福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

南極みやげ

2007-04-15 00:12:38 | 南極

皆さんが、南極観測隊員からお土産をもらうとしたら、何が一番嬉しいですか?

私だったら、隊員の皆さんが元気で帰国し、次の活躍の場が決まっていることです。さらに、それぞれの個人的な体験談でしょうか。

逆に、皆さんが南極観測隊員だとしたら、日本で待っている大切な方々へ何をお土産にもって帰りますか?

甲子園球児のように、昭和基地の土でしょうか?それとも、露岩地帯の岩石? いやいや、隕石? ハードなものはやめて、南極のコケや地衣類でしょうか?

これらのものは、南極条約で持ち帰りが厳しく禁止されています。もちろん、学術目的の場合は例外ですが、学術用を大切な方へのお土産にすることはできません。

そう考えると、適当な南極土産がないのです。いや、ありました、ありました、南極氷が。一万年以上前の空気を含んだ大陸氷床の氷です。このお土産は、私たちの研究室の皆さんにも好評でした。

南極氷に、ウィスキーや水を注ぐと、プチプチと内包された空気が水中へはじけ出るのです。結構感動的です。しかし、人間は悲しい動物。一度味わった感動は、経験(回数)を重ねるごとに、消え失せてくるのです。初めての体験時の感動は、二度とよみがえって来ないのです。

それでは、何を南極土産にしましょうか?

02_42先日、第47次南極地域観測隊の気水圏担当越冬隊員だった渡井智則さんからステキな南極土産をいただきました。それは、昭和基地の空気を封じ込めたアンプルです。それも、日本の南極観測が開始して50周年にあたる、2007年1月29日に採取した空気なのです!

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01_76その空気の記載も科学者らしく添付されています。
・採取場所:南極昭和基地(南緯69度00分22秒、東経39度35分24秒)
・採取年月日:2007年1月29日23:00時(ローカル時間)
・ ガス成分:CO2(378.60ppm), CH4(1716.4ppb), CO(44.1ppb)
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渡井さんの人柄や科学者としての姿勢が良く伝わる、ロマンに溢れたお土産です。一生大切にしたします。

研究者のロマンで思い出したのですが、東北大学の総長をされたことのある、西澤潤一先生(半導体工学者)は、かつて「私のロマンと科学」(中公新書、1990)のなかで、工学者としてのロマンを熱く語っておられました。南極昭和基地で空気中の微量ガス成分を測定し続け、地球環境をモニタリングすることも、ロマン溢れる理学的な研究です。現場観測データをもとに今後の地球環境や生態系を予測する研究は、極めて重要で、人類の持続的な発展にとって不可欠です。理学や文学は、虚学と呼ばれることもありますが、「人が未来を生きていく上での実学」とも言えるのではないでしょうか。

渡井さんからいただいた南極土産を眺めながら、封じ込められた空気中の二酸化炭素やメタンの濃度よりも増加させないようにするためにはどうしたらよいのか、あーでもなく、こーでもなく、考え込んだ週末となりました。