Zooey's Diary

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「アメリカン・スナイパー」

2015年03月06日 | 映画


アメリカ軍で最も強い狙撃手と呼ばれた、クリス・カイルの自叙伝を実写化したドラマ。
クリント・イーストウッド監督の最新作。
アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズ所属のスナイパーであった彼は
160人もの敵を射殺して伝説の男と呼ばれるが、次第に心に傷を負って行く…

幼少時のクリスに狩猟の手ほどきをしながら、父親が言いいます。
お前は羊を守る牧羊犬たれと。
そしてクリスはその言葉を守るべく鍛錬を重ねて育ち、
家族を守るため、国を守るためにシールズの特訓にも耐え、イラク戦争に赴きます。



しかし現場はあまりにもむごい。
手榴弾やロケット砲を抱えていれば、それが10歳足らずの子どもであれ女であれ、
射殺しなければならない。
ほぼ無音楽の画面に、息遣いと銃弾の音だけがこれでもかと響く。
電気ドリルを密告者の子どもの頭に突っ込んで殺すなど残忍な敵兵が現れますが
イラク人からしてみれば、160人もの同胞を殺したクリスこそ
残酷極まりない殺人鬼でしょう。
どのみち、地獄でない戦争なんてないのでしょうから。



クリスが次第に心を病んでいくのも、当然と言えば当然のことです。
しかし、私はここで、とんでもない言葉を思い出してしまった。
朝日新聞の「銀の街から」に書かれていた澤木耕太郎氏の言葉。
"確かに戦場の惨たらしさ、帰還兵の困難さは描かれている。
しかしイーストウッドは、スナイパーという職人でもあり徹底した現場の人でも
あったカイルの半生を忠実に描いていくうちに、彼の心の底にある思いを無意識の
うちに掘り起こしてしまったのではなかったか。
その思いとは、そう、「だが戦争は楽しい」というものだ。
この映画が、アメリカ本国でイーストウッドの作品としては例のないヒットと
いうかたちで受け入れられたとすれば、それは観客がその表面には現れてこない微
かな気配に鋭く感応した結果であったように思える。
少なくとも私は、カイルが彼の言う「野蛮人」の頭や胸を正確に射貫いていくとき、
快感に似たものを覚えているのに気がつき、ハッとしたものだった。”

「だが戦争は楽しい」
聞いてはいけないものを聞いてしまった気分。
あの阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、そんな言葉を使っていいのか。
しかし、認めたくはないがそれを完全に否定できないからこそ、
クリスも帰還後、あれほど苦しんだのではないか…



クリス・カイルはこの映画の製作中に亡くなられたそうです。
実に皮肉な方法で。
画面ではそのシーンは描かれず、簡単なテロップによって語られます。
その後の完全無音のエンドロールは、イーストウッド監督の鎮魂、黙祷の
メッセージだったのでしょうね。

http://wwws.warnerbros.co.jp/americansniper/
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8 コメント

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Unknown (セレンディピティ)
2015-03-06 16:27:38
こんにちは。
敵の狙撃手との一対一の攻防戦となっていくクライマックスでは
知らず知らずのうちにカイルを応援している自分がいました。
あの狙撃手にも家庭があり、家族がいるのにね。

「ハート・ロッカー」でもこの作品と同じく、主人公の兵士が
戦争中毒のようにのめり込んでいってしまう様子が描かれていましたが
それが戦争というものの魔物でもあるのでしょうね。
あの緊張状態に麻痺してしまうと、かけがえのない平和な日常が
つまらないものに思えてしまうこともあるのかも...
そこがまた、戦争の恐ろしさでもあるのでしょうね。
返信する
Unknown (zooey)
2015-03-06 22:23:01
あの敵の狙撃手は
シリアの元オリンピック選手という設定でしたね。
ちらりと見せたあのシーンは、敵をも人間らしく描いていました。
しかしクリスも、あちら側から見たら
とんでもない殺人鬼なんですよね。

>戦争中毒のようにのめり込んでいってしまう

PTSDに苦しむ帰還兵が多い筈です。
そして、敵地であれだけ銃弾雨あられの中をかいくぐって来たクリスが
本国であんな風に殺されたというのがなんとも皮肉です。
返信する
戦争マニア (ノルウェーまだ~む)
2015-03-07 00:12:32
Zooeyさん☆
クリントイーストウッドの凄いところは、その表面に出てこない『本当に訴えたいこと』を、こっそりと、でもしっかりと内包しているところなのでしょうね。
大義の下に隠れた、「ゲームを体感できる」かのような感覚は、本人も知らないうちにいつの間にか体に沁みこんでいってしまっているのかもしれないです。
返信する
Unknown (tona)
2015-03-07 08:36:02
もうご覧になったのですね。
ヴェトナム戦争の時もそういう話がいっぱいありましたし、「ランボー」シリーズも同時に思い出しました。
「戦争は楽しい」、確かに世界史を辿っていくと、領土拡張や防戦だけではなく、この思いで戦った民族も多かったのではないかと思うほどです。特に男はそういう一面があるのではないでしょうか。ブッシュ大統領も。
返信する
まだ~むさま (zooey)
2015-03-07 22:35:24
まだ~むさんの感想を拝見して
これはどうしても観なくちゃ!と思っていたんですよ。

>大義の下に隠れた、「ゲームを体感できる」かのような感覚

それをこうしてまともに活字にされると
戸惑ってしまいます。
しかも自分が嫌いではない作家によって。
認めたくはない、という思いがあります。
返信する
tonaさま (zooey)
2015-03-07 22:39:54
そうなのですよね。
正義感と愛国心という鎧に身を固めたクリスが
しかも仲間を殺されたことの復讐という立派な名目もついて
敵を殺すほどに達成感を得ていたことは間違いないと思います。
それが高じて「楽しい」という言葉が出てくるのも不思議ではないとも言えるかと。
返信する
報告とお礼に参上しました。 (ヤマ)
2015-05-15 22:24:05
zooeyさん、こんにちは。

報告とお礼がすっかり遅くなりましたが、
先の拙サイトの更新で、
こちらの頁をいつもの直リンクに拝借しております。

昨日観た『イミテーション・ゲーム』でも、
アラン・チューリングの口から
「暴力的にふるまうと気持ちよくなるのが人間なんだ」
という言葉が一度ならず繰り返されていました。

だから…を考えたとき、
道は正反対の二手に分かれるんでしょうね。

どうもありがとうございました。
返信する
ヤマさま (zooey)
2015-05-17 18:32:31
こちらこそありがとうございます。

私もこれを観た時、「愛と青春の旅立ち」を思い出しました。
アメリカ海軍の暴力的な特訓、下品な歌も変わらないのだなあと。
ああいったことに耐えられる屈強な人間だけが海軍に入れるのに
当然のことながら、現実の戦争はそれよりうんと残酷なんですよね。

カイルが亡くなったのは
正に、この映画の製作中だったのだそうです。
なんとも皮肉ですよね…
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