夢千夜 1000dreams

漱石「夢十夜」へ挑戦する

1048夜

2012-06-19 09:33:48 | Weblog
ベッドから起き上がると、足下に冬季オリンピックの選手の等身大パネルが二つ立っている。どちらもずいぶん前に活躍した選手だ。ひょっとしたら寝ているうちに時間をさかのぼってしまったのかと思う。側で寝ている同僚を起こし、ベッドの上にあった新聞を見ると昭和十五年とある。まだ戦争前だ。外に出てみると、自分が寝ていた家はキリスト教の教会であり、隣は仏教の寺である。どちらも普通の家のようだが、宗教色はきちんと出ている。私は周囲を見て、昔の日本はずいぶん美しい国だったと思う。特に橋の赤さが鮮やかだ。この美しさが戦争によって破壊されてしまうわけだ。私は昔にさかのぼったせいで空中飛行の能力を付加されている。私の使命は、ある女性ポップスグループの探索である。私と同僚は現代で言うゲームセンターのような場所に行き、カーテンに囲まれた中で若者が熱狂している所を見ると、小さなテレビモニターに探索している女性グループが映り、ダンスを踊りながら歌を歌っている。この場所の地下深くにあるスタジオで密かにライブを行い、それを地上の若者が隠れて見ているらしい。私と同僚はトイレの狭い窓から空中に飛び出し、飛んで教会に帰り、唯一未来から持ってきたケータイで女性グループの発見の報告をする。すぐ未来へ帰ってもよいのだが、もう少しここにいて永遠に失われた美しい日本を見ていたい気がする。

1047夜

2012-06-17 13:20:05 | Weblog
私はしがない私立探偵だ。今、十代後半くらいの小柄で魅力的な女性を調査している。何度か接している内に必要以上に親しくなり、女性は私に好意すら寄せているようだ。実は、見上げるような高い木の枝で縊死した女性に、私が調査している女性が関わっている疑いがある。私は女性に一つの罠を仕掛ける。縊死によって絶命する瞬間には、必ず縊死者の腕は特有の動きをする。フラダンスを踊っているように横になびくのだ。私は自分の体にロープを巻き、下から見上げると縊死しているように見える仕掛けを作り、女性が下を通るときを狙って木の枝にぶら下がる。私は縊死者が絶命する瞬間の腕の動きを演技する。自分でも絶妙な動きだと思う。見上げた女性は私を見て、「死なないで」と絶叫する。つまり、この腕の動きを知っていたということは、以前にも縊死者を見上げたことがあるということだ。私は木から下り、女性を問い詰める。女性は自分が縊死させた女性のことを告白する。私は探偵としての任務は遂行したが、私も愛しかけていた女の罪を暴くことになったことに対して深い悲しみを感じる。