海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

反住基ネット沖縄の県教育庁への要請活動

2009-07-11 18:04:43 | 住基ネット・監視社会
 昨日(10日)は午後から那覇の県庁に行き、反住基ネット沖縄による教育長への要請行動に参加した。内容は下記の要請文に記されているものだが、これまで那覇市や浦添市など県内の自治体に要請行動を行った際には、応接室や会議室に通され、要請文を渡した職員と話し合いを持った。宜野湾市や沖縄市では市長が自ら出てきて応対した。
 ところが県教育庁の義務教育課では、部屋の入口で要請文を受け取って、すぐに返れといわんばかりの対応だった。教員の一般常識のなさがよく言われるが、市民の要請に対する対応の仕方は沖縄防衛局より悪かった。義務教育課の課長の席まで行って抗議したら、あわてて課長席のそばにテーブルや椅子を集めて話し合いの場を設けた。こういう対応は反住基ネット沖縄のこの間の活動で初めてであった(写真参照)。
 これは教員社会の一般的な傾向というより、今の沖縄の教育行政が持っている体質、意識の如実な表れである。上意下達の命令・指示系統で物を言い、考えるのに慣れて、現場の教師や生徒、保護者、市民の声に耳を傾けようという姿勢が根本から欠けているのだ。それでいて、何か問題が生じて責任が問われたときには、あたかも民主的に話し合って決めたかのように装い、責任逃れをやるのである。
 対応した義務教育課の課長の発言も、そのような責任逃れに終始していた。「子ども理解のための指導・支援カルテ」について同課長は、県は通達を出しただけで、それを受けてやるかやらないかを決めたのは各市町村の教育委員会だ、という趣旨の発言を行っていた。
 それに対して私が、市町村の教育委員会で独自の判断ができるなら、やる所とやらない所が出て、対応がバラバラになると思いますが、やらなかった教育委員会はありますか?あるいはやらなかった学校はありますか?と訊いたら、課長は一言も答えなかった。答えなかった理由は、そういう教育委員会、学校は一つもないからだ。
 確かに形式的には市町村の教育委員会は、一定の独立性を持っているかもしれない。しかし、現実にはそれが形骸化して久しい。ましてや、各学校においては教育庁の通達は命令以外の何ものでもない。職員会議は決議機関ではなく校長が職員の意見を聞く場とされ、教育庁=校長の方針に異議を唱えるものは、個別に呼ばれて指導を受ける。それでも従わない教師は、人事考課で不利益をこうむり、不適格教員の烙印を押され、免許更新にも影響を与えるだろう。
 そうやって現場の教師が物を言えない体制を作ったうえで、「カルテ」をちゃんと書いているか学校訪問調査で教育庁の指導主事が点検するのだ。中には疑問を感じた校長・教頭も少数であれいたかもしれないが、教育庁の通達には逆らえないし、あえて逆らおうとする者もいない。
 そういう今の沖縄の教育行政のあり方や現場における管理体制の強化・徹底を、当然、対応した義務教育課長も知っている。反住基ネット沖縄には、私を含めて元教師が何名もいる。それ故、そういう具体的事実をあげなが反論するので、対応した課長も次第に物が言えなくなる。だが、そうでなければ市町村の教育委員会に責任をなすりつけて、ごまかし続けるだろう。実際、金武正八郎県教育長は、今でもそのような手法でごまかし続け、自ら責任をとろうとはしない。
 教員採用試験の採点ミスとごまかしにより本来の合格者を大量に不合格にした問題や、県立高校の入試で合格していた生徒を校長の押印ミスで不合格にした問題など、本来は県教育長の責任が重く問われる大問題が沖縄では連続して起こっている。にもかかわらず、沖縄では県教育長は部下に責任を押しつけ、任期を終えると平然と天下りポストに就いていく。
 今回の「カルテ」問題も、マスコミ報道が沈静化すれば市民も関心を失い、やり過ごせると県教育庁幹部らは考えているのではないか。彼らが本気で反省しているとは私には思えないし、何が問題なのかも本当は分かっていないのではないか、とさえ思える。生徒や保護者、市民が今後もこの問題を問いただしていかなければ、県教育行政の姿勢は変わらないし、いずれ個人情報の流出事件が起こりかねないと危惧している。「カルテ」の記入・管理はパソコンで処理されている学校もあるが、違法に作成された「カルテ」がちゃんと廃棄されたのかどうかについて、義務教育課長は実態を把握していなかった。
 これらの問題を考える上でも、以下に参考として、昨日の要請行動で県教育庁に提出した反住基ネット沖縄の要請文を載せておきたい。

                                                  2009年7月10日
沖縄県教育長
金武正八郎 殿
                                   住基ネットに反対する市民ネットワーク沖縄
                                   代表世話人 上江洲由美子

 「子ども理解のための指導・支援カルテ」廃止および「基本的人権の尊重」・「個人情報保護」を確立する教育行政を求める要請

 貴職におかれましては、日々県教育のために奮闘されていることに敬意を表します。
 私たち「住基ネットに反対する市民ネットワーク沖縄」は、憲法13条で定めるプライバシー権の保護を訴え、自己情報コントロール権を侵害する憲法違反のシステムである住基ネットに反対してきました。その観点から、今回、西原町の保護者の不服申し立てにより明らかになった「子ども理解のための指導・支援カルテ」やその問題への権教育行政の対応には、看過できない問題が含まれていると考え、ここに抗議し、改善を求める要請を致します。
 まず、プライバシー権を保護するために制定された個人情報保護法には、情報を収集する際には、利用目的を明確にすることや本人の同意を得ずに第三者に情報を提供してはならないこと、本人からの求めに応じて情報を開示する義務や公開された情報が事実と異なる場合は、訂正や削除に応じることなどが義務づけられています。そして、県がまとめた運用基準には条例の主たる目的は「個人の権利利益を保護すること」であって、「県政の円滑な運用」はその次と明記されています。教育行政にも同じことが求められているはずです。
 しかし、本「カルテ」ではその存在が子どもや親に知らされないまま、本人および保護者や家族の私的領域に踏み込んでまで情報が集められ、利用されています。これは、個人情報保護条例の趣旨に反し、プライバシーの権利と自己情報コントロール権の侵害にあたることは明らかです。また、日々変わり成長していく子どもの一時的なできごとを、一教師の主観で一方的に記録することは人権侵害にあたります。しかも、その「カルテ」を申し送りしていくことは、子どもを先入観で見ていく危険性につながり、子どもと教師の信頼関係にも悪影響を与えかねません。
 今回の問題に関し、貴職は「市町村が主体性を発揮してもらうもの」と述べ、県主導ではないという見解を示していますが、県の通達で実施された事実を考えれば責任の所在は明らかです。そもそも、「カルテ」は2003年の北谷町での事件を受け、わずか20日足らずで作成されたものであり、個人情報保護の観点からの議論もなかったことが明らかにされています。作成に関わった幹部さえ胸のうちでは疑問を感じ、教育現場や教職員組合からは見直しの声が上がっていたことが報じられていますが、県行政はその声を検討したのでしょうか。
 「カルテ」に関しては導入から6年が経過した現在もその教育的効果の検証はされておらず、教職員から児童生徒と向き合う時間を奪い、教育現場の多忙化に拍車をかけているのではないかという批判の声も上がっています。憲法を擁護し、教育現場に指導的な役割を果たすべき貴職が招いた今回の「カルテ」問題に、多くの県民は不安と疑問を感じています。
 以上の問題点をふまえ、下記の三点を要請いたします。
                              記
一、基本的人権や自己情報コントロール権を侵害する「子ども理解のための指導・支援カルテ」を廃止し、違法に作成されたカルテを廃棄すること。
二、「カルテ」問題に関する貴職の見解と責任、今後の対応を明らかにし、子どもたちや保護者に謝罪を行うこと。
三、「カルテ」問題に関する公開説明会を行うこと。
                               以上

コメント (1)    この記事についてブログを書く
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1 コメント

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教育委員は公選で (宮坂亨)
2009-07-12 00:37:53
教育委員は公選制に戻さなきゃダメです。
名古屋の新市長はその点頑張ってるようですが。
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