夢千夜 1000dreams

漱石「夢十夜」へ挑戦する

463夜

2006-04-30 19:48:13 | Weblog
深夜、便所に入ろうとして二階から降りてくる。古い家で、和式便器だ。灯りをつけ、扉を開けると、便器がある部屋に父が寝ている。空気取りの小窓と便器の頭の間の狭い空間に体を横たえている。毛布や枕も持ち込んで完全に眠っている。私は仕方がないので用を足さずに引き返す。しばらくしてどうにも我慢ができなくなる。私は父の寝顔を見、いびきを聞きながら便器にまたがる。大量の便が出る。父はまったく起きる気配がない。私は尻を丁寧に拭き、便所から出る。

462夜

2006-04-29 10:07:05 | Weblog
私は砂浜で海水浴をしている。沖に塔が見える。近づいてみると、直径三メートルの水の塔だ。海底火山の運動か何かで、水が噴水のように吹き上がっているわけではない。塔の周囲も下の海面と比べて特別な圧力を持って固められているわけではない。静かに立ち上がる水の塔だ。見上げても先端は見えないほど高い。中にも容易に入れる。入ってみると、下から上へ向かっての何らかの力が働いて塔が成立しているのではないことがわかる。塔の内部も普通の水中と同じような静かな水の動きだ。私は試しに上に泳ぎあがってみる。容易に私の体は上昇していく。もちろん私自身の腕と足の力で泳ぎあがっているのであって、下からの水の圧力によって押し上げられているわけではない。呼吸はときどき塔の外に顔を出せば、大丈夫だ。しばらくして顔を出して下を見ると、砂浜の人が点に見えるほどの高さだ。ここまできたら、雲の上までも泳ぎあがってみようと思う。

461夜

2006-04-28 16:07:08 | Weblog
私は洗面器にハエを集め、燻製にして万能薬を作ろうとしている。薬は、カビや細菌といった、人間にとって毒性の強いものを人間に有益な成分に変換して作るものだから、ハエは原料として最適だと思う。都内に唯一残る汲み取り便所の裏で捕まえてきたハエだから、毒性は最高だ。全身が黒光して顔も獰猛だ。私は百匹くらいのハエを洗面器に閉じ込め、蓋をする。そして少し蓋をずらして隙間を作り、ホースを入れて煙を流し込む。本を燃やした煙だから、ハエにわずかながらの知性が注入されるに違いない。しばらくして蓋を取ると、底に黒い豆のような塊が百以上転がっている。私はそれを一粒口に入れてみる。たった一粒なのに私の体にあったすべての異常が消滅した実感がある。私はこの万能薬をどう売り出したらいいか、グッドな宣伝文句を考える。

460夜

2006-04-27 19:03:36 | Weblog
鉄骨で組んだ塔の上に上ると、地平線が見える。地平線からのぼる空には雲が無数になびいている。バーコードのように雲が地平線から出てくる感じだ。地平線まで一面に緑の畑だ。作物が何かはわからない。地平線に向かって畑は球面に下っていて、地球が丸いことが肉眼で実感できる。ある部分から先の地面は、上下に運動している。ある部分から先の地球の球面全体が、上下運動している感じだ。その手前が静止しているのに対して対照的だ。運動部分と静止部分の境目がどこにあるのかは特定できない。じつは、地球の球面はすべてあのように上下運動しているのだという。ただ、自分がいる場所ではその運動を感じることができないだけだ。そこから一定距離離れて、高いところから見ると、さっき自分がいたところも上下運動していたことがわかる。私は普段都会に住んでいて地平線を見ることがないので、この上下運動を見て、精神的にかなり不安定になった。しかし、田舎に住むものは、常にこの上下運動を見ていて、なんの不安も感じないという。

459夜

2006-04-26 15:44:16 | Weblog
私の祖母は養老院にいて、ここ十年来ボケていたが、なんの転機か、急に明晰な意識を持つようになった。そのとたん、隣のベッドのその子さんとレズの関係になった。祖母はレズなどという世界とは無縁に生きてきたが、十年のボケ状態が、祖母の性的根幹を変えたのだろうか。私が養老院に行くと、祖母は全裸になって、その子さんと抱き合っている。互いに深い皺に覆われた肉体と肉体が、枯れ枝のように絡み合うと、正常な世界から見てなんとも陰鬱な光景だ。しかし、祖母は明晰な意識でそれを選んだのであり、私が祖母の選択に抗議をするいわれはまったくない。私は祖母とその子さんを静かに見守るだけだ。

458夜

2006-04-25 19:57:53 | Weblog
私は店の中でとんかつを食べようとしている。ソースがない。どこかと聞くと、店主は店の壁に立てかけてる電気掃除機を指差す。T字形の吸入口がついた中型の電気掃除機だ。T字の先端からソースが出るという。私は掃除機を持ってきて、とんかつの上に吸入口をかざす。スイッチを入れる。ソースが噴出する。猛烈な勢いでとんかつをソースびたしにし、それでも止まらず、テーブルの上がソースで一杯になり、まだ止まらず、床にこぼれ、私の服全体に飛び散り、床に溜まっていく。「あれ、故障ね」と店主はのんきに言う。私はどうしたらいいかわからず、どうやってこのソース臭い服で仕事にいったらいいか、考えあぐねている。

457夜

2006-04-24 09:41:42 | Weblog
土の崖。土といっても岩のように堅く、垂直にそそり立っている。数百メートルはあって山のように高い。この山はすべて大リーグで成功した有名な野球選手の所有だという。壁の中腹に小型飛行機が頭から激突している。激突を何度もくり返すと壁が崩れて塊が落ちてくる。塊にはコンピュータを作るのに必要なレアメタルが含有されている。今のところレアメタルを採取する方法は、これしかない。飛行機を操縦しているのは、選手の父親だ。

456夜

2006-04-23 11:36:48 | Weblog
この国では、亜魚(あぎょ)という人間と魚の合いの子が人口の二割を占めるようになった。亜魚は頬が三角に横に飛び出している所を除いては人間とかわらない。人間同士の子供は減少の一途をたどっているので、この国の未来は繁殖力旺盛な亜魚の子孫に頼るしかない。特に亜魚と人間の合いの子が、この国の人口の大半を占めるようになるだろうと推定されている。そのことを踏まえて、国会では亜魚の男性が人間の女性をレイプしても、一切の罪に問わないという法案が可決された。

455夜

2006-04-22 21:21:51 | Weblog
私は今から四十年前、NHK教育テレビの少年ドラマに主演したことがある。超能力少年が、この世界と異界とを往復するという内容だったが、夕方六時半から三十分放送される地味なドラマで、まったく話題にならず、二ヶ月八回で消え去った。私は将来ハリウッドに進出するという野心もあったが、それ以来、まったく声がかからず、テレビ界から去った。私は今、地味な予備校教師として働いているが、その四十年前のドラマがインターネットから流出し、中学生高校生の間で話題になっているという。中学生高校生の間では、私はアイドルと化している。私の授業を退屈に聞いている生徒に対して、私は自分があの少年だと言ってやりたいが、どうせ嘘だと思われるので、言えないでいる。

454夜

2006-04-21 19:29:56 | Weblog
踏み切りを渡ると、昨日と情景が一変している。すべてがアスファルトで覆われたビルの町だったのに、赤茶けた土の原が広がっているだけだ。線路も駅もそのままで、人々は皆駅に向かっている。危険が迫っているので、電車に乗って逃げなければならないという。私は一旦家に戻って家族と逃げることにする。私の家はここから五分ほど戻ったところにある一軒家だ。家に戻ると、中には誰もいない。家族は私を見捨てて既に逃げたのだろうか。それとも家財道具はそのままだから、私を探しに出ていて、しばらくすれば戻ってくるのだろうか。危険が目前に迫っている実感があるが、私は家族を信じたくて家から出られない。

453夜

2006-04-20 17:30:03 | Weblog
祭。夜。町の街路を開放して、山車の引き回しが行われている。バスのように大きい山車を太い綱で数十人の人が引く。山車の上では、笛、太鼓、鐘の伴奏に合わせて手踊りが展開されている。勢いよく引いているうちに、山車は凧のように空中に舞い上がる。山車に近い綱を持った人は綱につかまって空中にいる。山車の上の演奏と踊りは依然として続いている。見ると、数十の山車が空中にある。演奏は町の上に漂い、シャワーのように降り注ぐ。

452夜

2006-04-18 17:19:10 | Weblog
都心にあるスーパー。私は初めて入る。喉が渇いたのでジュースでも買おうと思ったのだ。私は缶ジュースを一本もってレジに並ぶ。おじいさんおばあさんがかごを持ってレジに並んでいる。レジは十列ほどあり、それぞれの列は十人ほどだ。私のすぐ前にいるおじいさんのかごの中をふと見ると、黒い大きな塊が入っている。サッカーボールほどの大きさがある。よく見ると、牛の首だ。まだ皮を剥かれていず、黒い毛が一面に生えている。切断面の血は止まっているが、切断直後のような生々しさがある。私はできる限り列に並んでいるおじいさんおばあさんのかごの中を見てみる。皆牛の首が入っている。今日は一ヶ月に一度の牛の首の特売日だという話をしている。ジュース一本を持って並んでいるのが、少し恥ずかしい。

451夜

2006-04-18 00:53:11 | Weblog
私は十年飼っている石亀を風呂敷に包んで持ち、商店街を歩いている。花瓶店の主人が飛び出してきて私の石亀を歩道の上に叩きつける。亀はクーとうめいて死ぬ。私は怒るが、主人の行為は、内容は不明だが、正当な理由に基づいているとわかっているので抗議ができない。私は主人の店で一番高い花瓶を床に叩きつけて粉々にする。それも正当な理由に基づいている。その理由とは、主人の行ったことが三十人くらいの人を介して、回りまわって私に精神的、経済的ダメージを与えたというものだ。主人にも、内容は不明だが、正当な理由があるとわかっているので、私に抗議ができない。私と主人は怒りに顔を真っ赤にしながら、互いに抗議できず、対峙している。

450夜

2006-04-16 15:40:00 | Weblog
私は橋の欄干を跳び越え、川面に向かって降下する。数十メートルは下る。下に船がいる。木造で、前後二十メートル程度の船だ。この船は中国人コック長が経営する中華レストランだ。甲板はダーッと広い。客が甲板にじかに座っている。橋があると、新しい客が飛び降りてくる。私はウエイターに中華うま煮を注文する。しばらくするとコック長が中華鍋を持って船室から上がってくる。そして鍋の中の料理をじかに甲板にドバッと落とす。甲板は決してきれいとは言えない。客は土足だし、食べ物のかすがあちこちにこびりついている。客は甲板の料理を手づかみで食べなければならない。「これが中国の正式な食べかたね」とコック長は片言の日本語で言う。私がうま煮を手でつかむと手がやけどしそうなほど熱い。我慢して口に入れると、あまりの美味に舌が溶けそうになる。

449夜

2006-04-15 20:16:16 | Weblog
私は受験生として教室で授業を受けている。私の目からは私の姿は見えないが、手の皮膚を見ると、青年の肌であることがわかる。私は勉学に燃え、教壇を熱心に見つめている。教壇の上にいるのは、普段私の目が鏡で見ている五十二歳の私である。生徒としての私が講師としての私を見ると、なんとも不快な感じがする。すでに老年に達しているが、年齢ゆえの尊敬は受けず、長年積み立ててきた知識を切り売りして生きている。授業を聞いているうちに私は眠くて仕方がなくなってくる。勉学の情熱に燃えているはずなのに、その火を消し去るほどに催眠力を持った声だ。私は自分の声がこんなにも眠りを誘うものだとは知らなかった。生徒にすまなかったという思いが兆すとともに、我慢しきれず、眠りに陥った。