子の弟が脳腫瘍で亡くなるなどあり、やっぱり寂しかったのかな?お母さんに構って欲しかったのかな?と思いました。

行き過ぎた例ではあるでしょうけど、ケビンが自分を通り越して『世界に旅する夢』ばかりを見続ける母に、自分の方を見て欲しかっただけなのかなーと。
衝撃的で忘れられない作品です。
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rose_chocolatさん♪ (kira)
2013-02-07 22:07:53
仕事と子育てと、母性と親子間の相性、
そのどれもがテーマとしてあったかも知れません。
ケヴィンは単に難しい子、悪魔のような子だとは思えなかったです。が、
希望の見えるラストは、
それまでの18年という長い、大きな犠牲の後にたどり着いた「温かさ」であっても、
その愚かしさを教えてくれるもので、、、泣けました
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ノルウェーまだ~む♪ (kira)
2013-02-09 10:14:20
遅ればせながらの鑑賞でしたが、
凄く意味ある作品でしたね~。
エヴァ目線で語られていくヒリヒリする描写で埋められていても、
本当の意味でしっくりとした夫婦ではない、危うさ、
仲良さそうでいても、実は妻にも息子にも上辺だけの夫―
同様に、良い母親になろうとするエヴァも、幸せな家族えを演じる為に努力していたような・・・
そこら辺の描写も巧いと思いました。

>お母さんに構って欲しかったのかな
根底にあるのはそこだと思います。
「母親としての役目をこなす」のでなく、
本当に存在自体を丸ごと認め、愛して欲しかったのだと
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親の責任 (オリーブリー)
2013-02-18 00:07:04
書けば簡単だけど、こんなに難しくて深いものはないかもしれない。
良かれと思ってもそうでないことは多々あるし、分かり合いたいと思っても受け入れられないこともある。
ただ、やっぱり気になる芽は早い内に、、、と凄く感じたよ。
両親の考え方も、ここはよく話し合って足並みを揃えるべきだった。
こうなるまでの子育てに大失敗したエヴァだったけど、本当に強い女性ではあるので、薄っすらとでも先に光は見えていましたね。
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オリーブリーたん~♪ (kira)
2013-02-20 15:17:42
そうだよね。
子育てって、構えるほどじゃないけど、構えて臨んでも簡単にいかない事もまた事実。

凄く小さいうちはまだ、親を困らせる事も
彼の中でゲーム感覚だったかも知れなかった、と思いました。
あそこで覚めた目をして距離を置くのは、、と心配しました。。
抱きしめて、大切な子であると言ってあげてほしかった。
父親の存在、形無しでしたね~。
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