菅義偉初め安倍政権が使っている沖縄基地問題に関わる「粛々」なる言葉の二つの隠された意味

2015-04-08 09:00:51 | 政治


 「粛々」という言葉が話題にのぼっている。ご存知のように翁長沖縄県知事が4月5日の沖縄での官房長官の菅義偉と会談時、その言葉の使い方を批判したからだ。

 翁長知事「今や世界一、普天間は危険だから大変だという話になって、その危険除去のために沖縄県で負担しろという話をされること自体が日本政治の堕落ではないか。官房長官は「『粛々』という言葉をよく使われる。上から目線の『粛々』という言葉を使えば使うほど、県民の怒りは増幅する。私は辺野古の新基地は絶対建設できないという確信を持っている。不可能だろう」(時事ドットコム

 「(普天間基地の)危険除去のために沖縄県で負担しろという話をされること自体が日本政治の堕落ではないか」という指摘の方こそが話題になるべきだが、「上から目線の『粛々』」という個所だけが取り上げられることになった。

 対して菅義偉は、これもご存知のように4月6日の記者会経験で「粛々」なる語を今後使わないと宣言した。何の気なしに使い慣れさせてきた言葉を急に使わないようにすることはなかなかの苦労を必要とするに違いない。何しろ何かと言うと使う常套句としてきたのだから。

 4月6日付の「ハフィントン・ポスト」「粛々と」という言葉についての解説を載せている。

「粛々と」とは、そもそもどういう意味なのか。政治家が対立する政党や世論の反対・批判を押し切って物事を進める時によく使われている。元をたどると、古代中国で鳥が羽ばたくようすを表す擬態語だという。
 広辞苑・大辞林・岩波国語辞典などの解説をまとめると「慎む」「厳か」「静かに」(行動する)という意味になる。東海テレビは、政治家が使う場合は、「世論の反対・批判を押し切って物事を進める時によく使われる」などと事例を紹介している。〉

 記事はついでに「東海テレビ」解説を併せ載せている。

 〈(東海テレビ|空言舌語より)

 政治家がいつ頃から「粛々」を使い始めたかは不明ですが、対立する政党や世論の反対・批判を押し切って物事を進める時によく使われる、という印象です。やや難解で強さのない「粛々」で露骨さを和らげながら、批判には耳を貸さず方針を押し通すのに使ってきました。かつては、この言葉がスマートに聞こえた時代があったのでしょう。しかし、今日では言い訳がましく聞こえます。〉――

 「粛々」という単語自体は動じないで淡々と物事を進めていくという意味があるはずだが、言葉にするとき、その裏には二つの姿勢の使い方があるように思う。

 一つは反対を受けている事柄・政策のその反対を無視する姿勢の表明としての使い方。

 もう一つは賛成を受けている事柄・政策のその賛成に喜んで添う姿勢の表明としての使い方。
 
 これまで使ってきた前者に関わる「粛々」の言葉を拾い出してみる。

 2014年1月14日記者会見。1月19日が沖縄県名護市長選投開票日。

 菅義偉「(選挙結果如何に関わらず)昨年末、沖縄県知事が辺野古埋め立てを承認し、そこは決定している。普天間飛行場の固定化は絶対あってはならない。地元の皆さんの理解を得ながら、粛々と進めていきたい」(MSN産経)――

 そもそもからして「地元の皆さんの理解」を言うなら、辺野古移設反対の意思を理解しなければならないはずだが、そうではないのだから、沖縄県民の総体的意思の無視以外の何ものでもない。無視を「粛々」という言葉を使うことによって隠蔽している。

 2014年10月30日告示、11月16日投開票の沖縄県知事選を控えた2014年9月10日記者会見。

 菅義偉「過去、普天間基地の移設賛成の知事や市長もいて、いろんな経緯の中で、仲井真知事が埋め立て承認を決定して1つの区切りがついている

 日本は、法治国家であり、仲井真知事の承認に基づいて粛々と工事をしており、もう過去の問題と思っている。わが国を取り巻く安全保障環境が極めて厳しいなかにあって、アメリカ軍の抑止力を考えたときに、『唯一の選択肢というのは辺野古の埋め立てである』という政府の考え方は、全く変わっていない」(NHK NEWS WEB

 知事選の結果に動じないで淡々と物事を進めていくという意味以上に、「もう過去の問題と思っている」という言葉まで使うことで最大の無視の姿勢を露わにした「粛々」になっている。

 仲井真知事の沖縄県民に対する裏切りが実現させた埋め立て承認を安倍政権は辺野古移設の唯一の正当性の根拠としているのだから、「沖縄の民意?無視、無視、無視だ」と言っているに他ならない。

 2015年1月11日NHK「日曜討論」

 菅義偉「仲井真前知事から許可をいただいて、今、法律に基づいて粛々と工事に入っており、進めていきたい。

 (普天間基地の2019年初めまでの運用停止について)沖縄県の翁長知事に協力いただければ当然、行っていきたい」(NHK NEWS WEB

 「粛々」は無視の言い替えに過ぎない。

 以後も辺野古移設に向けて「粛々」なる言葉が頻繁に主として菅義偉の口を突いて出る。

 菅義偉以外に防衛相の中谷元が同じく沖縄基地問題で使っている。

 2015年1月26日収録NHK国際放送。翁長知事が前知事仲井真が行った名護市辺野古の埋め立て承認を検証する第三者委員会を設置したことについての発言。

 中谷元「既に沖縄県から工事の許可を得ており、粛々と、早期の移設に向け努力したい」(NHK NEWS WEB

 「沖縄県民の民意?そりゃあ、無視ですよ」のシカト姿勢が「粛々」を可能とする。あるいは逆に「粛々」を可能にするためには「無視、無視、無視」を前提としていなければならない。

 沖縄の民意を少しでも配慮したなら、「粛々」は成り立たない。

 2015年2月16日、翁長知事が防衛省沖縄防衛局に対して米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古に移設する作業の一部を中断するよう指示したのに対して。

 中谷元粛々と(海底ボーリング調査の)作業を実施していく」(時事ドットコム

 「中断指示?無視、無視、無視」・・・・・・。同じく無視が成り立たせる「粛々」である。

 沖縄県が沖縄防衛局の海底作業を確認する潜水調査を開始したことについて。

 菅義偉「一方的に現状調査を開始したことは極めて遺憾だ。(海上ボーリング調査などの各作業を)政府としては環境に万全を期しながら各作業を粛々と進めたい」(産経ニュース

 沖縄県としたら、安倍政権が「粛々」と無視するから、一方的な行動に出ざるを得ない。だが、自分たちの「粛々」とした無視のみに一方的に正当性を置いているから、「粛々」という言葉を使った無視行為だと気づかない。

 2015年3月23日、翁長知事は沖縄防衛局に対して名護市辺野古沖での作業を1週間以内に中止するよう指示を出した。3月23日午前の記者会見。
 
 菅義偉「この期に及んで、そうしたことが検討されているとすれば甚だ遺憾だ。工事の許可は沖縄県側と十分調整したうえで受けたもので、政府としてそうした状況であることをしっかり説明していきたい。国が勝手にやっているわけではなく、沖縄県と調整をして許可をいただき、今日(こんにち)がある。工事を行っていることには全く問題はなく、粛々と工事を進めていくことに変わりはない」(NHK NEWS WEB

 同じく、「無視、無視、無視、粛々と無視」が工事進捗一辺倒の意思を駆り立てる。その工事進捗一辺倒の意思がまた、沖縄民意を「粛々」とした無視に駆り立てる。

 自分たちのみの正当性を置いたその循環となっている。自分たちのみに正当性を置くこと自体が「粛々」とした無視だとは気づかない。

 同日午後の記者会見。

 菅義偉「防衛省で文書の内容の確認を行っているところであり、現時点ではコメントは控えたい。ただ、アンカーの設置、防衛省と沖縄県の事前調整の段階で、沖縄県漁業調整規則などを踏まえ、十分な調整を行ったうえで実施している。わが国は法治国家であり、この期に及んでこのような文書が提出されること自体、甚だ遺憾だ。

 あえて申し上げれば、現時点で作業を中止すべき理由は認められないと認識している。ボーリング調査などの作業は、環境に万全を期して粛々と進めていきたい」(NHK NEWS WEB

 やはり無視を趣旨とした「粛々」になっている。

 2015年3月30日午後。

 中谷元「混乱するほど、(普天間飛行場の)問題は解決が遅くなる。工事は粛々と行っていきたい」(asahi.com

 「粛々」という言葉を使いながら、「無視、無視、無視」と言っている。

 そして4月5日、翁長知事から「上から目線の粛々だ」と批判を受けた。

 菅義偉は「不快な思いを与えたということであれば使うべきではないと思う」と以後使わないことを宣言したが、いくらその言葉を使わなかったとしても、沖縄の民意を無視し続けるなら、使わなくなったというだけのことで、何にも変わらないことになる。

 きっと腹の中では「上から目線の粛々」を続けることになるだろう。

 大体が安倍晋三がスローガンとしている「国民の命」とか、「国民の幸せな暮らし」とかが沖縄県民は除外し、無視した政治信条となっていることから始まっている「粛々」という言葉に隠した諸々に亘る無視の姿勢であるはずだ。

 「粛々」という言葉を使わなくなったからと言って、誤魔化されてはいけない。陰険な連中である。無視は何も変わらないだろう。

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