江戸観光案内

古地図を片手に江戸の痕跡を見つけてみませんか?

山王社

2011-05-28 | まち歩き

藤沢周平著「奈落のおあき」(愛憎の檻 獄医立花登手控え(三)に収録、講談社)の中に「もう一度言うぜ。大橋の川下、山王社の裏だ。そこに舟が待っている。(以下略)」との一節があります。ここに登場する“山王社”は、どこの神社なのか作品の中でははっきりしないのですが、可能性の一つとしては、兜町の東京証券取引所近くに在る山王日枝神社のことではないかと思われます(古地図[1]には「山王タビ所」と描かれています)。


大橋は隅田川に架かる現在の新大橋のことで、実際の山王日枝神社の位置は、隅田川のほとりと言うよりは、日本橋川(*日本橋の下を流れている川です)がもう少しで隅田川に合流する部分のほとりに在ると言った方が正確なのですが、そうだとしても“大橋の川下”という説明には矛盾していません。また、江戸期には、山王日枝神社の裏手の日本橋川には、鎧の渡しと呼ばれる渡し舟が在ったので、その近くに舟をつないで待たせていたとしても、怪しいことは無かったように思われます。このような理由から、“山王社”は山王日枝神社のことではないかと想像しています。


兜町の山王日枝神社は、赤坂の日枝神社の摂社(本社に付属し本社に縁故の深い神をまつった神社)なのですが、本社である赤坂の日枝神社(山王神社)の方は、宮部みゆき著「凍る月」(初ものがたりに収録、新潮社)で登場しています。


[1] 大江戸大絵図、天保十四年(1843年) *人文社から復刻地図が出版されています。


山王日枝神社 東京都中央区日本橋茅場町1-6-16

東京メトロ日比谷線・東西線 茅場町駅から230m 徒歩約3分


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福島潟

2011-05-21 | まち歩き

前回に引き続き新発田藩編です。


福島潟は、小説「堀部安兵衛(上)」(池波正太郎著、新潮社)の中で主人公の安兵衛が友達を誘い鯉釣りに出掛けた湖沼で、池波先生の言葉を借りると、“新発田城下の南へ二里ほどのところ”に在ります[1]。小説では周囲六里となっていますが、これは昭和40年代に国策で干拓される前の姿といえるでしょう。幸いなことに面積の約半分は埋め立てられなかったため、貴重な自然が失われずに済み、多くの鳥類や動植物を育む命の宝庫が今に残りました。


福島潟は地元では昔からヒシクイという大型の雁が飛来することやオニバスという大きな蓮が生えることで知られていましたが、とりわけ観光地という存在ではありませんでした。しかし近年は自然公園としての整備が進んだため、より身近に自然に触れ合える場所として人々の憩いの場所となりました。春には湖岸を菜の花が埋め尽くします。菜の花の香る中、遠くに残雪を抱く二王子岳を眺めながらの散歩はとても爽快です。


福島潟には鷹や鷲も飛んで来ますし、冬ともなれば、それこそ白鳥なんかは、ちょっと先の瓢湖(新潟県阿賀野市水原)と同様にどっさり飛んで来ます。人の生活圏の目と鼻の先に在りながら、こんな貴重な自然に触れられる場所は全国を探してもそう在るものではありません。地元の人にとっては当たり前過ぎて、改めて意識することは無いかもしれませんが、家の真上を白鳥の大編隊が飛んで行くなんて贅沢は、決してお金では買えない貴重なものです。この豊かな自然をいつまでも残していきたいですね。


[1] 実は地理学的には、新発田城下の“南西方向”と言った方が正確です。


水の駅ビュー福島潟 新潟県新潟市北区前新田乙493

JR豊栄駅から約2.9km 徒歩約36分/タクシー約9分(駐車場在り)


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諏訪神社

2011-05-15 | まち歩き

今回は江戸を離れ、再び新発田編でお送りします。


諏訪神社は新潟県新発田市にある神社で、新発田の一の宮です。古くは城下の南、鍛冶町(現在の町名では新発田市御幸町一丁目付近と思われます)に在りましたが、元禄元年(1688年)に現在のJR新発田駅近くの地に遷座しました。旧社殿は江戸期の宝暦六年(1756年)に建てられたものでしたが、残念なことに平成十三年(2001年)に不審火により全焼。現在の社殿は平成十六年(2004年)に再建されたものです[1]。従って、歴史的建造物としての価値はほとんど有りませんが、新発田の総鎮守として新発田市民にとって大事な神様であることは今も昔も変わりは無く、“おすわさま”の愛称で新発田市民に親しまれています。


諏訪神社の門前、あるいは新発田祭といった縁日で、不定期に屋台で販売される“蒸気パン(ポッポ焼きともいう)”は新発田市民にとってはソウルフードとも言えるお菓子で、黒糖のほんのりとした甘さとふわふわの食感はなんともたまりません。縁日のお菓子のイメージが強いせいか、新発田には蒸気パンを常設で売る店が存在せず[2]、そのため、新発田市民であれば誰でも知っている味でありながら、食べたいときに常に食べられるわけでは無いという妙な希少価値のあるお菓子です。


話を元に戻すと、諏訪神社は、池波正太郎著「堀部安兵衛(上)」(新潮社)の中で少年時代の安兵衛が友達の家に向かう場面で登場しています。安兵衛が新発田を離れて江戸に出たのは諏訪神社が現在地に遷座した元禄元年、安兵衛19歳の時ですから、小説の中で少年時代の安兵衛と共に登場する諏訪神社は、鍛冶町に在った頃の諏訪神社です。また、小説の一説には、「(外ヶ輪の屋敷を出て)士町を駈け抜け、右折して諏訪神社の裏へ出たとき(以下略)」とあり、位置関係としても鍛冶町に在った頃の諏訪神社を示していることは間違いありません。新発田市民でも気付かないであろう、このような細かな描写にまで神経を使われている池波先生の筆力には、ただただ恐れ入るばかりです。


[1] 参考:諏訪神社公式サイト

[2] 最新情報(JR東日本新幹線車内誌 トランヴェール2011年5月号)によると、新潟市のあやめポッポ(新潟市中央区万代1-6-1 新潟バスセンタービル1F)で蒸気パンを常時売っていることが分りました。なんとネット販売までしています。新潟を訪問する際は是非御賞味下さい。


諏訪神社 新潟県新発田市諏訪町1-8

JR新発田駅から約350m 徒歩約4分


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海辺橋

2011-05-07 | まち歩き

深川の仙台堀に架かる橋で、春になると、この橋の上流・下流に立ち並ぶ桜並木の美しい花を堪能することが出来ます。橋を北に渡り、真っ直ぐ進むと小名木川の高橋に至り、更に北に進むと竪川の二ツ目橋(現在は二之橋)に至ります。どちらの橋も時代小説には度々登場する橋ですから、川と橋の位置関係を頭に入れておくと、時代小説を読む際に、本所・深川のイメージが膨らむのでお勧めです。

海辺橋は、池波正太郎著「冬木立」(剣客商売(九)に収録、新潮社)で登場し、その中で秋山小兵衛は海辺橋近くで正義の刀を振るい、悪を成敗するのですが、現在は北詰に交番が在るので、例え正義のためであったとしても、腕力で悪事を解決するのは難しい状況になっています。


海辺橋が登場するその他の作品

  • 藤沢周平著「消えた女 彫師伊之助捕物覚え」(「おうの」の章、新潮社)
  • 藤沢周平著「漆黒の霧の中で 彫師伊之助捕物覚え」(第三章、新潮社)
  • 藤沢周平著「ささやく河 彫師伊之助捕物覚え」(「襲撃」の章、新潮社)
  • 藤沢周平著「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」(「針の光」の章、文藝春秋)

海辺橋 東京都江東区清澄3-3-32付近

東京メトロ半蔵門線・都営大江戸線 清澄白河駅から約500m 徒歩約7分


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