江戸観光案内

古地図を片手に江戸の痕跡を見つけてみませんか?

鷲神社

2013-11-23 | まち歩き

鷲神社は、台東区千束に在る神社で、地元では「おとりさま」として親しまれています。土地勘の無い人でも、酉の市やそこで売られる縁起物の熊手で有名な神社と聞けば、新聞やニュースで目にしたことを思い出す人も多いのではないでしょうか。


毎年11月の酉の日に開かれる酉の市は、鷲神社の祭礼でもあり、古くは酉の祭(とりのまち)と呼ばれていましたが、次第に酉の市(とりのいち)と呼ばれるようになりました。酉の市の起源は、江戸時代の中頃に、鷲神社のお隣の長国寺の出開帳の日に合わせて、門前に市が立ったことに始まります。元々、鷲神社と長国寺は、明治時代に神仏分離令によって分けられるまでは、仏様と神様が同居しているのと同じ状態でしたので、酉の市の歴史は、長国寺と鷲神社両方の歴史と言えるでしょう。


酉の市の日には、鷲神社には参拝客の長蛇の列が出来ます。そして、鷲神社と長国寺の周辺には、きらびやかに飾られた大小の熊手を売る屋台が軒を連ねます。熊手の飾りは、屋台ごとに特徴があるので、眺めて歩くのも楽しいものです。熊手が売れると、半纏姿の職人さん達が、商売繁盛を記念して、一本締めを行います。その姿、その声がまた、酉の市に彩を添えています。


みをつくし料理帖(高田郁著、ハルキ文庫)の「狐の御祝儀」(八朔の雪に収録)の中では、「つる家」の主人・種市が、鷲神社の熊手を二本買い求め、一本を主人公・澪に与えます。「おとりさまからの帰り、こうやって、あたりにある福を掻き寄せて、この熊手にくっつけて来たんだぜ。だから来年はお澪坊とご寮さんに、きっと良いことがどっさりさね」と言う種市の優しさに、辛い日々を過ごしてきた澪は、思わず涙ぐみます。


鷲神社 東京都台東区千束3-18-7

東京メトロ日比谷線入谷駅から約700m 徒歩約9分


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べったら市

2013-11-09 | まち歩き

べったら漬は、大根の麹漬けの一種で、東京の名産品の一つです。同じ大根の漬物である沢庵が、大根を干してから漬け込むのに対して、べったら漬の方は、大根を干さずに漬け込みます。漬物の多くは塩っぱい味ですが、べったら漬は、ほんのり甘いのが特徴です。


「べったら市」は、毎年10月19日、20日の二日間、日本橋大伝馬町の宝田恵比寿神社周辺で開催されるお祭りで、その名の通り、べったら漬を売る、たくさんの屋台が主役です。べったら漬以外にも多くの屋台が立ち並び、その数は合わせて500軒程にもなる大きなお祭りです。オフィス街ということもあり、開催日が平日に当たる年には、会社の前にテーブルを置いたり、ブルーシートを敷いたりして、社員一同で飲んでいる姿も多く見られます。その楽しげな様子は、べったら市を訪れる人にも伝わって、さらにべったら市を楽しいものにしています。


べったら市の歴史は江戸中期に遡り、元々は10月20日に行われる恵比寿講(商家で商売繁盛を祝福して恵比寿を祀り、親類・知人を招いて祝宴を開く行事)の前日に、宝田恵比寿神社の門前にお供え物を売る市が立ったことが起源となっています。その市で、浅漬けと称して売られていたのが現在のべったら漬で、飴と麹で漬け込んでいるために、衣服に「べったり」と付いてしまうことから、「べったら漬」の名が付きました。そして、べったら漬が名物となった市の方も、「べったら市」と呼ばれるようになりました。


みをつくし料理帖(高田郁著、ハルキ文庫)の記念すべき第一作目「狐の御祝儀」(八朔の雪に収録)の中では、「つる家」の常連客・小松原が、べったら市で買ったべったら漬を手土産に、つる屋を訪れます。主人公で、上方出身の澪は、べったら漬の甘さは江戸の人々に好まれるのに、白味噌の土手鍋が嫌われるのに納得がいきません。この頃の澪は、まだ蕎麦屋である「つる家」を手伝っているにすぎず、数々の料理で人々を驚かせるようになるのは、もう少し後のことです。


宝田恵比寿神社 東京都中央区日本橋本町3-10-11

東京メトロ小伝馬町駅から約250m 徒歩約4分

JR総武快速線新日本橋駅から約200m 徒歩約3分


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