日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 今回は「参謀本部作戦課」さんから頂いたコメントを基に、「十七大」(中国共産党第17回党大会)という機会を借りて自分の中での考えを固めていきたいと思います。

 ●胡錦涛報告は「控えめな宣戦布告」@十七大02(2007/10/15)



 ●和諧社会(参謀本部作戦課) 2007/10/17/10:49:30

 1.胡錦濤は意外に聡明な人物です。「共産党は守りたい、でも、共産主義はもうあかんかもしれん、どないしょ。」というのが、彼の偽らざる胸の内ではないでしょうか。

 2.(1)の思いを煎じ詰めて出てきた結論が「和諧社会」という苦肉の策ではないでしょうか。

 3.前世代の指導者たちは、事の理非で決着がつかない時は、死を以って勝敗を決するという覚悟(狂気)がありましたが、現在の指導者たちにはその覚悟はないはずです。なにしろ持ち物が多すぎてあれもこれも捨てたくないというのが本音でしょう(お互いに)。となれば、極端な例(抜け駆けや独り占め)は排除するが、出来れば権力内部においても「和諧社会」の実現が望ましいと考えているのではないでしょうか。





>>参謀本部作戦課さん

 いつもコメントありがとうございます。それでは逐一レスということで。



 1.胡錦濤は意外に聡明な人物です。「共産党は守りたい、でも、共産主義はもうあかんかもしれん、どないしょ。」というのが、彼の偽らざる胸の内ではないでしょうか。




 私も似たような考えですけど、ちょっと厳密に定義しておきますと、

「中国共産党による一党独裁制を断固として維持する。ただそれだけ」

 というのが本音かと思います。具体的には、

「構造改革を行いつつ富国強兵を実現することで、中共一党独裁政権の延命と国民からの信頼回復を果たすこと」

 となります。構造改革については先日も書きましたが、詳細はこちらを。胡錦涛・総書記自身の政治的スタンスは基本的に政権発足時から一貫しており、ブレていないことがわかると思います。

 「強権政治&準戦時態勢下での構造改革断行」

 というのがキーワードで、これによって胡錦涛政権の様々な姿、例えば開明的にみえる一面、それとは裏腹な言論弾圧やあらゆるメディアに対する規制強化の実施、また民生重視や党内民主に積極的なポーズをとる姿勢、などについて説明がつくと私は考えています。

 ――――

 共産主義がどうとかいうことは胡錦涛の眼中にないと思います。「社会主義初級段階論」「中国の特色ある社会主義」という、趙紫陽が10年前に掲げた表看板をいまでも担いでいますから、富国強兵のためにどんな無茶をしても大丈夫です。

 例えば資本家が党員になれる現状などは、階級闘争を奉じていた毛沢東が突如蘇生したら、耳を疑い目玉をひんむいて激怒するような破天荒にして驚天動地な状況です。ただ毛沢東が納得してくれるかどうかは別として、建前としては、

「だって中国の社会主義はまだ初級段階だからね」
「それは、特殊な国情に則した中国の特色ある社会主義だからだよ」

 で言い訳が済みます。共産主義がどうとか、社会主義的かどうかという「姓資・姓社」論争を学界の中だけの言葉遊びという形で封印しておけばそれでOK。昔と違って教条主義的または改革・開放政策に消極的・否定的な保守派というのは政治勢力としての実力を失っていますから、学者に脅すなり圧力をかけるなりすれば大人しくなります。

 中国共産党が改名せず、また「中国の特色ある社会主義」という看板を掲げている限り、実情がどうあれ自称社会主義という訳です。

 胡錦涛自身はともかく、多くの中国共産党員は一党独裁制のおかげで特権を享受できるし出世も早い、ということをわかっていますから(むしろ末端レベルではそのために党員になる者が少なくありません)、複数政党制などはもってのほか、と考えているでしょう。「中国人」よりも「中共人」であることを優先した方がトク、という認識です。

 胡錦涛個人に利権への執着があるかどうかは知りませんが、中国そのものを背負わされていますし、それも最悪の状況下で最高指導者にされた(=ババを引いた)訳ですから、余計なことを考えているゆとりなどないかも知れません。

 ――――

 また、胡錦涛は中国共産党員ながら支那事変や国共内戦といった「革命活動」を体験せずに成人した世代です。しかも共青団(共産主義青年団)という「ユース共産党」ともいうべきエリートコースを歩いてきた経歴に加え、最後にはトウ小平から次世代最高指導者へと直々に指名されています。

 サッカーでいえば、年代別の日本代表を全て不動のレギュラーとして経験してきたところで、U-20からいきなり飛び級でA代表のエースに指名されたようなものです。

 その経歴と宋平など党の元老格に可愛がられてきたという人の縁、さらに最後にはトウ小平の知遇を得て例外的に大抜擢してもらったという感激……といった環境から、胡錦涛が徹頭徹尾の「中共人」であることは間違いないでしょう(トウ小平による「帝王教育」も行われていたかも知れません)。中共による一党独裁制を維持することしか考えていないと思います。複数政党制という選択肢自体が胡錦涛の頭の中にはないのではないかと。

 胡錦涛が聡明かどうかはわかりません。ハプニングに見舞われた際のアドリブ能力が低いことは訪米したときに明らかとなりましたが(笑)、馬鹿かどうかはちゃんとしたブレーンを揃えて周囲を固めてやればいいので大した問題ではないと思います。それよりも、土壇場に臨んだ際に果断にして剛毅な手を打てる(例えば容赦なき武力弾圧)、という持ち味がポイントです。「中共一党独裁制の維持」には何よりもこの資質が必要ですから。

 胡錦涛の前に、トウ小平が1989年の天安門事件直後に江沢民を大抜擢した理由も、たぶんこの「果断&剛毅」にあると思います(『世界経済導報』を躊躇せずにすぐ潰したこと)。ところが実際に使ってみると江沢民は思ったほど「果断&剛毅」ではなく、改革・開放に対しても余り積極的でない。トウ小平は失望したことと思います。

 ちなみにトウ小平が趙紫陽に対し「自己批判すれば現場復帰を許す」と密書を3回送ったのはたぶん江沢民を見誤ったと気付いたこの時期ではないかと。趙紫陽は「自分は信念に基づいて行動した」として3回とも自己批判を拒否しています。……余談に流れてしまいました。



 2.(1)の思いを煎じ詰めて出てきた結論が「和諧社会」という苦肉の策ではないでしょうか。




 「中国共産党の一党独裁制を守るため」ということであれば、私も同じ考えです。構造改革しなければ立ち行かなくなるほど悪化した社会状況、別のいい方をすれば30年近くに及ぶ改革開放政策が生み出し、また社会の隅々にまで根を張った「負の部分」を改善することで一党独裁体制の維持を図る、ということです。

 御指摘の通り、そのために出てきた胡錦涛オリジナルの指導理論が「科学的発展観」「和諧社会」です。

 ただこれはオリジナルといっても他に選択肢がなかったというだけのことで、この時期に「ババを引いた」指導者であれば、「中共人」を優先する限り胡錦涛でなくても同じ考え方に行き着いただろうと思います。

 「苦肉」というならば、その「苦」とは「他に選択肢のない追い詰められた状況」といったところでしょう。



 3.前世代の指導者たちは、事の理非で決着がつかない時は、死を以って勝敗を決するという覚悟(狂気)がありましたが、現在の指導者たちにはその覚悟はないはずです。なにしろ持ち物が多すぎてあれもこれも捨てたくないというのが本音でしょう(お互いに)。となれば、極端な例(抜け駆けや独り占め)は排除するが、出来れば権力内部においても「和諧社会」の実現が望ましいと考えているのではないでしょうか。




 この項については御質問の意味がちょっとわからないので(愚鈍ですみませんm(__)m)、僭越ながらこちらで勝手に話を進めることにします。

 中国では第一世代(毛沢東)、第二世代(トウ小平)、第三世代(江沢民)、第四世代(胡錦涛)という区分けをしているようですから、「前世代の指導者たち」というのは毛沢東時代およびトウ小平時代という前提で考えてみます。

 毛沢東を筆頭とする第一世代は民度の低さを反映した政治運動と、それに名を借りた純度の高い権力闘争に終始した時代でした。正しく倒すか倒されるかの時代です。これが第二世代、総書記でいえば胡燿邦・趙紫陽の時代に入ると、権力を争うというより政策論争(特に経済政策)の色彩が濃くなります。

「今度はこういう政策を試してみよう。上手く行く筈だ」
「しかし、それは社会主義の理論から逸脱しすぎているのではないか?」

 という「改革派vs保守派」ですね。それでも百戦錬磨の革命元老たちが健在な時期でしたから、負ければ失脚は必定、という厳しさがありました。

 ――――

 ここまでが政争としてはまだマトモだった時代です。争奪戦の対象が権力の座や経済政策の主導権で、あくまでも利権(権力を得て自分の懐を潤す)ではありませんでしたから。なぜかといえばそこは単純明快で、第一世代・第二世代の時代には国民に餓死者が出るほど貧乏で、利権らしいものなどまるでなかったからです。

 特に第二世代の時代はまだ改革・開放政策が大前提ではなく、それ自体がまだ手探りの模索状態だったということもあって、儲け話などはそうそうありませんでした。

 愛人を囲えるとか豪邸に住めるとか豪華な料理を食べられるとか特別席の切符を手配できるとか顔パスが効くとか、特権といってもせいぜいその程度で、利権でため込んだ財産を海外の口座に置いておく、という機会がちらほらと出てくるのは1980年代末期のことです。

 そして、江沢民時代、つまり第三世代から前述した改革・開放政策の「負の部分」、つまり利権をめぐるあれこれが本格化し、甘い汁を吸った側が既得権益者としてその地盤を固めていきます。

 まずは「上海閥」「広東閥」といった地方ごとの「諸侯」や、親が元老ということで大事にされ出世も早い「太子党」(二世組)、さらに軍内部にも特定の派閥があり、役所の縦割り利権(例えば広西チワン族自治区で同時多発型農村暴動を起こした「計画出産利権」)なんてものまであります。

 外部によるチェック機関を持たない一党独裁制ですから、汚職や腐敗の程度や規模それに蔓延ぶりは日本や欧米の比ではありません。全国各地において、権力を手にした者がその分際相応の利権で自らやその親類縁者の懐を潤していくのです。

 こうした既得権益層をぶっ潰せ、というのが胡錦涛の構造改革であり、構造改革のために持ち出してきたのが「科学的発展観」と「和諧社会」(調和社会)。それをたっぷりと盛り込んだ「十七大」の胡錦涛報告は、私にいわせれば「既得権益層への果たし状」(ただしかなり薄味w)です。

 ところが敵視すべき既得権益層は党中央にも地方にも、さらには政府内部の各部門から特定の業界にまで存在していますから難渋することになります。

 ――――

 日本の新聞でも見方が分かれていましたが、「科学的発展観」というのは「発展」の2文字が示すように「まずは成長ありき」という考え方だと私は思います。

 「成長至上主義を修正へ」といったタイトルが紙面を飾るのでわかりにくくなってしまうのでしょうが、成長を二の次にするのではありません。現在行われている粗放で効率無視(需要のないハコもの建設や開発区の乱立や環境汚染の黙認や土地の強制収用)の「成長率至上主義」を改めようというのです。

 それに取って代わるのが、民生や環境保護といった制約を設け、同時に投資効率や消費エネルギー効率を重視するという、粗放ではない実のある形での「持続的・安定的成長」(=経済のソフトランディング)ではないかと。

 それによって様々な格差や不条理を国民の許容範囲内へとできるだけ改善していくというのが「和諧社会の構築」ということになります。

 「成長・発展」という言葉の定義を大転換させるもの。

 と考えればわかりやすいかも知れません。胡錦涛が「十七大」初日の政治報告の中でも重要な一項として掲げた「経済発展の方式を転換する」という表現がそれに当たるように思います。

 これは、確かに正論です。また上述したように、中共一党独裁体制を維持するつもりなら、現時点でとり得る唯一の選択肢だろうと思います。

 ただし、政治・経済・社会の各面にあまねく存在する既得権益層が江沢民時代を経て足元を固めてしまっている現在、この政策が骨抜きにされることなくどこまで徹底できるかは甚だ疑問です。

 「十七大」から喩えを引くとすれば、党中央政治局委員以上の人事、特に中国の実質的な最高意思決定機関である党中央政治局常務委員の顔ぶれが胡錦涛にとっての「妥協人事」になれば(そうなる可能性が高そうですが)、「科学的発展観」と「和諧社会」という錦の御旗は今後も高々と掲げられるとしても、実質的には寝言に終わるでしょう。

 胡錦涛サイドは現在、基本的には政治の主導権を握っているように思えますけど、「強権政治・準戦時体制下で構造改革を断行」するだけの力量に達しているとは到底思えないからです。

 ――――

 だからといって、指導部人事が胡錦涛サイド、主に出身母体を同じくする「団派」(共青団人脈)で独占されれば上手くいくか、と問われれば、私は悲観的な回答しかできません。

 「団派」の天下になればなったで、とりあえず既得権益層潰しが行われたあと、今度は「団派」が既得権益層として君臨するまでのことではないかと思うからです。




コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
転属 (参謀本部作戦課)
2007-10-18 09:10:16
御家人様:
早速のご回答、感謝致します。
3につきましては言葉遊びが過ぎたようです(お恥ずかしい)。私事で大変恐縮ですが、四年の香港勤務を
終え、市ヶ谷台転属を拝命致しました。残務処理等で
バタバタして居ります。「言わんとするとこ」後日補充説明をさせて頂きます。ご容赦下さい。
余談を少しだけ。「棺おけを用意しておけ」と悲壮な決意をもって改革に臨んだ二胡の名手朱鎔基、まだ生きているんですね。驚きました(笑)。まあ、こんなもんですね。
 
 
 
曽慶紅引退へ (町方同心)
2007-10-18 23:00:17
失礼します。時事が曽慶紅引退へと流していますよ。何ヶ月か前に、「温家宝、嫌気がさして引退」との観測を流した前科もありますから蓋を明けるまでわかりませんけど(共同だったですかね。忘れました)。
 
 
 
戯言(ざれごと)を (のんの)
2007-10-19 02:27:38
1930年代の日本の政治と比較してみました。
①カリスマの引退
 日本では実質的に政治をコントロールしていた  
 「元老」がいなくなりました。
②エリートが現われる
 明治維新の世代がリタイアして
 帝大、陸大、海大出身者が国家の中心になった。
 この人たちが「新官僚」「軍部」として戦争へと
③政治の腐敗と地方の貧困
 今はまだ一応景気が拡大していますが、
 五輪後の後退期には貧困層に一番影響が(ry
④外患
 中共サイドから見れば軍事的・経済的に包囲網を脹 れれているという認識だと思います。

結論は御家人とほぼ同じかなと思いますが、
直接的に、あるいは間接的にかの軍部の台頭です。

不況、経済的矛盾から天安門と似たような状況。
台湾海峡の緊張。
などの事態に至った場合、国内を収拾できるのは軍部
(人民解放軍)だけとなるのでは?
そうなると日本にとっては最悪のシナリオですね。

 
 
 
失礼をいたしました (のんの)
2007-10-19 02:56:12
先ほどコメント中、
御家人さんに対して呼び捨てをしてしまいました。

御免なさいデス。
陳謝。
 
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