何度も書いていますが私は仕事上の必要から生活のリズムが普通の人と正反対の完全夜型です。寝て起きてみたら北朝鮮の核実験で大騒ぎになっているので驚きました。
それはともかく、安倍首相の訪中について思うままに書き散らしてみることにします。
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まずはざっくりとした印象として、安倍首相にとっては及第点を大きく上回る良い内容だったように私は思います。日本側の報道によると、胡錦涛・国家主席から、
「拉致問題について理解し、協力していく」
という言質まで引き出したそうですが、事実なら随分踏み込めたものだと思います。
●胡主席「拉致問題には協力」…安倍首相との会談で(読売新聞 2006/10/08/22:12)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20061008ia21.htm
発表されたコミュニケをみる限り、台湾問題についても中共政権のいう「日中間で取り交わされた3つの政治文書」(日中共同声明、日中平和友好条約、日中共同宣言)に沿うと明記されていますから、日台関係が影響を受けることはありません。
http://news.xinhuanet.com/politics/2006-10/08/content_5177472.htm
ただ今回の日中首脳会談が「及第点を大きく上回る良い内容」になったのは標題に挙げているように、小泉前首相が対中外交における「構造改革」のレールを敷いたから、というのが第一の要因ではないでしょうか。
対中外交の構造改革とは、麻生外相の言を借りるなら「上下関係のない、対等な二国間関係」の構築です。
●経済制裁。・上(2006/03/25)
●構造改革。・上(2006/03/28)
香港紙や中国国内メディアをみていると「破氷之旅」「和解之旅」などとまるで日本側が頭を下げに行ったような言葉ばかり出てきますが、さすがに面子を重んじるお国柄ですね。自分が日本の上に立つ構図でないと気が済まない。
……そういう従来型の「朝貢外交」を小泉さんがぶっ壊しにかかり、半ばぶっ壊れた新しい環境の上で行われたのが今回の日中首脳会談だと私は考えています。
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日本のテレビや新聞では、
「小泉前首相の靖国神社参拝により悪化した日中関係は……」
という言い方がなされますが、これは全くの誤り。正しくは、
「小泉前首相の靖国神社参拝に対し中国が内政干渉を行ったために悪化した日中関係は……」
というべきでしょう。その証拠に、中共政権には靖国神社やA級戦犯を云々する資格や根拠が何もありません。それは今年の「八・一五参拝」に対し中国外交部が出した声明がはからずも証明してしまっていますね。どこにも拠るべきものがないため、
「中国人民の感情を傷つけた」
「国際的正義への挑戦」
などという意味不明かつ実の伴わない修辞でごまかしています。
●八・一五靖国参拝。(2006/08/15)
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中国側がそういう行為に及んだとき、凛然として、
「内政干渉はやめろ」
と言えるようにならないと、「構造改革」が完成したとはいえません。小泉前首相が初めてそれに取り組み、安倍首相がそれを継承することになるのですが、「構造改革」はこの2代で成就できるほど容易なものではないでしょう。長い時間がかかるであろうことは、小泉前首相自身が語っています。
●10年、20年、30年。(2005/10/22)
とはいえ、今回の訪中に際し、安倍首相は「靖国神社を参拝しない」と口にすることはついにありませんでした(盧溝橋もスルーしましたし)。胡錦涛および温家宝・首相との会談でもその姿勢を崩さずに通しましたね。香港各紙はいずれもこの点を指摘して「だから前途はまだ不透明、ぬか喜びは禁物」みたいなことを書いていましたが、私は胡錦涛はラッキーだなと思いました。
いま中国では胡錦涛サイドが政治の主導権を握り、しかも政敵サイドとの得点差をどんどん拡大しつつあるので何事もなく済んだものの、
「靖国神社に参拝しないと表明すれば首脳会談に応じる用意がある」
と半年ばかり前に日本の媚中派を集めて高らかに宣言するといった学芸会イベントを開いたのはどこの誰でしたっけ?
それを食言だと責められないのは胡錦涛の政権基盤が確固たるものになりつつあるからでしょう。党の重要会議である「六中全会」(党第16期中央委員会第6次全体会議)の初日に日中首脳会談を行えるほど余裕がある状況なのです。
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『人民日報』の評論が「小泉の『負の遺産』」という表現を使っていましたが、これは逆でしょう。小泉前首相が対中関係において莫大な遺産を残してくれた一方、中国では胡錦涛が「江沢民の『負の遺産』」という呪縛、具体的には「靖国」という踏み絵から自由になったから現実的・実務的・合理的といった胡錦涛本来の「地」を出せるようになったのだと思います。
http://news.sina.com.cn/w/pl/2006-10-08/120111180649.shtml
それゆえに中国側も靖国問題などをしつこく切り出すことなく、近年では珍しいイデオロギー色の薄い姿勢を貫きました。胡錦涛についていえば、権力闘争で勝利しつつあるだけでなく、貪官汚吏の象徴として上海閥の有力者・陳良宇のクビを飛ばし、庶民の喝采を浴びたばかりというタイミングの良さもありましたね。
対する安倍首相は日本国内で圧倒的な支持率を誇っています。双方とも国内政治で自由に切り盛りできる環境がそれなりに整っていたために、つまらない前口上の応酬に時間を費やさずに済んだともいえるのではないでしょうか。
ただ、これで歴史問題や靖国問題を中国がチャラにした訳ではもちろんありません。ですから「10年、20年、30年」なのです。
ちなみにこのお粗末な『人民日報』の評論では今回の安倍首相訪中が「負の遺産」を清算したとし、また最初の外遊先を中国・韓国にしたということでアジア重視の公約を実現してみせたと評価しています。このあたりはさすがに面子優先のお国柄ですね。
余談ながら、この「面子」をさり気なく意地悪ににくすぐってみせたのが麻生外相でした(笑)。
●ファンタジスタ。・上(2005/11/04)
米国訪問を第一としなくてもいい強い信頼関係が日米間に成立しているからこその「最初に中国」だと思うのですが、この評論はそれについてはスルー。またそういう環境を整えたのが他ならぬ小泉前首相であることもスルーです。スルーしたのではなく「真性」である可能性の方が高いかも知れませんけど(笑)。
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そうした感想の一方で、対中関係はここからが正念場だな、という印象も残りました。
振り返ってみれば、2004年9月の胡錦涛政権発足以来、対日外交では中国が常に後手に回るといった状態が続いてきました。これも小泉前首相の歴代首相にない強腰が第一の原因でしょうが、中国指導部の意思不統一が日本に得点を稼がせていた側面もあります。
対日外交をはじめ諸政策について、当ブログのいう「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟同盟)と「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)が、いずれも相手をKOできるだけの決定力を持たない足の引っ張り合いをして時間を浪費してきたということです。
前述したように、また過去にも書いていますが、私の目に映る胡錦涛の対日路線は「現実的・実務的・合理的」です。一方の「反胡連合」はといえば、その主軸である上海閥の頂点に立つ江沢民が、
「日本に対してはあくまでも歴史問題を言い立てろ」
と指示していたと『江沢民文選』にあるように、反日イデオロギー優先の強硬姿勢。これを振りかざせば当時の日本はペコペコしてくれましたし、進出してくる日系企業にも必要ならこの理屈を前面に押し出して高圧的な姿勢をとることで利権にありつくこともできました。
現在はその江沢民路線が通用する環境が失われつつあり、一方で「擁胡同盟」が権力闘争で大勝する状況が現出したこともあって、指導部の意思不統一が解消され、「現実的・実務的・合理的」の胡錦涛路線に一本化されている模様です。
「大勝」の程度は「六中全会」での人事で見きわめられるでしょうが、ともかく意思統一されたということは、中共政権が対日外交について腰を据えて臨める環境がようやく整った、ということでもあります。それゆえ「ここからが正念場だな」となる訳です。
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最後にひとこと。首脳会談の実現を日本の財界は喜んでいるでしょうが、これを受けて日本で対中ビジネスが再び盛り上がるかどうかは疑問です。
投資環境が以前の「やりたい放題」に比べれば人件費の上昇や環境汚染規制といった要因が加わってかなり敷居の高いものになっている一方、東南アジアやインドといった代替国の台頭があるからです。
あの国益なんか全く無視して自分のところの銭勘定しか考えないユニクロも生産ラインのかなりの部分を中国から東南アジアへとシフトさせていますね。……この、
「代替国があるかないか」
は今後の日中関係を左右する重要な要素のひとつになると思います。
他方、消費市場としての旨味がどれほどかは業種によりますが、とりあえず「13億の巨大市場」が幻想であることは確かですね(笑)。政情不安や経済運営の失敗、社会状況の悪化というリスクも常につきまといます。政情は「擁胡同盟」の勝利で落ち着きそうな気配ですが、上半期のオーバーペースをどうコントロールしていくかは未知数。
私からみると中国は政治でも経済でも常に極端から極端へとふれることを繰り返すばかりで「ほどよさ」というものがない。……つまり、
「何をやっても『大躍進』」
という印象があり、深刻な失業問題などもあるため、経済を「適度に減速しつつ軟着陸させ安定成長」というシナリオは空論ではないかとどうしても考えてしまいます。
大丈夫、心配しなくても絶対ひと騒ぎありますって(笑)。恐らく経済は極端へとふれてハードランディングし、今度は「擁胡同盟」の中で政治的にひと揺れありそうな。……それに一党独裁体制が枝葉から立ち腐れていくような……実はすでに腐り始めているのですが。……まあ下衆の勘繰りですし別の主題になってしまうので、このあたりでやめておきましょう(笑)。
まあ、向こうは一党独裁体制で「自由」や「民主」や「人権」のカケラもない前近代的な基地外国家であり、本質的に北朝鮮と何ら変わらないことは覚えておきましょう。マトモに付き合ったらこっちが損しますから。
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政権変わればいくらでも以前のことは覆すでしょうからw
安倍政権としても政権安定のために今回の訪中は願ったり叶ったりでしょうし、まぁお互い様だったんでしょうね。
少なくとも胡錦涛さんの時は、これで反日も少々止むでしょう。
あちらが日本に用事があるのは、技術はもちろんのこと、北京折ピック後どのくらいで訪れるかはわかりませんが、経済不況に陥った時に日本からの援助が必要になるのは明白です。
できれば安倍さんには早く政権を安定させて、せめて南京大虐殺記念館に展示してある、明らかに捏造・歪曲の写真を外させて欲しい。
反日教育を止めさせることができれば満点ですけどね。
今の自民党が保守本流に走るには、参院選がポイントです。いかに自民党の議席を増やせるか。それによって公明党の発言力を減らすことができるのです。
しかし・・・実際問題難しそうですけどね(^^;;
中共の特性を存分に発揮して、汚職役人と共産党員は全て死刑とかして(ついで喧嘩両成敗でその対象になった人民も)まず半分に人口減らさないと。。。(当然イスラエルのナチ狩りと同じく、国外逃亡も同罪です)
昔、飢饉を生んだのはバッタですが、今は(世界を蝕むのは)人民バッタと党員バッタデスカラ(笑)。
こんなに早く中国と韓国に訪問して大丈夫なんだろうか?と思ったら、北があわせてきたのか、たまたますべりこみのスケジュールだったのかわかりませんが、このひとが就任して1ヶ月も経たないうちに事態が、どんどん動く動く。
国内の矛盾を外にむけるための「反日」を使えなくなった中国が、自分のとこよりもひどい国もあるってんで北朝鮮占領なんてことないもんかと思ってます。
ところで御家人さんに質問があります。
「靖国」でプンプンする中国人民。「中国」って国号略されてあちらの人民さんのこころは傷つかないんでしょうか?
自分は、「日国」とか略された日には、むかっ腹がたちます。
小泉時代=会談拒否 安部時代=即効会談
って辺りに「流石は人治国家」とあきれてましたが
御家人さんのコメントで少々溜飲が下がりました。
・・・しかし、それにしても某国営放送の報道はうっとおしい限りです。
>マトモに付き合ったらこっちが損しますから。
全くです。
中国を工場として割り切るか、市場として割り切るか…
ユニク□も、やっと答えがでたのかも?
>>「中国」って国号略されてあちらの人民さんのこころは傷つかないんでしょうか?
>> 自分は、「日国」とか略された日には、むかっ腹がたちます。
一日本人から見て心外なのは、「中国」という略称を使ったゴマカシです。
「日本は先の大戦で『中国』と戦った」という。
が、この『中国』は『中華民国』であって、現政権『中華人民共和国』ではない。
ここで「中国」という略称にゴマカされるワケです。
正確を期して「日本は先の大戦で『中華民国』と戦いました」と国号を使えば、「ええ?」と認識を新たにする人は多いと思います。
「日本」という国号の場合は、中国(シナ)とは事情が正反対で、終始一貫、この日本ですが…。
(「日国」と略しても、この事情は不変)
http://my.shadow-city.jp/?eid=255736
↑のを読むと胡錦濤が国家運営の主導権を握って現実路線にシフトしたと言っても、やっぱり本音は日本に譲歩するのが相当悔しいんだろうな、という気はします
一々、こんな事を遠回しに言うあたり、実に憎たらしいw
「なかつくに」の意の尊称と思います。
中共的には、中華民国(1911~)の一部として共産党があり 1949年に
中華民国を継承して中華人民共和国が建国されたという立場です。
(だから国連で「中華民国」の席に座る。)
なので、日本が戦ったのは、中華民国内の蒋介石率いる国民党を自称する
軍事集団と言わないといけません。日本が承認していたのは汪兆銘政権ですし。
坂井三郎元エースパイロットが零戦について語ります
http://www.youtube.com/watch?v=CmgAgjIiaaw
紫電改がお好きなら書籍「源田の剣」もお勧めです。
零戦関連なら、最強撃墜王 零戦トップエース西澤廣義の生涯
いや、日本国を略するときは日本でしょう。
「中国何千年の歴史」とか、なんだか「中国」という国がずっと存在していたかのような錯覚・誤解を起こさせます。
やはり「シナ」を復活してもらわないと。
コキントウは確かに動きやすい状況なのだと感じたりします。しかし何と言うか一党独裁体制という力だけで統制することができない状況というのがはっきりしてきたことが面白いなと思ったりします。
対外開放による経済発展とそれによる国全体の近代化を夢見ていた20年以上前、成し遂げるべき目標は汚職と権力の分散でめちゃくちゃ偏り、その偏りさえも外資、外交関係が安定していないと維持できない。
いまさら自力更生なんてお題目を引っ張り出しても致し方ないのでしょうけど、いろんな意味で変わったのだなと感じます。
http://www.sankei.co.jp/news/061012/kok006.htm
人事そのものが見送られてしまったということは、まだ「擁胡同盟」はそれほど優勢ではないということなんでしょうか?
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