木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

これ、アカハラだろ?(1)

2012-01-07 06:42:19 | Q&A 採点実感

法科大学院の廊下を歩いていると、402教室の前に、
ツツミ先生がいた。

私「何やってんだい?」

ツ「ああ、いいところにきた。いま、スゴい講義をやってるって評判の
 佐渡教授の講義を覗いてるんだよ。」

佐渡里子教授は、憲法専攻の法科大学院教授、つまり私の上司であり、
講義がマジでヤバイというので有名である。
彼女の講義のどこがどうヤバイのか、というのは、
もう少し先の描写を見ていただければ、十二分に理解できると思うので
ここでは詳細を述べないことにするが、
要するに、ドSの講義を展開するらしい。

私「はあ。佐渡先生ですか。」

ツ「そうなんだよ。いまね、中間試験をかえしてるところなんだ。ほら、これが問題だ。」

ツツミ先生は、こういうと、一枚の試験問題を渡してきた。
ツツミ先生は、いきなり同僚に質問する他に、
同僚の試験問題を集めるのが趣味である。いかがなものかという趣味だ。

さて、佐渡先生は、新司法試験形式の長文問題を出したようであり、
事案は、インターネットの地図検索システムに、
その場所の画像をリンクさせるというサービスの規制法の事案である。
なかなか難しい問題だ。

佐渡先生は、試験の全体講評をはじめた。

佐渡「途中答案が少なかったのは、まあ喜ばしいとしましょう。
 でも、アナタたちの答案ね、論述する分量が少なすぎるわね。
 今年から、行政法総合Aの試験と試験時間を区分けしてあげたにもかかわらず、
 ……予想外だわ。」

 冒頭から、なかなか厳しいご発言である。まあ、短い答案が多かったのだろう。
 佐渡先生は、さらに続けた。

佐渡「そもそも、あなたたちの答案は、判例の言及、引用、がない、
   いや、そもそもそれを念頭においてないものが多すぎるのよ。
   率直に言って、オドロいたわ。
   あなたたちは、判例を読んだことあるの?
   あの程度の答案が連発されるようじゃ、
   あなたたちに判例を勉強させる意味も意義もないわね。」

  ツツミ先生は、小声で「おい?憲法では、答案書くとき、
  判例、年月日付で引用しなきゃいけないのか?」と声をかけてきた。

  ふーむ。佐渡先生の発言は、辛口もいいところだ。

  しかし、例えば、「検閲とは、表現行為の事前抑制一般を言う」のように、
  判例とものすごく乖離した条文解釈する人が、しばしばいるのだ。
  もちろん、原告側から有利な解釈を提示するのは構わないが、
  そういう場合は、判例はこう解釈しているが、これは不当でこう解釈すべきだ
  という論証をしてほしいものである。

  多分、佐渡先生は、そんな感じのことを言いたいのだろう。
  しかし、ああいう言い方をしては、判例を年月日付で正確に引用しろ
  と言っているように聞こえてしまう……。

  佐渡先生は、さらに続けた。調子がでてきたようである。

佐渡「あなたたち、問題と関係のないことを長々と論じすぎね。
   それに、
   『自由ないし権利は憲法上保障されている,
    しかしそれも絶対無制限のものではなく,公共の福祉による制限がある,
    そこで問題はその制約の違憲審査基準だ。』的なステレオタイプが,
   多すぎるわ。ほら、フジガワラ、立ちなさい。」

  今日の第一犠牲者のフジガワラ君が起立した。
  顔が蒼くなっている。

佐渡「あなたのノートみせてごらんなさい。ハンっ。この観念的でパターン化した論証の山。
   このノートで勉強するなんて、思考の放棄だわ。」

  佐渡先生は、こういうとノートをパサっと落とし、
  こう言った。

佐渡「このノート、『有害』……ね。」よくみると、佐渡先生は、ノートを踏みつけている。

  私とツツミ先生は、顔を見合わせた。
  これ、アカハラだろ。

  しかし、佐渡先生の試験講評は、まだはじまったばかりであった。




……平成23年度の司法試験の採点実感が公表されました。
恐らく、いろいろな方からご質問を頂くのではないかと思い、
それならいっそうのこと先回り的に記事にして、コメントしていこうと思います。

採点実感の感想は
「これ、憲法の答案を大量に採点した経験のある人であれば、
 どういう答案を批判しているかが理解できるが、
 そうでない人にとっては、
 ものすごくヘンなことを言っているように受け取られるのではないか?」
というものです。

そこで、ツツミ先生とともに採点実感の翻訳を試みたていきたいと思います。

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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ぜひこの点を教えてください (法律家の卵)
2012-01-07 11:16:10
 はじめまして、木村先生のファンの法律家の卵です。
 さて、先生の「憲法の急所」では、【原告側の主張】【被告側の反論】【裁判官の判断】という3つの項目を立てて論証されています。
 この点は、非常にわかりやすい構成だと考えていたのですが、今回の採点実感では「むしろ「あなた自身の見解」の中で,自らの議論を展開するに当たって,当然予想される被告側からの反論を想定してほしい」との記述があり、正直その趣旨が理解できませんでした。
 「採点実感の翻訳」をしていただけるとのこと大変感謝しております。この際はぜひ、この点についても「翻訳」していただけると幸いです。
返信する
採点実感について質問させてください (シュナサン)
2012-01-07 15:51:52
はじめまして、いつも先生のブログと急所を参考に勉強させてもらっています。
今回採点実感の翻訳をしていただけるということで、1点質問させてください。
採点実感に「原告の主張を展開すべき場面で、違憲審査基準に言及する答案が多数あった。違憲審査基準の実際の権能を理解していないことがうかがえる・・」(P4下から9行目)という記載があります。この記載は、原告の主張を書く問1では、人権が制約されているという主張まで書けばよくて、問2で、反論を踏まえて自己の見解として、どのように判断するかを審査基準等の一定の枠組みを提示してかけばよいということなのでしょうか。違憲審査基準は裁判官が、憲法適合性を判断するための「ものさし」であるから、原告が主張するのはおかしいということなのでしょうか?
 採点実感に書いてあることは、おおむね理解できるのですが、素直に読むと、事案を分析して丁寧に裸の利益衡量をしてください、とも読めます。
 審査基準にたどり着くまでの議論がざっくりすぎるから駄目なのか(保護範囲・制約の認定のところで、表現の自由とプライバシーの自由との利益衡量をきちんとしろ)、目的手段審査が問題なのかどちらなのでしょうか?
 よろしくお願いします。


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Unknown (col)
2012-01-07 16:31:35
こんにちは。

なぜ、「佐渡里子」という名前なのか、記事を読み終わってから、ようやく気づきました(笑)
名は体を表す、ですね。
返信する
比較衡量の批判なし (四千番)
2012-01-07 17:06:16
学者も合格者も、私見で法令違憲で比較衡量を使うのは違うのではないかとコメントされます。本件でも立法事実からのみでも結論はだせますし、定義規定は合憲限定解釈したうえで、全部の中止がプライバシー保護のため必要だから合憲というスジは、おかしいのでしょうか?
返信する
>みなさま (kimkimlr)
2012-01-07 19:41:55
>法律家の卵さま
ご指摘の点については、随時書いていこうと思います。

>シュナサンさま
ご指摘の点は、採点実感の中でも
一番よくわからないコメントで、
他のコメントとも矛盾があり、
正直、私も正確な意図はよくわかりません。

ただ、こういうことを言いたいのではないか、
という仮説はありますので、
随時、ご説明したいと思います。

>colさま
はい。イニシャルはSの上にSです。ふふふ。
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>四千番さま (kimkimlr)
2012-01-07 19:42:25
すいません。ちょっと答案構成の内容がわかりません。

どういうことなのか、もう少し詳しく書いて頂けますでしょうか?
返信する
採点実感の在り方についての疑問 (KS)
2012-01-11 00:34:15
私は学生当時憲法は結構好きでしたが(その一方で,苦手意識が強くもありました。),昨今の憲法を教え,試験を課す方達の姿勢には疑問があります。
というのも,先生に翻訳していただかないと誤読ばかりしてしまいかねない(しかも,採点実感の翻訳が誤訳ではないことを試験上担保してくれる人は誰もいませんから,受験生は各自の責任で答案を書き,人生を賭さねばなりません。)採点実感が毎年出されていると,通訳人を持たない受験生としては,憲法については如何に金太郎飴を練るかに腐心し,採点実感が一々肯ける他科目(先生は善解されているのかもしれませんが,他科目と比較して,憲法の採点実感は例年異様だと思います。)に勉強時間を費やすのもやむを得ず(これが正しいスタンスだとは到底思いませんが,このような傾向は否定しがたいと思います。),このような状況が実務法曹,ひいては法曹会あるいは我が国の社会の在り方にとっていい方向には決して結びつかないと思うからです。
また,やたらと個別事情が~,事案分析が~と言われると,受験者心理としては,事案分析は地頭勝負の面が大きいと考えがちですし,理論憲法学の勉強が事案分析には生きにくいとも考えがちです。
正直,採点者にとって満足のいく答案が一通もなかったなどとのたまい,そのような結果になった出題を何ら省みることなく受験生の不勉強(ないし情熱不足?)をあげつらう(確か初年度でしたか)人達が採点しているかと思うと,憲法は択一の勉強をした上で,論文では守って他科目に勉強時間を割くべきだと思います(全員が憲法で落ちることはまずないので,実際無茶苦茶な点数は付きません。向上心がない者は唾棄すべき者かもしれませんが,それでも試験には受かってしまいます。)。

そうして結局,憲法学,とりわけ理論憲法学への探求心を失い,自由と特権との距離が何メートルだろうがどうでもいい,コンドルセってなんですか,大きな鳥ですか,となっていく現状が憲法教育の在り方としていいことだとは思えません。
誰かきちんとした方が,この採点実感は(少なくとも他科目と比較して)異様であると言うべきではないかと漠然と思っています。

駄文・長文失礼いたしました。
不適切かと思いますので,削除していただいて異存はありません。
返信する
>KSさま (kimkimlr)
2012-01-11 09:54:15
お気持ち、お察しします。

受験生としては、「試験合格」を目的と割り切って、戦略行動に出るのも、
目的との関係では合理的でしょう。
それが、憲法教育、憲法学会、ひいては、日本の憲法価値実現にとって、
大きな損失であるというのも、ごもっともだと思います。

採点実感の公表等については、憲法の有名な先生方の一部が、
ずいぶん前から、改善を求めるコメントを雑誌などで、公表なさっていますね。
それにもかかわらず、採点実感が難解であり続けるというのは、非常に残念なことです。
あのような有名な先生がコメントしても、影響力がないらしい、ということを前提にした場合、
私に何が出来るかを考えた結果、
ブログにてこのような一連の記事を書くことを思いいたりました。

相手方に対して、悪意の存在を想定して、
疑心暗鬼(?)になるのは、双方にとって不幸です。
心理学かなにかの書籍をちらっと読んだ時にも、
相手に悪意はないことを前提として、その人が何をしたいのか考えるのが、
より良いコミュニケーションにつながるということが指摘されていた気がします。

あのようなコメントの存在を予条件に、
ふてくされない、自尊心を失わない、攻撃的にならない、
そんな自分でいられるための工夫というのは、
きっと受験のみならず、これからの長い人生にとっても有益でしょう。
私の尊敬する熱血教師タケオカ先生は、
「嫌なことに出会ったら、成長のチャンスだと思え!」
と言っております。

学生の方たちであれば、将来、ご自分が指導者・教育者になったときに、
どのような自分でありたいかを考える絶好のチャンスなのではないでしょうか。
私も、難解な記述に出会うたびに、いつも、
「どうしたらもっと伝わるか?自分なら、どんな工夫をするか?」
と自問自答しており、その積み重ねで、少しずつですが、
成長しているのではないかと思います。

世界が快適すぎると、工夫は思いつかないものです。
不快だからこそ自分の創造性が発揮でき、
実際に苦労したからこそ言葉に説得力がでるのでしょう。

KS様も、近い将来、良き先輩、良き指導者になれるよう、
ぜひ、今の気持ちを大切に日々頑張ってください。
私も、日々精進いたします。
返信する
Unknown (ks)
2012-01-11 23:27:32
勢いに任せ,生の感情むき出しで書いた駄文に大変丁寧なお返事をいただいて感銘を受けております。
しかも有名な先生方が改善へのコメントをされているとのこと,完全に私の不勉強でした。

採点者の方,教育者の方に悪意があるというわけではないのでしょうけれど,やはり何か大きなすれ違いがあるのではないかと思います。

それが先生方のご尽力によって解消されていくことを願ってやみません。

現場で職務を行う中でも,実体法なり訴訟法なり,事実認定論なりと若輩者なりに指導させていただく機会はたくさんありますので(憲法は正直あまり出てこないのですが(笑)。),少しでも良き指導ができるよう頑張りたいと思います。
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>ksさま (kimkimlr)
2012-01-12 05:54:04
こちらこそ失礼いたしました。

例えば、安念先生が確か総務省のヒアリングかなんかで
採点実感は疑心暗鬼を増大させるだけなので
やめてほしいとおっしゃっておりました。

憲法の教師としては、
「それ試験で通用するの?」という点にだけ
意識がいく今の現状は
大変、嘆かわしいわけですが、
あの羽生先生の本にですら、
「この本の通りにやって、ほんとに勝てるの?」
ということをおっしゃる初学者の方もいるそうで、
私なんぞが、嘆かわしいと嘆くのは
おくがましいように思ったりしております。

それでは、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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