エッセー

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目からウロコの話

2017-06-23 09:45:21 | 読書

  新聞にムカデの動きを再現した「にょろにょロボ」のことが紹介されていた。 (2017年4月5日、道新)   
 長さ1.3mのムカデ型ロボットが「でこぼこした地面を本物のムカデのように這い歩き、石など乗り越えられない障害は避けて通る。」
 「ロボットが自然環境で自在に動くには、膨大な情報や計算が必要と思われがちだが、複雑なセンサーやコンピューターは一切使っていない」という。     

 「にょろにょロボ」開発者の一人、大須賀教授は「生き物の中には、脳や神経を持たなくても環境に適応して知的な動きをするものがおり・・・」と語っている。  いわれてみれば確かに思い当たることがある。      
  *庭の草取りをしていると時にムカデの仲間のゲジゲジがいる。気持ち悪いが草や石ころの間を逃げる素早い動きに驚き、妙に感心する。
  *北海道の宮島沼に渡ってくる何万羽といる水鳥は壮観だが、どうしてぶつか らずに離着水できるのか不思議に思っていた。
  *いつだったかアメーバが「迷路(ラビリンス)」の最短ルートを見つけて動くという記事を何かで見たことがある。不思議な話として記憶している。    

思い込み(人混みの中のロボット)                                            「にょろにょロボ」の記事を見てスリラー劇にでてくる刑事の台詞ではないが、どうも私はひどい思い違いと思い込みをしていたのに気づいた。                             
                                                                人間なら簡単にできる人混みの中を歩くことが今のロボットには出来ない。
 人間が人混みを歩くときは、視覚、聴覚、神経内の情報伝達、脳の中での演算、判断、指令や足の動作機能の組み合わせシステムが働いている。つまり試行錯誤(トライ・アンド・エラー)のフィードバック修正制御が作動しているのだと思っていた。                                    ロボットの発達は日進月歩の勢いだが、まだまだ幼稚な部分も多く、人間が人混みの中を歩く時に働いている複雑な制御システムを持っていない。したがって現在の人型ロボットには人混みの中でぶつからずに歩くことは出来ない、と考えていたのだ。                                    
                    
  今回の「 にょろにょロボ」の記事と考え合わせると、なまじフィードバック制御の生かじりの知識があったために、簡単なことを難しいものと思い込んでいたのだと思う。          ムカデやアメーバや水鳥の一見不思議な動きは、状況に適応した単純な知的機能によるものらしい。少々大げさに聞こえるかもしれないが、改めて自分の無知と思い込みと生物の不思議を思い知らされた。          

原子炉の炉内カメラ                                         「にょろにょロボ」の記事ですぐ思い至るのは福島原発原子炉の内部調査用カメラロボットが難航していることだ。「にょろにょロボ」のような「生物模倣技術(バイオミメティクス)」が早く発展してひとつの突破口になるのを祈るような気持ちで期待している。                             

 
昆虫の高速羽ばたき
  「にょろにょロボ」の記事に続いて、最近、さらに目からウロコの思いをする本を読んだ。「ウニはすごい バッタもすごい(2017年)」という、「ゾウの時間ネズミの時間」でおなじみの本川教授の著書だ。       
                                                                        この本で私が一番興味を持ったのは、カやハチの高速羽ばたき回数とその仕組みだ。
  カやハチの羽音がプーンとかブンブンと聞こえるのはものすごく速い羽ばたきのせいなのだが毎秒100回から1000回位(100~1000ヘルツ)だという。  この回数のすごさは自分で手を上下させてみればすぐ分かる。毎秒数回、それも数分も続けれぱ疲れてしまう。  体に比べて大きな羽を羽ばたかせて数千キロを飛ぶ渡り鳥のことを思うと、どこにそんなエネルギーがと不思議でならない。人間は未だに羽ばたき飛行機を実現できない、まして高速羽ばたきなど夢のまた夢だ。 
               
  驚いたことに、カやハチはこの高速羽ばたきを「共振現象」を利用して実現しているのだという。
 「クチクラ」素材の特殊な骨格と「間接飛翔筋」構造なのだそうだが、「ばね振り子」や「共振」などとまるで機械工学の本を読んでいるようで、少々分かりにくい。                                    しかし「共振現象」は案外身の回りにあるものだ。たとえば音叉(おんさ)の共鳴や、洗濯機が途中でガタガタする現象などだ。拡声器のアンプ(増幅器)にも共振を利用した回路がある。
  ちなみにトンボの羽ばたきは「直接飛翔筋」によるもので回数は30ヘルツ程度だという。進化論的には、カやハチの「間接飛翔筋」より旧いのだそうだ  

 話が飛ぶが電力系統で周波数が大きく変わると、ある点で発電所のタービン発電機の固有振動数と共振(危険速度)し、タービン発電機は破壊される。                  カやハチはこの厄介な「共振現象」を逆手にとってエネルギー節約型の高速羽ばたき運動を実現しているわけだ。                                            こういう不思議なことを知ると、ちょっと大げさかもしれないが、これも進化論で説明できるのだろうかと新たな疑問が浮かぶ。               

              
知るは楽しみなり
   にょろにょロボの記事は少々堅い話だが、「ウニはすごい バッタもすごい」の著書には、昆虫の高速羽ばたきの話のほか、巻き貝の由来となぜ対数螺旋形なのかなど大人も子供も喜ぶような好奇心をくすぐる話がいっぱいだ。           
                                                          ヒトデやウニははなぜ星形(5放射相称形)か、という話もある。(ウニは一見丸く見えるがヒトデと同じ五角形なのだ)。長い説明なので省略させてもらうが、そういえば函館の五稜郭もアメリカのペンタゴン(国防省)も星形(五角形)だ。ヒトデやウニの形と何か関係があるのかもしれない。

 ジェット噴射で泳ぐイカの話や夜光虫の話もある。田舎の浜育ちである私には、楽しい連想が湧く。この本には書かれていないが、イカにはわれわれ田舎の子供が「ホック」といっていた釦のような凹凸がある。ここを外すとイカはジェット噴射が出来なくなってふにゃふにゃになること、真夏の夜、父や兄についてイカつりをしたときのキラキラ光る幻想的な夜光虫のことも思い出した。

  子供っぽいようだが「にょろにょロボ」の記事と、カやハチの高速羽ばたきの仕組みを知って久しぶりに「目からウロコが落ちる思い」をした。
 「生物模倣技術」が進展して案外早い将来に「超人」以上の超アンドロイドができるかもしれない、などと欲張った空想も湧いてくる。      (2017/06/23)