hiroshi hara: saxophoniste

日々の思考の断片

冬の訪れ

2014-12-07 00:13:53 | 日常
引っ越してきてから程ない夏の頃、寝室の窓の外に一匹のジョロウグモが巣をつくった。

すぐにいなくなるだろうと最初は気にしなかったが、ひと月たつと巣も大きく、且つ形が複雑になり、そしてどこからともなく小さな雄グモも2匹増えて、それぞれが距離を置いて三つ巴の緊張状態になった。

最初の雌グモは成長してどんどん大きくなってグロテスクに、そして巣も大きくなり、それがいよいよ網戸にまで侵食してきたので、ある日、網戸部分と手の届く部分の強制撤去を敢行し、彼女はひるんで屋根の雨どい伝いに逃げて行った

これで毎朝起きるたびにグロテスクな彼女の姿を見ることもなくなり、そして巣によって景観がこれ以上損なわれることはないだろうと安心したが、しかし翌朝、彼女は再び同じ場所に同じようにそこにいた。

完全に私の負けだった。
私の景観がどうこうという生半可な気持ちよりも、生きるか死ぬかの彼女の気持ちの方が上なのは、考えれば当たり前のことだ。
私は諦めて干渉しないことにしたが、そんな気持ちも他所に、感覚も感情も無い彼女は、以前と変わらずそこにいるだけだった。

3度の台風直撃にも耐えた。
11月のディナン、パリからの旅から帰ってきても相変わらずだった。

秋の深まったある日、2匹いた雄グモの一匹がいなくなり、その数日後にはもう一匹もいなくなった。
おそらく寒くて息絶えたか、もしくは彼女に捕食されたのだろう。

そしていよいよ寒くなって来た今朝、ついに彼女もいなくなった。
それと同時に、かつてはあんなに骨太に設えられていた巣も、いつの間にか風に流されてなくなっていた。

冬の訪れを感じた一幕、そしてこの家に引っ越してきて半年経った。

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