アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて

2019-01-27 | 展覧会
京都国立近代美術館は、2015年にアパレル会社の創業者が蒐集した世紀末ウィーンのグラフィック作品コレクションを収蔵しました。この展覧会は、その膨大なコレクションを紹介するものです。

チラシやポスターを見ても、この時代のウィーンの空気感って、本当に独特。デザインはしゃれているのだけど、何だか薄曇りのような、パカッとした明るさのない感じ…。

世紀末ウィーンといえば、クリムト、シーレ、そして「ウィーン分離派」。1897年にウィーンの保守的な芸術団体から脱退したクリムトら若手芸術家たちが結成したグループです。チラシの建物は、分離派会館ですね。入口に掲げられているように、"DER ZEIT IHRE KUNST,DER KUNST IHRE FREIHEIT"(時代には芸術を、芸術には自由を)をモットーとし、純粋芸術に対抗する総合芸術を志向しました。絵画や彫刻だけでなく、家具や日用品などの工芸作品も含めた生活全般を彩る芸術活動を目指したのです
彼らの主な活動は、展覧会の開催と、機関紙「ヴェル・サクルム(聖なる春)」の発行でした。本展では、この「ヴェル・サクルム」をたくさん見ることができます。レコード・ジャケットのように正方形の冊子は、画集のように美しく、表紙のデザインもバラエティに富んでいて、見ていて楽しいです。
 
今年は、クリムトやシーレの作品が見られる「ウィーン・モダン」という展覧会も夏には大阪にやって来ますが、この展覧会でも、クリムトの作品が見られます。
展示されているのは、今は焼失してしまったウィーン大学の天井画作品のための習作を中心に10点余りのデッサン。クリムトの油彩画って、色鮮やかでコントラストがはっきりしているし、また、作家自身の写真とか生き様なんかを聞くと、とても力強い印象を受けていたので、描かれている鉛筆の線がとても優しく柔らかだったのが、意外でビックリしてしまいました!手のポーズや足の向きなど、何度も描いているクリムトの筆致は、何だか官能的でもあり…。100年以上も前の鉛筆の線を生々しく感じるなんて、クリムトってやっぱりすごい!と感激しました。夏の展覧会も楽しみです。

20世紀にかけて、カラー印刷技術や写真製版技術の進歩、また写真と差別化して見直された版画作品の隆盛などもあり、グラフィック作品は多様化し、日常生活に浸透していきました。展覧会では、ポスター、デザイン図案集、書籍の装丁、木版画(日本の浮世絵の影響あり!)などなど、実に多彩な作品が展示されていて、とても充実していました。2時間はゆうに楽しめます。

また、コレクション展では、敬愛するアーティスト、ウィリアム・ケントリッジの映像作品が見られます。ブルーの美しいアニメーション作品はなかったのですが、久しぶりに再会できて、嬉しかったです。

展覧会は、2月24日(日)まで。4月には東京の目黒区美術館(おお、ぴったりだわ!)に巡回します。お楽しみに!
Comment
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

吉村芳生 超絶技巧を超えて@東京ステーションギャラリー

2019-01-13 | 展覧会
今年最初の記事は、昨年末に東京へ出かけたときに鑑賞したタイトルの展覧会を取り上げたいと思います。会場は、いつも期待を裏切らない展覧会を見せてくれる東京ステーションギャラリー。あのレンガのユニークな壁が、作品とどのように共創を生み出すかも、いつも楽しみに注目しているところ。

画家・吉村芳生の名は、初めて知りました。チラシを眺めてるだけでは、なかなか全容がわからない、「超絶技巧」がキーワードのよう。新聞に描いているこの自画像は、いったい…?

吉村芳生さんは、1950年に山口県に生まれました。主に郷里の山口県で作品を発表されていたようですが、2007年に森美術館で開催された「六本木クロッシング」で一躍注目を浴び、遅咲きの新人として話題になりました。このとき、彼の作品をキュレーションしたのが、美術批評家の椹木野衣さん。ところが、惜しくも2013年に病気で早逝されました。63才、まだまだ描きたかったでしょうに、本当に残念なことです。

展覧会を通してひしひしと感じるのは、吉村氏の描くことへの執念。彼の作品の「凄さ」は、実際の作品を見ないとわからない!鉛筆で超絶技巧の作品を生み出しているだけど、そこには彼が学んだ版画が深く関わっています。
少し離れたところから、写真に見える作品は、近寄って見るとすべて鉛筆で描かれている。しかも、版画の版をつくるように、モノクロ写真に細かい格子を刻み、そのひとマスひとマスの黒色の濃度を数値化し、同じく細かくマス目を刻んだ紙に、鉛筆の斜線で移し替えていくというもの。(わかります?)なぜ、そこまでやる?と言いたくなるほどの、緻密で根気の要る作業。写真のようで、全く写真ではない作品たちを見ていると、強く心が揺さぶられる気がします。なんなんだ?これは!

さらに、彼の執念を感じるのは「継続すること」。見習いたいです…。1年間、毎日描き続けた自画像。写真を撮ったものを描いたとのことですが、ささいな変化かと思いきや、1日違うだけで全く表情が違っていたりして、おもしろかったです。
そして、晩年に取り組んだ、新聞の一面に描いた自画像。本物の新聞に描いたものもありますが、驚くべきことに、新聞自体(新聞ロゴから、写真も、天気予報も、広告も!)すべて手描きの作品もありました。新聞紙面いっぱいの画家の顔は、記事に関連しているのかいないのか(昔の記事も興味深かったです)、さまざまな表情を浮かべています。これが壁いっぱいに展示されている様子は圧巻でした。

また、美術館のレンガの壁に展示されていたのは、2000年以降に取り組んだ色鉛筆による花々の大きな作品たち。これらも同様に細かいマス目を埋めて描いたとのことですが、写真のようでありながら、この世のものではないような、幽玄さを感じる色鮮やかな花々が咲き乱れています。これも、色鉛筆と思うと、驚愕!

人間の手が描く力って、無限大なのかも…と思わせてくれた展覧会でした。とにかく、驚愕・驚愕です。
展覧会は、来週20日(日)まで。絶対、実物の作品を見て欲しい!
Comment
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2019謹賀新年〜昨年の展覧会を振り返る

2019-01-06 | 展覧会
あけましておめでとうございます!関西は今年もお天気の良いお正月でしたね。すっかり遅くなりましたが、昨年の美術展を振り返りたいと思います。
数えてみると、鑑賞したのは35本。ブログにはあまり書けてませんが、なんだかんだと、けっこう行ってたんだ〜と我ながらビックリ。
その中で私が最も印象に残った展覧会ベスト3をあげさせていただきます。

第3位
ルドンの描く絵画の色の美しさにうっとりした展覧会。これまでの私の中のルドンの印象を一変させました。会場とのマッチングも良かったです。もっともっとルドンの絵を見たくなりました。

第2位
初めて知った画家でしたが、こちらも色彩に魅せられました。そして何と言ってもツブツブの気の遠くなるような絵肌の重層感!いや〜見ていて楽しかったです。

そして、第1位!
これは、得がたい体験でした。私自身のピアノへの思い入れもあったのでしょうけれど、震災で傷ついたピアノに凝縮されたたくさんのことと、それを取り巻く空間に充満する音、光、空気…。言葉にならない感動に包まれた素晴らしい展覧会でした。

その他特筆すべきこととして、昨年は藤田嗣治の没後50年の記念イヤーでもあり、二つの展覧会を見に行くことができたし、講演会なども参加して藤田芸術を堪能することができました。また、少し興味を失っていたアートイベントですが、KYOTOGRAPHIEUNKNOWN ASIAに出かけて、開催地に根ざした会場や展示のおもしろさ、自分の知らないアート作品へ誘ってくれるパンチ力とか、やっぱりおもしろいな〜と感じました。

ところで、今年も関西で見ることができない展覧会が多くありました。3回ほど東京へ出かけましたが、それでも残念ながら見ることの叶わなかった展覧会も多数。
そこで、今回は、見ることができなくて、メッチャ残念だった展覧会ベスト3もあげさせていただきます。

第3位:縄文展(東京国立博物館)
一昨年の国宝展で縄文土器を見て、そのワイルドさは、やはり衝撃的でした。いっぱい見たかったんだよ〜!映画「縄文にハマる人々」も公開されていましたが、どちらも見ることができませんでした…。

第2位:小瀬村真美:幻画〜像(イメージ)の表皮(原美術館)
とにかくネットの評判を見れば見るほど行きたくなって、しかも場所が原美術館!行く気満々だったのに、予定していた日に台風が直撃!縄文展とともに、行くことが叶いませんでした。原美術館が閉館すると聞いて、ますます悔しい思いに!

そして、第1位:石内都 肌理と写真(横浜美術館)
これは、マジ泣きました…。東京に出かける時は、けっこう緻密にスケジュールを立てて行くのですが、めちゃ張り切って横浜美術館にたどり着いたら、木曜日で休館日だったという…。教訓。美術館の休みは月曜日だけではない。

昨年は、特に後半、ブログに記事をアップする頻度が減ってしまいました。もし楽しみに見てくださっている方がいらっしゃいましたら申し訳ありません…。秋ごろにパソコンを買い替えて、WindowsからMacになったのも一因かもしれません。自分でも日々のアート体験のフレッシュな感動・感想をもっと機動的に記していきたいと考えている2019年です。何か新しいツール(媒体?)にも挑戦してみたいです。

そんなこんなですが、今年もおつきあいいただけますと幸いです。今年も素晴らしい展覧会や作品に出会えますように!
Comments (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする