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史上最高の71兆円税収も庶民の税負担増加 余剰金は防衛費に回す理不尽な現実に気づくべき 古賀茂明

2023年07月04日 07時46分54秒 | 行政
古賀茂明氏
古賀茂明氏© AERA dot. 提供

 2022年度の税収が史上最高を更新し、71兆円台に達した。このニュースを誰よりも喜んでいるのは、自民党の保守派議員だ。

 税収が増えることは、日本の財政にとって好ましい。しかし、仮に税収が71兆円に達したとしても、一般会計の予算額は139兆円。大赤字であることに変わりはない。

 ところが、自民党の中には、税収が予想以上に増えた分は余り金だと勘違いしている愚かな議員がかなりいるようだ。ふざけるなという気持ちになる。

 本来は、税収が増えたら、将来に備えて少しでも借金を減らそうと考えるのが普通だ。しかし、この国の権力者たちは、これを自分たちの好きなことに使ってしまおうと考える。ここでいう「好きなこと」とは、戦争の準備だ。そのために、財政上の剰余金が出たら、どれだけ赤字が嵩んでいようとも、何よりも優先して軍拡予算に充当できるという法律を先の国会で通した。

 一方、税収がなぜ増えたのかを見ると理不尽なことが起きていることに気づく。

 まず、私たち労働者が汗水垂らして受け取る給料などにかかる所得税が21年度の21兆円台から22兆円台に増えるというが、我々がよく目にする報道では、実質賃金はずっとマイナス傾向で、昨年度は1.8%減ったのではなかったのか。資源高とアベノミクスがもたらした異常な円安による物価高のせいで生活は確実に苦しくなっている。それなのに、所得税は増えているのだ。

 これは、賃金が名目で増えているためだが、ここにはからくりがある。それは所得が増えた以上に所得税が増えるという仕組みだ。所得税の税率は一律ではない。所得が増えると税率が上がる累進性をとっている。そこで、名目賃金が上がると所得別の税率の区分が上がって、全体として今まで以上の高い税率で税金を取られるのだ。これを「インフレ税」と呼ぶこともある。昔はそういう議論がよくなされていたが、デフレが長く続いたため、忘れられていた。

 実質賃金が下がっているのに税率が上がるのはどう考えてもおかしい。本来は、物価上昇したのに合わせて、税率区分の境界となる金額をその分引き上げて、実質賃金が増えない限り税率が増えないようにすべきなのだが、そういう議論にならない。

 

 ちなみに、富裕層が得る配当などの金融所得の税率は分離課税にすれば一律なので、配当が増えても税率は上がらないように手当されている。富裕層に有利な仕組みなのだ。

 

 次に消費要因である。

 ここで問題になるのは、庶民ほど消費に占める割合が高い食品やエネルギー価格が急激に上がったことで、やはり庶民直撃の消費増税の効果が生じていることだ。ここでも「インフレ税」がかかっているのだ。

 一方、法人税も13兆円台から14兆円台に増加する。企業の経常利益は製造業も非製造業も史上最高だった。物価高で苦しむ企業も多いが、資源高でボロ儲けした商社やエネルギー関連企業、円安でウハウハだったトヨタなどの輸出企業は、何もしないのに利益が出た。生活苦に喘ぐ庶民とは好対照である。

 海外では、こうした棚ぼた的利益を上げた企業に対して臨時の課税(「棚ぼた税」「ウィンドフォール課税」などと呼ばれる)を実施し、弱者対策の財源に充てることが普通に行われるが、日本では、そうした議論はほとんど出ない。

 アメリカで大富豪たちが、富裕層に増税をと自ら提言を出したことが話題になったが、地位の高いものにはそれに応じた社会的責任があるという「ノブレス・オブリージュ」の考え方があるからだろう。日本にも昔はそうした考え方はあったと思うが、安倍政権以降は、それとは正反対に、権力者は「自分のために」何でもできるという文化が定着し、経済人もそれに倣うようになってしまったようだ。

 ところで、そんな議論を嘲笑うかのように、岸田政権は、あれだけ儲かっているトヨタ向けに、1200億円もの巨額補助金を支払うことを発表した。しかも、その目的が、車載用電池の開発だというのだから2度驚いた。

 トヨタが水素自動車に固執して、それに媚びた経産省と自民党が電気自動車(EV)の普及を遅らせたのは周知の事実。世界中でEV化競争が激化し、各国では車載用電池への投資が進んだが、日本ではほとんどEV生産がされていないので、電池産業には需要がない。ダントツのシェアを誇ったパナソニックは、あっという間に中国と韓国勢に抜かれて、今やシェア一桁という惨状だが、トヨタはその責任を問われてもおかしくない。ましてや、円安でボロ儲けし、毎年2兆円を超える利益を出しているのだから、責任を感じて、補助金をくれると言われても辞退するのが筋だろう。

 政府も、トヨタにそんな金を出すくらいなら、その分を貧困対策に充てたらどうかと思うのだが、やはり、岸田政権には、そういうマインドは一切ないようだ。

 大赤字を垂れ流しながら、少し税収が上振れしたからといって、それを戦争準備に使おうとする自民党。その間も政府の借金は増え続け、泥沼の異次元金融緩和からの出口が見つけられず、ジリジリと進む円安を止めることもできない政府・日銀。

 前財務次官の矢野康治氏は、月刊「文藝春秋」(21年11月号)への寄稿の中で、今の日本の状況を喩えて、「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです」「日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです」と書いた。

 ここでいう「霧」とは、日本総研の河村小百合氏が言うとおり「黒田日銀が展開してきた異次元緩和のこと」(『日本銀行 我が国に迫る危機』講談社現代新書)かもしれないが、史上最高の税収は、さらにその霧を濃くしているようだ。不都合な真実がますます霞み、その先に待つのは……。

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