アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

草間彌生 永遠の永遠の永遠

2012-01-29 | 展覧会
今年注目の展覧会のひとつ。草間彌生の展覧会が中之島の国立国際美術館で開催されています。

あまり展覧会の内容の下調べをしていなかったのですが、決して回顧展的な内容ではなく2005年以降の新しい作品ばかり、そして今回の目玉は2009年に始まった「わが永遠の魂」シリーズです。1.5~2m四方の大きなカンヴァスに、草間さんの奔放な表現世界が創出される本シリーズは、現時点で140点を超えなお今日も制作が続けられいるとのこと。
去年の夏に、このシリーズを描くさまと海外での展覧会の準備が進められる様子がとらえられたドキュメンタリーがテレビでやっていまして、その年齢相応(ああ、もう80を過ぎてられるんだ…という)の様子と、その年齢なのに信じられない集中力の凄さ、パワフルさに驚愕!もっと近寄りがたい人と思っていたら意外なことにけっこう愛らしい方で、興味深かったんですよね。

このシリーズからは50点近く出品され展示されているさまは壮観。このあふれ出るイメージは何なのだろう?制作の様子を見てると即興!下書きをしている様子はありません。モチーフも色も配し方も、本当に奔放です。見ていて楽しい。

平面作品がほとんどでしたが、少しFRPの彫刻作品もありましたし、良かったのは「魂の灯」という作品。小さな部屋に入るとまわりが鏡張りになっていて、吊り下げられている電灯の色がゆっくりと変わる。鏡のせいで、幻想的な世界が無限に広がっているように感じます。その世界に陶酔しそうになると「はい、時間です」…残念なことに30秒しか見せてくれないの!!せめて1分お願いします~。いつまでも見ていたい気持ちになります。

それからこの展覧会の楽しいことには、なんと、一部分は写真撮影可能。行かれる方はカメラを忘れずに…


「ライブ」ですね~。80歳を過ぎてもこんなに新作を取り揃えて展覧会やるなんて!素晴らしいと思います。
4月8日(日)まで。常設展のコレクション展では、草間彌生の若き日の作品、ネットシリーズと突起物彫刻も見ることができます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

犬塚 勉 展 ―純粋なる静寂―

2012-01-24 | 展覧会
2009年にNHKの日曜美術館で紹介され注目されたという犬塚勉。かくいう私もそのひとりでございます~。番組を見ての印象は、山に魅せられその自然の風景を極めて細密に描くことを追求した画家。不幸にもその山で遭難し38才の若さで早世しました。機会があれば、ぜひ実物をこの目で見てみたいと思っていたので、非常に待ち焦がれて京都高島屋へ出かけました。

展覧会では彼の画業を辿る110余点を展観。晩年の細密な画風が注目されていただけに、前半生の作品にはびっくりしてしまいました。画風が全く異なっているのです。写実では全くなく、どちらかというと半具象画といいますか、絵具(アクリルだそうです)の美しい色を生かして色の固まりを組み合わせたような画面。人物を描いたものも何点かありましたが、顔の表情がはっきり読みとれる作品はほとんどなく、夢の中で見ているような幻想的な雰囲気が漂います。初期の頃の風景画は、全然細密ではなく色をそのまま置いただけのようなのですが、なぜか心懐かしい日本の風景を思い起こさせ、見る人の気持ちをシンとさせる静けさを感じる作品が多かったです。後の細密画風には驚かされるけれど、この初期の幻想的な風景画も私はすごく好きでした。お家にもらうなら、こっちの方がイイな!

彼の画風が一変するのは35歳のころ。絵を描くことと同時に山に登ることにも魅せられた画家は、山で体験する自然と一体化した感覚を、草原で草の緑に包まれるような感覚を、まさに草花の一本一本、木々の葉の一枚一枚を細密に描き出すことで表現しようとしました。チラシにもなっている「ひぐらしの鳴く」は、横幅が2mぐらいありそうな大きな作品ですが、描かれている草の一本一本すべてにピントが合っているようで、近くで眺めていると本当に草に包みこまれそうな気がして眩暈がクラッとしました。静かなる画面からは、草の匂いとか虫の声などの音までもが感じられるようです。スゴイです。

本当に山を愛していたんだなあ、と思います。山の中でいろいろな画題を選び出し細密に描いていきます。「ブナ」の幹の根元を描いた作品も迫力満点。木の表面は長い年月を経て古びているんだけど、生命力にあふれていました。山を登る道の石とか、木の株とか、枯れ草の一枚一枚とか。

彼の絶筆となったのは「暗く深き渓谷の入口」という作品。渓谷の入口に行く手を阻むような大きな石。その向こうには山から流れ落ちる水。石や水はすごく細密に描かれ本物みたいなんだけど、背景はほの暗く塗り込められ、自然のものすごい強い力を感じます。そこには初期の頃の作品を思わすような幻想的な様子も漂い、ああここに融合したのかな、と思いました。
「もう一度水を見てくる」が犬塚勉の最期の言葉だったそうです。

絵の素晴らしさを堪能できました。本当に見に行ってよかったな!

人気ブログランキングへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ジャクソン・ポロック展」@愛知県美術館

2012-01-19 | 展覧会
名古屋での会期が22日までと迫っている中、ついに「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」に行ってまいりました!

今回、実際見に行くまでに作家の人生についていろいろと見聞きしましたので、展覧会の作品を見ている間、何だか「哀しい」という気持ちが私を支配しておりました。それまでは、ポロックってアメリカ美術のアイデンティティを打ち立てた抽象表現主義の旗手として、ニューヨークで華やかな成功を収めたアーティストというイメージだったのですが、もう一変!!してしまいました。

展覧会は、年代順に作品が展示されていました。初期の具象画もいくつかありましたが、はっきり言って暗い色調で陰鬱。具象といっても写実ではなく、幻想的なイメージ。ベントン、シケイロス、ピカソなど、先人の作家たちの影響がそこここに見られる。唯一ともいえる画風を打ち立てた作家であっても、こうしていろいろなアーティストの影響を受けながら自らの進む道を求めて苦しみながら格闘するものなんだな…としみじみ感じました。特にポロックはピカソの幻影に苦しめられていたようです。「くそっ!あいつが全部やっちまった」…

やがてポロックの作品にポーリング(流し込み)、ドリッピング(滴らし)のラインが作品に現れ始める。それはいったいどういうきっかけだったのだろう?そこには抽象画で表現される形さえない、テーマもない、あるのは偶然性がもたらす絵具の痕跡のみ…。そうして現代美術の革新的な作品が誕生するのだ!
しかしその絶頂期といわれる期間が1947年から1950年まで、何とたった3年間しかないなんて…!
絶頂期の作品はそんなにたくさんはありませんでした。チラシにも載っている「インディアンレッドの地の壁画」はポロックらしさが凝縮したような素晴らしい作品でした。ポロックはもともと西部の出身であり、この技法も先住民の儀式からヒントを得ているとのことで、都会的というより土着的。その匂いがとても感じられる作品です。
ポロックは、この絵具の痕跡で画面を構成する力、バランス感覚というのか、それがとても優れているのではないかと私は思いました。色のカオスの中で、黒や白のラインがポイントを決めていたり、何気なく散らばっているちょっとした色がすごく効いててよかったりするんですよね。レコードのジャケットに使いたい気持ちもよくわかる…なんて思ったり。

その後ポロックは、大成功を収めた独自の画風を転換し、黒一色の少し具象も交えた新しい境地を探求していく…がそれは凋落の始まりだった。でもポロックは以前の成功を再びなぞることはできなかったのだ。ポロックのポーリングの作品は確かに斬新だと思うけれども、「絵を描きたい」という衝動を持つ人にはいつまでも続けることのできないことなのかもしれない…と思った。ポロックはやはり絵を描きたかったのではないだろうか。そうやってアルコール依存症とも闘いながら自己の可能性を求める日々、世の中から評価されなくもなり、さぞかし失意の中で亡くなってしまったのではないか、と哀しくなってしまうのです。もっと長生きしていたらどんな作品を生み出していただろうか。

会場の愛知県美術館は、栄駅すぐの愛知芸術文化センターというすごく立派な建物の中にありました。常設展の展示会場もすごく広くて充実していたし、ここには劇場もあったりして、またアートショップのナディッフが入っていたり、文化関係の資料が豊富に揃っているライブラリーがあったり、もちろんレストランもあったりして、じっくりとアートを楽しめるいい場所だな~とうらやましく思いました。

久しぶりの名古屋、感想は建物の中が暑かった!(中部電力管内はあまり節電モードじゃないのかも…)

人気ブログランキングへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

村上春樹さんが「小澤征爾さんと音楽について話をする」

2012-01-15 | 
今年はアートの分野を少し広げてみましょう…ということで、読んでみました。

『小澤征爾さんと、音楽について話をする』小澤征爾×村上春樹(2011年 新潮社)

ふたりの会話は忠実に再現されているのでしょうか?春樹さんのいつもの文章のようにすごくリズム良くスラスラと読めてしまう。
読んでいて、耳が「欲しい欲しい」といってきかなかった。その音楽を聞かせてくれよ~と。それにしてもスゴイもんです。音楽の細かい話を会話の文章で読ませちゃうのですから。それも夢中にさせるほど。

小澤さんの話は、宝物のようです。レナード・バーンスタインとかカラヤンとかカール・ベームとか、歴史的な偉大な音楽家と位置づけられる人との親密な交流が自然に語られていて、もちろん小澤さんもすでにそういう人なんでしょうけど。
それを作家である春樹さんが心を通わせた会話を交わし、そしてそれをライブ感たっぷりに我々読者が共有できるなんて!!読んでいて幸せな気持ち~。
それにしても小澤さんってホントいい人なんでしょうね~。いろいろな先輩たちから愛されかわいがられ、そうして与えられたチャンスを確実にものにしてきたことも、偉大な彼をつくりあげた要素なんだと思いました。

クラシック音楽はほとんど詳しくありませんが、マーラーは特に聞いたことがありません。(確かきょう、NHKでやってたかな?)読んでるとどんな音楽なんだろう!とすごく興味わきます。話題になっているのは、交響曲1番の3楽章。重々しい葬送マーチに始まり、いきなり始まるユダヤ民族風の音楽、それから天国の音楽パストラル、そしてまた葬送のマーチ…。
春樹さんはその切り替わりに「必然性がない、脈絡がない」と評しますが、小澤さんはそれに同意しながらも「演奏している人はみんな、その前にやっていたことはがらっと忘れて、気持ちをぱっと切り換えて、この旋律に浸りきって、それになりきって弾かなくちゃならない」と言います。そこには同じ音楽を愛するものながら、やはり意味を見つけようとする「聴く人」と、すっぽり音楽に入りこむ「奏でる人」との違いというのが鮮明に見える気がしました。おもしろいですね。

小澤さんには、体を良くしていただいて、ますますいい演奏を世に残してもらいたいと、心の底から思いました。こんな素敵な会話を本にしてくださったことに感謝!!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小泉淳作さん 逝去

2012-01-11 | アーティスト
朝、新聞を見て驚きました。お正月に訪ねた建仁寺の天井画を描いた小泉淳作さんが、昨日9日に亡くなられたとのこと。87歳でした。

昨年、日曜美術館で初めて小泉さんの存在を知りました。孤高という言葉がぴったりの偏屈っぽいおじいさんでした。でもその精力的な制作風景に圧倒され、桜の花びらを一枚一枚描いた東大寺の襖絵である桜の作品に会いに行きました。(そのときの記事はこちら)

夏には、愛読している日経新聞の「私の履歴書」に小泉さんが執筆され、やっぱり偏屈っぽい、でも信念の固い人だな~という印象を受けました。

今年のお正月は、「そうだ!龍を見に行こう」って思いついて建仁寺を訪ねました。その直後だっただけに驚きました。まだかくしゃくとしておられてお元気そうだったのに…。もう新しい作品が見れないとは残念です。
ご冥福をお祈りいたします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小磯良平をめぐる神戸の一日

2012-01-10 | 美術館
3連休の1日、美術館のサポーター仲間と神戸に出かけました。お目当てはふたつ。

まずは神戸市立小磯記念美術館。ここは神戸にゆかりのある洋画家・小磯良平が亡くなられた後、作品約2000点が神戸市に寄贈されたのを記念し建てられた美術館です。こぢんまりして上品な美術館、中庭には小磯良平さんが制作を続けた実際のアトリエが移築されています。
小磯良平さん、名前はよく知っておりましたがこんなに作品をじっくり見たのは初めてでした。風景画や静物画などもありましたが、私はやはり肖像画に本領は発揮されていると感じました。何しろ巧いなあ!!って感じです。色味は落ち着いていて日本人好みだと思います。
有名な作品は数ありますが、ぜひ見てみたいのは迎賓館、赤坂離宮に飾られている「音楽」と「絵画」。端正な感じがすごくいいなあと思います。

さて、ここでは特別展として「初和モダン 藤島武二と新制作初期会員たち」が開催されていました。藤島武二の支援のもと小磯良平、猪熊弦一郎、中西利雄らが立ち上げた美術団体・新制作協会、近代的市民文化が華開く一方、戦争の影が忍び寄ってきていた1936年、美術界統制に抗し「反アカデミックの芸術精神」を掲げて結成されました。
その設立メンバーの初期の作品から戦争時代の作品、戦後の再出発の作品が展観できます。初期の作品は、新しい美術運動への意気込みが十分に感じられる自由闊達な大きな作品がたくさんあって見ていて楽しかったです。その中にあっては小磯良平さんは極めてオーソドックスなように思いました。
こんな機会でないと見に行くことはなかったと思いますので、行ってよかったな~と思いました。でも朝イチからお客さんはけっこう多かったです。

次に訪れたのは兵庫県立美術館。こちらの常設展でも小磯良平さんの作品が多数展示されています。ここでは兵庫県立美術館のボランティアスタッフによる解説が行われてましてそれも一緒にお勉強させていただきました。
また、1階の展示室では「美術の中の“わたし”」というタイトルで収蔵作品を編集しており、時代やジャンルの区別なくいろいろな作品をテーマに沿って展示していたのが意欲的でおもしろかったです。

なんと!ここでは館長さんの蓑豊氏がテレビ取材を受けているのを目撃!蓑さんの美術館に対する考え方には共感できて、彼の著書なども読んでいたのでちょっと嬉しくなってしまいました。

さて、今回私たちが小磯良平を神戸に訪ねたのは、1月21日より滋賀県立近代美術館におきまして「近代の洋画・響き合う美―兵庫県立美術館名品展― 」という展覧会が始まるからなのです。
彼の最も有名な作品ともいえる「斉唱」がやって来る!!
そういうわけで兵庫ではいつも展示されている人気の同作品は「滋賀に出張中」と言われておりました…。他にも、安井曽太郎、岸田劉生、小出楢重など、日本の洋画史を語る上で欠かすことのできない巨匠たちの作品が見られる楽しみな展覧会。(2年前の小倉遊亀さんの貸しを返していただいたってことですね、よかった!)
2012年初の展覧会、ぜひ見に来てくださいね~。3月11日まで。

人気ブログランキングへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2012年 謹賀新年

2012-01-03 | その他

2012年明けましておめでとうございます。
昨年のお正月は大雪でしたけれども、今年の元旦はとってもよく晴れた暖かな一日でした。
今年は「辰年」ということで、以前から見たかった建仁寺の小泉淳作さんの双龍図を訪ねました。
きょうはものすごく寒かったですが、四条通りは初詣客でめちゃくちゃ混んでいましたよ~。

さて、建仁寺は京都最古の禅寺ということで、栄西が開いた臨済宗のお寺です。禅寺って何か厳格なイメージがありますね。
ここは言わずと知れた俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を所蔵していることでも知られています。展示されているのは複製ですのでやけに金箔が眼に眩しかったですが、それでも実物をまだ見たことがないので、まじまじと見てしまいました。

お目当ての双龍図は、法堂の天井に2002年に創建800年を記念して描かれたものです。暗いお堂に入り天井を見上げるとものすごい迫力の二匹の龍が降って来そうです。一緒に鑑賞していた親子連れのお父さんが「あの龍、夜中になると目が光るねんで~」と何回も言っていたのが印象的…。
天井まで距離があるから少し小さく見えるけど、間近で見たらものすごいだろうな~。小泉淳作さんが制作していた風景を拝見したとき、絵の大きさに対して小泉さんの小さかったこと!
龍って見かけはおどろおどろしいけど、表情はよく見るとけっこうかわいらしいです、目もまんまるでね!

他にも龍がおりました。方丈襖絵の「雲竜図」。



桃山時代に海北友松よって描かれたもので、これもパンフレットによると複製画とのこと。
恥ずかしながら「海北友松」という名は初めて知りましたので、Wikiで調べてみました。近江の出身で元は武家、浅井家の家臣だったらしい。(江に登場していませんでしたか?)禅門で修業を積みながら狩野派に学び、後に豊臣秀吉に気に入られて絵師として活躍したとのこと。なかなか興味の湧く人物です。
襖絵は他にも橋本関雪によるものもありました。(あれは本物?)靴下でめぐるのは冷たかったけど、部屋づくり、襖絵、お庭などけっこう楽しめるお寺でした。また季節の良い時分に行ってみたいものです。

このブログにお越しくださっている読者の皆さま、いつもありがとうございます。今年も何とか週1回を目標にアップしていきたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。時間は作るもの、絵を見る&体験する楽しみのために自分が動くのだ!!をモットーに。

人気ブログランキングへ
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする