日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 第17回党大会まであと5日となりました。北京では9日から「七中全会」(党第16期中央委員会第7次全体会議=七全総)が開かれています。党大会に向けた地ならしといえるこの「七中全会」では、

 ●党規約改正(胡錦涛・総書記の提唱する「科学的発展観」徹底と「和諧社会」実現が盛り込まれる見通し)に関する詰めの作業。
 ●世代交代を含む大型人事の最終調整。
 ●胡錦涛の行う総書記報告の内容に関する詰めの作業。
 ●汚職嫌疑で失脚した「上海閥」のプリンス・陳良宇(前上海市党委書記)の処分に対する最終協議。

 ……などが行われている模様です。ただし、その全てが党大会で明らかにされるものではありません。私は所詮素人ですし、15年ぶりにヲチする党大会ですから確たることはいえませんが、「党規約改正」と「総書記報告」が党大会の議事かと思われます(あとは第17期中央委員の選出とか)。新人事は党大会閉幕直後にすぐ開かれる「一中全会」(第17期中央委員会第1次全体会議=一全総)で発表される習わしだったように記憶しています。

 それから陳良宇はすでに党籍を剥奪されていますから党大会で処分が明らかにされるかどうかはわかりません。この一件、陳良宇の取り巻きどもについてはすでに続々と司法の場で刑が確定しています。香港筋の情報では、陳良宇についての裁判は天津市で行われるとのこと。

 天津といえば温家宝の地盤ですが関係があるのでしょうか。変な横槍が入らないようにするための配慮?ともかく陳良宇はすでに党から除名されたうえ、不逮捕特権のある全国人民代表の資格も剥奪されていますから、あとはどう料理しようと思いのまま。その調理法をめぐる最終的な政治的駆け引きが「七中全会」で行われているのでしょう。

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 注目されるのはやはり党中央の指導部人事ということになるでしょう。具体的には党中央政治局委員、そして実質的な最高意思決定機関である党中央政治局常務委員の顔ぶれです。当ブログで紹介した香港紙『明報』による予想をはじめ、様々な筋から色々な情報が出てきています。しかし標題に掲げたように、こればかりはフタを開けてみるまではわかりません。

 ただし文官(非軍人)についていえば、以下の2点については間違いないのではないかと思います。

 (1)結局はバランス人事・妥協人事に落ち着く。

 この1年ばかりの流れをみると、上述したように「上海閥」の次世代を担うとされた陳良宇が失脚したり、省・直轄市・自治区レベルの要職に「団派」(胡錦涛直系人脈)が続々と送り込まれたりと、基本的には胡錦涛が主導権を握る形で人事が行われています。胡錦涛が追い風に乗っている形で、優勢であること、紛れもありません。

 ただ党大会を区切りとする世代交代を含めた大型人事ばかりは、どの派閥も命がけになるため「胡錦涛追い風」をそのまま反映することはないでしょう。意外にバランス人事となるのではないかと思います。

 私が香港でヲチした最後の党大会である第14回党大会が開かれたのは1992年。この年は旧正月早々にトウ小平が南方視察を行って改革再加速の大号令といえるいわゆる「南巡講話」を発表、これを転機に保守派は政治勢力としての実力を喪失してしまうのですが、カリスマ&追い風という圧倒的優勢の中で迎えた秋の党大会では、李鵬に首相続投の内定が出るなど保守派にも一定の配慮がなされ(これで朱鎔基首相の登場が5年遅れたことは実に残念です)、改革派からみれば大人しい人事で落ち着いてしまいました。

 さて胡錦涛。2004年9月に開かれた「四中全会」(第16期中央委員会第4次全体会議=四全総)で江沢民が引退したことで実質的な胡錦涛政権発足となった訳ですが、ここ3年の間に開かれた「五中全会」「六中全会」では人事に全く手がつけられず、とうとう党大会を迎えることになってしまいました。このため胡錦涛とすれば無理をしなければならなくなります。

 例えばポスト胡錦涛と目されている李克強・遼寧省党委書記ですが、「五中全会」「六中全会」のいずれかでまず中央入り(党中央政治局委員を兼務)させたあと、党大会で党中央政治局常務委員に昇格すればワンランクアップという順当人事ということになります。

 ところが胡錦涛はこの2回の機会に李克強はじめ自らの子飼の面々を誰も昇格させることができませんでした。一方の「上海閥」だの「太子党」(二世組)といった他派閥の昇進も見送られはしましたが、ともあれこのために胡錦涛は李克強を今回の党大会でいきなり党中央政治局常務委員に抜擢するという飛び級人事(二階級特進)させなければならなくなりました。無理を通さなければならなくなったということです。

 いかに胡錦涛優勢で政情が推移しつつあっても、「団派」の天下というほど圧倒的ではありません。陳良宇を更迭した後釜の上海市トップに座ったのは「団派」ではなく「太子党」の習近平・前浙江省党委書記。江沢民を裏切って「上海閥」潰しに動いた曽慶紅への論功行賞、などといった裏事情はともかく、「団派」を持ってこられない理由があったから習近平に白羽の矢が立ったのです。

 ともあれ胡錦涛は自派の若手を飛び級させるために、無理をしなければならなくなりました。無理とは妥協ということであり、他派閥に見返りをくれてやるということです。例えば李克強の飛び級についていえば、「太子党」の習近平と抱き合わせで二階級特進になる可能性があります。胡錦涛にしてみれば、他にも地方の要職を務めて修業させた自派のホープの中で中央入りさせたい人物がいるでしょう。その一人一人が他派閥との駆け引きや取引の材料となり、終わってみれば結局は妥協人事、ということになります。

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 (2)誰がなっても大差なし?

 現在の中国政治は胡燿邦や趙紫陽の時代、また江沢民時代の初期とは異なり、改革派と保守派が学術的に論争を行うことがあっても、保守派が政治勢力としての実力を失っているため、政争になることはありません。「内憂外患」でみると、「内憂」に関しては誰が軍配を執っても同じでしょう。

 今回、党規約に「科学的発展観」の徹底と「和諧社会」(調和のとれた社会)実現が織り込まれる見込み、というのはその象徴ともいうべきものです。

 江沢民時代、特に歪んだ構造ながらも数字の上では高度成長を実現した後期(そして現在に至る)に、余りにも「非科学的」で「効率無視」(ムダが多い)の開発政策が全国各地で行われ、その結果として中国社会の各面で様々な形の格差が顕在化し、それも「和諧社会実現」を叫ばねばならぬほどの「不調和」に達してしまいました。

 簡単にいえば、現在の中国政界の対立軸は「改革派 vs 保守派」ではなく、30年近く行われてきた改革・開放政策で生まれた既得権益層という「抵抗勢力」を潰し、構造改革を遂げることが焦点となっています。

 全国各地方政府による地元優先という「地方保護主義」(激化すれば「諸侯経済」)、一部の業界における寡占・独占状況の打破、さらには官民癒着(例えば闇炭坑)によるデメリットの一掃、などがそれに当たります。

 「地方」といっても省や自治区レベルはまだマシな方です。汚職で摘発される党幹部に県のトップが多いように、省政府から2ランク下がったあたりの、上からの監視が届きにくく、その割に大きな権限を持っている県当局あたりが一番腐っているので始末に困るのです。

 問題点がここまで明らかになっている以上、打つ手の選択肢は非常に限定され、やらなければならないことは似たり寄ったり、ということになります。その威令が全国各地(県レベル)に行き渡り、腕ずくでねじ伏せてでも相手を服従させるだけの権威と実力が党中央になければ誰が総書記をやっても同じです。

 当ブログの初期、2004年9月に胡錦涛政権が発足して以来、私が再三強調してきたのは、胡錦涛が志向しているのは「強権政治・準戦時態勢」下での構造改革断行だということですが、いまもその考えは変わっていません。

 恐らく晩年のトウ小平は、いざとなったら涼しい顔で血しぶきを浴びながら平然とデモ隊を武力弾圧できるような「寝技より力づくキャラ」といった一面(チベットで実証済み)に期待して胡錦涛を大抜擢したのではないでしょうか。その胡錦涛は政権発足以来、その片鱗を時折かいま見せてくれるものの、結局は他派閥や抵抗勢力に足を引っ張られて、望んだシフトを完成させられないまま現在に至っているのは惜しいことです。

 くどくなるのを承知でいえば、この「強権政治・準戦時態勢」シフトを形成できなければ構造改革が手遅れとなり、中国の抱えている「内憂」は解決されないまま、事態はより悪い方向へ向かうことになると思います。

 では「外患」はどうかといえば、これはもう大方針が確立されていますし、中国は「責任ある大国」として振る舞うよう国際社会から求められ、監視されるほどの存在感を擁するまでになっているため、また対外依存度が極めて高い経済構造でもあることから、昔のように勝手気ままに暴れることができません。基本的にはこちらも「誰がやっても同じ」ということになります。

 ただし例外があります。中国はそれを「外患」とは認めないでしょうが、台湾問題、こればかりは党中央による軍部の掌握度で展開が多少異なることはあるかも知れません。とはいえ建前としては中共政権にとっての最優先課題であり、また「北京五輪が流れても台湾併呑」という価値観において中共は揺らいでいません(と私はみています)から、軍部を持ち出して云々する必要はないかも知れません。

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 その軍部についてもギクシャクしているところがあり、「大軍区を含めた指導部の大幅入れ替えは必至だ」といった情報が親中紙『香港文匯報』(2007/10/10)から流れたりしていますが、こういう微妙な時期に入ると親中紙情報も中共某派閥による飛ばし記事という可能性があるので何とも判断しにくいところです。まあ、それは別の機会に。




コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
人事だけにヒトゴトではない (エミル)
2007-10-11 22:24:32
「内憂」の解決として強権を振るうにせよ、振るわないにせよ、どっちをやっても悪い方向に行きそうな現状、まさに御家人さんのおっしゃる「ババを引いた」状態ですね。
 
 
 
おっ座布団1枚! (御家人)
2007-10-12 17:01:55
>>エミルさん
 お上手なタイトルに脱帽です。
 ポスト江沢民が改革・開放政策で生じた「負の部分」を改善する、つまり尻拭いをすることは宿命づけられていたようなものですから、胡錦涛は正に「ババを引いた」といえると思います。でも第四世代の中で誰がババを引くか、と考えたときに、胡錦涛が一番ハマり役のようにみえます。ただこの3年間は政権基盤を固めるためだけに使ってしまいましたね。トウ小平という後ろ盾が健在だった江沢民と違って、そのあたりは可哀想です。
 
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