藤沢周平著「奈落のおあき」(愛憎の檻 獄医立花登手控え(三)に収録、講談社)の中に「もう一度言うぜ。大橋の川下、山王社の裏だ。そこに舟が待っている。(以下略)」との一節があります。ここに登場する“山王社”は、どこの神社なのか作品の中でははっきりしないのですが、可能性の一つとしては、兜町の東京証券取引所近くに在る山王日枝神社のことではないかと思われます(古地図[1]には「山王タビ所」と描かれています)。
大橋は隅田川に架かる現在の新大橋のことで、実際の山王日枝神社の位置は、隅田川のほとりと言うよりは、日本橋川(*日本橋の下を流れている川です)がもう少しで隅田川に合流する部分のほとりに在ると言った方が正確なのですが、そうだとしても“大橋の川下”という説明には矛盾していません。また、江戸期には、山王日枝神社の裏手の日本橋川には、鎧の渡しと呼ばれる渡し舟が在ったので、その近くに舟をつないで待たせていたとしても、怪しいことは無かったように思われます。このような理由から、“山王社”は山王日枝神社のことではないかと想像しています。
兜町の山王日枝神社は、赤坂の日枝神社の摂社(本社に付属し本社に縁故の深い神をまつった神社)なのですが、本社である赤坂の日枝神社(山王神社)の方は、宮部みゆき著「凍る月」(初ものがたりに収録、新潮社)で登場しています。
[1] 大江戸大絵図、天保十四年(1843年) *人文社から復刻地図が出版されています。
山王日枝神社 東京都中央区日本橋茅場町1-6-16
東京メトロ日比谷線・東西線 茅場町駅から230m 徒歩約3分