いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

輸入物価について

2006年02月12日 01時48分55秒 | 経済関連
lukeさんからコメントを頂いて(リジョインダーへの回答)、お答えをと思いまして、記事に書いてみたいと思います。まず、これまでの記事で触れている部分については、割愛させて頂きたいと思いまして、お読み頂くのはご面倒と思いますがもう一度参考記事を挙げておきます。

価格とULC
デフレ期待は何故形成されたのか


始めに整理しておきたいと思いますが、コメントに単に「物価」と書いたのは正確ではありませんでしたので、お詫び致します。lukeさんが日銀の資料を示しておられる「輸入物価」と、私が「物価」と表現したものは異なっています。お示しの通り、「輸入物価」は前年比23%増というのはその通りであると思います。上の記事にも書いておりますが、輸入品の価格上昇分が消費者価格にそのままダイレクトに反映されることは近年観察されてこなかったのではないか、ということを申し上げています。すなわち、「為替変動で上昇要因となったとしても、その上昇分が(最終財である)消費者の価格には反映されてこなかったのではないか」ということです。


上昇抑制要因の主なものとしては、やはり賃金要因や生産性向上などによる「ULCの低下」であると考えています。円安局面ということだけを見れば、01年半ば~02年半ば位までは1ドル120~130円程度でありまして、特に02年前半というのは130円を超える水準であったわけですが、その時の価格上昇要因というのは企業内での吸収ということが行われてしまった可能性があり、これはULCの大幅な低下で代償可能となっていたと考えています。為替要因というのは確かに無視できる水準ではないと思いますが、それが企業物価に(或いは消費者物価に)直接的に反映されているかというと、そうでもないと思いますね。特に川上での上昇は、最終価格に決定的な上昇をもたらすとは限らないと思います。04年頃ころから既に素材価格の上昇は始まっており、相当な値上げ圧力であったにも関わらず、企業物価の大幅な上昇は見られていません。


ご指摘の「輸入物価23%増」というのは、幾つかの要因が重なったものであり、一つは為替要因、もう一つは所謂原油高(04~05年前半は円高で相殺され、それがマスクされたと思います)ですね。輸入物価に対するウェイトを計算していませんが、昨年末あたりからの企業物価上昇要因は(15年来の大幅増という報道がありましたね)この二つが遂に企業物価に反映された結果であろうかと思いますね。上昇要因の吸収というのは、初めのうちは例えば主に人件費削減(ULCの賃金要因です)で何とか吸収して顧客の要望に応えようとするのですが、いったんそういう企業努力で吸収したとしてもそこから更なる削減をすることは段々と困難になっていきます。通常企業のコスト削減余地は減っていくものであると思いますので。なので、ある程度までは努力して上昇要因を吸収できたとしても、そこから先は価格に反映せざるを得ず、企業物価上昇要因となると思います。


しかし、企業物価が上昇したとしても、消費者物価に反映されるかどうかということになりますと、これは価格設定側の考え方にもよりますし、「まだ努力の余地がある」と販売側が思えば最終的な財の価格に反映されるとも言えないと思います。輸入物価上昇ということは、為替要因ということもありますが、商品相場の影響(例えば原油高、金価格上昇、一時の投機的なパラジウム価格上昇、など)というより純粋な価格要因ということもあるので、(為替に連動していると)一概には言えないこともあると思います。

素材価格上昇局面でも、例えば鉄鉱石や石炭等の価格上昇(輸入品ですので当然為替の影響で値上がりします)があっても、これがそのまま鋼板価格のダイレクトな上昇になるかというと、そうとも言えないということですね。需要家の立場が強ければ、価格交渉で譲歩せざるを得ないからです。輸入品の価格上昇分(特に為替要因分)が、パラレルに最終製品価格というか消費者物価に全て反映されていると考えることの方が、近年では困難であると思います。石炭が2倍に値上がりしたからといって、即その鋼板を使う自動車の価格上昇を意味するかというと、いつもそれが観察される訳ではないということを申し上げているのです。


従って、中国からの格安輸入品が為替の影響を受けて2割上昇したとしても、それが実際の消費者価格の2割アップを意味するものである、というのは違うのではないのかな、と思いました。ですので、上の記事には「円安による物価上昇要因を吸収してきたのではないか」ということを書いてみました。私は元々の「中国発デフレ論」というのを(どういう主旨なのか)実は全く知らないのですが、少なくとも「中国産品がプライスリーダーである」ということは全く考えていません。ですので、「天井を形成する」という考え方がよく分からないのですが、消費者が「安い方」を選ぼうとしてしまう、ということは有り得ると思うし、競合品にとってはかなりの値下げ圧力として作用するであろうと思います。

けれども、一般物価(消費者物価ですね)が全般的に下落してしまうというのは、もっと別な「低価格戦略幻想」のようなものがないと、難しいのではないかと思ったのです。それが「企業のマインド」という意味です。


残念ながら実証というのは全くありません。ただ、企業の期待形成では「デフレ期待」が家計よりも強く出ているので、そういう企業戦略の選択結果であったのではなかろうか、という風に考えました。


追記:
bewaadさんへの新たな回答は、ちょっと勉強中(笑)ですので、別に書いてみたいと思っています。




最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (luke)
2006-02-12 12:48:26
この議論では少なくとも3つの「物価」を区別する必要があるだろうと思います。



1.輸入品を日本の輸入業者が購入する際の価格(輸入物価)。

2.輸入品が日本の消費者に渡るときの価格(輸入品の最終財としての価格)。ただし、原材料や部品を輸入した場合には、最終財の価格として輸入品の分だけを取り出すのは難しいでしょうが。

3.日本の最終財の物価水準全体を表す消費者物価指数。



1、2はいずれも、ごく一部の財の価格(相対価格)です。



まず「中国発デフレ論」のおさらいですが、ふつうに考えれば、中国からの輸入価格(2)が下がったからといっても、3に占める割合は2%以下ですし、競合しないもの(たとえば散髪代やら書籍代やら広告費やら交通費やら)には関係ないですし、さらに「ヘタレ経済学徒」さんが

http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/aa2515dfcff676f5b707de6bdbaec43d

でのコメントで書かれていた通り、他の財の価格が上がりますから、3は大きな影響を受けないというのが通常の経済学の教えるところです。(A)



しかし「中国発デフレ」論者は、

・たとえ額としてはごくわずかであっても、少しでも価格を上げると市場を奪われてしまうおそれがあるので、競合する日本企業は価格を上げられなくなるのだ

・その激しい競争の影響は、競合しない財やサービスや資産にもおよぶのだ(要素価格均等化定理が現実化しつつあるのだ)

つまり、「輸入品の価格が一般物価(3)の天井として働くのだ」と主張していたのです。(B)



私は(おそらくbewaadさんも)、この標準的な「中国発デフレ論」(B)に対して一所懸命に反論してきたわけですが、まさくにさんの(A)や(B)に対する考えはもしかしてこれと違うのでしょうか? そうだとすると、そもそも話がかみ合いません。



かみ合うものとして話を続けますが、まさくにさんは(B)を前提として、さらに「輸入した中間財の価格が上がっても、それが直ちに転嫁されて最終財の価格が上昇することはない」とおっしゃっているということでよろしいでしょうか。それに対しては私のコメントの:



> 「23%も上がっても企業はその価格差を吸収できる」ならば、そもそも日本企業との価格競争は1%を争うような激しいものでは全くなかったということになりますよね。...

> そもそも、23%もの価格差が生じたなら、小売業者はいままで「中国製品との激しい価格競争にさらされてきた」はずの日本製品を購入した方が得ではありませんか?...なんとも矛盾した主張を続けているように思えます。



の部分で述べたつもりです。1%を争うような熾烈な価格競争をしてきたはずなのに、23%もの大幅な価格上昇を転嫁せずにあっさり吸収してしまえるなんて、矛盾してるじゃないですか?



まさくにんさんの考え方が(B)と違うとおっしゃるなら、まず「中国発デフレ」に関するご自身の考えを明らかにしてくださらないと話が始まりません(というか、すでに「私は元々の「中国発デフレ論」というのを(どういう主旨なのか)実は全く知らないのですが」と書かれているのを読んだ時点で、どっと徒労感が押し寄せているのですが)。



まさくにんさんが「中国発デフレ説の反証」への反論

http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/9b654f867e6cc0551762433a97ecddbb

を行い、さらに、それに対する答がないと「彼らは他人の間違いを指摘しているのだが、自分の説の証明を試みることはない、ということなのであろうか。こりゃ楽でいいわな。人の説を笑うだけでいいのだから。」と強烈に罵倒する

http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/aa2515dfcff676f5b707de6bdbaec43d

ようなことまでされた以上、ご自分の立場を真摯に述べていただけるものと思っております。



まさか、「実は元々の議論なんか全然知りませーん。勉強する気もありませーん。でもよくわからないけど思いつきで口をはさんでみましたあ。素人の議論だから間違ってるかもしれないと言い訳しときますう。だからいじめないでねえ。でも無視したらクソミソにけなすからねー」などといういい加減な態度ではないと信じます。
よく判らないけど思いつきです (まさくに)
2006-02-12 14:19:11
度々コメント有難うございます。元々の主張は挙げていただいた2番目の記事に書いてありますので、それを御覧頂ければ。また、最終財の例として、100円ライターで(単なる推測ですが)示していますので。



lukeさんの仰る”現在の”「23%上昇が吸収されてる」なんて書いてませんが。何度も書いてますが、いよいよ吸収余地も限界になってきて企業物価上昇にも表れているでしょう、と書いてます。デフレ傾向が明らかとなった95年頃以降で、円安局面でその為替変動分が常に物価に反映されたということがあるなら、お示しくだされば。10%円安になれば輸入の最終財の消費者価格は10%上がる、という主張なのでしょうか?



「中国発デフレ論」の正誤にかかわらず、最初の反証とされている「2割円安になれば、物価がたちまち上昇する」という指摘自体がそもそも間違っているのではないですか、というのが私の主張です。これは「中国発デフレ論」の波及経路などが正しいかどうかには全く無関係に判るものではないですか?ということを言っているです。



反証の前提自体が間違っているなら、それが「中国発デフレ論」を否定する根拠にはなり得ないでしょう、ということですね。為替が円安に振れた時に、輸入品の最終財価格がその変動分と同じだけ上昇した、ということが常に観察されるのでしょうか?



「円安でたちまち物価が上昇する」という主張には、輸入品以外の財価格が不変であれば、輸入物価の上昇などを受けてCPI全体に「上昇をもたらすはず」という推測があるのではないですか?まずこれが違うと私は考えた、ということを言っているのです。デフレ期間ではその分が価格引き上げとはならずに、価格を据え置くことで企業内での削減努力によって吸収した、ということを何度も説明しています。しかし、吸収にも限界はあるのですから上げざるを得ないでしょう。
Unknown (luke)
2006-02-12 19:11:08
何度も申し上げていますが、bewaadさんが書いたのは「『中国発デフレ論が正しいとすれば』2割円安になれば、物価がたちまち上昇するはずでしょ」ということです。「2割円安になれば物価がたちまち上昇する」が間違いであることは最初から分かりきったことです(実際に上昇してません)。



まさくにんさんの立場は「『中国発デフレ論なんて知らないけど』2割円安になれば物価がたちまち上昇する、というのはおかしいでしょ」と要約してよろしいでしょうか? だとすれば、別に意見の対立は(最初から)ありません。



> 10%円安になれば輸入の最終財の消費者価格は10%上がる、という主張なのでしょうか?



いいえ、それは「中国発デフレ論」から導かれる論理的な帰結です(ぴったり10%、とは言いませんが、大幅に上がるはずです)。我々が否定してきた主張です。(ひょっとして、全く理解されていないのでしょうか?)



> 「中国発デフレ論」の正誤にかかわらず、最初の反証とされている「2割円安になれば、物価がたちまち上昇する」という指摘自体がそもそも間違っているのではないですか、というのが私の主張です。これは「中国発デフレ論」の波及経路などが正しいかどうかには全く無関係に判るものではないですか?ということを言っているです。



いいえ。「2割円安になれば物価がたちまち上昇する」というのは、もともと経済的には全くおかしな主張で、『中国発デフレ論』のトンデモな世界でしか成立しません。したがって「「中国発デフレ論」の波及経路などが正しいかどうかには全く無関係に判る」ということはありえません。中国発デフレ論を前提にすることなしには論じ得ないことです。



もう一度論理式として書きますと、

・中国発デフレ論が正しい(P)→(2割円安になるならば、物価がたちまち上昇する(Q))

です。したがってQが否定されればPが否定されます。



「反証の前提自体が間違っているなら、それが「中国発デフレ論」を否定する根拠にはなり得ないでしょう」という記述から判断すると、まさくにんさんは、

・(2割円安になれば、物価がたちまち上昇する)→『中国発デフレ論』が間違っている

と解釈されたのでしょうか?それとも、

・(2割円安になれば、物価がたちまち上昇する)→『中国発デフレ論』が正しい

と考えられたのでしょうか? いずれも違います。



> 「円安でたちまち物価が上昇する」という主張には、輸入品以外の財価格が不変であれば、輸入物価の上昇などを受けてCPI全体に「上昇をもたらすはず」という推測があるのではないですか?まずこれが違うと私は考えた、ということを言っているのです。



もう1回繰り返しますが「円安でたちまち物価が上昇するはず」というのは、我々が否定しようとしている(実際に統計から否定された)命題です。まさくにんさんは何に、どう「反論」されたのか、明示する必要があるのではないかと。
Unknown (luke)
2006-02-12 19:16:38
すいません。上記の私のコメントのうち以下の部分は削除してお読みください。



> > 10%円安になれば輸入の最終財の消費者価格は10%上がる、という主張なのでしょうか?



> いいえ、それは「中国発デフレ論」から導かれる論理的な帰結です(ぴったり10%、とは言いませんが、大幅に上がるはずです)。我々が否定してきた主張です。(ひょっとして、全く理解されていないのでしょうか?)



「10%円安になれば消費者物価は10%上がる、という主張なのでしょうか?」と誤読して返答を書いてしまいました。



この部分を除いて読んでいただいて、残りの大筋には影響ないと思います。
何度もスミマセン (まさくに)
2006-02-12 22:50:31
>「2割円安になれば物価がたちまち上昇する」が間違いであることは最初から分かりきったことです



本当にゴメンナサイ。思いっきり勘違いでした。この通りです。

このことを示す記事をひたすら書いていたのですけれども、自分の頭の悪さに呆れます。



全く見えていませんでした。お詫び致します。長々とお付き合いさせてしまいまして。
ほっとしています (luke)
2006-02-15 02:27:01
誤解が解けて何よりです。今後ともよろしくお願いします。
お手数をかけました (まさくに)
2006-02-15 21:03:44
別記事でお返事を書いてみました。「リジョインダーへの回答・2」です。



こちらこそ有難うございました。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。