TPP参加は農業を林業衰退の二の舞とする説の正当性を問う

2011-10-31 11:36:42 | Weblog

 ここのところの報道番組はTPP参加問題か厚生年金支給開始年齢引き上げ問題に集中している。昨日(2010年11月30日)の日曜日の朝日テレビ「報道ステーションSUNDAY」もご多分に漏れずと言うか、一方のTPP参加問題を取り扱っていた。

 賛成派に福山哲郎前官房副長官、古賀茂明改革派元経産官僚、反対派に山田正彦前農水相と森永卓郎獨協大教授を配していた。

 この番組で森永卓郎がTPPに参加し、関税ゼロに持っていくと、日本の農業はかつての林業の二の舞になると力説していた。その力説の正当性を問うために林業に触れた箇所を取り上げてみる。

 メインキャスター長野智子が古賀茂明改革派元経産官僚にTPP参加の農業に対する影響を尋ねた。

 古賀茂明改革派元経産官僚「私は、あのー、消費者の立場に立ってみるとですね、とにかく今、何だかよく分からないんですが、例えばワーキングプアでね、一生懸命働いている、年収200万しかないなんていう人がたくさんいるんですよ。

 で、そういう人たちは可哀相だって、何か貰えるわけじゃないんです。だけど、農家は可哀相だからとゆって、関税を物凄く高くしてね、ものすごい高いコメを買わされていてですね、ものすごーく高い小麦を買わされ、ま、小麦は買わないけど、パンを買わされ、牛乳も高い。

 で、もうギリギリの生活をしてるんですよ。で、えー、今度ね、交渉をするっていうと、その関税をね、下げるのは困るって言うと、我々から見れば、下げてくださいと。とにかく下げてくれないと、もう生活できませんよと。

 で、しかもそこでね、またたかーい物を買わされて、払った消費税の一部が、またね、戸別所得補償で、しかも強い農家も弱い農家もね、一緒くたになって、えー、兼業農家でね、あのー、ちょっと片手間にやってるなんていう人でも、おカネ、配っちゃうわけでしょ。

 で、それはね、もう続かんですよ。もうおカネないんですから、我々は。あのー、政府は。

 で、それをね、ずうっと続けてくれって。で、もう、今始めるという段階で、始めたら、もうこれだけ、じゃあ、これだけカネを寄こせみたいな話になってるでしょ?

 で、先ず、関税も下げて、安くして貰って。そうすると、今だって、あの、(米60kg当たりの生産コスト)1万3千円とか言ってますけど、6500円で作れる農家も一杯いるんですよ。だから、そういう農家を育てて貰って、で、どうしても守んなきゃいけないところについては税金でやって欲しいんですね。税金だったら、ワーキングプアの人たち、そんなにたくさん払わなくてもいいですよ。お金持ちが払えばいいんだから。

 で、ちゃんと目に見える形で、そういうね、どうやって農業を強くするとか、ちゃんとやって欲しいんだけど、反対する人たちは、そういうことを全然言わないですよね」

 古賀氏はワーキングプアの生活の成立を基準にTPPを論じている。

 森永卓郎獨協大教授「でもね、これもう、TPP参加して、関税もゼロにしたらどうなるか、農水省既に出していて、米9割壊滅。小麦も酪農も畜産も、砂糖も、全部壊滅するんですよ。

 で、食料自給率40%から14%に落ちるんですね。で、国内の農地が荒れ果てるんです。

 私は林業で先に起きたと思ってるんですけど、やすーい木材がどんどん入ってきて、今日本の山が壊滅状態になりつつあるんです。手を入れなくなるからなんですよ。で、日本中を荒地にしていいのか。

 で、古賀さんは6500円で作れる農家もある。でも、それよりもさらに半分ぐらいの値段で入ってくるわけです。だから、農水省の推計というのは正しいと思いますよ。

 で、それでいいんですかっていう話なんですよ」

 森永氏は農水省の推計を基に「半分ぐらいの値段で入ってくる」と自らの判断に置き換えているだけのことで、客観的且つ具体的な根拠を示してその推計を証明しているわけではない。にも関わらず、農水省の推計は正しいと合理性に反したことを平気で言っている。

 但し外国産木材が輸入関税ゼロとなったことから壊滅状態となった日本の林業がTPPに参加した場合の日本の農業の将来を占う先例だとする主張には一見、説得力を持つように見える。

 古賀氏「前提になる数字は相当いい加減でね。で、農水省はだから3000円というのを使っていますけど、今、中国では、今中国のお米って、どんどん上がってるんです。直近ではもう1万円超えてるんですね。

 ですから、それを、あのー、殊更にね、あのー、もう自分の都合のいいような推計を、これは役所っていうのは必ずやる」

 ここで福山前官房副長官が農水省の数字は極端だとか、農水省の数字は若干無理があるとか強調した。経産省にしても農水省にしてもそれぞれが擁護する分野に関して擁護の根拠とすることができるように数字を弾くから、農水省だけではなく、TPP参加賛成派の経産省にしても、若干極端で無理がある数字が踊ることになっているに違いない。

 山田前農水相「先程森永さんが、大変大事な話をされたんだけど、林業はですね、もう何十年か前、関税ゼロにしましたね。で、そのあと、本当に山は荒れ果てました。で、それが木材市(いち)も倒産、倒産です。

 そうなったんですが、それに20年間、日本は回復せずに1兆円、地方と国を併せて注ぎ込んできたんです。ところが、未だに、全く、あのー、回復できない」

 古賀氏「遣り方が悪いんです」

 山田前農水相「遣り方が悪いんじゃないんです。大分手立ても20年間やってきたんです」

 司会の長野智子が林業の話から農業の話に持って行くべく、軌道修正を図ろうとしてコマーシャルに入るが、コマーシャルを終えると、山田氏はTPP反対の重要な根拠となると見て食らいつこうとしたのか、再度林業の話を持ち出す。

 山田前農水相「さっきの話の続きですがね、木材のこれくらいの丸太(胸の前で両手で円を作って木の太さを表す)、あの、杉1本ですね、200円なんですよ。大根1本の値段です。

 これはですね、今度本当に、このTPPで関税ゼロにしてしまったら、それこそ日本の農業も、漁業も、いくらおカネを注ぎ込んでもね、おカネさえつぎ込めば、何とかなるんだっていう言い方しますが、絶対そうはなりません」

 そのあと森永氏がTPP参加ではなく、日銀の資金供給強化政策で円高を是正することで輸出振興を図るべきで、アメリカの圧力で円高方向に誘導する金融政策を取ってTPP賛成の根拠としているといったふうな円高アメリカ陰謀説を持ち出したりする。

 日本の輸出産業が1円円高に振れるたびに20億円、30億円と損失を被っているのに、あるいは政府の為替介入時には2兆円、3兆円の資金を投入しなければならないのに、TPP参加の根拠づくりにアメリカの圧力に素直に従って円高誘導をしているとする主張は眉唾としか言いようがない。

 確かに木材の関税がゼロになってから、国産材は外国産材に駆逐状態化した。インターネットで調べたところ、1964年に丸太原木と柱や土台、梁、桁等の基礎材に使う米栂(べいつが)や米松の加工材(製材し終わった木材)は関税ゼロになっている。

 また木材輸出国は原木に付加価値をつけ、雇用を創出するために丸太原木の輸出を徐々に禁止していき、加工材のみの輸出を許可することになっていった。特にインドネシアやマレーシアからラワン原木を日本に輸入し、ベニア合板としていたが、原木が輸出禁止となってから、それまで丸太原木の輸入を一手に手がけてきた日本の商社は製材機械一式付きでベニア工場を現地に輸出、そこでベニア合板を製造して、日本に輸出する商法に切り替えた。

 結果、現地国は原木に付加価値をつけて税収を増やすと同時にベニア工場での雇用の創出を果たし、雇用の面でも税収を増やすことができた反面、輸入ベニアに関税はかけてあっても原料自体が安いために日本の木材では太刀打ちできず日本のベニア工場がバタバタと倒産に追い込まれていき、雇用喪失を連動させることになった。

 この丸太原木輸出禁止はベニア合板だけではなく、柱や梁、土台といった基礎材でも同じ現象をもたらした。ほとんどすべてが現地で加工されるために日本の製剤で加工する工程を必要としなくなって、一般の製材所も次々と倒産に追い込まれていった。

 殆どの製材所は広い敷地を必要としていたために倒産した跡地は大型ショッピング施設や大型パチンコ店に利用されていった。

 安い外国産剤に押されて国産材が売れなくなって、すべての山がそうであるわけではないが、伐り出しても赤字となるだけであるために植林した杉・檜の類が放置されることになり、山は荒れることになった。政府が補助金を出して間伐だけ行わせ、間伐した木は切り倒したままの状態にしている山が多い。

 森永卓郎獨協大教授も山田前農水相も事実を言った。だが、もう一面の事実を語らなかった。意図的に隠したわけだはなく、反対にのみ目がいって、気づかなかったのだろう。

 既に触れたように丸太原木を含めた主たる木材の関税が撤廃され、ゼロとなったのは1964年である。

 1964年は1954年(昭和29年)12月から1973年(昭和48年)11月にかけた日本が豊かになっていった日本の高度成長期の中頃に当たる。

 また自分の持ち家を持ち、自分の家庭を築くという「マイホーム主義」の現象は1960年代初頭から1970年代初頭にかけてのことで、高度成長期に重なるが、高度成長スタート期にやや遅れたのは豊かさへの憧れを持っていたが、多くの国民にとってそれを自分のモノとすることに時間がかかったということなのだろう。

 戦争による国土荒廃を受け、尾を引いていた日本の住宅不足を解消すべく、高度成長に合わせて日本住宅公団が設立されたのは1955年のことであり、日本住宅公団が提供する2DKといった団地住宅が刺激剤ともなったに違いない、その設立から約5年程度遅れで「マイホーム主義」に傾斜していき、次々と建売住宅、その他を自分の持ち家としていった。

 この時代、多くの中間層が20年、30年とローンを組んでのことであっても、自身の持ち家をより困難なく持つことができたのは安い外国産材の存在を抜きに考えられなかったに違いない。

 いわば輸入木材関税撤廃が安い外国産材の流入を招いて高い国産材の著しい利用減少をもたらし、林業の衰退、山の荒廃化を結果とした一方の事実に対して当の安い外国産材が多くの国民の自分の家を持ちたいという欲求を叶えさせるべく家を持ち易くしたというもう一方の事実を否定し難く調和させていたのである。

 林業関係者や関連産業側には認めがたい調和であったとしても、高い国産材ではなく、安い外国産材が約束した国民の持ち家に対する幸福を叶えさせた調和であった。

 この調和がまた、日本の高度成長を加速させるエンジンの役割の一つを担ったはずだ。

 もし安い外国産材が存在せず、住宅建設の当時の伸びを低く見積もることになった場合、当然、高度成長全体を抑制する要因となったことは十分に考えることができる。

 住宅市場が活況を呈するか低迷するかで景気に与える影響は大きく、無視できないからなのは断るまでもなくい。

 何事もプラス・マイナスがある。プラス・マイナスを差し引きして、全体として国益に適うか、国民の生活に適うかを見るべきで、産業を一つ一つ見て、プラスだマイナスだと論じても無理があるように思えるが、どんなものだろうか。

 間伐して放置したままの樹木が大雨が降った場合、流れ出して洪水の原因ともなると言っていたが、だったら、間伐せずに自然な状態に放置しておけばいい。人間の手を入れない山はいくらでも存在する。

 2009年10月13日の記事に木材搬出単価を抑え、雇用を創出するための方法として、《林業に自衛隊を投入して雇用創出は不可能だろうか - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》を書いた。

 役に立つかどうかは保証の限りではない。だが、誰かが林業再生の役に立つアイデアを出さなければならない。

 勿論農業再生の方策もである。

コメント (2)
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