
新入社員から中高年社員に至る会社員生活に沿って、個人が組織(会社)との関係性をどう築いていくかについての心得帳。会社人生の入り口から出口までをカバーをしているものの、中心となるターゲットは40代以降の会社員である。
著者のスタンスはプロローグにあるように「個人は簡単に自分を変えられない。変えられるのは、自分自身ではなくて、自分と他者(過去の自分、未来の自分も含む)との関係、自分と組織との関係である。自分が働く会社と言う組織のあり方に目を凝らし、自らのライフサイクルを見つめなおすために大切なのは、複数の自分であることではなかろうか」というもの。個に焦点を当てて、そのパワーアップを啓発する本はたくさんあるが、組織との関係性から個を考えると言う視点は新鮮だった。
著者は、多くの人が40歳くらいから組織で働く事の意味合いについて悩む「こころの定年」を迎えると言う。それは中高年の通過儀礼でもある。今まで持っていた価値観とは違う見かたを取り入れ、働き方の転換が求められる。会社に「帰属」するのではなく、「参加」する意識を持つこと。人生の時間軸を未来・過去に広げ、会社と言う枠を取りはらえば、40歳、50歳はまだ老けこむ年では無い。というのが、読者に向けたエールだ。著者自身が40歳代後半で心の病から会社を休職し、出世の階段から降りて平社員として再出発した経験を持つだけに、会社人に対するまなざし、書き方のスタイルは親身で暖かい。
ただ、この著者のメッセージはどれだけの人に響くのだろうか?いわゆる日本の終身雇用を前提とした大企業での勤めを前提とした著者のメッセージは、限られた人にしか届かないかもしれない。今や、日系の大企業に勤める人であっても、「こころの定年」などと言っていられるようなのんきな時代は終わっているというのが、日本の実情ではないかとも思う。
マスの読者をターゲットにした、一律的な人生や働き方の指南書が書きにくいのが、今のご時世なのだろう。逆に言えば、こうした書物を参考にしつつ、結局は読者自身が自分で人生を切り拓いていくしかないのである。