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価格とULC

2006年01月15日 16時04分50秒 | 経済関連
前の記事でULCに触れましたが、この説明が不足していたと思い、更に追加してみたいと思います。前にもちょっと書いたけれど(雇用改善とULC)。
生産性とデフレの関係というものが学術的にどういう評価なのかは知らないですが、価格に対する影響というものについて考えたいと思います。生産性が低下してデフレになる、ということを主張している訳ではありません。価格上昇要因を「吸収してきているのではないか」と言っているだけです。


また非常にいい加減な例を考えてみます。実際の企業活動を反映していないので、全くの適当ですからね。
ある企業があって、何かの生産物を生産しているとします。この費用構造を次のように仮定します。

①従事者は100人おり、1人当たり3単位の賃金で、人件費が300単位
②製造の為の原材料等の仕入れに必要な費用(以後原料費と呼ぶ)は600単位
③その他費用は300単位

このように決まっていたとします。生産活動には、合計で1200単位の資金投入が必要ということですね。で、ここから条件を変えて行くことにしましょう。まず分かり易い②から考えます。原材料として必要な中間生産物が中国工場から輸入出来るようになって、仕入れ価格が低下した為に、トータルでは原料費が2割削減できることになったとします。すると、従来600単位必要であったのが480単位に低下しますね。まずは「-120単位」に成功です。

次に①の人件費部門ですが、これは色々あると思いますが、一応次のような条件を設定します。
・従来の正社員達は生産性を2割向上させた
・正社員を一部リストラして、非正規雇用に切り替えた
・非正規雇用者は生産性が劣るので、以前の正社員生産性に比べ2割低い
・非正規雇用者は正規雇用者の半分(1.5単位)の賃金で済む


すると、企業全体では同じ生産力を維持すると考えれば、正規雇用者は今までに6人でやってた仕事が5人でいいことになりますね。なので、元々100人いた従業員の内、50人をリストラし50人だけ残すと、この人員の生産力は全体の6割を占めますね(生産性が向上したので)。残りを非正規がカバーするとして、必要な生産力は全体の4割ですので、従来であれば正規40人でやっていたのが、非正規はこの8割の能力しかないので人数を50人にしなければなりませんね。従って、雇用すべき非正規は50人、正規も50人となります。この人件費は3×50(正規分)+1.5×50(非正規分)=225単位となります。生産性向上と非正規雇用によって、人件費部門は「-75単位」を達成しましたね。これはULCで言うと低下ということになると思います。生産性向上による費用削減効果(この例では60人→50人)という要因と、賃金要因(正規40人→非正規50人)の両方ということかと思います。


③の費用(普通は借入金利とか研究開発投資とか設備投資とか色々あると思いますが、よく判りません)が変更ない時、上記費用削減により、全体では195単位の削減に成功しました。もしも、利益水準をそれまでと変えないときには、この削減費用分だけ価格を低下させられる、ということになりますね。そういうのは経営判断なので、色々あると思いますけれども。まあ、企業戦略としては、「低価格路線」というものが他の企業との競争に有利である時には、「価格値下げ」という形で出すと思いますね。なので、この企業では価格を下げたとしましょう。


ところが、悪いことに為替変動の為に、為替で2割上昇したので中国からの仕入れ価格がそのまま2割上昇したとしましょう。折角480単位に低下したのに、これの2割、つまり96単位の仕入れ価格の上昇となりますので、この費用をどのようにするか、というのが問題となってきます。短絡的には「そのまま価格に上乗せすればよい」ということになりますが、それまでの「値下げ」に馴化された消費者達は「買わない」という選択をしてくるかもしれない、と経営者が判断したとしますね。となれば、この上昇分を何かで吸収しなければならないのですね。それをどうするか、ということを例で考えてみましょう。


先ほど、人件費は非正規雇用の拡大と正規従業員の生産性向上で削減したのですが、更に非正規雇用を拡大しましょう。正規を30人まで減らすと正規雇用者の生産力は全体の36%、残り64%を非正規でカバーするので、必要人数は80人となります。これに加えて、今度は賃金そのもので切ってみます。従来3単位の賃金であったものを2.8単位とし、非正規は同じ割合(正規の半分)ということで、1.4単位に下げる(賃金引下げはモロに賃金要因ですね)ということにしましょう。すると、2.8×30+1.4×80=196単位に削減出来ますね。まずは「-29単位」削減出来ました。今度は②の部分を変えないので、前には不変とした③の部分で削減したとしましょう。ここでは、アウトソーシングとか、借入金を削減して金利負担を減らすとか、設備投資や研究開発を削減するとか、そういった対応をする訳ですね。これで何とか残りの67単位削減を達成出来れば、原料費仕入れ価格の上昇分(96単位)を販売価格に転嫁することを回避できる、ということです。こういうを方法を選択した企業は恐らく少なくなかったと思いますね。


この例では非常にオーバーな形で考えてみましたが、現実にはどうなのかは不明です。上の例では、元々に比べればトータルコストでは16.25%削減、人件費は約35%削減、その他経費も約22%削減、正規の賃金自体も約9.3%低下、非正規は約6.7%低下、という風になっています。きっと賃金がこんなには低下していないと思いますが(上の例だと、生産コストに占める人件費率が高すぎる設定だったから?)。「市場での価格がこれほどまでに低下したのかよ」と言われると、判らないですけれども。モノにもよると思いますけどね。


ただ、今までの幾つかの記事にも少し書いてきましたが、社会全体の現象で見れば、
・賃金水準は97年以前とそれ以後で異なり98年以降低下
・非正規雇用が拡大
・ULCは98年以降低下(連続でマイナスに)
・企業の借入残高は減少傾向
・設備投資の減少
ということが観察されるので、当たらずと言えども遠からずなのではないか(笑)と思います。


なので、価格上昇圧力をULCの低下などで吸収してきたのではないか、ということです。何故価格転嫁しないのか、というと、消費者達の求める「低価格達成」とか、競合他社との価格競争に勝つことが「企業の生き残り戦略」だと信じていたから、などであり、世の中全体に「もっと価格は下がるだろう」という期待予測が醸成されていったからではないか、と思うわけです。

物価の下落期待というのがこれほどまでに定着したキッカケは、中国製品輸入であった可能性があるのではないですか、ということです。多分、あまりに刺激が強すぎたのかもしれません(笑)。




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