日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 5年に1度という中国最大の政治イベントが終わりました。「七中全会」(中国共産党16期中央委員会第7次全体会議、10月9~12日)、「十七大」(中国共産党第17回党大会、10月15~21日)そして「一中全会」(中国共産党17期中央委員会第1次全体会議、10月22日)です。

 私にしてみれば15年ぶりにめぐってきた秋の夜の夢。いけないこととは知りつつも、この2週間近くは極力仕事を排除させてもらい、素人の中国観察という娯楽に身を入れることができました。

 この約2週間におけるポイントは3つ。

 まずは粗放きわまりない「成長率至上主義」(成長至上主義ではありません)にダメ出しが行われ、胡錦涛の提唱する「科学的発展観」が党の憲法ともいえる党規約に明記されたこと。これによって「科学的発展観」は、

 ◆マルクス・レーニン主義
 ◆毛沢東思想
 ◆トウ小平理論
 ◆「三つの代表」重要思想

 と肩を並べることとなり、表立って楯突くことが許されない指導理論となりました。

 錦の御旗です。

「従来の指導理論を継承し発展させた、中国の特色ある社会主義を発展させる上で堅持・貫徹しなければならない重大な戦略思想」

 という位置づけは、「科学的発展観」最優先ということを意味しています。

 「科学的発展観」が何か、ということについては先日のエントリーで詳述した通りです。その名が示す通り、まずは発展ありき。……なのですが、30年近くに及ぶ改革開放政策(成長率至上主義)がもたらした「格差」という言葉に代表される「負の部分」を是正し、成長率よりも効率や環境保護、富の再分配などに配慮しつつ持続的・安定的な成長を実現し、過熱気味の経済のソフトランディングを図る、というものです。

 特筆すべきは、中国が改革開放政策に転じて以来、党大会の総書記報告で打ち出され、党規約に加えられた指導理論が全て現状を追認し、便宜的に現実にすり合わせるものだったのに対し、今回の「科学的発展観」は現状に「待った」をかけ、ノーを突き付けたものだということです。引退時ではなく、任期をまだ残した段階で自らの指導理論が党規約に織り込まれたのは実に毛沢東以来の快挙。

 翻って考えれば、指導理論としてはまだ不成熟な部分の少なくない「科学的発展観」をここで党規約に明記しなければならないほど、中国は「負の部分」が尖鋭化し、「非科学的」で「不調和」になってしまっている、といえるでしょう。

 ――――

 この「科学的発展観」を打ち出すことで明確になったのが、現在の中国における最大の対立軸は「構造改革派」vs「既得権益層」だということです。

 胡錦涛の掲げる「構造改革」はむろん「科学的発展観」に代表される考え方。対する「既得権益層」とは改革開放の「負の部分」において甘い汁を吸ってきた勢力です。「上海閥」に代表されるような地方当局でもありますし、寡占化された特定の業界、あるいは役所の一部門によるタテ割り利権でもあります。

 今回の新指導部人事では江沢民の影響力が目立ったという見方が多いようですが、私はむしろ、「既得権益層」が結束して江沢民を担ぎ上げて胡錦涛に対抗したものと考えています。……この「構造改革派」vs「既得権益層」という対立軸が明確になったということが第2のポイント。

 あと一点はいうまでもなく、新指導部人事です。あるいはこれに加えて、軍部において「台湾侵攻シフト」ともいえそうな胡錦涛主導による大幅な人事異動が行われたことを挙げてもいいかも知れません。

 今後の課題はただひとつ。錦の御旗となった「科学的発展観」が、全国各地の末端レベルに至るまでの間に骨抜きにされることなく、字義通りに浸透・実行されるかどうかです。

 ……が、無理でしょう。

 最高指導者である当の胡錦涛が、鶴の一声で物事を決められる毛沢東や晩年のトウ小平のようなカリスマでなく、小粒な連中による集団指導体制における最も大きなひと粒にすぎないからです。

 一党独裁政権なのに内情はカリスマ不在で小粒な指導者たちの合議制、というのは、あるいは西側の民主政体より効率が悪いかも知れません。行われる政策の当否は別として、一党独裁特有の果断さが失われる一方、一党独裁の弊害だけは時間が経つにつれて深刻化していくからです。

 それにほら、仮に「既得権益層」を潰すことができても、今度は恐らく「構造改革派」がそれに取って代わるだけでしょうし。

 ――――

 今回の一連の政治イベントでは毎度のことながら人事が最も注目を集めました。イベントが終わった現在、マスコミによる報道・解説もそこに重点が置かれているように思います。

 ただ私がヲチしてきた乏しい経験に頼っていうとすれば、党大会での世代交代を含めた大型人事というのは、例外なくバランスに配慮した妥協人事という結果に終わっています。

 例えば1987年の「十三大」。その年の初めに胡燿邦・総書記(当時)が保守派の攻勢によって解任に追い込まれたものの、改革派が激しく巻き返して党大会は改革色を前面に押し出したものとなりました。このときの趙紫陽による総書記報告で提起されたのが「社会主義の初級段階論」です。

 耳慣れた言い方ならば「中国の特色ある社会主義」。中国が特殊な国情であるとして、だから正統的な社会主義理論から逸脱した措置もアリだ、という考え方です。この大会ではさらに「党政分離」という、現在では到底考えられない政治改革案も示されています。

 それでも、トウ小平が主導権を握りながらも人事は妥協色をにじませたものでした。李鵬や姚依林といった保守派が要職に配置され、改革派が圧倒する顔ぶれとはならなかったのです。

 続く「十四大」は1992年。趙紫陽失脚の遠因といえる1988年のスーパーインフレで保守派が経済運営の主導権を握り、1989年の民主化運動~天安門事件によって確立された政治・経済両面の引き締め政策も一段落し、1991年の秋冬には「そろそろまた改革開放やろか」という空気が醸成されつつありました。

 この機を捉えて1992年初めに行われたのがトウ小平の南方視察であり、その際に発表された「南巡講話」が錦の御旗となって、改革開放再加速の大号令となります。政治勢力としての保守派はこれによって事実上逼塞してしまい、同年3月の全人代(全国人民代表大会=なんちゃって国会)での李鵬首相による政府活動報告がこの空気を反映していない保守的な内容だとして、150カ所以上も修正を加えられるという記録的な出来事も起こりました。

 ところが、その年の秋に行われた「十四大」はトウ小平による胡錦涛大抜擢などサプライズ人事が行われた一方で、全体的に眺めれば改革派に傾いたバランス人事となりました。翌年春に任期満了となる首相人事で、前評判の高かった朱鎔基ではなく、保守的で無能との烙印をすでに押されていた不評の李鵬に続投の内定が出たのもこのときです。

 ――――

 以前のエントリーでもふれましたが、いうなれば、バランス人事・妥協人事は党大会の常。その意味では、今回の新指導部人事も順当な結果といえます。むしろ「胡錦涛よく頑張った」といえる内容ではないかと。

 確かに、中国の実質的な最高意思決定機関である党中央政治局常務委員には周永康、賀国強という胡錦涛からすれば疎遠、あるいは江沢民色が強い2人が昇格しました。

 胡錦涛の出身母体に連なる人脈である「団派」(共産主義青年団人脈)の筆頭格で、次世代の総書記と目されていた李克強・遼寧省党委書記は胡錦涛の思惑通り党中央政治局常務委員へと2階級特進を果たしたものの、序列は6位です。それもいまや「太子党」(二世組)の代表格となった同世代の習近平・上海市党委書記との抱き合わせによる飛び級人事。しかも習近平は序列5位であり、李克強はその後塵を拝する結果となりました。

 習近平は党中央政治局の日常事務を取り仕切る党中央書記処の筆頭書記をも兼任。これは花嫁ならぬ総書記修業にはお決まりのポストです。

 ただし、常務委員よりワンランク下の党中央政治局委員の新顔には劉延東、李源潮、汪洋、劉延東など「団派」が加わって、留任した「団派」ともどもなかなかの勢力を形成しています。また曹剛川(党中央軍事委員会副主席)引退の穴を埋める形で政治局委員になった徐才厚は、胡錦涛政権が発足して以来、胡錦涛が国内を視察する際にしばしば帯同させるなどして重用し懐柔した制服組です。

 前述の党中央書記処は筆頭書記こそ習近平であれ、「団派」の李源潮、令計画(胡錦涛の秘書格)も名前を連ねています。胡錦涛が2012年の「十八大」で引退するとしても、それまでの5年間に何が起こるかわかりませんから、「習近平総書記・李克強首相」が次世代体制である線は現時点では濃厚ながら、確定した人事ではありません。

 さらにワンランク下がって中央委員に目を転じれば、全国の直轄市・省・自治区といった一級行政レベルのトップやナンバー2、つまり省党委書記や省長が網羅されています。この地方の指導者には「団派」が数多く送り込まれていることを考えると、中央委員全体の若返りとともに、胡錦涛の基盤強化といった印象を受けます。

 中央委員やそのひとつ下の中央候補委員には七大軍区それぞれの仕切り役である司令員や政治委員も全て仲間入りしています。この七大軍区のトップ人事がいずれも先の「台湾侵攻シフト」を含め全て胡錦涛によって行われたことを考えると、これも胡錦涛にとっては追い風といえるでしょう。

 でも、所詮はそれだけなのです。逆に、政敵を葬るのに手っ取り早い汚職摘発を主管する党中央規律検査委員会の主任に賀国強が就任したとか、公安や国家安全部など治安を仕切る部門に強い周永康が昇格したとか、そういうことも実はどうでもいいことのように思います。


「下」に続く)


 【※】それにしても『明報』渾身の人事予測は見事に的中しましたね。脱帽です。




コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
調整型2トップ (Unknown)
2007-10-23 23:30:00
習近平と李克強に関しては、「慎重」「調整型」「気配りタイプ」「真面目」「自分の言葉で語らない(習)」「胡錦涛によく似たタイプの政治家(李)」「巧みな弁舌(李)」「日本企業に厳しいかもよ(習)」、こんな評価ばかりですね。

地味で調整ばかりしている2トップってどうなんでしょうね?

 
 
 
こいつらじゃ中国は救えないでしょう。 (御家人)
2007-10-25 16:21:08
>>Unknownさん
 革命活動とか内戦なんかをやった連中はもう長老ですからね。秩序が固まってエリートコースを歩いてきたのが次世代の連中でしょう。胡錦涛たちだって小粒なんですから、いよいよ粒が小さくなっているのかも知れません。
 みんな大卒の官僚ばかり。ところがそれで公に尽くすかといえばそうではなく、天下国家より私腹を肥やすことばかり考えています。三千年の歴史の負の部分に一党独裁制を重ねたら、そりゃこうなるでしょうね。
 李源潮あたりが大化けしてくれたら面白いんですけど。
 
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