夢千夜 1000dreams

漱石「夢十夜」へ挑戦する

541夜

2006-11-29 21:31:59 | Weblog
私は五十を過ぎて突然「笑点」のレギュラーに抜擢された。担当プロデューサーがかわり、私と同郷の、そのプロデューサーが、まったく売れない落語家である私を発掘してくれた。私は子供の頃、いじめられっ子だったその男をいじめっ子から守ってやった。はるか四十年以上も前の話だが、今では出世してプロデューサーとなったその男は、いまだにそのことを恩に着て、私に恩返しをすると言った。私はこの年まで売れなかったことからもわかるとおり、お笑いの才能がまったくない。台本がある古典落語はなんとかこなすが、現代ものや、アドリブはまったくダメだ。おおぎりの座布団に座って、私が何か言うと、客席は墓場のように静まる。司会の歌丸は、プロデューサーから私をよろしく頼むと言われているので、なんとか私をフォローするが、一度静まった客席を再び盛り上げるのはたいへんだ。私はファンからも、テレビ局の偉い人からも、クビにしろと責められるが、プロデューサーは、私への恩は自分の一生をかけても返すと言って、断固として私をレギュラーの座にすえ続けている。

540夜

2006-11-19 19:05:18 | Weblog
旅館の一室。五十ほどの女流作家が和服を着てベッドの上で執筆している。私とノーマン・メイラーは、その女流作家の等身大の人形を製作し、三つあるベッドに並べている。真ん中のベッドに作家がいて、両脇のベッドに人形が寝ている。同じ和服を着ているので、作家が三人いるように見える。人形は作家のインスピレーションを喚起し、傑作を書かせる。女流作家が傑作を完成させると、人形の役目は終わって、私とメイラーは人形を抱いて家に帰ろうとする。人形は人間のように親近感を感じさせる。ちょっと目を離したすきに人形は姿を消す。私とメイラーは旅館中を探し回るが、発見できない。メイラーは「訴える」と激怒する。旅館には七十ほどの女流作家もいる。私が七十ほどの女流作家の頭を見ると、それは私が人形に使ったかつらである。黒の中に紫が溶けた、そのかつらは見違えようがない。私は作家のかつらをむしりとって問い詰める。作家は五十の女流作家への嫉妬に狂って、その女流作家を殺し、人形を奪ったと白状する。

539夜

2006-11-16 11:32:54 | Weblog
空間圧縮装置が開発された。受験指導を職業にしている私にとって、受験生の精神リラックスにとって大変役に立つ装置だ。電話ボックスに似たただのボックスだが、ドアを開けて入ると、中には広大な空間が広がっている。この装置によって国立競技場級の空間を一センチ四方に圧縮できる。予備校にはこのボックスが数百もある。ちょっとしたデッドスペースには皆このボックスがある。生徒は中に入って広大な草原やグランドで運動をするのもいいし、広大な空間を一人で独占して昼寝をするのもいい。この装置のおかげで受験生は多大な恩恵を受け、私の予備校の合格率は飛躍的にアップした。

538夜

2006-11-13 09:39:12 | Weblog
どうも息苦しい。目を覚ますと、周りが薄暗いが、私の全身がゼリーのようなものでスッポリ包まれている。口に接触しているゼリーを少しかじってみると、コンニャクのような味がする。もう一口かじってみると、完全にコンニャクであることが確認できる。いつのまにか全裸になっていて、コンニャクで包まれた全身は、ヒヤッとしているというより、ほんわか暖かく快感だ。大きな鍋の中で徐々に煮られていっているのではないかという不吉な予感もするが、それよりも今実際に感じている快感が心地よく、こんな快感の中にいつまでもいたいという思いにとらわれる。

537夜

2006-11-11 17:06:09 | Weblog
宇宙ロケット。二人の男が乗り組んでいる。離陸に成功。空に向かって突き刺さっていく。が、トラブルが発生し、頭を下にして地上に突き刺さる。ハッチを空けると、二人の男はカブトムシに変身し、口を密着させて抱き合っている。恋人同士がディープキッスをしているようだ。関係者によると、これは恐怖のあまりにしばしば起きる現象だという。飛行士たちはしばらくすると再び人間に変身する。

536夜

2006-11-10 09:55:27 | Weblog
日本で大成功したモンゴル人横綱朝青龍は、モンゴル平原に自邸を建設した。平原にモンゴル式の小さいテントがあり、朝青龍は、その中で寝起きしている。テントの上の中空には、数十階建てのビルが浮いている。屋上は雲の上にある。それが朝青龍の成功の象徴だ。朝青龍は、「私の家にご招待しましょう」と言って、笑いながらビルの下から地上に垂れているロープを引き寄せる。ビルはスーッと地上に降りてくる。私は朝青龍についてビルの中に入るが、なんの変哲もない、普通のビルだ。中には誰もいない。私は「見事なものですね」と朝青龍にお世辞を言う。朝青龍は満面の笑みを浮かべる。