前原民主党政調会長の「TPP、撤退はあり得る」発言の真意

2011-10-26 11:22:11 | Weblog

 前原民主党政調会長の環太平洋経済連携協定(TPP)の「交渉に参加しても、国益にそぐわなければ、撤退はあり得る」の発言が、可能・不可能の両論を誘発して波紋を広げている。

 10月23日日曜日、NHK「日曜討論」

 前原政調会長「交渉というのは、ルール作りに参加して、いかに世界の仕組みを作るかということだから、交渉に参加した結果、国益に全然そぐわないものであれば、撤退はあり得るのは当然だ」(NHK NEWS WEB

 TPP交渉に関しては関税原則ゼロの自由貿易推進を目標としているため、日本の農業・漁業が壊滅的打撃を受けるだけでなく、医療等のサービス分野までマイナス影響を受けるとして反対する声が大きい。

 野田首相自身は11月12~13日に米国で開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でTPP交渉の参加を表明する意向だとされている。

  前原発言の翌日の10月24日午前の記者会見で、まず藤村官房長官が同調した。

 藤村官房長官「党の政策調査会長の発言なので、当然、重く受け止めている。一般的に、外交交渉で、交渉が決裂すれば離脱するわけで、そういうことはあり得る」

 前原政調会長が「撤退」と言い、藤村官房長官が「離脱」と言っていることは交渉段階での態度、言ってみれば交渉途中の退席のことを言っているのであって、条約締結後の態度としているわけではないことは断るまでもない。

 この途中退席可能性にTPP交渉に前向き姿勢の玄葉外相が異論を唱えた。10月25日、閣議後の記者会見。

 玄葉外相「交渉に参加したあとに撤退するということが起きた場合にどういう国益を損なうのかを、よく考えないといけない。論理的にはあり得るが、簡単な話ではない」(NHK NEWS WEB

 理屈としては離脱は可能だが、現実問題として困難だと言っている。

 野党も黙っていない。野次馬人間としては賛否両論、賑やかな方がいい。

 石原自民党幹事長「交渉に参加するかどうかの決断は難しく、決めていない段階での言及は、全く外交センスがない。「『交渉に参加して、気に入らないからやめます』ということは、外交上できない。日米間の貿易量は多く、交渉に参加したうえで『ダメだ』となれば、アメリカがどういう対応をするのか、想像すれば分かる」(NHK NEWS WEB

 発言の前半は必ずしも正しいようには思えないが、後半はほぼ妥当な判断を示しているのではないだろうか。

 次は公明党。10月25日の記者会見。

 山口公明党代表「(離脱可能性の議論に関して)政府の対応としてあまりにも不十分だ。政府は国民的議論ができるような状況をつくるのが責任の一つだ。まずは政府がどう臨むのかを国民に説明することが重要だ」(MSN産経

 国民的議論が先だと主張して、離脱可能性に関しての言及はない。国民的議論なくして交渉参加なしといったところなのだろう。

 次に経済界。10月25日午前記者会見。

 米倉経団連会長「離脱というのは非常に不穏当な表現だ。まず、TPPの交渉に参加して、それが国益にかなうのかどうか国会で徹底的に議論して協定に入るかどうか決めればいいわけで、交渉の途中での離脱は絶対にあり得ない」(NHK NEWS WEB

 米倉会長も交渉途中の退席は「絶対あり得ない」と否定、交渉は最後まで行なって、締結の最終判断は国会の議論に任せるべきだと主張している。

 TPP交渉積極参加の前原政調会長と反対派急先鋒の山田正彦元農水相が10月25日が国会内で会談、山田元農水相が前原「撤退」発言を無責任な発言だと批判、その撤回を求めたのに対して、前原政調会長は自説を押し通して、会談は平行線を辿ったという。

 《前原氏と山田氏が激論 撤退発言「無責任」vs「できる」》MSN産経/2011.10.25 18:52)
 
 山田元農水相「外務省は交渉に入ったら抜けられないと言っている」

 前原政調会長「外交交渉だから、撤退しようと思えばできないことはない。撤退できる」

 前原政調会長が言うように交渉事だから、交渉途中の撤退は、玄葉外相の言葉で言うと、「論理的にはあり得る」。「国益にそぐわない」からと、穏やかに丁重に断って交渉の場から途中退席することも可能であるし、こんなこと、やってられるかとばかりに席を蹴って立つこともできるはずだ。

 敗戦間際、日本政府と軍部は国益を国体護持(=天皇制維持)の一点に絞り、国民の生命・財産は「国益にそぐ」うか否かを一切考慮せずにポツダム宣言と向き合い、一旦は席を蹴って立つが如き反応を示したためにご丁寧にも原爆を2発も落とされて、国益の計算に入れていなかったものの、多くの国民の命を犠牲にした。

 いわば不可能ではない途中退席と言える。

 但しTPP交渉は交渉参加国が相互の国益に適う自由貿易の構築を目的とする交渉である以上、その相互性ゆえに交渉に参加した場合、構築達成に向けた責任を相互に負うことになる。

 構築達成は参加国それぞれに自由貿易を通した国益の実現を約束する。

 日本が交渉に参加した場合、参加国の中で米に次ぐ大国である以上、その責任も大きく、「一抜ーけた」と、相互性から外れる「離脱」、もしくは「脱退」は許されるだろうか。

 交渉に参加したなら、日本の国益に適わない分野がある場合でも、参加国相互の全体的な国益との兼ね合いの中でねり強く妥結に向けて努力し、参加国全体でバランスの取れた国益を相互に担保することが参加国それぞれの責任であり、日本が米国と共に負わなければならない大国としての特別な責任となる。

 その責任を果たさずに「国益に全然そぐわない」からと途中退席の「撤退」を見せた場合、当然、信用を失うことになる。国家の信用失墜という外交的損失・国益喪失を代償としなければ不可能な「撤退」であり、「離脱」であるはずだ。

 これが玄葉外相の言う「どういう国益を損なうのか」ということに当たり、石原幹事長が言う「交渉に参加したうえで『ダメだ』となれば、アメリカがどういう対応をするのか、想像すれば分かる」に相当するはずだ。

 前原政調会長がいくら口先番長であったとしても、こういった道理ぐらい承知しているはずだ。いや、口先番長だからこそ、承知していながら、口先だけで言ったに違いない。

 交渉参加に強硬に反対する勢力を宥めて参加に持っていく方便として、途中離脱できるのだから、とにかく交渉に参加して、日本の国益にそぐわないということなら、交渉から撤退すればいいのだからと口先では可能となることを言ったといったところが真意ではないだろうか。

 交渉に参加しさえすれば、こちらのものだと。

 交渉途中の撤退、離脱の類が口先では可能なことであっても、実質的な責任上、不可能なことだから、当然異を唱える者が現れる。多分に対抗上の意味合い――ライバル意識を含んでもいるからだろう、与党の中からも現れることになる。

 前原政調会長の方は一旦口にしたことだから、発言を撤回させるわけにもいかず、唯一残されている口先を維持する戦術に縋っているといったところではないだろうか。

 下手に前言を撤回したなら、発言に一貫性を欠く、政治家の言葉は重いはずだが、言葉が軽いと新たな批判を招いて、政治家としての評価を確実に下げることになるからだ。

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