その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

脇園 彩 メゾソプラノ・リサイタル @紀尾井町ホール

2024-03-03 07:06:14 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

脇園彩さんは、2020年に新国立劇場の<セビリアの理髪師>ロジーナ役を見て、歌唱はもちろんのこと、日本人離れしたステージでの華というか、オーラに引っ張り込まれました。個人的に最も注目している日本人歌手です。今回のリサイタルは、1月の小堀勇介さんとのデュオ・リサイタルに続く、ソロのリサイタルでとっても楽しみにしていました。しかもプログラムはオール・ロッシーニ。なかなか、こんなプログラムを組める日本人歌手はいないと思います。

2時間たっぷりと、脇園さんのメゾ・ソプラノを楽しみました。張りのある美声は、声質・声量ともに素晴らしく、聞き惚れます。声楽の技法には全く疎いですが、あの豊かな、変化ある表現はきっと高度なテクニックにも支えられているのでしょう。

目を閉じて、その美声を味わいたいとも思うのですが、それだと彼女のもう一つの魅力が味わえません。表情や所作が大きな魅力です。ピアノ一台と譜面台ぐらいしかステージ上にはありませんが、脇園さんの演技は、そんなシンプルな板の間に、造形物が置かれて舞台設定がされているかのような想像を掻き立てられるほどの表現力に満ちています。伸びやかな動き、目力あふれる表情、彩ワールドはいつも輝いています。

プログラムの中では、「オテッロ」からの“柳の歌〜祈り”が特に胸打たれました。他の作品に比べ、作品(戯曲)についてそれなりに前知識があるのもあったかもしれませんが、しっとりとした歌唱が死を予感するデスデモーナの気持ちが表現され、涙。

今回、ピアノ伴奏のミケーレ・デリーアさんの存在感も光りました。脇園さんとぴったりと息を合わせつつ、ロッシーニの軽快だったり、哀しかったりする音楽を活き活きと演奏。途中、脇園さんが袖に入った暫くの間を使って、ロッシーニ・メドレー(きっと)演奏を聴かせてもらったのも楽しめました。

アンコールは3曲もサービス。「セビリアの理髪師」から〈今の歌声は〉が入っていたのは嬉しかった。

脇園さんの活動のベースはイタリアに置かれ、欧州の様々な歌劇場に出演しているようです。ストレスやプレッシャーも並大抵では無いとは思いますが、脇園さんには是非、今後も世界の舞台で活躍して欲しいです。サッカーの三苫選手のように、こんな歌手が日本発でいるんだというところを示してくれれば、日本の一ファンとして嬉しいです。いつか、彼女の海外の舞台を観てみたい。そして、こうして年に1度ぐらい日本公演をお願いできれば最高です。

初めて訪れた紀尾井ホールも立派なホールで驚きでした。優雅なホールで、上質の時間を過ごした、充実の金曜夜となりました。

 

脇園 彩 メゾソプラノ・リサイタル
2024年3月1日(金) 開演:19時
紀尾井ホール

出演者
脇園 彩(M-Sop),ミケーレ・デリーア(Pf)

曲目
ロッシーニ:歌劇「湖上の美人」より“おお暁の光よ”,ひどい女,吟遊詩人,
歌劇「イングランドの女王エリザベッタ」より“私の心にどれほど喜ばしいことか”,
約束,誘い,
歌劇「湖上の美人」より“胸の想いは満ち溢れ”,
歌劇「ビアンカとファッリエーロ」より“アドリアのために剣を取るなら”,
歌劇「オテッロ」より“柳の歌〜祈り”,
「老いの過ち」第9巻より“我が最期の旅のための行進曲と思い出”(pソロ),
歌劇「マホメット2世」より“神よこの危機のさなかに”,
歌劇「ビアンカとファッリエーロ」より“お前は知らぬ、どんなにひどい打撃を”


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