安倍晋三の新ODA「開発協力大綱」は自国国益確保を目的とする積極的平和外交という倒錯精神が基本

2015-02-12 10:03:26 | 政治


 ――安倍晋三には世界の平和構築の名を借りた開発援助で日本の軍事的影響力拡大の狙いもある――

 政府は60年続いた「0DA大綱」を改定して「開発協力大綱」を定め、2月10日(2015年)閣議決定した。

 「法の支配の確立」、「グッドガバナンスの実現」、「女性の権利を含む基本的人権の尊重」、「脆弱国家における人道的課題」、「質の高い成長」、「―人ひとりの権利の保障」、「政府と市民の信頼関係に基づく統治機能の回復」、「社会的弱者への配盧」、「―人ひとりが幸福と尊厳を持って生存する権利を追求する人間の安全保障」等々を社会・経済・政治的な脆弱国家や発展途上国に広める。

 各々の理念は素晴らしい。
 
 全体を包括する理念・目的を世界の「平和 ,繁栄 ,そして ,一人ひとりのより良き未来のために」と定めている。 

 〈平和で安定し,繁栄した国際社会の構築は,我が国の国益とますます分かちがたく結びつくようになってきており,我が国が,国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から,開発途上国を含む国際社会と協力して,世界が抱える課題の解決に取り組んでいくことは我が国の国益の確保にとって不可欠となっている。〉

 確かに「平和で安定し,繁栄した国際社会の構築は,我が国の国益とますます分かちがたく結びつく」こととなっている。だが、あくまでも結果として得る利益であるはずである。特に「積極的平和主義」とは無償のものでなければならない。国益、あるいは何らかの利益を目的とした「積極的平和主義」など存在するのだろうか。存在するとしたら、あまりも逆説的且つ倒錯的であり過ぎる。

 カネにするつもりで仲の悪い夫婦の仲直りに手を出すようなものである。

 だが、安倍政権は「我が国の国益の確保」を目的として世界の平和に貢献する「積極的平和主義」の推進を狙っている。どうも安倍晋三の「積極的平和主義」は有償のものであるらしい。

 次の言及も「国益の確保」を目的としている。 

 〈我が国は,国際社会の平和と安定及び繁栄の確保によりー層積極的に貢献することを目的として開発協力を推進する。こうした協力を通じて,我が国の平和と安全の維持,更なる繁栄の実現,安定性及び透明性が高く見通しがつきやすい国際環境の実現,普遍的価値に基づく国際秩序の維持・擁護といった国益の確保に貢猷する。 〉

 世界への貢献は自国国益を間接的なもの・従属的なものとしなければならないはずだが、国益確保を直接的且つ優先的な目的として位置づけている。

 いわば日本という存在を常に優先させている。例えば原発事故で大きな被害を受けた福島の復興は安倍晋三は「被災地の心に寄り添う」ことを一大テーマとしていたが、このことは被災地、あるいは被災住民の在り様の回復・復興を優先させることの宣言であったはずであって、だからこそ、「現場主義」という言葉も使った。

 復興の実現によって内閣の支持率を上げるといったことを優先目的としたわけでもなく、政府を従属的な立場に置いていたはずである。

 だが、世界への貢献はその逆を行って、日本の国益確保を優先的目的としている。そうしている以上、互恵的利他主義とは言えず、利己主義が露骨な色彩を取った世界貢献と見做さざるをえない。

 経済・軍事的に「世界の中心で輝く」大国日本を目指している安倍晋三にしたら、当然の優先的な自国国益確保欲求なのかもしれない。

 自国国益に目を向ける余り足元に目を注ぐ余裕はなかったようだ。

 《人間の安全保障の推進》と銘打って、〈個人の保護と能力強化により,恐怖と欠乏からの自由,そして,―人ひとりが幸福と尊厳を持って生存する権利を追求する人間の安全保障の考え方は,我が国の開発協力の根本にある指導理念である。この観点から,我が国の開発協力においては,人間一人ひとり,特に脆弱な立場に置かれやすい子ども,女性,障害者,高齢者,難民・国内避難民,少数民族・先住民族等に焦点を当て,その保護と能力強化を通じて,人間の安全保障の実現に向けた協力を行うとともに,相手国においてもこうした我が国の理念が理解され,浸透するように努め,国際社会における主流化を一層促進する。また,同じく人間中心のアプローチの観点から,女性の権利を含む基本的人権の促進に積極的に貢猷する。〉

 「人間一人ひとり,特に脆弱な立場に置かれやすい子ども,女性,障害者,高齢者,難民・国内避難民,少数民族・先住民族等」の「保護と能力強化」こそが日本の世界の「人間の安全保障の推進」に向けた「指導理念」だと謳っている。

 世界が受け入れやすい、どこの国も歓迎する理念であり、安倍晋三の「積極的平和主義」を最も象徴する援助項目であろう。自国国益確保などと言わずにここにこそ無償の「積極的平和主義」を向けなければならない。

 だが、足元の日本の子供の貧困率はOECDの平均を上回り、管理職女性比率アメリカ2011年43.7%に対して日本2012年世界で21位、11.1%の低さにある。障害者の社会参加率も低く、その差別も色濃く残っている。

 また2013年の難民認定申請者3260人に対して認定者はたったの6人(うち3人は異議申立手続における認定者)、難民とは認定しなかったものの人道的な配慮が必要なものとして在留を認めた者は151人に過ぎない主要先進国中最大の難民拒否国となっている。

 「少数民族・先住民族」に対する「保護と能力強化」は社会的政策とはなり得ず、差別が残り、貧困も無視できない状況でそれなりに広まっている。

 安倍晋三は国内の「人間の安全保障の推進」の欠陥を他処に世界に向けたそれに自国国益の確保を置き、それを「積極的平和主義」に基づいているとしている。

 自国国益確保を目的とする積極的平和外交という倒錯精神が自ずと招くことになっている矛盾に違いない。

 マスコミは「開発協力大綱」で、これまで原則禁じてきた他国の軍隊への支援を非軍事分野に限って解禁したことに対して軍事分野への転用の危険性を指摘して懸念を示している。
 
 《開発協力の適正性確保のための原則》として〈軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避〉を謳い、次のように規定している。

 〈開発協力の実施に当たっては,軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。民生目的,災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には,その実質的意義に着目し,個別具体的に検討する。〉――

 非軍事分野だと日本から援助を受けて、それをそのまま軍事分野の経費に回す転用もあり得るだろうが、軍が関係する非軍事分野の経費支出を日本の援助で補填して、この通り非軍事分野に支出しましたと証明し、支出せずに済んだ浮いた経費を兵器購入やその他の軍事分野の支出に回す転用の可能性は決して否定できない。

 例え非軍事分野に限られたとしても、外国の「軍又は軍籍を有する者」に援助することによって安倍日本は確実に軍事的影響力を高めていくことになる。その影響力を高めるためにも安倍晋三は積極的にこの手の援助を進めていくに違いない。

 全ては安倍晋三の「積極的平和主義」の名のもとに行われる。いわば世界に向けた軍事的影響力の強化も安倍晋三の「積極的平和主義」が狙っている目的でもあり、イコール日本の国益確保の目的としているということである。

 ここに胡散臭ささを感じないわけにはいかない。

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