CDショップ(+α)のおススメCD日記

何と、あまり聞いたことのないCDコメントの共同作業、つまりクロスレビューです。(不定期更新)

STEP10月のオススメ盤(工藤)

2005年10月30日 | 音楽
ベーシストのリーダー作は、ベースが前面に出てくるタイプと、トータルなサウンドを重視するタイプと2つに分かれますが、ここでの井上陽介のベースは前面に出てくる方で、ベース・ソロも多め、4曲目にいたってはソロで演奏してしまう、ということもやっていて、テーマでのベースのメロディ率も高めです。でもあまり嫌味にならないのは、メンバーの人選とこの人のテクニックによるものが大きいんではないかなあ、と思わせます。あと、個人的には私も片桐さんと同じように石井彰のピアノは好きです。いろいろなタイプの曲があって、飽きさせません。


バック・トゥ・ザ・グルーヴ/井上陽介(B)(M&I) - Recorded March 8 and 9, 2005. 石井彰(P)、小山太郎(Ds) - 1. Havana Dreams 2. Interplay 3. My Foolish Heart 4. Birdland 5. Milestones 6. Waltz For Debby 7. Returnes 8. Sweet And Lovely 9. Back To The Groove 10. When Nights Are Low

井上陽介作は全10曲中3曲(1、7、9曲目)でスタンダードやジャズメン・オリジナルが多いです。ビル・エヴァンスの愛奏曲が多いのはピアニストが石井彰だからか。不思議なモッチリしたベースラインで始まり、そのままベースソロに哀愁あるメロディで前半突入し、後半は哀愁ラテンのピアノ、情熱的なドラムソロと続く1曲目、ビル・エヴァンス作のオリジナルに近いような味わいのあるややしっとりした感じから中盤どっしりとした4ビートの部分もある2曲目、しっとり感はあるけれども原曲と違い最初のテーマはベースが奏でるバラードの、ピアノが繊細な3曲目、ウェザー・リポートの有名曲を最初から最後までベース・ソロで勝負する4曲目、アップテンポでなかなか迫力のあるボトムに鋭く斬り込んで行くピアノ、後半ドラムソロもある5曲目、これもベースがアルコでテーマを優雅に奏でたあとは、中盤ピアノのソロではちょっと元気なワルツになる6曲目、ちょっと浮遊感のあるメロディが印象的なボッサタイプの徐々に盛り上がっていく7曲目、ドラムスのソロの間にリズミカルなテーマが入るような、ちょっと面白い仕掛けがあって、その後4ビートでメカニカルなピアノのソロ、ベース・ソロとつなぐ8曲目、16ビートノリのカッコ良いベースラインとメカニカルなピアノのラインの組み合わせで、後半盛り上がっていく9曲目、ラストはスタンダードのややホンワカムードの4ビートで幕を閉じる10曲目。

ジャズCDの個人ページ  工藤


appleJam 10月のおもしろ盤を聴く(工藤)

2005年10月22日 | 音楽
ジャズと言えばニューヨークであって今のモダンジャズにとってニューオリンズは今はあまり関係ない、というような発言をあちこちで耳にします。それはたまたま日本で流通していたり人気があったりするミュージシャンにニューヨーク発が多いだけなのであって、アメリカはこういったニュー・オリンズ発のモダンジャズもあり、アメリカのローカルでのCDの流通も日本と違って多いのだな、と思わせる1枚。演奏も遜色なく、ゲストや参加ミュージシャンにもマルサリス一家のメンバーが入っていたりします。


The Troy Andrews(Tb, Tp) Quintet / The End of The Begining (2005 USA Treme Records) - James Martin(Ts), Bill Huntington(B), Jason Marsalis(Ds), Michael Pellera(P), Featuring: Ellis Marsalis(P), Irvin Mayfield(Tp), Kermit Ruffins(Vo), John Boutte(Vo) - 1. Twisted 2. Softly, As In A Morning Sunrise 3. On The Sunnyside Of The Street 4. Summertime 5. Skylark 6. Congo Square 7. Two Trumpet Blues 8. Byrdie 9. Reet Petite

ニュー・オリンズのモダンジャズという感じで、ニューヨークとあまり変わることの無い都会的な曲もありますが、例えば1曲目のように、モダンジャズをやっていながら、どことなく明るさが漂ってくる曲もあります。それにたいして、2曲目のスタンダードはアップテンポで渋く、洗練されていて都会的な雰囲気。こういう感じ、けっこうグッときます。これまた有名な曲を明るい雰囲気で、男性ヴォーカルを交えてウキウキさせてくれる3曲目、「サマータイム」を渋く、かつ跳ねるようなリズムで料理していて印象的な4曲目、バラードをちょっと低めの女性ヴォーカルがていねいに歌っていき、間奏はトロンボーンとピアノがソロをとる5曲目、テーマは5拍子でアドリブに入るとアップテンポのソロとバッキングが続き、ラストは5拍子でドラムソロがある6曲目、タイトルの通り2トランペットでゆったりしたブルースになる7曲目、マイナー系のノリの良いラテンで攻めてくる8曲目。そして、9曲目の陽性のヴォーカル入りブルース(?)で幕を閉じます。

ジャズCDの個人ページ  工藤



STEP10月のおすすめ盤(bb白岩)

2005年10月19日 | 音楽
「バック・トゥ・ザ・グルーヴ」井上陽介 MYCJ 30343

普段聞かない方のジャズですので、まずはアルバム丸ごとじっくり通してきくことで、どこかに自分でも入れる入り口というか扉を探してみました。最初に見つけた入り口は#5の「マイルストーン」、でもこの曲はもしかしてピアノとベースだけのデュオの方が面白かったような気がしてコメントはパス。次の扉は#8「スイート・アンド・ラヴリー」でした。インテンポになってからの楽想がまるでスティープルチェイスで発見されたビル・エバンス、みたいな感覚。続く#9「バック・トゥ・ザ・グルーヴ」はそれまでと一転してぐっとファンキーな楽想、総じて小山太郎のドラムがフライ級的なタッチなのでこのファンクも綿菓子で作った飛行船が空を泳いでいるような感覚になります。ラスト、まるで「サテンドール」みたいなスインギーでキュートな小品で締めくくり。石井彰のピアノはシングルノートの部分に何やらウィントン・ケリー的な打鍵を見る気がして身近に感じます。

bb白岩 (appleJam)


STEP10月のおすすめ盤

2005年10月13日 | 音楽

「バック・トゥ・ザ・グルーヴ」井上陽介 MYCJ 30343



ベーシスト井上陽介の名前と多少の経歴は知ってはいたものの、
今までその演奏を聴いたことがありませんでした。
このアルバムを聴いてみようと思ったのは、ピアノが石井彰と
いうのが大きな理由です。以前から私の大好きなピアニストで
あることは、常連の皆さんならご存じだと思います。
普段はろくに読まないライナーノーツに何気なく目をやると、
解説をMOONKSの大河内善宏さんが書いています。
(この方、以前地の果ての当店にご来店されたことあり)
聞き上手な大河内さんの解説をそのまま載せた方が、販売促進
には効果大かも知れません。(それじゃ手抜きか...)
さてこのアルバム、オリジナル曲のベースソロから始まります。
あまり重低音域は使わないものの、美しくて芯のあるベースの音
には安心感があります。それに絡む石井彰のピアノは、EWEの
リーダー諸作よりもバップ色が強く感じられます。小山太郎の
ドラムは軽やかに正確にビートを刻んで、ベースとピアノの美音
を一層引き立てています。豪快でありながら高い品性を崩さない
この三人の組み合わせは大成功だと思います。
録音も自然なバランスで、ついヴォリュームを上げたくなります。



(STEP 片桐俊英)




工藤さんの10月のオススメ盤(bb白岩)

2005年10月12日 | 音楽
少し大胆な例え方になりますけど、今回のビル・フリゼールというギタリストは私にはそれをロックシーンに置き換えてみたときの デイヴ・ギルモア に似た存在になります。ギルモアは60年代中期から70年代にかけて文字通り世界を駆け抜けたプログレッシヴ・ロックのバンド、ピンク・フロイド の看板ギタリストでした。相当に大胆な、音へのアプローチは当時から各界の注目を集めあらゆる層の音楽ファンが彼らの虜になったのを記憶しています。私自身、京都府立体育館(確か記憶ではこの会場でした)と大阪公演と、二度の来日を観に行きました。箱根のアフロディーテで催されたコンサートは日本の音楽史の1ページに残る伝説にもなっています。それくらい多くの人々の心を掴んだプログレって、確かにこの時代の主流のひとつではあったのですが、私がギルモアを好きになったのは、それ以上に彼のギターからほとばしるフレーズが恐ろしくブルージーで、もしやこの人はブルースが好きでそっちが入り口だった人ではないかと感じたものです。そのときと同じ感覚がこのビル・フリゼールからも感じられます。ファンタスティックで幻想的な響きをしたフリゼールのギター、そのフレーズを骨格だけにすると驚くほどブルース・スケールというかペンタトニック・スケールで弾いている部分があったりします。きっとこの人はブルースが大好きなんだと思います。

East/West/Bill Frisell (Nonesuch)(輸入盤)

Disc1 「WEST」Recorded May 8-11, 2004
Bill Frisell(G, Loop)
Viktor Krauss(el-bass)
Kenny Wollesen(Ds)

Disc2「EAST」Recorded December 9-12, 2003
Bill Frisell(el-g,ac-g, Loop)
Tony Scherr(wood bass, ac-g)
Kenny Wollesen(Ds)

個人的にはエレベが相棒を務めている「WEST」が大好きになりま
した。何といっても意外な一撃、それも結構後から効いてくるずしん
とした一撃、邦題を「悲しいうわさ」というマーヴィンゲイの名曲を、
誰も想像がつかなかったくらいまったりしたスローテンポで料理し
たこの一曲目がまずたまりません。2枚組のアルバムのトップに
持ってくるくらいですから本人も相当にこれが気に入ってるのだと
思います。あとやはりDisc-1の#4.ひとつ間違うとマカロニウェス
タンのサントラに出てきそうギタートーンを実に上手くコントロール
しながら曲に奥行きと高さをつけていきます。フリゼールのギタ
ーは何故か立体の構造物に思えてくるから不思議です。

Disc2の「EAST」はアコースティック、もしくはエレアコの芳醇な
響きが印象的ですが、実は個人的にはこうなってしまった音は
世間によくあるビューティフル系のギターと区別が付かなくなっ
て、少々引いてしまいます。但しフリゼール自身がそのことを何
よりも気をつけているのか3曲目辺りから一気に楽想が変わる
ところ、ワールドミュージックも好んでいそうな背景が窺えます。
ライヴでのフリーフォームなインプロヴィゼーションなのにリズム
隊とのドラマチックな呼吸も見事、その点にも聞き惚れてしまい
ました。

bb白岩 (appleJam)


appleJam10月のおもしろ盤(bb白岩)

2005年10月05日 | 音楽
当店ではもうずっと、ニューオリンズの人々と直接取引することで現地の様々な音を導入するというようにしてきたのですが、あのハリケーン被害以降それが休止中です。一部の方々とは連絡が取れていて、いずれそう遠からず業務を再開出来ると思うという、力強いメッセージも届いてはいます。ただ、そんな復興活動の中で少し前に見た米abcニュースでのひとこまが気になったりもしています。実は政府機関であるフィーマという国家緊急事態省が提供している災害保険というのがあって、ニューオリンズの場合も多くの人々がそれに加入していた模様です。保険の目的自体が、ハリケーン等の災害で加入者が家を無くした場合全面的にそれを保障すること・・・だったはずが、いざ今回の災害後に実際の保障の内容がトーンダウンしていました。政府側の説明を聞いたところ、それは耳を疑う答弁で・・・そもそもこれは「保険」なんかではない、これは「災害時お見舞い金」程度のものに過ぎないという説明でした。フィーマ提供のこの保険サービスが発足した当時、政府に雇われてこの保険を設計したご本人がabcのキャスターに語ったところによれば、自分たちがこれを作って稼働させた時点では確かにこれは「保険」だった。加入者は最初のプラン通り適正に政府から保障を得られなければうそだ、と答えていました。そのような重大事項のすり替えが、実際にあったと思えるにもかかわらず、これを何とかするためには人々は加入者団体というのを組織化して連邦政府を相手に裁判を起こすしか手がないとのこと。現在、実際にその訴えを起こすべく人々が組織化されていると聞きます。目前で家が流された人々、保険に入ってて良かったという安堵の気持ちでなんとか持ちこたえていた部分もあるはず。それが政府機関によってあっさり反故にされた瞬間どのような気持ちになったことか、我が事のように想像してしまいました。

またまた枕が長くなってしまいすみませんでした。それでは今月のおもしろ盤です。このアルバムの主役、トロイ・アンドリュースですが実は相当前のことですが、ニューオリンズを特集した番組で彼が5~6才の頃に兄からトローンボーンの猛特訓を日々受けつつ街のブラスバンドに加わって活躍するシーンを見たことがあり、自分の中ではまるで自分の親戚の子のひとりのように感じていました。当時、自らの背丈の倍はありそうな大人が使うのと同じサイズのトローンボーンを担ぎながら練習したり、バンドで街を練り歩きながら演奏するシーンはそれが如何にもニューオリンズの音楽シーンを象徴していたせいもあって、今もその姿が脳裏に焼き付いています。それから約15年、すっかり成人してからも、今回の水害前に何枚もの参加作品を連続して放っていたうちの、これはトロイ自身がリーダーのメインストリーム・ジャズ盤ということで、明らかに彼の勝負作と感じています。

あいつのタメなら何だって、って感じで中堅から大物までが続々と集結した凄い盤
The Troy Andrews Quintet / The End of The Begining (2005 USA Treme Records)

タイトルがそれを象徴しているかのような、これはまさにトロイへ
の祝福を兼ねて仲間達がエールを送った共演アルバムかと察し
ました。兄貴、今まで世話になった。オレの子供時代はもう終わ
った。遂に大人のジャズを演る時が来た。~ と、ほんとに彼が
ジェームスにそう言ったかどうかは別として、今までは常に寄り
添っていた兄ジェームスがここに居ないことに注目しました。ジェ
イソン・マルサリス(ds)を含むクインテットの核メンバーの他にゲ
ストでアーヴィン(tp)やカーミット(tp)にヴォーカルではジョン・ブッ
テ!も参加、メインストリーム・ジャズが7割、ニューオリンズ・
ジャズが3割という構成にもトロイのストレートな熱気をひしと
感じます。仕上がりも抜群のレベルに有り。


以上です。

トロイをはじめ、一日も早くニューオリンズのミュージシャンがまた元通り活動を再開したというニュースを聞きたいですね。今はそんな気持ちでいっぱいの毎日です。


10月のオススメ盤(工藤)

2005年10月01日 | 音楽
今月紹介するアルバムも、発売されてからしばらく経っていますが、やっぱり私はジャズかそうでないかという議論にかかわらず、ギター・ミュージックが好きなようです。

ビル・フリゼールの2枚組の、しかもギター・トリオのライヴ。最近こういうアルバムを聴いてみたかった。ただ、この人、個性的で実力はあるのに、まったりとしすぎているという声も聞こえてきそうです。ハードロックばりの激しい音やフレーズも過去に出していたことはあったのですが、最近ではアメリカーナ路線というか、落ち着いてきたようです。そこが好き嫌いの判断の分かれ目になるのでしょうけれど。まったり度も増してはいますが、そういう中でまた渋さもある曲があったりと、やはり彼にしか出せない音。時にヘタウマ的に聴こえますが、おとなしめの中に、ライヴでの拍手、ということでアメリカではけっこう受け入れられているのかもしれませんね。もちろん今では日本でもギタリストとして有名ですけれど。


East/West/Bill Frisell(G, Loop)(Nonesuch)(輸入盤) - Recorded December 9-12, 2003 and May 8-11, 2004. Viktor Krauss(B), Tony Scherr(B, G), Kenny Wollesen(Ds) - (West) 1. I Heard It Through The Grapevine 2. Blues For Los Angeles 3. Shenandoah 4. Boubacar 5. Pipe Down 6. A Hard Rain's A-Gonna Fall (East) 1. My Man's Gone Now 2. The Days Of Wine And Roses 3. You Can Run 4. Ron Carter 5. Interlude 6. Goodnight Irene 7. The Vanguard 8. Prople 9. Crazy 10. Tennessee Flat Top Box

(05/09/06)CD2枚組で、それぞれカリフォルニアとニューヨークでのライヴの録音。Bill Frisellの作曲は1枚目で3曲、2枚目は1曲と3人のフリー・インプロヴィゼーションが3曲。ベーシストのみメンバーが違いWestではエレクトリック・ベース、Eastではアコースティック・ベース(ややジャズ寄り)。両者のサウンドの違いはあるものの、まったりしていて時々そのまま、時にロック的に盛り上がるような、強烈な、のんびりした個性のビル・フリゼールのギターの印象が強いです。アメリカーナ路線とでも言うのでしょうか。ジャズの曲もあるにしても(East1、2曲目)、彼のまったり路線は崩れず、やっぱり4ビートでも強い個性。渋めの雰囲気の曲と、本当に牧歌的な明るめの曲と分かれます。West2曲目のブルースがけっこう個性的。

ジャズCDの個人ページ 工藤