ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

助からないと分かっても、

2012-04-25 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
危険な油に紛れた、汚ねぇ儲かり話が多く、一般善良な市民のフリした他国隣国スパイも集まっていた。池田と初めて会った町でもある。
しっかし、危なっかしい奴らが多くて、スパイスに仕込まれた薬で毒殺、隠蔽工作に油流して火付けてって話も日常茶飯事。その飯事の大半は上で揉み消されていた。
上手く隠蔽工作出来りゃいいが、油野は上質な油が多く、一旦火の手が上がると収拾がつかない。港町特有の東風(こち)が炎を煽り、まるで龍の如く町を飲み込む。木造家屋はあっという間に丸焦げで、怒り狂った龍は隣町 泊の大旅籠、菖蒲の居た大橋屋(遊郭)まで襲った。
逃げ遅れたヤツらは炎にのまれ、崩れた家屋の下敷きになり、
おい、しっかりしろ。呼び掛けたが、その女も虫の息だった。
“助…けて…”
生きてる、焼けた木材を退かして、その女を救助した。そこへ、
おい、待てよ。
“陸な人間に成らんよ”
あん時のクソ医者と出くわした。
ケガ人を置いて、逃げるのか?
医者が死んだらな、他の患者が、死ぬんだよ。
一か月前、アンタが見殺しにした妊婦は死んだ。
し…知らんよ。そんな事。医者はな、いちいち感傷的になってちゃ務まらん。
それがお医者様のセリフか?医者に、人命選択権でもあんのかッ!
“せん…せ、さ、とう先、生…た、すけ…て”
おい、しっかりしろよ。
全身火傷を負った、その女は消え入りそうな声で医者に助けをお求めた。
火傷で赤くただれた、痛々しい手を必死に伸ばしたが、クソ医者は、
アンタ…もう助からんよ。医者は、救える命を救うだけだ。
“せ…生、斎…藤、せ…せ、”
医者に見捨てられた女は、最期まで、クソ医者を先生と呼び、助けを求めた。
助からないと分かっても、この赤くただれた手を握るのが医者じゃねぇの?
パタ…、力尽き、伸ばした手が地面に落ちた。そして、女は、俺の腕の中で死んだ。
アンタも逃げろ。火の手がすぐそこに…、
この、ロクでなし…うぁッ。


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