日米外交交渉とワクチン・医薬品ビジネスについて

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)問題は、日米関係のかなり本質的かつ重大な構造的問題の象徴です。メルマガで言及していますが、ブログで一部紹介します。

GSK(グラクソ・スミスクライン)社の子宮頸がんワクチン「サーバリックス」の承認申請から、製造販売承認までの過程は以下の通りです。

①厚生労働省の指導により、国内臨床試験の終了を待たずに2007年9月26日に承認申請

②2008年10月末、HPV-046試験(10-15歳の女性の100例対象)総括報告書提出

③2008年12月、HPV-032試験(20-25歳の女性1040例対象)中間解析結果提出

④2009年7月17日、HPV-032試験最終総括報告書提出

⑤2009年8月20日 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)審査結果(承認)

⑥2009年8月31日、厚生労働省薬事・食品衛生審議会・薬事分科会・医薬品第二部会、承認

⑦2009年9月29日、同薬事分科会、承認(強引な「異議なし議決」)

⑧2009年10月16日、長妻厚生労働大臣が製造販売承認

2009年9月16日に民主党政権が成立したので、⑦⑧は長妻昭厚生労働大臣の時でしたが、①~⑥までの過程は全て、舛添要一厚生労働大臣の在職期間です。舛添氏は2007年8月27日に、第1次安倍改造内閣で厚生労働大臣に任命されました。そして、1ケ月後の福田内閣、1年後の麻生内閣で留任し、ちょうど2年間、厚生労働大臣でしたが、それが①~⑥の期間です。そして、これらを語る時、その背景に「日米年次改革要望書」の存在があったことを、無視することはできません。

日米年次改革要望書の合意事項に、初めて「ワクチン」が登場するのが、2007年6月6日の「日米間の『規制改革及び競争政策イニシアティブ』に関する日米両首脳への第6回報告書」です。

「ワクチン:2007年3月、厚生労働省は、国内で必要とされるワクチンの開発と供給を促進するため、ワクチン産業ビジョンを発表し、同ビジョン及びそのアクションプランをフォローアップするワクチン産業ビジョン推進委員会を設置したところである。当委員会の委員には、日本及び外国産業界の代表が含まれている。厚生労働省は、同委員会において米国業界を含む関係者との見解の交換を進めながら、公衆衛生上必要なワクチンの開発の支援に継続的に取り組む。厚生労働省は、ワクチンの規制について、米国業界を含む業界と意見交換を行う。」とあります。

この米国からの要求にこたえる形で、厚生労働省の指導によって、国内臨床試験が終了していないのに、優先審査として、2007年9月にサーバリックスが、2007年11月にガーダシルが、承認申請されたのです。この時の「日米両首脳」とは、安倍総理とブッシュ大統領のことです。

2008年7月5日の第7回報告書には、
「ワクチン審査の改善と推進:厚生労働省はワクチンのガイドラインを作成し、ワクチン使用を推進するため、勉強会を設置した。日本国政府は米国業界を含む業界と、ワクチン審査の改善について引き続き意見交換する。」とあります。

このような、米国業界を含む業界と、ワクチン審査の改善について引き続き意見交換することを、外交交渉で約束する厚生労働省の対応は、異常と言うしかありませんが、結局、2009年9月29日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会・薬事分科会で、複数の委員の反対・慎重論などの異論を制して、分科会長によって「異議なし議決」が強行され、HPVワクチン「サーバリックス」を日本で承認することが決まりました。さらに、2010年10月11日からは、HPVワクチンの公費助成がスタートしました。米国政府と多国籍製薬メジャーとが一体となって、日本政府に強力に要求した結果です。

「日米年次改革要望書」は2009年に鳩山内閣によって廃止されましたが、代わって「日米経済調和対話」として菅内閣の時、復活しました。

2011年2月の「日米経済調和対話」の米国側関心事項「ワクチン」の項目には、「『日米ワクチン政策意見交換会』を開催し、2010年に採用されたHib、肺炎球菌、HPVワクチンについての措置を拡充する」とあり、その要求通り、同年5月30日、MSD(メルク)の「ガーダシル」の承認議決が行われました。

2012年1月の「日米経済調和対話協議記録・概要」の「ワクチン」の項目には、「日本国政府は予防接種制度の改正を進めているが、厚生労働省は、Hib、肺炎球菌、HPVワクチンを定期接種の対象に含めることについて十分考慮しつつ、2010年以降実施し、これら3つのワクチンへのアクセスを改善した緊急促進事業を踏まえ、対応」とあります。

その結果、米国の要求通り、2013年3月29日「改正予防接種法」が成立し、Hib、小児用肺炎球菌、HPVワクチンが定期接種となりました。私の反対もむなしく(全国会議員722名中、反対は私1人)、HPVワクチンは定期接種となってしまったのです。2014年10月には、高齢者に対しても肺炎球菌ワクチンが定期接種となりました。米国の要求通り、事は着々と進んでいます。


日米経済調和対話で毎年行うことが決まった「日米ワクチン政策意見交換会」の一環として、2014年6月18日、「PhRMA米国研究製薬工業協会」が大きく関与する形で、HPVワクチン推進の記者説明会が東京で行われました。ブルース・ゲリン氏(米国保健社会福祉省保健次官補 兼 国家ワクチンプログラムオフィス所長)と、メリンダ・ウォートン氏(米国公衆衛生局大佐 CDC国立予防接種・呼吸器疾患センター所長)が、日本で勧奨中止の状態が続く子宮頸がんワクチンについて、推進を強く呼びかけました。

米国政府と多国籍製薬メジャーとは、人事交流が盛んで、利益相反の関係です。彼らは自分たちの利益のために、日本の少女たちが犠牲になっても平気です。たとえ、重篤な副反応発現率が、インフルエンザワクチンのサーバリックスが52倍、ガーダシルが24倍であっても、また、重篤な副反応の治療方法を見出せなくても、副反応被害者らが集団訴訟を提訴しても、訴訟慣れしている多国籍製薬メジャーは、全く動揺しません。

HPV、Hib、肺炎球菌、ロタウイルスといった、近年の外資ワクチンは、健康維持のためというよりも、多国籍製薬メジャーの利益のために誕生したワクチンと言っても過言ではありません。今やワクチンは人間の安全保障の問題としてとらえる必要があり、もはやTPPは崩壊の一途をたどっていますが、多国籍製薬メジャーは日米二国間FTAとなっても、恐るべき重大な存在となるのです。

去る11月16日、中央社会保険医療協議会(中医協)が、超高額薬価で問題となっていた抗悪性腫瘍剤(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)「オプジーボ」の薬価を、2017年2月から50%引き下げることを決定しました。製造販売元の小野薬品は薬価引き下げを了承しましたが、共同開発し米国での販売元である米製薬企業「ブリストル・マイヤーズスクイブ」は、PhRMA米国研究製薬工業協会を通して、11月21日、抗議の声明を発表しました。

現在、PhRMAの在日執行委員会委員長は、日本イーライリリー代表執行役社長パトリック・ジョンソン氏です。イーライリリーについては、今夏、乾癬治療の新薬「トルツ」(ヒト化抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤)の高額薬価が問題になり、結果的に24万5873円(80mg1mL1筒)の薬価が14万6244円に、「約10万円」引き下げられることになりました。

11月21日の抗議声明は、PhRMA米国研究製薬工業協会とEFPIA欧州製薬団体連合会との連名で発出されました。

このように、多国籍製薬メジャーは、日本市場を標的に、次から次へと圧力をかけてきます。健康な人をターゲットにしたワクチンビジネスはもちろん、超高額薬価の新薬を「開発」し、まさに世界最高評価を受ける日本の健康保険制度につけ込み、強欲に利益を上げようと企んでいるのです。子宮頸がんワクチン問題は、その象徴なのです。

分子標的薬やがん免疫薬などに代表される高額な新薬は、費用対効果の評価が不可欠です。オプジーボは、既存薬「タキソテール」(タキソイド系抗悪性腫瘍剤/1994国際誕生、2009薬価収載67,304円(80mg)・ジェネリック43,164円)と比較すると、扁平上皮癌で約3ケ月の延命効果(全生存期間)です。オプジーボのような高額の医薬品は、ジェネリックが承認された段階で保険適用とし、健康保険制度を圧迫しないような仕組みが必要ではないかと、私は思います。


日米間の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に関する
日米首脳への第6回報告書(2007.6.6)

日米間の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に関する
日米首脳への第7回報告書(2008.7.5)

TPPのための米国企業連合

 

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