日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





シリーズ:チベット弾圧2008【1】へ)


 前回はタイトルに「チベット」を掲げておきながら、中国共産党による一党独裁政権の行動原理に関する話題で終始してしまいました。

 むろん、意識してのことであります。最初に根っこを押さえておけば、国内及び国際社会に対する中国当局の出方などについて、ある程度見通しが立つ(私見ですが)のではないか、ということが第一の理由。

 もっとも、素人の考えていることですからアテにはなりません。とはいえ仮に見通しが外れたとしても、それはそれで中国の現状を反映した変化として得るものがある筈です。

 もう一点は、いまなお現在進行形である今回の事件が恰好のケース・スタディになると考えたからに他なりません。

 ざっくりとした言い方をすれば、三十代前半までの世代は、1989年の天安門事件(六四事件)について、どういう事態が進行しているのかを認識しつつリアルタイムで体験していない人が大半といっていいかと思います。要するに中共政権が牙を剥いたシーン、返り血を浴びながら「悪者」認定した相手に対し徹底した武力弾圧を断行する場面に出くわしてはいないのです。

 なるほどここ数年だけをみても、農村暴動や都市暴動といった小規模な官民衝突が頻発してはいます(当ブログでもたくさん紹介してきましたね)。しかし国際社会を揺るがすような、外国から「待った」がかかるような規模と内容を持ち合わせた深刻な事態というのは天安門事件以降であれば今回が初めてといっていいでしょう。

 私たちにとっては、こうした事態に出くわしたとき中共政権がどういう行動をとるかということを、血しぶきの凄惨さとともにしっかりと胸に刻み込む、またとない機会ということです。自らの対中認識をより正しいものにするための、そしてその改められた認識を足場に今後中国とどう付き合っていくべきかを考えるための教材ということになります。

 ……などと、素人が偉そうに生意気言って申し訳ありません。m(__)m

 ――――

 さて肝腎の事態についてですが、これは日本のマスコミもたくさん報道していますから皆さん御存知の通り。事件の焦点が「チベット自治区」という地名から「チベット人」へと転化しつつあるといった印象です。

 これまた日本でも大きく報じられていますが、抗議活動はチベット自治区にとどまらず、チベット人がまとまって居住している地区を持つ青海省、四川省、甘粛省へと飛び火しています(地図)。状況がさらに拡大するのかどうかは未知数ですが、チベット仏教に中共政権が容喙することへの反発、さらに一種の同化政策を強要してくる当局=漢族への反感といった積年の怒りと恨みがチベット人たちを行動へと衝き動かしているといっていいでしょう。

 東京やニューヨークほか海外各地でもチベット人による本来の抗議行動、そして中共政権による武力弾圧を指弾する活動が行われており、日米はじめ各国政府から事態を憂慮する声が挙がっています。そうした国際社会からの呼びかけに対し中国当局がどう反応するかについては前回書いた通りです。

 具体的には
「一連の事件はチベットの分離・独立を狙い中国の安定を揺るがすためにダライ・ラマ集団が計画的に準備し実行に移したもの」と中共政権は位置づけており、一貫して非暴力を唱え続けてきたダライ・ラマ十四世を頂点とするチベット亡命政府と真っ向から対立する構図となっています。

 善か悪かといえば悪。白か黒かといえば黒。となれば中共は全力を挙げてその「敵対勢力」を根絶やしにかかることになる訳で、実際に容赦のない武力弾圧が行われています。さらに報道管制と外部者の立ち入り規制を実施して現場に「結界」を張り巡らし、残党掃討と印象操作・情報操作を展開中。

 一方で党組織を軸にした思想統制、政治教育といったものが開始されているようです。それによって地元のチベット人を「洗脳」できるとは当局も考えていないでしょうが、いうなれば武力をチラつかせつつ当局側への帰順を強要する儀式のようなもの。天安門事件後にも同じことが行われました。

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 これとは別に、当局は中国全土を対象にした「結界」も張っている模様です。とりあえず国内メディアが報じていいのは当局発表のみ。一方でYouTubeにアクセスできなくなったり、中国国内の動画サイトへの規制が強化されたり、事件に言及しているブログが削除されたりしています。「当局発表」の内容は、

「死者10名。暴徒はすでに鎮圧。現在掃討作戦中」

 といった当初の簡潔なものから、いまは現場となったチベット自治区・ラサ市の住民が「ダライ・ラマ集団」によって如何に悲惨な目に遭わされたかを切々かつ延々と垂れ流すものに重点が移りつつあるようです。

「暴徒化したグループにフルボッコにされた」
「店を焼かれた」
「商品を略奪された」
「怖くて外出できない」

 ……といった内容のものが、現地の「市民の声」や「現場ルポ」などという形式(全て官製)で中国国内メディアからどんどん発信されています。

 これも形を変えた思想統制とか政治教育といえるかと思いますが、いかに愚民教育を施してきたとはいえ、それが通用するほど都市部住民は馬鹿ではありません。当局もそれは先刻承知でしょうから、その実効よりもお上による「勝利宣言」というメッセージ性に重きが置かれているように思います。

 いやしかし……と続けたいところですが、その前にちょっと昔話をさせて頂きます。

 ――――

 1989年のことです。天安門事件(6月4日)にまつわる騒ぎが一段落して、夏休みをはさんで大学が新学期を迎えた9月あたりから、やはり中国全土に「結界」が張られました。

 私のいた上海の大学の場合、留学生には何事もなかったものの、中国人学生と教師に対しては政治教育が徹底して行われる一方、「革命歌合唱コンクール」のような不毛なイベントが学内でしばしば開かれたものです。当然ながら士気が振るわないために、参加者にはシャツが支給されるといったニンジンがぶら下げられたりしました。

 事件直後のまだ殺気立っている時期(~6月中旬)、今回の事件におけるちょうど今ごろから一週間後あたりには、当局に都合良く編集された映像番組、

「事件真相」(天安門事件の真相)

 が繰り返しテレビで流されました。「反革命分子」(民主化を求める学生・知識人やそれを支援する市民)が如何に悪辣で国内の治安を乱し、秩序を回復しようとした「正義の軍隊」に激しく抵抗したか、また兵士たちが自らの損害を顧みず勇敢に立派に任務を完遂したかをくどくどしく強調した内容のものです。今回の「当局発表」はこの形式を踏襲している訳です。

 とはいえ当時の都市部住民も、それまで民主化運動の盛り上がりを目の当たりにしてきたのですから、もちろんこの「事件真相」を額面通り受け取るほど愚鈍ではありません。

 私と付き合いのあった庶民の家庭、天安門事件を報じた香港の新聞を持っていったら「繁体字が読めない」と言われて音読させられたりしたのですが、それでもこの「事件真相」には一家揃って怒り心頭の呈。ただ当時のことですから文革のような苛烈な政治運動の再来を心配していました(あのころの庶民の方が民度が高かったかも知れません)。

 軍隊の入った北京と違って、天安門事件に激怒して街が無政府状態と化していた上海の市民に対して、この「事件真相」は「当局の勝利宣言」というニュアンスは十分伝わったものの、それによって思想統制どころか逆に怒りの火に油を注ぐような形となりました。

 ――――

 ……以前にも書いたことがあるかと思いますが、どうにも収拾がつかないのですでに郊外に展開していた軍隊を上海市内へ入れて戒厳令を敷こうと考えていた党中央に対し、独り抵抗したのが当時市長だった朱鎔基です。

 朱鎔基は市民を鎮静化させるべく、テレビ演説を行いました。あの朴訥たる風貌そのままに、カメラに向かって訥々と語りかけたのです。いまでも語り草となっているのは、その演説も佳境を迎えたところで、

「事件の真相は、歴史が明らかにしてくれる」

 という、政治的に実に際どい一節を口にしたことです。「事件真相」の垂れ流しに飽き飽きしていた上海市民には、朱鎔基のその言葉の真意が、

「天安門事件の被害者たちが名誉回復される日がいつか必ず来る」

 であることはすぐ伝わりました。

 後日,朱鎔基はこの発言を保守派に攻撃されて実際に失脚しかかったそうですが、政治生命を賭けた至誠といっていいこの一言が効いて上海は秩序を回復し、最悪の事態を回避することになります。朱鎔基が「中国のゴルバチョフ」と呼ばれるようになったのもこのときからです。

 ――――

 ……余談終了。今回の事件に際して中国当局の講じた一連の「善後措置」が実は昔のまんま、要するに中共政権の伝統を踏んだ形だということを言いたかっただけです。当時の上海市民に比べれば、現地のチベット人は「少数民族」であるだけに、「結界」に閉じ込められて政治的引き締めが強化されるなか、無念さとやるせなさが募っていることと思います。

 もっとも、一方で中国全土に対して張られた「結界」については、意外と今回は一定の効果をあげることになるかも知れません。「悪者」がマイノリティーだからです。漢民族にとっては共感できる部分に乏しい異民族であるチベット人の中の「ダライ・ラマ集団」に「敵」が限定されているため、

「五輪を控えたこの時期を狙って分離独立などという不埒な騒ぎを起こす許し難い連中」

 ということで、素直に受け入れられてしまう可能性があります。話が分離独立となれば、持ち前の中華思想を刺激されもするでしょう。何たって相手は異民族であり、その中の反政府分子ですから。

 実は、香港紙である『東方日報』(2月16日付)があろうことか「この時期を狙って分離独立などという不埒な騒ぎを……」という論調をつい張ってしまったのです(笑)。

 香港人は世論調査をすれば最低でも7割が「台湾独立に反対」と回答しますから、チベット独立などとんでもない、という気分はあるでしょう。それにしても、香港が中国に返還されてから露骨な親中路線へと転じているとはいえ、『東方日報』は親中紙(『香港文匯報』『大公報』など中共政権の広報紙)ではないのです。

 香港人の民度、そして社会の中堅以上の世代には天安門事件の記憶が残っていることから、『東方日報』のこの論調は忌避されたのかも知れません。同紙は翌17日付(今日)の紙面では鮮やかに旗色を変えて「良識路線」へと転じています(笑)。

「流血の弾圧を肯定するようなスタンスはいかがなものか」

 との苦情が編集部に殺到したのでしょうか。まあ同紙に限らず、何事にもえげつなく節操がないのが香港紙の特徴ではあります。……などと言っていないで本題に入りましょう。

 ――――

 今回の事件、仮にチベット人が事前に計画を練った上で仕掛けたものであれば、時機としては一応、的を得ています。

 ●ラサにおいて抗議運動が開始された3月10日は、中共政権に対するチベット人蹶起(1959年)の記念日であり、チベット人の共感を呼びやすい。
 ●北京五輪を控えた時期だけに、中共政権も国際社会におけるイメージを意識しなければならないから迂闊なことはできない。
 ●全人代(全国人民代表大会=なんちゃって国会)が開催中であり、ラサ市のトップはもちろん、チベット自治区のお偉方も北京に出かけていて留守。

 ……つまり民族の記念日、北京五輪の年、さらに全人代による地元当局における権力の空白期という3点を衝いた、ということになります。ただし、当局側も同じことを考えて警戒を強化していたことも想像に難くありません。チベット人が行動に移るのを手ぐすねを引いて待っていたかも知れない、ということです。

「適度に暴れさせておいてから徹底的に武力弾圧」

 という生贄込みの待ち伏せシナリオが用意されていたとは考えにくいのですが、当局は今回の事件に際し、初動から立ち後れたということはないように思います。

 3月10日から開始されたチベット人による抗議活動に対し、当局は翌11日、外交部報道官定例記者会見においてラサで騒ぎが起きていることに言及し、その活動が
「ダライ・ラマ集団によるもの」と早くも決めつけています。

 決めつけている以上、国際社会に対する中共政権の肚はこの時点で据わっていたといえるでしょう。国際世論に先手を打つ意図があったのかどうかはともかく、発表は対外的な窓口である外交部によって行われています。外交部という中央政府部門からの発表であることから、この時点で事件を一地方ではなく国家的なものとして扱っている、と判断していいのかは迷うところです。

 いずれにせよ肚を据えてかかっているのですから、現地の治安部隊もこの時点で準備していたものと思われます。それなのに大規模な官民衝突となってしまったというのは、「敵情」が治安当局の予想を遥かに上回る強力なものだった、ということなのでしょうか。

 ●「新華網」(新華網 2008/03/11/19:28)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-03/11/content_7767459.htm


「下」に続く)




コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
チベット大虐殺を止めさせるために (news4vip)
2008-03-18 00:39:02
■□■ チベット大虐殺を止めさせるために ■□■
おまえら、何か行動を起こせ。
「どうせ、俺には何も出来ない」、と、あきらめるな。

  ■□世界に向けてメッセージを
  ttp://www.geocities.jp/saveeastturk/vip118230.jpg
  例えば、あのアルジャジーラにも掲載された『トルキスタン問題』の英訳付きの画像を
  全世界の画像掲示板に貼り付ける事だけでも、十分な支援効果は得られる

  ■□チベット問題を広く知ってもらうために
  『妻、娘、尼僧たちは繰り返し強姦されまくった。
  『特に尊敬されている僧たちは狙いうちされ、尼僧と性交を強いられたりもした。  
  『あくまでも拒否した僧のある者は腕を叩き切られ、「仏陀に腕を返してもらえ」と嘲笑された。
  民族浄化とは、こういう事を言う。声を上げなければ次は日本・台湾だ。対岸の火事じゃぁない。
  ttp://sv2.st-kamomo.com/hello/dat/ufa29409.43460.jpg
  ttp://www12.axfc.net/uploader/18/so/Ne_14627.zip.html

  ■□トップ絵を変えさせて注目を
  ttp://homepage3.nifty.com/maezou/img-box/img20080317185018.jpg  
  この画像を見れば、この問題の『何か』を共有できるはずだ。
    一人でも多く、この画像を見てもらうよう広めてもらいたい。

一人一人が出来ることは、ディスプレイの前にいてもある。
チベットの問題を解決するのは、九条でも、平和団体でも、ピースウォークでもない。

『世界中の人々が、現実を知り、現実を共有し、現実を直視する事』だ。
インターネットはそのためにある。コピペで救える命がある。

■□■ A.C. 公共コピペ機構
 
 
 
共産党の実態が見えたはずだ (uchujin)
2008-03-18 09:15:10
トインビーはとうの昔にこの実態を見抜いていたのだ。この現代に亡霊のごとく中国共産党の存在に世界はびっくりしている。13億の民をコントロールするのならお好きなように済むが、他民族を我が物とする手法は誰も認めるはずもなかろう。

台湾も尖閣列島も、この手法で、準備相整ったと見て、その国家の危機管理を考えなければなりますまい。http://members.jcom.home.ne.jp/ochozt-t/ikihtm/Comyunist.htm
 
 
 
チベット三州 (sakuya)
2008-03-18 20:08:41
> 抗議活動はチベット自治区にとどまらず、チベット人がまとまって居住している地区を持つ青海省、四川省、甘粛省へと飛び火

つまりアムド、カムを含む、チベット人の考えるチベット全土で起きてるのですね。
 
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