語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】自民党優位、希望の党苦戦の裏で注目高まる無所属ネットワーク

2017年10月15日 | 社会
 (1)やはり選挙は怖い。時々刻々と情勢が変わる。
 東京都知事の小池百合子による「小池劇場」で始まった衆院選挙は、10日の公示前後から様相が一変した。12日付の在京6紙の朝刊の見出しがそれを証明する。
  「自民堅調 希望伸びず」(朝日新聞)
  「自公300超うかがう 希望伸び悩み 立憲に勢い」(毎日新聞)
  「自民単独過半数の勢い 希望伸び悩み」(読売新聞)
  「与党、300議席に迫る勢い 自民、単独安定多数も」(日本経済新聞)
  「自公300議席うかがう 希望、伸び悩み」(産経新聞)
  「自公堅調、希望伸び悩み」(東京新聞)

 (2)毎日新聞と東京新聞は共同通信社の調査によるが、全紙に共通するのは自民党の優位と、台風の目とみられていた希望の党の苦戦ぶりだ。
 小池は、9月27日の新党設立の記者会見では首相の安倍晋三に激しい言葉で“挑戦状”をたたきつけた。
 「本気で政権を取りにいく改革保守政党をつくりたい。日本をリセットするための党を立ち上げる」
 その後は小池旋風が吹き続ける。民進党代表の前原誠司とタッグを組み、民進党が事実上解体された。大多数の候補者が希望の党に流れ込む・・・・かにみえた。
 しかし、小池が表明した「排除の論理」が、全く新しい状況を生んだ。
 小池・前原連合に反発した枝野幸男・元官房長官を中心に立憲民主党が結成されると、希望の党の勢いに陰りが見え始め、小池が唱えた「政権選択選挙」が大きく後退した。
 気を持たせた揚げ句に「首相候補」を決められないまま公示日を迎えた。方向性の定まらない“新造船”への乗船を見合わせる候補者が続出した、当然。
 各紙の情勢調査を見る限り、小池の強気戦略が裏目に出た格好だ。逆に筋を通した立憲民主党が反自民票の一定の受け皿になりつつある。

 (3)今回の選挙の大きな特徴は、大量の無所属候補が生まれたことだ。解散時に現職議員だった民進党出身者の無所属候補の総数は21人に上る。
 2005年の郵政選挙では、27人の無所属候補が立候補した。
  (a)当時の首相、小泉純一郎が郵政民営化法案に反対した自民党の候補者全員を非公認にしたからだ。
  (b)小泉は刺客候補を立てて反対派の自民党候補者の追い落としを図った。このうち綿貫民輔・元衆院議長、亀井静香・元運輸相らは国民新党を結成して抵抗したが、大半は無所属という孤独の戦いを強いられた。いわば「やむを得ず無所属」だった。
 今回は、むしろ積極的にあえて無所属を選択した候補が目立つ。中には一度は希望の党の公認候補になりながら公認を辞退して無所属に転じた候補もいる。その背景には、
   ①小池が声高に叫んだ「排除の論理」
   ②事実上の「踏み絵」となった「政策協定書」
の存在がある。前首相の野田佳彦はテレビカメラに向かって意地を見せた。
 「先に離党していった人の股をくぐる気は全くない」

 (4)国民世論は無所属の候補者を「筋を通した政治家」として注目。加えて民進党の最大の支持団体である連合の会長、神津里季生が「排除の論理」に激怒したことも大きい。連合は9月下旬の時点で推薦を決めていた候補者を、所属にかかわらず支援することを表明した。
 「働く者の思いを共有できる人たちをしっかり国会に送り出すことを当面の最大の課題として力を入れていく」
 連合という686万人の労働者を擁する組織が支援するとなれば、「無所属でも十分戦える」(民進党幹部)。そう踏んでも不思議はない。野田に続き、元外相の岡田克也らが次々と無所属での立候補を表明した。勢いを感じたのか、岡田は新たな動きに出た。民進党出身の無所属候補のネットワークを構築したのだ。
 「分散してしまった野党を一つにしていく接着剤、中軸としての役割をわれわれ無所属が果たしていきたい」
 最終的に民進党出身の無所属候補が何人当選するかは分からないが、一定の勢力を確保する可能性は高い。小池が首相候補を明らかにしないまま選挙戦に突入したため、選挙後の政権の枠組みに関心が移っている中、「無所属ネットワーク」の存在は無視できない。

 (5)民進党出身の無所属候補に関しては、別の意味で注目される2人がいる。前原と、前原の手足となって希望の党の候補者調整を担ってきた玄葉光一郎・元外相だ。
 前原は、民進党の希望者全員の希望の党への合流を約束して両院議員総会で了承を取り付けたが、結果は「選別合流」。前原に対する不信感が党内に根強く残っている。
 民進党は今も参院議員と地方議員を残して政党として存在している。前原は選挙後にどう対応するのか--。

 (6)衆院議員として最多の16回連続当選を果たしてきた小沢一郎も、今回は無所属で挑む。小沢は依然として野党再結集に強い意欲を持っている、とされる。
 無所属候補が選挙後の政局の動向を左右する鍵を握ることは間違いない。

 (7)既に小池は選挙後を見据えた言動を繰り返す。
 「(首相候補は)選挙の結果を踏まえながら考える」
 小池が当初目指した「政権選択選挙」の意味合いは失われ、「安倍1強政治」をめぐって「イエス」か「ノー」かの選挙へと意味合いが変化した。
 自民党選対のベテラン幹部は常々こう語っている。
 「日本の選挙の最大の特徴は一貫して自民党が好きか嫌いか。自民党候補に投票するかしないか。これだけだ」
 安倍は勝敗ラインについて、「自公で233の過半数」と極めて低い目標を掲げたまま。選挙戦では優位な戦いを進める自民党だが、内閣支持率は低下している。風向き不明の選挙戦が続く。安倍による「不意打ち解散」の最終到着点はまだ見えない。

□後藤謙次「自民党優位、希望の党苦戦の裏で注目高まる無所属ネットワーク ~永田町ライブ!No.360」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月21日号)
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 【参考】
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