アートの周辺 around the art

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引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

アウトサイダー・アート 現代美術が忘れた「芸術」

2012-02-15 | 
アウトサイダー・アート 現代美術が忘れた「芸術」(服部正・光文社新書 2003年)

この本は、長らく図書館で目にしていたのだけど、なぜか借りそびれておりまして。
このたびようやく手に取りました。感想は…おもしろかった!
著者の服部正氏は、兵庫県立美術館の学芸員さんで、20歳の頃にアウトサイダー・アートに出会い美術の道を志すようになったそう。
アウトサイダー・アート関連の美術展も多数企画しておられます。

アウトサイダー・アートとは、一般的に「美術」が流通するシステム(美術館などの展示場、大学等の教育機関、マスメディア、ギャラリーやアートフェア等のマーケットなどなど)に組み込まれていないアートのこと、既成の枠組みを超えたところにある、自由さ奔放さで見る人をドキドキさせ興奮させるアートのことなのだ。ここのところよく言われているような「障がいを持つ人のアート」という狭い意味では決してない。
私たちは特にアーティストを目指していなくても、幼い頃から学校で図工・美術を学び、メディアや展覧会でのメッセージを通じて、既成の枠組みのアートの捉え方にびっしりからめとられている。アウトサイダー・アートとは既成の美術を学ばず、既成の評価の外にいる人の生み出す美術であり、その意味で、障がいを持つ人が当てはまりやすいということはいえるのだろう。

本書では、ヨーロッパにおけるアウトサイダー・アートの発見と、日本におけるアウトサイダー・アートの捉え方について流れを概観していて、その違いも興味深い。

ヨーロッパでは、20世紀初頭の美術の流れの中で、一部の作家や評論家によって注目されてきた。ドイツ表現主義におけるパウル・クレーや、マックス・エルンストを始めとするシュルレアリストは、アウトサイダー・アートのもたらす新しい価値観を賞賛していた。
最大の功績を残したのはジャン・デュビュッフェである。彼は作家でもありながら、アウトサイダー・アート(彼はアール・ブリュットという)作品を熱心の収集し、その膨大なコレクションは現在、スイス・ローザンヌの「アール・ブリュット・コレクション」(美術館という言葉は嫌ったらしい)として展示・研究・収集が行われている。
一方日本でも、戦前にアウトサイダー・アートに魅せられた式場隆三郎という医者がいたのだが、彼の提供に対して賛同するアーティストや評論家が存在しなかった。それ故、現場サイドに立つ医者という立場である以上、作品の質だけではなく、作品を制作する患者の生活や環境の向上・改善に踏み込まざるを得ず、そこで日本のアウトサイダー・アートは常に「教育」「福祉」を背負うことになったと述べていて、なるほどな~と興味深かった。

最後の章では、アウトサイダー・アートの素晴らしさが、学芸員としての著者の目を通して紹介されている。このページはぜひともカラーで見たかった!
ここで注目すべきは「坂上チユキ」という作家。彼女の作品は二度ほど展覧会場で見と事があるのだけど、ものすごく細かいレースのような線描の造形が美しい色で描かれていてすごく素敵だったのです。でも作家についての紹介が全くなく謎だったんですが、なんと著者は友人だとのこと!彼女は精神的な障がいを持つが、タロット占いをしたり神秘的なイメージで、経歴を求められた時は「5億9千万年前プレカンブリアの海で生を授かる」と書くらしい。制作には音楽が欠かせず、エリック・サティが好きで彼女自身が胡弓も演奏する…。謎めいた彼女の美しい作品がいっそう謎めいて神秘的であるようで、なんだか嬉しかった。またぜひ彼女の作品をじっくり見てみたいものです。

アウトサイダー・アートは決して全容をつかめるものではないんだけど、確かに魅かれる。作品が放つエネルギーに圧倒されて気持ちいい~のだ。

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2 コメント

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先日はどうも! (アンクル)
2012-02-23 23:24:21
ビガールさま
この間はとても楽しかったです アリガトウ
あの後アイスバーンを滑りながら帰りましたけど
沖島がウケウケでしたね
次には左義長祭り&バルベッタなんか仕掛けようかなぁなんて考えています
またアイディアよろしくね
そうそう、またウチのごく近所に新しいイタリアンがオープンしました
まずまずですよ
八幡はこの頃話題にこと欠きませんね
返信する
Unknown (ビゴァール)
2012-02-26 15:33:42
左義長祭り、ぜひ行ってみたいんですよ~!
よろしくお願いしま~す。
返信する

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