その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

広瀬大介 『帝国のオペラ: 《ニーベルングの指環》から《ばらの騎士》へ 』 (河出ブックス、2016年)

2017-02-11 08:00:00 | 


ドイツオペラの巨人、リヒャルト・ワーグナーとリヒャルト・シュトラウスの二人の人生と彼らのオペラをドイツ帝国(1871-1918)の盛衰と交差させて描いた本。

 オペラを観劇の際に、作品背景としてその時代や音楽家の状況、聴き手の受容などを単発的に学ぶが、なかなか一定の時代におけるオペラを、音楽家を軸に流れとして追っていく機会はなかなか無いため、興味深かったし、勉強になった。個人的には、ドイツの外でのワーグナーの受容やドイツ帝国崩壊後のシュトラウスの旧時代の遺産を引き継ぎつつ新たな世界を築こうと試みていたことなどは、未知のことで視野が広がった。

 一方で、一般書で、かつテーマ設定も明確であるものの、一読で筆者の主旨を正確に追うのは意外と難しい。元ネタとして、過去に別テーマで書き起こしたものも一部使ったりしているのだろうか。世界史的な時代背景説明、その時代における当該音楽家の人生、作品解説、関連する音楽・音楽家の動向等のいろんな情報が、粒度を変えて記述されているところがある。それゆえ、テーマとの関連性や重要度などを加味した、単行本としての統一性が弱く、私は自分の立ち位置を見失いがちだった。

 そこは、編集の問題かもしれない。例えば、各見出しのつけ方等が工夫されていれば、読者の助けになるのだが、節毎のタイトルが単なる項目でタグのような書き方しかされてないので、読むものは全体感を見失って作品解説の世界に入り込んでしまったりする。そのぐらいの読解力は有るだろうということなのかもしれないが、痛勤列車の読書家にとっては、なかなか机に向かって線を引きながら精読するというわけにはいかないのだ。

 内容はしっかりしていて勉強になるので、この分野に関心のある人にはお勧めしたい。

【目次】
序章 バイロイトの長い坂
第1章 一八七六年、バイロイト音楽祭開幕の衝撃
第2章 “パルジファル”とワーグナー直系の弟子たち
第3章 リヒャルト・シュトラウス、オペラへの道程
第4章 フランス・イタリアオペラの動き
第5章 “サロメ”から“ばらの騎士”へ
第6章 ドイツ帝国の夢の終わり

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