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●「平成の治安維持法」で、室井佑月さんや斎藤貴男さん「なんて、最初から一般人扱いされないだろうしな」

2017年03月08日 00時00分31秒 | Weblog


リテラの対談記事【室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第3回ゲスト 斎藤貴男/室井佑月が斎藤貴男と「共謀罪」を徹底批判!「安倍政権に逆らう人が片っ端から逮捕される」】(http://lite-ra.com/2017/03/post-2963.html)。

 《●共謀罪が成立したら、室井佑月も摘発対象になる?》。

 まず、この対談シリーズの第1回目と第2回目は、以下の通り。

   【室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第1回ゲスト 金子勝(前編)
    室井佑月が経済学者・金子勝に訊く! このまま安倍政権が続いたら
    何が起きるのか、その恐怖のシナリオとは?】
     (http://lite-ra.com/2017/01/post-2849.html

   【室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第1回ゲスト 金子勝(後編)
    右傾化するテレビで孤立、室井佑月が金子勝に弱音!
    「どんどん仲間がいなくなる」「右のやつらが羨ましい」】
     (http://lite-ra.com/2017/01/post-2850.html

   【室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第2回ゲスト 山口二郎
    室井佑月が野党共闘を支える政治学者・山口二郎に
    「ワイドショーが野党を取り上げたくなる過激作戦」を提案】
     (http://lite-ra.com/2017/02/post-2907.html

 「平成の治安維持法」なんて要らいない。「テロ等準備罪 必要46%」というような法案なのか?」…という異常な状況。(室井佑月さん)「なんで2週間余りの祭りのために、大切な人権を蔑ろにされなきゃならないの?」、それに尽きる。
 《私と斎藤さんが異常なわけじゃないんですね》!? 当たり前です。アッチが「異常」。

   『●室井佑月さん、「なんで2週間余りの祭りのために、
           大切な人権を蔑ろにされなきゃならないの?」
   『●ダークな五輪のために「大切な人権を蔑ろに」!? 
       …なぜならニッポンは人治主義国家、アベ様王国だから
   『●「「共謀罪」の必要性強調 首相「東京五輪開けない」」…
              ならば、共謀罪も不要だし、五輪開催権も返上を
   『●「閣僚の適格性に関わる重要問題」連発…
      そもそも「テロ等準備罪 必要46%」というような法案なのか?
   『●「瑞穂の國記念参院予算委員会」は酷かった…
       「平成の治安維持法」を目指す「裸の王様」の取り巻きの醜さ

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http://lite-ra.com/2017/03/post-2963.html

室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第3回ゲスト 斎藤貴男
室井佑月が斎藤貴男と「共謀罪」を徹底批判!「安倍政権に逆らう人が片っ端から逮捕される」
2017.03.04

 東京新聞の「大波小波」でも取り上げられるなど、各方面で大きな反響を呼んでいるこの連載対談。ところが、そのことを当の室井佑月に報告しようと電話したらいきなりこんな苛立った声が返ってきた。

   「反響があったとか喜んでる場合じゃないって! そんなことより
    共謀罪やばいよ、なんとか止めなきゃ!」「次は、共謀罪の恐ろしさを
    みんなにわかりやすく伝える対談やるよ!」

 そう、室井はあいかわらず本気なのである。ということで、今回は、共謀罪が初めて法案提出されたときから、その危険性を訴えてきたジャーナリスト斎藤貴男氏をゲストに迎え、安倍政権が今国会で成立をもくろむ共謀罪の問題点を、一から検証することにした。
 対談では、共謀罪がいかに危険で不要なものであるかはもちろん、その背景にある安倍政権の意図やマスコミの現状に対する鋭い指摘も飛び出した。今回もぜひ刮目して読んでいただきたい! 

(編集部)
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●共謀罪が成立したら、室井佑月も摘発対象になる?

室井 あたし、安倍政権に対しては怒りだらけなんだけど、いまはやっぱり共謀罪のことが一番心配なんですよ。共謀罪はこれまで合計3回も法案が国会に提出され、その度に廃案になっているけど、今回は提出するのが安倍政権でしょ。国民を騙して強引に成立させかねない。政府は法案の名前を「テロ等組織犯罪準備罪」に変えるなどと言ってましたけど、基本は共謀罪と同じなんでしょう。

斎藤 同じというか、共謀罪そのものです。共謀罪は犯罪を犯す以前の、相談や計画、準備段階で処罰可能という法律で、何の犯罪も犯していないどころか、その危険性がなくても適用できる。捜査当局が恣意的に運用すれば、極端な話、誰でも自由に逮捕できるとんでもないシロモノなんです。最近になって、対象の犯罪を原案の676から277に絞り込む方針を打ち出したけど、完全に目くらまし。しかも当初は“テロ”を前面に押し出していたけど、その後明らかになった条文案では“テロ”と表記がなくなっている。本質はまったく変わっていません。国民をバカにするのにも程があります。

室井 『東京新聞』がすっぱ抜いた条文案ですね。それによれば、テロの文言がまったくないどころか、テロ以外の犯罪が6割もあるってことも分かった。結局、安倍さんはテロという言葉を最大限に利用しただけだし、普通の市民や企業も対象になる可能性はますます高まってきましたよね。斎藤さんの本『「共謀罪なんていらない?!」──これってホントにテロ対策?』(共著/合同出版)に書いてありましたけど、共謀罪って“心の中を取り締まる法律”、憲法の思想・良心の自由をふみにじるものですよね。でも、具体的には、どんなことが起こるんだろう?

斎藤 たとえば、この対談のタイトルって「アベを倒したい」でしょ。極端な話、共謀罪が成立したら、それだけでも“テロリスト”扱いされて室井さんも僕も逮捕される可能性があるということです。権力側が「こいつら、批判ばかりしていて気に食わない」と思ったら、この法律を使えば簡単に犯罪者にできちゃう。なにしろ防衛大臣だった石破茂さんが「デモはテロ」と公言できてしまう政権なんだから。

室井 マジか。まあ、政府は「一般人は対象にならない」と言ってたけど、きっと私や斎藤さんなんて、最初から一般人扱いされないだろうしな(笑)。

斎藤 その「一般人は対象にならない」というのが最大のインチキなんだよね。多くの国民がこれに騙されて、共謀罪に関心を払わなくなっている。だから弁護士さんたちた僕はよくこんなたとえを出して警告しています。「飲み屋で上司の悪口をみんなで言っていて、『ぶっ殺してやろうか』という話になればそれも対象になるかもしれない」と。

室井 え〜、それはいくらなんでもリアリティがないよ。みんな「まさか〜」と笑って終わりになっちゃいますよ。だったら、沖縄高江のヘリパッド反対運動の例とか出したほうがいいんじゃないですか。この運動の中心的な役割を担ってきた山城博治さん(沖縄平和運動センター議長)は逮捕されて、微罪なのにもう4カ月以上も不当勾留されているでしょ。いまでもそんなことが起きてるのに、もし共謀罪が成立すれば、高江の反対運動にかかわっている人たちは全員、“犯罪集団”“テロ集団”ってことにされて逮捕されてしまう。そういう権力の恐ろしさを伝えたほうが説得力があると思う。

斎藤 そうも思わないでもないけど、逆なんじゃないかな。いまの状況だと、沖縄の基地反対の例をもち出しても、誰も自分事とはとらえてくれない。本土の人間の多くは沖縄の基地問題を“特殊な例”として片付けてしまってるから。悲しいことだけど、でも、これは共謀罪についても同様で、国民の多くは権力に批判的な“特殊な人”だけが対象で、“普通に生活していれば逮捕されない”と思っている。でも、そんなことはないんだよ。さっきも言ったように、共謀罪の対象となる犯罪は絞り込んだいまも300近くあって、そのなかには、薬物とか詐欺とか偽証とか通貨偽造とか、テロとなんの関係もない犯罪が6割もある。最初は限定的に運用されたとしても、一旦成立したら、いくらでも広げていくことができる。誰もが摘発の対象になり得るんです。ハードルは可変的なのだから、それを訴えないと。第一、世の中はこれからもずっと続くんだよ。いまの安倍さんみたいな総理大臣が、独裁的な権力を振るう時代がくるなんて、たとえば30年前に誰が本気で予想した? で、今は確かに安倍さんが戦後最悪ではあるけど、これからもっともっとトンでもないのが出てこない保証はひとつもない。国家権力というのは必要悪だと思うけど、どこまでも暴力装置なのだから、よほど厳しく縛りをかけておかないと。それが立憲主義の精神です。

室井 法律名に「テロ等」って「」がついてるから、拡大解釈する気満々だとは思ってたけど、いろんな犯罪が対象になるんでしょ? そういえば、LINEやメールで同意しただだけでも、共謀罪が適用されるという話も出てましたけど、本当なんですか。たとえば、過激な友人が「こうなったら官邸に突撃しよう」とかいうLINEやメールを送ってきて、つい「いいね」と返事しちゃったら、つかまっちゃうとか。

斎藤 法務大臣も答弁で認めてからね。同意どころか、LINEだったら既読スルーしただけでも逮捕される可能性がある。それと、共謀罪の処罰対象を「組織的犯罪集団」に限定するなんて言ってるけど、それを決めるのも捜査機関でしょう。解釈次第でどうにでもなる。事実、法務省は2人以上で団体とみなされると言ってるし、最近、国会では処罰対象について、「普通の団体」が“性質を変えた場合”「組織的犯罪集団になりうる」という政府統一見解を示した。これって、市民団体や労組なども捜査機関が“性質を変えた”と言えば、いつでも「組織的犯罪集団」として共謀罪が適用されるということ。実際、彼らの立場ならそれはそうでしょ。テロを起こす前から、わざわざ「我々はショッカーです」とか、「黒い(ブラック)幽霊団」ですとかの看板を掲げる奴は珍しいわけで。で、「デモはテロ」と考える人たちなんだから、沖縄の基地反対運動や安保法制デモに参加した人が逮捕されない方がおかしいことになる

室井 しかも、一旦、捜査対象になったら、盗聴もやりたい放題になるんでしょ? 気に入らない人間をとりあえず逮捕して、それ以前に盗聴していた内容を使って微罪でも何でもデッチ上げられる。

斎藤 昨年の刑事訴訟法改正で、警察は盗聴し放題になったからね。あらゆる犯罪で、電話会社の立ち会いがなくても自由に盗聴できるようになった。それと、逮捕されなくても、共謀罪があるというだけで萎縮効果を生むというのが大きい。共謀罪の怖さは、そうした恐怖が空気となって常に漂い、お互いを監視しあい、人間不信に陥らせることです。特高警察が支配した戦前の日本や旧ソ連のKGB、旧東ドイツのシュタージ、いまの北朝鮮のような社会になるってことです。要するに思想や言論を処罰したい。それに尽きる

室井 安倍さんが共謀罪に固執している目的も、最初はテロ対策なんて言っておいて、結局は条文案から削ってしまった。大嘘だった。本当の目的は自分たちにとって都合の悪い集会やデモ、話し合いを一切させないことその対象はテロリストではなく、“政権に逆らう人なんだよね。


●安倍首相の説明は嘘だらけ! 本当の狙いは政権批判封じ

斎藤 もともと、共謀罪の本質は治安維持、つまり権力に従わない国民を片っ端から“犯罪集団”と認定し、権力を批判する人々を排除しようとするものだからね。しかも、共謀罪は安倍首相ととくに相性がいい。安倍首相の究極の願望は“国民が一丸となり同じ方向を向くのは当然という全体主義だから、それを実現するには格好の道具になる。

室井 しかも、安倍さんって、こんな悪法でも手柄だと思っていて、「歴史に名を残したい」とか言ってそうだしな(笑)。

斎藤 安倍さんの御母堂・洋子サマによると“晋三は宿命の子”らしいからね。「文藝春秋」のインタビューで、そう話しているんだけど、いやはや、なんともはや、マンガだね、ありゃ。俺も『巨人の星』が好きで、“宿命のライバル”とかカッコイイとは思うけど、本気でマンガの主人公になりきった気になるほど幼稚じゃない。

室井 だったらうちの息子だって宿命の子ですよ。ていうか、母親にとって自分の子どもは全員が宿命の子です! それを首相の母親が公言するなんて、本当に恥ずかしい。あ、つい熱くなっちゃったけど(笑)、とにかく、怖いのはこんなとんでもない法律が通りそうなこと。安倍さんに「テロを防ぐためには絶対必要」と言われて、信じちゃう人も結構いたもの

斎藤 テロを取り締まる法律なんて、現時点でも事前の段階で取り締まれる各種予備罪のたぐいが合計58もあり、凶器準備集合罪のような独立した罪とあわせたら、いくらでもある。共謀罪なんて、タテマエとしたって必要がない

室井 あと、私が一番呆れたのは、安倍さんが「国際組織犯罪防止条約」という条約締結のためにはこの法律が絶対に必要で、「この条約を締結できなきゃ、東京五輪を開けないと言っても過言ではない」って言ったこと。本当に五輪開催に必要なら、共謀罪をつくるんじゃなくて、オリンピックを返上したほうがいい。ていうか、共謀罪がなくても東京が開催地に選ばれているんだから問題ないはずでしょ? 

斎藤 あれはまったくの嘘です。国際組織犯罪防止条約を結ぶ187の国・地域のうち、締結に際して国内で共謀罪を新設したのはノルウェーとブルガリアのたった2カ国だけ。日本政府はこれまでに、国連のテロ対策関連条約のうち主要な13本を批准し、日本の国内法ではすでに57もの重大犯罪について「未遂」の前段階で処罰できるように整備している。日弁連も共謀罪立法がなくても国連条約締結は可能だと指摘しています。

室井 でも、そういうこと、全部ごまかしているでしょ。金田(勝年)法務大臣の国会でのめちゃくちゃな答弁、あれ何よ! ハイジャック目的の航空券予約は「現行法で対処できない」なんて言ってたのに、民進党の福山哲郎議員の追及で、現行法の予備罪が適用できることがバレたり。

斎藤 あの人には政治家の以前に、そもそも社会人としての資格も能力も著しく欠如しています。

室井 しかも金田大臣があまりにアホで答弁にすら答えられないから、「法案については成案を国会に提出した後、法務委員会で議論を重ねるべき」なんて文書まで出したでしょ。後になって撤回したけど、事実上の野党質問封じ、議論封じ。何やってんだか。でも、こんな調子でも、成立しそうだから怖いよ。

斎藤 安倍首相の辞書には以外の項目が載っていないから。安保法制成立前の2015年4月にアメリカ議会で「一般に海外派兵は認めらない」なんて言ってたけど、これも大嘘だった。TPPも“絶対反対”って言っていたのに強行採決で成立させた。こうした安倍政治に国民はすっかり慣らされてしまって違和感さえももたないことも大きな問題だと思う。こんなことしてると、共謀罪どころかもっとひどいことになると思うよ。電話やネットだけでなく、事務所や団体に忍び込み、盗聴器や監視カメラを取りつけての監視活動さえ行われる危険性もある。これは実際に警察内部の検討会で「会話傍受」という名前で提案されていることなんだ。

室井 もうすでにやっていませんでしたっけ? 昨年8月に、大分県警別府署員が民進党関連建物の敷地内に無断で立ち入って隠しカメラを設置して、問題になったことがありましたよね。

斎藤 建物外に取り付けることはもうやっているけど、それを室内にまで広げようとしている。とにかく、僕たちが考えるよりはるかに異常な世界になっている。

室井 もう、どんどんそうなって来ていますよ。この異常な世界に何か対抗手段はないんですか?

斎藤 まず第一に、とにかくこんなバカげた政権をさっさと退陣させ、共謀罪だけじゃなくて、盗聴法だの“マイナンバー”──ホントは「スティグマ(奴隷の刻印)ナンバー」だけど──だの顔認証機能付の監視カメラ網だのといった、人間を支配するための悪法や仕組みを根絶する。で、そこまで持っていく過程で一番大切なのは「気にしない」ことでしょう。気にしはじめたら、たとえば「政権批判なんて一切やらないほうがいい」となってしまうけど、「やったら捕まるかもしれないけど、それは悪いことではない」という意識をもつこと。空気を忖度しない、これに尽きると思う。逮捕されても、「自分は正しいことをして捕まったんだから、何も問題はない」と思うしかない。少なくともこの場合は、ひとりよがりではないよ。悪法でも法は法、かもしれないが、こんなものは人間の真実なんかじゃない人間にはやっていいことと悪いことがあるんだ

室井 それは斎藤さんがジャーナリストで、権力批判をするという当然の責務をもっているから。でも多くの一般の人は、やっぱり怖いよ。心のなかを覗かれて、会話を盗聴されて、ちょっとでも気に入らないと逮捕されて。それで新聞に実名が載っちゃうんだよ。サラリーマンだったら解雇されちゃうかもしれないし。

斎藤 僕だって積極的に捕まりたいとは思わないよ。でも今のような絶望的な世の中で、無理をして保身に汲々してもひとつもいいことない。何よりも、支配されるだけの生き物に成り下がったら、人間はオシマイじゃないですか。だから開き直るしかないと思っている。

室井 安倍さんに寿司に誘われて喜んで食べているメディアの人たちは、保身しか頭にないみたいだけど(笑)。


●安倍政権下で進むグローバル資本主義ファシズム

斎藤 メディアの体たらくは論外ですね。共謀罪は最近になってようやく反対キャンペーン的な報道も散見されるようになったけど、それだって市民運動の力に押された結果。独自の調査報道なんて、まずやろうとしない。そもそも監視社会のテーマがすごく嫌われるようになった。以前は「週刊文春」でも連載させてくれたけど、いまはメディア状況が激変した。「そんな話題は誰も興味がないから、やめてくれ」と言われてしまう。

室井 マスコミだけじゃなく、フリーのジャーナリストも変わってきてません? だって2002年の住基ネットや、2003年の個人情報保護法にしても、多くのジャーナリストが集まって反対の声を上げたけど、マイナンバー制度や共謀罪については批判の声が少ないと思う。

斎藤 そうなんだ。「斎藤さん、頑張ってください」で終わり。以前は監視社会の恐ろしさや問題点を知っている人たちが現役だったからね。古い世代の人々は戦争を体験していたり、皮膚感覚で権力の暴走の怖さをわかっていた。でも、あれから10年以上経ったいま、当時運動をしていた人たちも高齢化し、いい加減くたびれたんでしょう。そして何も知らない若者が大人になり、ネットなどで番号に慣れちゃって鈍感になっている。さっき、旧ソ連や旧東ドイツ、北朝鮮みたいなファシズムになるといったけど、共産主義ではないので、グローバル資本主義によるファシズム社会が出来上がりつつある、と言った方が正解ですね。世界的に見てもそう。新自由主義やグローバリズムというのは、巨大資本の経済的利益以外のものに一切の価値を認めない。みんなが金持ちになるというならまだしも、いまで言うところの“成長”の意味って下々の金を吸い上げて、大企業が太る=成長”でしかないんだけどね。

室井 なんでみんなそのことに気がつかないんだろう。私はこの現状を、なんとか大きく変えたいんだけど。

斎藤 それは僕もそうだけど、焦ってもしようがない。とにかくいまは自分を見失わないようにと常日頃考えている。監視社会の問題点を取材し続けてきたけど、最近は「もしかして自分のほうが狂っているのか?」と思うときさえあるからね(笑)

室井 その気持ちよ〜くわかります。世論調査で安倍さんの高い支持率が出ると、「ひょっとして私が間違っているの?と思うことがあるもの。でも潮目が変わるときはきっとくる。それにマスコミにもやっぱり期待したいんです。私は1970年代生まれですけど、その世代の文系の最高峰って、朝日新聞社の記者になるというイメージが強い。頭が良くて正義感もあって。だから「金儲けがすべてじゃない。金儲けばかりを唱えている人間は恥ずかしいという社会正義の観点があった。それを取り戻して欲しい。

斎藤 確かに僕と同世代か上の人で、記者になったような人たちは、「戦争のない世の中をつくりたい。平等な世界をつくりたい」という動機が主流だった。僕なんかはその中では、最も志の低い記者でした。

室井 私の本業は、物書きじゃないですか。物書きってみんな、戦争反対とか、権力を疑うという共通の意識があると思ってた。新聞記者やテレビに出ているコメンテーターも含め、権力批判するのは当たり前だと思っていました。でもそうではなく権力をヨイショして、平気で戦争に協力しようとする人がどんどん増えて。逆に、誰も「戦争反対」って声を上げなくなってしまって。そんなのって、鼻から牛乳を飲むくらいおかしなことでしょ? こんな状況でヤバイくない? それとも、私がおかしいの? わからなくなっちゃう。

斎藤 でもちょっといい話がある。昨年12月6日に保阪正康さんの『ナショナリズムの昭和』(幻戯書房)の出版記念パーティーがあって、文藝春秋の松井清人社長が発起人代表として挨拶した。そこで松井社長は「“右翼的独善”の象徴みたいな政権に対して、正面からモノを言いにくい。(メディアが)異を唱えようとしない現状はおかしい」と発言したんだ。同じく文藝春秋の元専務だった半藤一利さんも、「昔は“反動”と言われていた私が、今や極左と言われている。世の中、どうなっちゃったの?」だって。あの文藝春秋の社長や元幹部が、だよ。保守の代表メディアでさえも危機感をもつほどヤバい世の中ということだし、そもそも物書きやメディアが権力批判をするのは当たり前。しかもそれが商売だし特権でもあったはずだからね。

室井 そんな特権を捨てちゃういまのマスコミってバカなのかな。

斎藤 バカなんでしょう。なんてもったいない。ほとんどの職業は“お上”がどんなに酷いことをやっても、逆らわず、その枠のなかで儲けることが賢いと考えられていると思うけど、しかしマスコミと物書き、弁護士と大学の先生は、権力批判が生業なんだ。特権というか、それが責務のはずなんだけどね。

室井 でも、実際のメディアは萎縮しきっていますよね。安倍政権についてだけじゃなく、視聴者や読者のクレームやネットでの批判にも過剰に反応する。だから、萎縮させない努力しているんです。いいことを書いた記者には「よく戦った」と名前を出して褒めるようにしています

斎藤 僕も講演会で「私たち市民はどうすればいいですか?」と聞かれたら、「いいと思うメディアがあったら、ぜひ直接電話して褒めてください」と言うようにしています。マスコミはこのところ、文句ばかり言われているからね。良い報道は褒めてもらわなくちゃ

室井 『ニュース女子』(TOKYO MX)問題で、安田浩一さんや津田大介さんがMXへの出演を拒否していたのも、それはひとつの見識だと思うけど、私はテレビ局との意見が違っても、サンドバックのように批判されても、追い出されるまでテレビに出続けます。自分から「もう出演しません」と言ったら負けだと思うから。それでもし追い出されたら「追い出された! 追い出された!と言いまくる。それも作戦だと思ってる。

斎藤 それもまた見識だと思います。多様性を否定し、権力に隷属させようとするのが共謀罪の本質です。だからこそ室井さんのような存在は貴重だし、必要なんだ。

室井 じゃあ、最後にもう一度確認しますけど、私と斎藤さんが異常なわけじゃないんですね

斎藤 もちろん(笑)。でも、異常と言われても最後まで頑張って共謀罪を阻止しましょう

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斎藤貴男 ジャーナリスト、1958年生まれ。日本工業新聞、「週刊文春」記者などを経てフリーに。著書に『「非国民」のすすめ』、『ジャーナリストという仕事』『「マイナンバー」が日本を壊す』、「『戦争のできる国へ──安倍政権の正体』など多数。

室井佑月 作家、1970年生まれ。レースクイーン、銀座クラブホステスなどを経て1997年作家デビューし、その後テレビコメンテーターとしても活躍。現在『ひるおび!』『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)、『あさイチ』(NHK)などに出演中。
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コメント
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●軽減税率というお零れと「ジャーナリズムの義務」: 「権力の犯罪を暴くためなら、権力に対しては…」

2016年09月27日 00時00分22秒 | Weblog


『憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。/マガジン9』(http://www.magazine9.jp/)の斎藤貴男さんのインタビュー記事の(その2)です。【この人に聞きたい/斎藤貴男さんに聞いた(その2) 「報道の自由」と軽減税率の危ない関係】(http://www.magazine9.jp/article/konohito/30251/)。
 (その1)はコチラ

   『●斎藤貴男さん、税率を上げても「「スウェーデンのような
           高福祉国家を目指すんだ」なんて、誰も言わない」

 《マスコミの現状については、言いたいことがたくさんあるのですが(笑)、中でもきわめて重要で、かつほとんど知られていないのが、この軽減税率の問題です。…ただ、それでも今回の新聞業界のやり方には、大きな問題があると考えています。…最大の問題は権力に報道内容に干渉する余地を与えることです》。

   『●斎藤貴男さん、大新聞社は「自分たちだけは例外。
        権力にオネダリして、そうしていただいたのである」
    《このままではジャーナリズムが死に絶えてしまう。反権力的な番組を
     流した放送局の電波停止を示唆した高市早苗総務相の発言など、
     安倍晋三政権のメディアコントロール戦略だけを指すのではない。
     恐ろしいのは圧力よりも自滅だ
    「アベ様に逆らう者は「誰一人残っていなかった」
     …という惨状なジャーナリズム。「電波」な「凶器」高市総務相の暴走と 
     「報道現場の声」から見えてくるのは、「自粛」「忖度」「委縮」…が「内部から」
    「どうやら消費税増税に賛成する理由は、アベ様らによる、
     新聞社への軽減税率適用という「御慈悲」にあるらしい。
     報道機関・ジャーナリズムであれば悪税制度・消費税そのものに
     反対すべきなのに…」

 斎藤貴男さんは、以前、軽減税率について、上記の記事で《自分達だけは例外。権力にオネダリして、そうしていただいたのである》と言っています。そのココロは、《最大の問題は、権力に報道内容に干渉する余地を与えることです》ということです。 
 ジャーナリズムの落日。
 青木理さんや神保哲生さんら、尊敬できるジャーナリストは数少ない。斎藤さんもそのうちの一人。斎藤さん曰く《極端に言えば、権力の犯罪を暴くためなら権力に対しては何をしたっていいとさえ、僕は思っています。それがジャーナリストの義務なんですから》。亡くなったフォトトジャーナリスト福島菊次郎さんも同じようなことを言っている…《問題自体が法を犯したものであれば、報道カメラマンは法を犯しても構わない》と。そして、「「福島菊次郎91歳の写真集『証言と遺言』」の「最後に赤々と押印、「闘え」「」と」。そう、「闘わねば」!」。

   『●失われる「メディアの作法、矜持」…
     「権力を監視する機能が失われ」、しかも、アベ様の「思う壺」
   『●青木理さん: ジャーナリストの矜持
      「権力や権威の監視」「強者にこそ徹底した監視の目を」
   『●反骨の報道写真家・福島菊次郎さん亡くなる:
      『証言と遺言』の最後に赤々と押印、「闘え」「菊」と

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http://www.magazine9.jp/article/konohito/30251/

2016年9月21日up
この人に聞きたい
斎藤貴男さんに聞いた (その2)
「報道の自由」と軽減税率の危ない関係

「もっともシンプルで、公平な税制度」──しばしば、そんなふうにも説明される「消費税」。安倍政権は今年6月に増税の延期を発表しましたが、「増税」そのものについては、「いっそうの高齢化社会に向けて、社会福祉の財源を確保するためにはやむを得ない」というのが一般的な認識ではないでしょうか。しかし、ジャーナリストの斎藤貴男さんは、これに真っ向から反論します。「消費税は、まったくシンプルでも公平でもない、『弱い者いじめ』の税制度だ」──その理由をうかがいました。



斎藤貴男(さいとう・たかお)ジャーナリスト/1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業、英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経てフリーに。主な著書に『機会不平等』(文春文庫)、『ルポ改憲潮流』(岩波新書)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『「東京電力」研究 排除の系譜』(角川文庫)、『ジャーナリストという仕事』(岩波ジュニア新書)など多数。


新聞への軽減税率適用。
何が問題なのか

編集部 さて前回、消費税制度の「おかしさ」とともに、それについてまったく報じてこなかったマスコミの責任にも言及されましたが、それと深く関連するのが、生活必需品など一部の商品に標準の税率よりも低い税率を適用する「軽減税率」の問題です。昨年12月の閣議決定では、酒類・外食を除く飲食料品と並んで、新聞の定期購読料が軽減税率の適用対象とされましたが斎藤さんはこのことを厳しく批判されていますね。

斎藤 マスコミの現状については、言いたいことがたくさんあるのですが(笑)、中でもきわめて重要で、かつほとんど知られていないのがこの軽減税率の問題です。
 閣議決定のとき、マスコミは食料品への軽減税率適用についてはかなり詳しく報道しました。外食は適用対象外だけど、じゃあコンビニの飲食スペースはどうなんだとか、テイクアウトで頼んだけど席が空いたから食べて帰ることにしたケースは、とか…。一方で、新聞への適用については、文化人を使った広告などで「新聞は活字文化の中心だから」「日本人の知的水準を維持するために必要だ」といった主張を繰り返すばかりでした。
 僕も活字の世界で食べている人間ですし、そうした主張にまったく共感できないわけではありません。ただ、それでも今回の新聞業界のやり方には、大きな問題があると考えています。


編集部 新聞の読者としては、増税されても購読料が高くならないならありがたい、とも思ってしまいそうですが…。具体的に、何が問題なのでしょうか。

斎藤 最大の問題は、権力に報道内容に干渉する余地を与えることです。
 日本新聞協会は、1989年の消費税導入のときから、一貫して「軽減税率の適用」を要求してきました。いわば政権与党、とりわけ税制調査会への「おねだり」を続けてきて、それが今回通ったわけですが、常識として強いものにお願いをするときには、何かお礼をしなきゃなりませんよね。


編集部 どういうことでしょう?

斎藤 「新聞は活字文化の中心だから」というけれど、あらゆる業界はそれぞれ何らかの存在意義をもっているからこそ存続しているわけです。どこの業界だって、「うちは重要だから軽減税率にしてくれ」と主張しますよね。食品みたいに「買えないと死んでしまう」ような分かりやすいものだけではなくて、たとえば「過疎地では自動車がないと生活できない」とか「ラップは食品を売るときの必需品だから、同じように軽減すべきだ」とかいう主張だってできるわけです。
 そう考えると、これは「どこの会社が」というのではなくて一般論ですが、あらゆる業界が永田町や霞ヶ関に日参し、さまざまな「バーター」を提案しに行くということになるに決まっている。その中で、業界としては大きいといえない新聞を優遇するんだったら、お金とか天下りとかよりも、「おまえのところの新聞の論調はどうにかならないか」という話に当然なりますよね。僕が安倍政権の人間だったらそう考えます。


編集部 「軽減税率を適用する代わりに政権批判は控えろ」とか…。

斎藤 最近、新聞の「首相動静」の欄などで明らかなように、マスコミ各社幹部が首相としばしば会食していることが指摘されていますが、そこでこの軽減税率とそのバーターについて話し合われてきた可能性はきわめて高いと思っています。
 今回の増税延期で、軽減税率の適用も延期になったわけですけど、これはいわば「鼻面にぶら下げられた人参」が逃げていったようなもの。であれば、その人参をポイッと捨てられてしまわないように、人参がもらえるまでずっと言うことを聞きます、ということになるんじゃないか。


編集部 そうなると、メディアの重要な役割であるはずの「権力の監視」なんて、できるはずがないということになってしまいますね。ただ、新聞に軽減税率を適用するというのは、ヨーロッパなどでも一般的だと聞きます。

斎藤 新聞協会も、軽減税率適用の根拠としてその話を挙げています。それはたしかにそのとおりで、特にイギリスでは、新聞だけではなくすべての出版物が「ゼロ税率」なんです。
 ただ、そこに至る経緯は日本とは大きく違っています。イギリスでは18世紀、新聞というメディアが初めて現れて勃興したときに、それによって市民が知識をつけることに危機感をもった政府が、厳しい弾圧をしたんです。そしてその一環として、税の仕組みを変えて新聞に重い課税をしようとした。それに対して市民社会が「自分たちに知識や知恵をくれる新聞を弾圧するなんて、ふざけるな」と声をあげて。チャーチスト運動(※)の中心人物なども加わり、何人も投獄されるような事態になりながら、150年くらいかけて勝ち取られたのが、現在の「出版物ゼロ税率」なんですよ。


   ※チャーチスト運動…英国で1830年代後半に起こった、労働者階級の
     普通選挙権獲得運動。世界最初の労働者による組織的政治運動といわれる。


編集部 新聞社ではなく、読者からの声によって実現した制度なんですね。

斎藤 だから、それに倣うというのであれば、同じように読者の、市民社会の支持があって初めて、「軽減税率を適用してくれ」という資格があるのであって。どこからも求める声があがっていないのに自分たちだけで我々は日本の文化の中心だみたいなことを主張するのはまったく話が違うと思うんです。


編集部 ちなみに、新聞だけではなく出版業界からも軽減税率適用を求める声が上がっているそうですが…。

斎藤 こちらは、主に有害図書の扱いをどうするかがネックになってペンディングの状態になっています。たしかに、アダルト本は除くなどのある程度のゾーニングがないと一般的に理解は得られないでしょうが…。ただ、こうした「線引き」は非常に危険なものでもあります。
 業界内だけでやっている間はいいのですが、税制などにからめてしまうとこの記事はいいけどこっちはダメ権力に口を出させる余地を与えることになる。ある雑誌に掲載される記事が気に入らないから、巻頭グラビアのヌード記事を口実にして取り締まるなんてこともできるようになってしまいます。もちろん、権力がなんだってけちを付けようと思えばいつでもできるんですけど、わざわざその種をこちらから与えているようなものではないでしょうか。


「メディアであること」よりも
ビジネスを優先させてきたマスメディア

編集部 消費税以外の問題についても、マスメディアの「萎縮」ムードは顕著です。

斎藤 NGOの「国境なき記者団」が発表する「報道の自由ランキング」の2016年版で、日本は72位でした。2010年には11位でしたから、この落ち方はすさまじいとしか言いようがありません。
 その後、国連人権委員会特別報告者のデービッド・ケイ氏が来日して記者会見し、日本における報道の自由や表現の自由への懸念を示しました。このとき指摘されていたのが、「高市発言」(※)に象徴される安倍政権からの圧力、そして特に3・11以降に広がるメディアの萎縮ムードです。
 マスコミ業界の人間はどちらかというと「政権からの圧力」を強調したがりますし、それは僕も事実あると思いますが、それだけで片付けてしまうのには不満がありますね。


   ※高市発言…2016年2月の衆院予算委員会で高市早苗総務大臣が、
      テレビ局が「政治的公平性」を欠く放送を繰り返し、行政指導にも
      応じなかった場合、放送法違反を理由に電波停止を命じる可能性に
      言及したことを指す。


編集部 というと?

斎藤 現政権が特にひどいというのはあるとしても、権力というのは常にそういうもの、メディアに対して圧力をかけるものでしょう。それをいまさらどうこう言っても始まらないし、そんなことで萎縮してしまうんだったらプロじゃない。圧力がかかったときこそ記者クラブなどで団結して、抵抗するのがメディアの職責だろうと思うんだけど、全然そうはならないんですよね。
 これは、メディアがメディアであるよりも、企業であること、つまりビジネスを最優先させてきた結果。消費税のおかしさについて誰も報道しないのも、一つには記者もサラリーマンで関心がないからでしょうけど、仮に「おかしいな」と思った記者がいても、経営的には書かせたくないので書かせてもらえないということもあると思います。


編集部 政府からの圧力だけではなく、読者からの批判──罵声罵倒に過ぎないものも含め──に対する耐性も非常に弱くなっているように感じます。

斎藤 本来、メディアなんて批判されて当たり前のはずですよね。
 15年くらい前、朝日新聞社の月刊誌『論座』に原稿を書いていたときに、ある編集者がやたら「こんなこと書いたら『諸君!』になんて書かれるか」と気にしていたことがあって、「バカじゃないか」と思っていたんだけど(笑)。最近では、ネットでの反応をすごく気にするようになっていて。「何を書かれるか」と心配するというよりも、「ちょっとでも危なそうなテーマはやらない」という感じになってきていますね。耐性がないにもほどがあると思います。


編集部 2014年に特定秘密保護法が施行されたときにも、「これでますます報道の自由が制限される」と懸念の声がありましたが…。

斎藤 もちろんそれはあるでしょうが、本当に「特定秘密保護法違反だ」といって逮捕されるような記者がいればたいしたもんだと思いますよ。僕にもできないから言えた義理ではないけれど。実際にはいないから問題なのであって。
 僕は、もしこれから権力批判の報道をしたことが理由で逮捕されて有罪になるような記者がいれば、業界で賞金を出せばいいと思っています(笑)。法律に触れたのは事実だから刑には従うけど、メディアにはそれとは違う価値観があるんだから、ということです。
 今は、政治家相手に隠し録りをすることもすべて問題視されたりするけれど、そんなのはばかばかしいですよ。極端に言えば、権力の犯罪を暴くためなら、権力に対しては何をしたっていいとさえ、僕は思っています。それがジャーナリストの義務なんですから。


ジャーナリストの存在意義は
「強いものに立ち向かう」こと

編集部 ちなみに斎藤さんご自身は、どんなきっかけでそのジャーナリストという仕事を選ばれたのですか?

斎藤 僕は、もともとはなんの志もありませんでした(笑)。
 僕の家は東京の池袋にあった鉄くず屋だったんです。親父は明治生まれで、丁稚奉公に来てそのまま婿入りした人。戦後にシベリアに送られて、昭和31年の末に帰ってきて、その翌々年に僕が生まれました。そんなわけで、僕もずっと「中学出たら地方の鉄くず屋に丁稚奉公に行って、帰ってきたら後を継げ」と言われて育ちました。
 僕もそのつもりだったんだけど、いざ中学を出るときになったら、高校全入時代だったし、まだ働くのは嫌だなあ、と思って。「よりよい商人になるために」という口実で、高校、大学と進学させてもらったんです。


編集部 じゃあ、卒業後はお父様の後を継ぐ予定だった…。

斎藤 ところが、その親父は僕が20歳のときに亡くなり、店もたたんでしまったので、後を継ぐ必要がなくなっちゃったんです。それで卒業前に、一度は一般企業に内定をもらったんですが、なぜか途中で連絡が途絶えてしまった。こちらから連絡したら「君は内定取り消しだ」って言われて。理由も教えてもらえませんでした。
 後日、ジャーナリストになってから、ネタ元だった公安のおまわりさんに何気なくこの話をしたら、「そりゃ、シベリア帰りのせがれが普通の会社に入れるわけはないよ」と笑われました。シベリア帰りの人間は基本的に、全員ソ連のスパイだという扱いをされるのだそうです。


編集部 ええ?

斎藤 「いや、親父はたしかにシベリア帰りだけど、小学校しか出てない男なのに、どうやってスパイなんかできると思うんですか」と言ったら、「いや、そういう下層階級の出身だからこそ、国家に対してルサンチマンがあると我々は考えるんだ」。なるほどなあ、と思っちゃいました。
 それでともかく、別の職を探さなきゃいけないというので、一般企業より少し試験の遅かったマスコミを受けることにしたんです。もともとジャーナリズムには憧れがあったし…結果、産経新聞にだけ受かって、その系列の「日本工業新聞」に入社することになりました。そこで「鉄くず屋のせがれだから」という理由で、「鉄」を担当することになったんです。
 最初は、せっかく経営者にアポイントを取っても、何を聞いていいか分からなくて黙り込んじゃうようなこともありましたが、1年もやっていると業界の「事情通」みたいな感じになってくる。そうしたら、やたら接待を受けるようになって、「これはまずい」と思ったんです。


編集部 というと?

斎藤 僕はまだ20代前半の若造なのに酒席で、もう還暦を過ぎた大企業の重役が「斎藤さん、お流れをください(目上の人に酒を注いでもらうこと)」って正座して、頭を下げてくるんですよ。こんなことをずっとやってたら人間が腐る、と思って。それで配置換えを希望したんだけど通らなくて…つてをたどって「週刊文春」に入れてもらったのが、ジャーナリズムの世界のもろもろを考えながら仕事をするようになった最初です。


編集部 そこから、一貫して権力批判を続けてこられて…。

斎藤 それは、いろんな問題を追いかけるうちに、せざるを得なくなったというほうが正しいですね。
 ジャーナリストというのは、つまるところ強い者に立ち向かうという点にしか存在意義がないと思うんですよ。特に、今はこれだけのネット社会でしょう。かつては、企業の新製品発表とか行政や警察からのお知らせなどを載せて広く知らせるのもメディアの役割だったけど、今はそれぞれがネットで直接発信できてしまうから、そんな必要もなくなった。その中で、メディアが生き抜いていく余地があるとしたら、それはやっぱり調査報道でしかないと思うし、僕もそれを着実にやっていくしかないと思っています。

構成/仲藤里美・写真/塚田壽子
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●斎藤貴男さん、税率を上げても「「スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだ」なんて、誰も言わない」

2016年09月26日 00時00分32秒 | Weblog


『憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。/マガジン9』(http://www.magazine9.jp/)の斎藤貴男さんのインタビュー記事(その1)【この人に聞きたい 斎藤貴男さんに聞いた(その1) メディアが報じない「消費税のカラクリ」】(http://www.magazine9.jp/article/konohito/30149/)。
 ちなみに、(その2)はコチラ

 《消費税常に弱い者に負担が行く不公平な税制度…『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)…書評もまったくしてもらえません。新聞も雑誌も、この問題についてはほとんど書かせてくれないですね。もちろん、増税反対の論調は時々載るけれど、僕が本で書いているような、そもそも消費税は仕組みとしておかしい、という話はいっさい載らないんです。最たる例が、「消費税は、実は転嫁できない、弱い者が自分で負担するしかない税制」という話です》
 《税率だけはどんどん上がるのに、スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだなんて、政治家は誰も言わない…むしろ、どんどん社会保障は削られてアメリカ型の社会になっていっている

 どう考えても、最悪の税制・消費税。マスコミもほとんど指摘しない。なぜ? 

   『●投票者自身の首を絞めてはいけない: 
      「格差是正のための税制を求め、豊かな層に多く課税すべき」
   『●スガ殿曰く「報道が萎縮するような実態は全く生じていない」
                …「日本は今や世界の笑い者」、恥ずかしい…
   『●アホらしき税収不足! 日本の「報道の自由度」72位で、
              「パナマ文書を調査しない国は…と日本くらい」
   『●斎藤貴男さん、大新聞社は「自分たちだけは例外。
        権力にオネダリして、そうしていただいたのである」
   『●2016年報道の自由度ランキング72位:
       「メディアは二流ならば社会も二流」、アベ政治も…粗悪

 斎藤貴男さん流に言えば、《大新聞社は「自分たちだけは例外。権力にオネダリして、そうしていただいたのである》。どうやら消費税増税に賛成する理由は、アベ様らによる、新聞社への軽減税率適用という「御慈悲」にあるらしい。報道機関・ジャーナリズムであれば悪税制度・消費税そのものに反対すべきなのに…。
 アベ様の大好きな、番犬様の本国アメリカの税制はどうなっているのですか? 社会保障費のために消費税やってるの? 一方、しばしば税率の高い国として比較される《スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだなんて、政治家は誰も言わない…むしろ、どんどん社会保障は削られてアメリカ型の社会になっていっている》。消費税増税分が社会保障に回っているの? 法人税減税分に代替され、大企業の内部留保分に回っているだけ。それでも自公や「癒」党、民進党ムダ元首相ら消費税増税一派に投票するなんて、オメデタイ人達

 《海外にいっては金をばらまいてきているのに。海外で自分らだけがいい顔をできればそれでOKか。でも、そのお金は血税。…あたしたち国民に向かって、「税収が足りない」とか二度といわないでほしい。そのまえにやることあるでしょう? 世界を揺るがしたパナマ文書》という背景を受けて、室井佑月さんの至言税収が足りなくば、法の抜け道を閉ざし、適正に課税して金持ちからお金をとったらいい》。
 【雨宮処凛がゆく!: 第327回/ピケティ・ブームと税制。の巻】(http://www.magazine9.jp/article/amamiya/17757/)に良いことが書いてある。《ひとつは民間税制調査会。…もうひとつは、「公正な税制を求める市民連絡会(仮称)準備会」。こちらの呼びかけ人は弁護士の宇都宮健児氏…そして私だ。どちらの団体も、格差是正のための税制を求め、豊かな層に多く課税すべき、という点では一致している》。全く同感。消費税増税延期を喜ぶのではなく、消費税そのものを止めよう。消費税なんて、要らない

   『●『消費税のカラクリ』読了
   『●そういうことで騙される人はたくさんいる: 
      内閣支持率49.4%、アベ様による消費増税賛成46・5%
   『●「軽減税率か給付付き税額控除か」なんてことよりも、 
        そもそも消費税を否定する経済学者はいないのか?
   『●消費税増税見送り? アベ様は、「アベドアホノ丸」という
                難破船・泥船が座礁したことを認めた訳だ
   『●斎藤貴男さん、大新聞社は「自分たちだけは例外。
       権力にオネダリして、そうしていただいたのである」

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http://www.magazine9.jp/article/konohito/30149/

2016年9月14日up
この人に聞きたい
斎藤貴男さんに聞いた (その1)
メディアが報じない「消費税のカラクリ


「もっともシンプルで、公平な税制度」──しばしば、そんなふうにも説明される「消費税」。安倍政権は今年6月に増税の延期を発表しましたが、「増税」そのものについては、「いっそうの高齢化社会に向けて、社会福祉の財源を確保するためにはやむを得ない」というのが一般的な認識ではないでしょうか。
しかし、ジャーナリストの斎藤貴男さんは、これに真っ向から反論します。「消費税は、まったくシンプルでも公平でもない、『弱い者いじめ』の税制度だ」──その理由をうかがいました。



斎藤貴男(さいとう・たかお)ジャーナリスト/1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業、英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経てフリーに。主な著書に『機会不平等』(文春文庫)、『ルポ改憲潮流』(岩波新書)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『「東京電力」研究 排除の系譜』(角川文庫)、『ジャーナリストという仕事』(岩波ジュニア新書)など多数。


消費税は「常に弱い者に負担が行く」
不公平な税制度


編集部 安倍政権は今年6月、消費税の税率10%への引き上げを2019年10月まで約2年半延期すると発表しました。斎藤さんは以前から消費税増税に強く反対するとともに、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)というご著書などで、消費税の仕組み自体の「おかしさ」についても指摘されていますね。

斎藤 本を出してから6年になり、もう6刷で累計3万5千部と今どきにしてはけっこう売れています。しかし、書評もまったくしてもらえません新聞も雑誌も、この問題についてはほとんど書かせてくれないですね。もちろん、増税反対の論調は時々載るけれど、僕が本で書いているような、そもそも消費税は仕組みとしておかしい、という話はいっさい載らないんです。
 最たる例が、「消費税は、実は転嫁できない、弱い者が自分で負担するしかない税制」という話です。


編集部 どういうことでしょう?

斎藤 多くの人の理解は、消費税というのは消費者が何かものを買ったときに払うもので、お店の人は代金と一緒に税金分を預かってそのまま納める、というものだと思います。だから、本来なら税率が上がったら、小売業者はその分を売値に転嫁して、税込み価格を上げないといけないわけです。でも、今のように安売り競争が激しい中で、「消費税率が上がったから」といって、本当に値上げができるでしょうか
 運賃や光熱費などの公共料金は政治的に決まるから、増税されればその分を上乗せして値上げ、となりますが、一般の商品やサービスの値段は市場原理で決まるわけで、近くに激安スーパーがあるのに「増税されたから値上げします」とはなかなか言えません。結果として、売値は据え置き、でも年間売り上げ1000万円以上の業者には納税義務はあるから、小売業者が自腹を切って納税するしかない──ということが、あちこちで起こるわけです。
 しかも、ややこしいことに財務省などに言わせれば、これは「増税分はきちんと転嫁できている」ことになるんですね。


編集部 えっ? だって、売値は上げられていないわけですよね。

斎藤 でも、自腹を切ってでもなんででも、増税分はきちんと「納めている」わけだから。つまり、実質上は小売業者が単に自分の利益を削っているに過ぎないんだけど、帳簿上は無理矢理「本体価格を値下げして」転嫁した、という扱いになるんですよ。
 たとえば、本体価格1000円のものなら、5%のときの消費税は50円ですね。それが8%に増税されたら80円になるので、本来の税込み価格は1050円から1080円になるわけだけど、値上げができないのでそのまま1050円で据え置いたとする。でも税金は80円に見合った金額を払わないといけないから、その差額は小売業者が自腹を切って払うしかない。この場合、帳簿上は「本体価格を値引きして972円にして、そこに消費税8%分を乗せて1050円で売った」という計算になるわけです(※)。


  ※消費税8%のときの税込み価格は(本体価格×1.08)円で表せるので、
    税込み価格を1050円にする場合、本体価格をX円として、
    以下の計算式が成り立つ。


     X円×1.08=1050円

          ゆえにX=972・2222…

    つまり、本体価格1000円のものを税込み1050円で売った場合、
    帳簿上は本体価格を972円に値引きし、そこに消費税8%(78円)を
    乗せて販売した、という計算になる。


編集部 消費税はちゃんと8%分もらっているから、転嫁できているじゃないか、という理屈ですね。でも、実際には小売業者の利益が削られているわけで、そんなことが長続きするとは思えません。

斎藤 だから、消費税というのは納税義務者の滞納がすごく多いんです。これは国税庁のホームページにも出ているデータですけど、国税の滞納額全体のうち、60%近くが消費税なんですね。国税収入のうち消費税が占める割合は25%くらいに過ぎないのに、これはどう考えても異常です。
 消費税というのは、法人税や所得税とは違って、利益ではなく取引にかかるので、利益が上がらず赤字になったときでも払わなくてはならない。だからみんな自腹を切って払うわけですけど、その余裕もなくなれば滞納するしかないですよね。そうした「払おうにも払えない」人がたくさんいる、無理のある税制が消費税だということなんです。いわば、中小零細企業いじめと言ってもいい。


編集部 消費税が上がると、倒産する中小企業が増えるというのはそういうことなんですね。そして、そんなに滞納者が多いのなら、税制としても失敗というべきではないでしょうか。弱い立場の人に負担を押しつけている、という気がします。

斎藤 今お話ししたのは、どちらかといえばデフレ状態で値上げができないときの話ですけど、逆にある時期やある商品が非常に売り手市場で、少々値上げしても大丈夫だという状況のときは、当然ながら買い手である最終消費者が増税分を負担することになるし、どちらにしても、「弱いほうが負担する」ことには変わりがありません。財務省はよく、消費税は広くて薄くて公平で中立な税制だみたいなことをいうけど、「広く薄く」はともかく全然公平でも中立でもないんですよ。
 夏の参院選で自民党が圧勝したのは、増税延期をありがたがった中小零細企業の人たちがそっちに流れたというのもあるんでしょうが、そもそも増税を決めたのは政府ですよね。それなのに「増税を延期してくれた」と喜ぶのはさんざんナイフで突きまくられたのに、最後の一撃を心臓に食らう前に手を止めてくれたからと、相手に感謝するようなものだと思います。


消費税が「社会保障の財源になる」
のは本当なのか

編集部 一方で、増税延期についての是非はともかく、増税自体や、まして消費税そのものに正面から反対する人は決して多くはないですよね。大変だけどしょうがないという感じで…もちろん、お話しいただいたような問題点が知られていないということもありますが、社会保障の財源にするための増税という認識が強いことも一つの理由ではないでしょうか。

斎藤 そこがまた厄介な点で。いわゆるリベラルといわれるような人でも、むしろ消費税増税には賛成だったりするんですよね
 僕自身は、仮に本当に全額社会保障に使われるとしても、今お話ししたような弱い者いじめの税制はおかしいだろうと思うので反対ですが、もし仮にちゃんと実行されるのであれば──たとえばスウェーデンのような福祉国家を目指すから、税制もスウェーデンをマネするんだというのなら、それはそれで筋は通っていなくもないかな、とは思えます。それでも単純すぎるぐらいですけれど。
 でも、税率だけはどんどん上がるのに、「スウェーデンのような高福祉国家を目指すんだなんて政治家は誰も言わないでしょう?


編集部 たしかに、「スウェーデンは素晴らしい」という話はあっても、「日本もああするんだ」という話は聞いたことがないかも。

斎藤 数年前にも、読売新聞の一面に「いかにスウェーデンの福祉社会が素晴らしいか」という記事が載っていました。スウェーデンにおける消費税である「付加価値税」が非常に社会福祉に役立っており、高負担でも国民は納得している──という内容で、日本とヨーロッパ各国の消費税率を比較したグラフを示して、「それに比べて日本の税率はまだまだ低い」というんです。でも、別に政府は「スウェーデンのような社会福祉国家を目指す」なんて一言も言ってないんだからインチキこの上ない記事ですよ。むしろ、どんどん社会保障は削られてアメリカ型の社会になっていっているのに、消費税の話をするときだけスウェーデンを持ち出すのはどう考えてもおかしいでしょう。それをいうなら、アメリカには合衆国レベルでの消費税は存在しないんですから。一見似たような税制はありますが、それは小売段階にしかかからない、しかも州単位の地方税です。

 そもそも「社会保障の財源のために増税」という話にも、カラクリがあるんです。たしかに、消費税引き上げを決めた2012年の三党合意の時点では、「増税分は全額社会保障に充てる」という附則が、税制改正法に明記されていました。ところが、5%から8%への増税後、初年度(2014年)の税収は5兆円増えたにもかかわらず社会保障費は5000億円つまり増えた税収の1割分だけしか増額されなかったんです。


編集部 「増税分は社会保障に充てる」んじゃなかったんですか?

斎藤 ところが、これも政府に言わせれば「増税分はきちんと全額社会保障に充てた」ことになる。というのは、増えた税収5兆円のうち5000億円を除いた残りはどこに行ったかというと、それまで別の財源を充てていた社会保障施策に使われたんですね。つまり、新しく増えた分はたしかに全額社会保障に使われたけれど、一方でこれまで社会保障に使われていた分の財源を、別の用途に使っちゃったわけです。たしかに、「増税分を社会保障に充てる」とは言ったけど、「今社会保障に充ててる財源はそのままでとは一言も言ってないから、嘘ではない、という理屈ですね。


編集部 えーっ。詐欺! と言いたくなります。

斎藤 今だって、10%への増税延期で低年金・無年金の人たちへの救済措置が先送りになるとか言われていますけど、本来なら8%に増税した時点で、それくらいどうにかするのが当たり前でしょう。もともと社会福祉に使っていた分を他に回したからいけないのであって、「年金生活者の生活」を口実さらに増税しようというのはひどい話ですよ。
 こんな与太話に騙される国民もどうかと思うし、政府の言い分をそのまま伝えたマスコミに至ってはもう犯罪だと思いますね。ここまでお話ししてきたような話は、消費税の「イロハのイ」みたいなものなんだけど、それさえもまったく報じないんだから。


源泉徴収制度の起源は「戦費調達」!

編集部 報じないメディアの責任についても後ほどうかがいたいのですが、それだけではなくて、私たち自身がまず税の問題にそれほど関心がない、という問題もあるように思います。「なんだか難しそう」だからまあいいや、と流してしまったり…。

斎藤 そうなんです。誰かに話をする機会があっても、「消費税は転嫁ができなくて…」とか説明しだすと、それだけでもうなかなか聞いてもらえない(笑)。


編集部 でも、自分たちの生活に直結する問題ですよね。

斎藤 そのとおりです。たとえば、「交通費込み」の給料で働いている派遣労働の人などは、自分で確定申告して交通費を経費として申告すれば、源泉徴収されたうちの結構な額が返ってくるはずなんですよ。でも、確定申告の仕方や仕組みなんて学校でも教えないから、それさえ知らない人が多い。結果として「取られ損」になっちゃってるんです。
 一方で、正社員の人たちは所得税の納税なども全部会社任せだから、なかなか興味も持てないし。僕だって、新聞社に勤めてたときはほとんど興味がなくて、庶務課から「生命保険の控除証明を持ってきたら還付金がありますよ」とか言われても「めんどくさい」というだけの理由で何もしなかったくらいですから。


編集部 それが、会社を辞めてフリーになって変わられた。

斎藤 もう、なんとか経費として認めさせようと、必死に領収証を集めるようになりましたね(笑)。それに一時期、年収が1000万を超えて課税業者になったことがあって、そうすると自分が消費税を納めなきゃいけないでしょう。それなのに、原稿料とか印税収入とかに消費税の分を上乗せしてくれない出版社などがいくつもあったんですよ。つまり「転嫁できていない」という状態ですよね。
 「原稿料は消費税分を払ってもらってないのに、僕は納めなきゃいけない。これっておかしくないですか」と税理士さんに聞いたら、「おかしいよ。だけどそういうおかしな税制を国会で通しちゃったのが日本国民なんだから、しょうがないだろう」と言われて。それが消費税の仕組みのおかしさに気がついた最初ですね。


編集部 会社員も、全員自分で確定申告をするというシステムになれば、少しは関心が高まるのかもしれません。

斎藤 まったく違うでしょうね。グローバルスタンダードでいえばそれが当たり前。アメリカだってイギリスだって、みんな自分で申告していますよ。
 ちなみに、源泉徴収や年末調整の制度は、もともとはナチスドイツが戦費調達のために発明したものなんですよ。



編集部 そうなんですか! 取りっぱぐれがないから、ということですね。

斎藤 日本も、日中戦争のさなかの1940年に源泉徴収だけを導入して。年末調整はないまま、「取りっぱなし」の制度でした。それで敗戦後に「日本の税制はあまりに封建的だ。ちゃんと市民一人ひとりが自分で確定申告をするのがデモクラシーだ」と、GHQにさんざん批判されたんです。
 大蔵省はかなり抵抗したけれど、最終的には折れるしかなかった。そのときに、バーターとして導入されたのが年末調整なんです。史料によると「日本人はバカだから、自分たちで申告なんてできない。そんなことしたらみんな脱税をする」という意味の主張を日本側がしたんですよ。敗戦まではずっと「日本人は世界一優秀だ」と言ってたのにね(笑)。


編集部 それがそのまま、今でも続いているんですか。

斎藤 本家本元の西ドイツは、戦後に選択制を導入しました。つまり、会社にやってもらうこともできるけど、確定申告を自分でしたい人はそうできる、と。日本は今も、正規雇用の会社員の場合、年収が2000万円以上の人や2カ所以上の会社から給与を得ている人、あとは家を買ったなどの特別な事情があるときしかできませんからね。
 本当は、これだけ非正規労働者が増えているんだし、ユニオンなどが主導して「確定申告運動」みたいなのを始めてもいいと思うんだけど。さっき言ったように、交通費の分を申告するだけでもかなりの金が戻りますから、影響力は小さくないと思います。

その2に続きます)

構成/仲藤里美・写真・塚田壽子
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