CDショップ(+α)のおススメCD日記

何と、あまり聞いたことのないCDコメントの共同作業、つまりクロスレビューです。(不定期更新)

工藤さんの10月のおススメ盤を聴く(bb白岩)

2008年10月31日 | 音楽
山中千尋はかつての澤野工房からのデビュー盤が一躍トップセールスを記録して、あとDVDがポップチャートにもランクインするくらい売れた人として、名前は早くから認識していました。実際ちゃんと音を聴くのは今回が初めてなんですが、とてもダイナミックでアグレッシヴな奏法に遅ればせながら私も今感動しています。この躍動感、半端ではないですね。

ブラヴォーグ/山中千尋(P)(Verve)

Chihiro Yamanaka(P)
Vicente Archer(B)
Gene Jackson(Ds)

1. Aquarian Melody
2. Carillon
3. A Time For Love
4. Uni
5. Vou Deitar E Rolar
6. Boolavogue
7. Dois Pra La, Dois Pra Ca
8. Circle
9. Le Fruit Defendu
10. Staccato
11. When You Wish Upon A Star
12. Backstroke Dance

バークリーを主席で卒業したというプロフィールを知って、やはりこの人は何においてもためらわずに斬り込んでいける人なのだと感じました。非常に高い水準で技術や能力を競う環境の中、少しでも物怖じしたらその時点で気持ちが負けている訳ですが、想像されるそのアクティヴさ、一種の攻撃性がこの作品でのパフォーマンスにも現れているように思います。例えば#5.で見せる力こぶ付きの牽引力、リズム隊にプッシュされて疾走しているというより、自らリズム隊に縄をかけて引っ張っているニュアンスを顕著に感じます。特にバースの部分、山中の打鍵の力強さにドラムも全力を出し切って応答している感じ、これはかなりフィジカルなジャズだぞという印象も有り。

全曲を聴いての感想は、緩急の緩の部分でほっと息が抜けない点、ご本人はジェントリーに弾いているつもりでも耳には充分元気よく聞こえてしまう点が少し気になります。#7がその典型で、前半と中盤でメリハリが欲しいところ、耳には通して一本調子に聞こえてしまうのが惜しいです。誰か山中に厳しいことが言える人が側に付いている環境で活動されているのか、あるいは全てご自身で判断しなければいけない環境なのか、その辺は判らないのですが、これだけの逸材だけにもっと上を目指せる人ですよね、この人は。#9でも、タッチが一本調子にならないようにすれば同じ曲でももの凄く印象が変わるように思います。現状では少し押しつけがましくて息苦しく感じる瞬間、もう少し優しく弾くと魅力倍増のはずです。

ともあれ、ツベコベ言わずに黙ってアタシに付いて来なさい、という感じの奏者としての強いキャラクター、これは絶対今後も彼女の武器になると思います。是非思い付いたことどんどん形にしていって欲しいと思います。可能性沢山ある方だと思います。

なんちゃって、好き勝手書く方は気楽でいい身分です。どうもすみませんでした。m(_''_)m

bb白岩(appleJam)



appleJam10月のブラボーな盤を聴く(工藤)

2008年10月30日 | 音楽
ふだんはモダンジャズしか聴かない私にとって、今回のbb白岩さんのおススメのようなジャンゴ・ラインハルト直系のようなサウンドを聴くのは、非常に新鮮です。それがフランスではなくてニューオリンズに息づいていて、しかも戦前の録音ではなくて’08年新録音というのだから、オドロキでした。ニューオリンズには、ニューオリンズ・ジャズだけではなくて、モダン・ジャズや、いろいろなジャズが今でも生きているのだな、と思います。それにしても聴きやすくて、けっこう懐かしい響きを持っています。これならば、ジャズファン以外の人でも聴きやすいのではないかな、と思います。


Heavy Artillery/Hot Club of New Orleans(USA New Orleans Independent) - Recorded January 2008. Christopher Kohl(Cl), Matt Rhody(Vln), Matt Johnson(G), John Rodli(G), Bradford Truby(B) - 1. Czardas 2. Douce Ambience 3. Heavy Artillery 4. Hinson's Dilemma 5. Sweet Chorus 6. Swing '39 7. Elsa's Dream 8. Russian Songs 9. Creole Love Call

ジャンゴ・ラインハルトの曲を全9曲中4曲も取り上げているように、かなりその影響を受けているアルバム。でも新録音だし、今でもニューオリンズではこういうジャズの息づいているんだな、と改めて感想。彼らのオリジナルは4曲目だけですが、そういうことを気にせずに通して聴ける演奏です。クラリネットにヴァイオリン、アコースティックギター2台にベースと、これは戦前のフランスジャズを想像しますけど、バリバリの’08年録音。当然ながら無理に現代的なフレーズを押し込めたりせず、きわめて自然な流れで、メロディが流れていきます。とは言うものの、けっこうアップテンポで飛ばして、スリリングな場面も。気楽に聴こうと思えば出来るし、ゴキゲン度は高いです。8曲目の哀愁のある後半アップテンポのトラディショナルのあとに、ラスト9曲目でデューク・エリントンの曲が出てきますけど、タイトルを気にしなければミディアムのブルース的。ある程度山あり谷ありの流れではありますが、すんなりと入ってきます。こういうジャズもいいものだな、と思います。

ジャズCDの個人ページ(工藤)


10月のおススメ盤(工藤)

2008年10月05日 | 音楽
山中千尋のアルバムは楽しみにしているもののひとつで、女性ピアニストでありながらガンガンせめてくるところも多いので、非常にスリリングで楽しめます。もう一方に上原ひろみがいますけれど、彼女はどちらかと言うとフュージョン的、こちらはジャズなので、対極的ですね。日本の女性ピアニストというと、どうしても女性らしさが前面に出て来てしまって、おとなしめのアルバムになってしまうところが物足りない部分でもあるのですが、彼女の場合、ニューヨーク発の元気をめいっぱいもらって聴ける、というところがります。これを書いている時点でDVDはまだ観ていないですが、そちらはメイキング映像とのことで、あとでゆっくり観ることにします。


ブラヴォーグ/山中千尋(P)(Verve)
Bravogue/Chihiro Yamanaka(P)(Verve) - Recorded July 14-15, 17, 2008. Vicente Archer(B), Gene Jackson(Ds) - (CD) 1. Aquarian Melody 2. Carillon 3. A Time For Love 4. Uni 5. Vou Deitar E Rolar 6. Boolavogue 7. Dois Pra La, Dois Pra Ca 8. Circle 9. Le Fruit Defendu 10. Staccato 11. When You Wish Upon A Star 12. Backstroke Dance (DVD) The Making Of Bravogue "Her Ordinary In New York"

山中千尋作は4曲(2、4、8、12曲目)でタイトル曲の6曲目はトラディショナル。相変わらず曲によってはパワフルで元気いっぱいのピアノを聴かせてくれます。63分で12曲なので、けっこうやりたいことを詰め込んでいるのだなあ、という感じ。曲の流れもいいし、ゴンゴンとくる演奏からバラードまで変化に富んでいます。時にはエレキ・ピアノも使用して。すでに彼女の世界を確立しているのでは。男性的な面も強い女性らしさのピアノで、予想を裏切らないジャズというか、スリリングな点も含めて、何だかジェット・コースターに乗っているような雰囲気の曲も。とにかくフレーズをとってみてもスゴいし、美しい場面では美しい。サウンドはSHM-CDのせいか、ピアノを中心にジャズにしてはクリアな感じ。でも彼女には合っているかも。(08年9月24日発売)

(追記)タイトルの「Bravogue」は造語だそうで、6曲目のアイルランドのトラディショナルは「Boolavogue」と、スペルが違います。

ジャズCDの個人ページ(工藤)


appleJam10月のブラボーな盤(bb白岩)

2008年10月03日 | 音楽
このHot Club of New Orleans が入荷したのは今年前半のことですので、新譜としてupするには少し遅いのですが、季節的にはまさに今この瞬間からが旬だなと思って選盤しました。伸びやかなクラリネットにチャカポコしたバンジョーのようなリズムギターの響き、そんなアンサンブルの中を縫うようにジャンゴ系のギターソロやフィドルが走り抜けていく様はまさに焼き芋ミュージック!こんがり焼けた芋の皮をパリパリめくりながら頬張るとき、このホットスイングのサウンドが絶妙のハーモニーを奏でます(笑)。


クリストファーとマット・ローディの二人が健在、心機一転の新HCNOはやはりホットスイング一直線
Hot Club of New Orleans / Heavy Artillery
2008 USA New Orleans Independent

Christopher Kohl - clarinet
Matt Rhody - violin
Matt Johnson - guitar
John Rodli - guitar
Bradford Truby - bass

この作品から急にギタリストが二人とも入れ替わってしまったものの、バンドとしてのテイストは少なくとも前作からはそう大きな変化は感じられない仕上がり。そこにこそギタリストが二人とも入れ替わってしまった理由がありそうですが、お店としてはこっちのメンバーも、退団してしまったギタリストの一人、デイヴィッド・ムーニーの方も両方追いかけていきたいなと感じています。

今ここに書こうとしている見解はあくまでも彼らの作品をデビュー時から追っていて、その範囲で感じただけのことを材料に書きますので、実際は大きく違っているかも知れないですが・・・彼らの一作目で受けた印象、バンドとしての磁極がバラバラだという感じは恐らくメンバー自身が誰よりもその瞬間感じていたのではないかと思います。ホットスイングへはっきりと傾いた作風の中に、やけに捻りを加えたあたかもミントンズ・ハウスの頃のガレスピーやチャーリー・クリスチャン等のビバップ族が居る感じ。あとで思えばその異質感はきっと後にバンドを退団したギタリスト、デイヴィッド・ムーニーの音楽性にあったように感じます。

二作目ではっきりとホットスイングだけに焦点を絞ったHCNO。 一方ギタリスト、デイヴィッド・ムーニーが出した2枚のソロ作から受ける印象が余りにホットスイングから遠いところにある気がしていたせいか、そのソロ作がムーニーのガス抜きのように感じた瞬間がありました。(ソロ作導入時はまさか同一人物だと気が付かなかったくらいですが、しかしこの見解はあくまで全部想像です)そして今作からギターがムーニーを含めて二人とも入れ替わっていることにかえって納得している自分がいます。

もしや、自身では不承不承お付き合い気分で仕上げた作品を「ホットスイングのバンドとしてすっきりと満足出来る仕上がり」と評価した店が日本にあると知って(笑)ムーニー自身はどう感じたかは判らないのですが、少なくとも彼はもうホットスイングの呪縛からは解放されたのかも知れません。それはともかく HCBO自体もここから改めて再スタートした感じで、ここでは思いの丈ホットスイングに埋没している姿を見ることが出来ます。また同時にラストのジプシー調のエリントン・チューン#9.Creole Love Callにまた次彼らが開けてくれる新しいジャズの扉を見る予感がします。ここでのマット・ローディのフィドルのソロに於ける入魂ぶりは、彼こそがこのバンドのリーダーなのかなという気持ちを新たにしました。ニューオリンズの街に完璧に根付こうとしているホットスイングを、今後もきっとマットのような人がライフワークとして伝承していくのだと私は感じています。

bb白岩(appleJam)