その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

『新ハムレット』(作:太宰治、演出:早坂彩)@こまばアゴラ劇場

2024-03-25 07:31:06 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

こまばアゴラ劇場で太宰治原作、早坂彩 演出の〈新ハムレット〉を観劇。原作は直前に慌てて読んだが、シェイクスピアのムレット」と似て非な心理劇的物語展開に魅せられたので、この原作がどう芝居化されるのか楽しみであった。

9つの場面に分かれている原作を1幕ものにコンパクトにまとめ、テンポよく約100分で一気に駆け抜けた。原作のやや冗長に感じるところが削ぎ落とされ、引き締まって、観客をぐいぐい引き込んだ。心理劇的な面は抑えられたところは感じたが、推進力強い上に、小劇場ならではの密室空間(しかも私は最前列に着席)もあり、役者の熱量もダイレクトに伝わり、あっという間に時間が過ぎる集中度の高い舞台だった。

役者さんでは、王夫婦を演じた太田宏さんと川田小百合さん(申瑞季さんからキャスティング変更)が安定した演技で舞台に落ち着きを与えていた。題名役の松井壮大さんは、シェイクスピアの「ハムレット」よりも更に悩めるハムレットを上手く演じた。これは役者というより原作の特徴と思うが、このハムレット、悩み過ぎで、悩むために悩んでいるとしか見えないところある。

個人的に拍手を送りたかったのは、ポローニアス役のたむらみずほさん。劇中劇での奇演と劇中劇後の王の居室における王とのやりとりは迫力満点で真に迫り、本作の心理劇的要素が表現されていて唸らされた。

舞台は木材を組み合わされたバリケード風の構築物がセンターに置かれ、適宜回転させて場面場面で活用される。椅子としてや、劇中劇の舞台や、王城として使われたりで、効果的に観衆の想像力が刺激された。悩むハムレットのモノローグに他の登場人物らが一人ひとり声を寄せるシーンも演出も感心させられた。

もちろん期待はあったのだが、正直、期待を上回る観劇体験であった。このこまばアゴラ劇場もまもなく閉館というのも寂しすぎる。4月に最後のさよなら公演を見に来る予定。

(2024年3月22日 観劇)

 

早坂彩『新ハムレット』

作:太宰治  演出:早坂彩(トレモロ/青年団)

CAST

太田宏*、松井壮大*、たむらみずほ*、清水いつ鹿(鮭スペアレ)、大間知賢哉、川田小百合、瀬戸ゆりか*、黒澤多生* (*=青年団)

STAFF

演出助手・スウィング:長順平 舞台監督:鐘築隼[京都公演]/久保田智也[東京公演]
舞台美術:杉山至 照明:黒太剛亮(黒猿) 音響:森永恭代 音楽:やぶくみこ
衣装協力:徳村あらき 宣伝美術:荒巻まりの 制作:飯塚なな子

協力:青年団、黒猿 主催:トレモロ

 


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