木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

これ、アカハラだろ(2)

2012-01-07 20:51:27 | Q&A 採点実感
さて、佐渡先生は、失意のフジガワラ君の机を離れると、
教壇に戻り、日頃から日常生活を取り巻く法的問題に関心を持って
自分でいろいろと考えないから、こういう問題が解けなくなるのだ
という趣旨の発言をした。

そして、第二の犠牲者が選定された。

「キタジマくん。前へ出てきなさい。」
キタジマ君は、恐怖におののきながら、前へ進んだ。
佐渡先生は、教団の横に誘導すると、院生の方を向くように指示した。

「あなたの答案ねえ、「原告側の主張」も「被告側の反論」も極論なのよ。
 こんなのは、否定されることを前提とした,「ためにする議論」ね。
 そういうのは、議論もかみ合わないし、対立点も整理できてない。
 ワタシ、こんな答案は,全く求められてないの。分かった?」

 キタジマ君はうなずく。

「わかったなら、ここにいるみんなに向かって
 『私の答案は、全く求められていないものでした。』って大声で
 宣言しなさい。」

 キタジマ君は、目を赤くしながら、そう宣言した。

 なんちゅう屈辱じゃ。足ががくがくふるえている。
 ツツミ先生は、「おい、そんなにひどいことしたのか?あの院生?」と
 震えながら聞いてきた。

 たぶん、原告側は表現の自由は絶対無制約、
 被告側はプライバシーは絶対保護すべき法益などと書いて、
 自説で普通のことを書いたのだろう。

 お互い、俺の利益自由は絶対保障なんぞという答案は
 かみ合ってないし、主張反論というより水掛け論だ。

 それに、佐渡先生のいいぶりからすると、
 キタジマ君は、原告主張・被告反論で計1ページ
 (極論なので、書くことがほとんどない)、
 自説は6ページくらいの分量で書いたのではないか?
 (俗に言う「116答案」だ。)

 もちろん、そういう答案を書く人はいるし、
 それはある立場に立って最善を尽くすという法律家としての
 基本能力が示せていない答案だということになるが、
 それを書いたからといって、
 あんな風に人格の尊厳を奪っていいはずがない。

「それに、あなたの答案ね、
 問題文中に上がってる考慮要素を全然、拾えてなくて、
 紋切型の決まり文句をだらだら書いてるだけ。
 権利の考察も不十分で、観念的・パターン的な論述に終始。
 ぜんぜん、核心に迫ってきてないの。分かる?」

 キタジマ君の答案は、
 表現の自由の制約だ、と何の迷いもなく認定し、
 自己実現と自己統治の価値から厳格審査、
 命令出すのではなくて、行政指導で十分だ的なものだったのだろう。

 この事案では、原告の行為が表現の自由の保護範囲に含まれるかが、
 一つの争点になるわけで、
 これは、自己実現自己統治というスローガンだけではない
 しっかりした保障根拠論を提示して、保護範囲を画定しなくてはならない。

 憲法上の権利論については、各権利の
 ①保障の根拠、②保護範囲、③保障の程度を
 しっかり理解しなければならんわけで、
 そういう意味では、確かに、キタジマ君の答案は不十分だ。

 しかし、表現の自由の保護範囲論ってのは、盲点になりがちで、
 しっかり勉強してないと、意識がいかない論点なんですよ、と思った。
 ちなみに、
 思想・良心の自由の①保障の根拠や、
 学問の自由の②保護範囲も、比較的盲点になり易いので注意が必要である。

 私が講義でそう注意したことを思い出していると、
 教室の中に、前期の私の講義「応用憲法A」(既習1年、未習2年前期対象)や
 「基礎憲法」(未習1年対象)の受講生が多数いることに気付いた。
 がんばれみんな!と心の中でエールを送ると、
 佐渡先生は、意外なところに矛先を向けた。

「それにしても、あなたたち、前期までの授業で一通り、
 法科大学院の憲法教育を受けて、単位を取得したはずよね。
 そんな人達の答案が、なんでこんなに残念な答案になっちゃうのかしら?
 そもそも、あなた方が受けてきた法科大学院の教育ごと
 見直す必要があるようね。」

 …。そんなこと言うなら、アンタが模範講義のテキストとDVD作って
 売ってくれ。

 いや、今、私が目にしているのが、佐渡先生の理想の法科大学院教育か。
 しかし、これ、やっぱりアカハラだろ。

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