テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

鞄を持った女

2006-05-18 | ラブ・ロマンス
(1961/ヴァレリオ・ズルリーニ監督・共同脚本/クラウディア・カルディナーレ、ジャック・ペラン、ルチアーナ・アンジェリロ、レナート・バルディーニ/122分)


 1960年代の終わり、その頃読み始めた雑誌「スクリーン」の読者アンケートで、“CC”はベストテンに入る人気女優だった。CCとはこの映画の主演女優クラウディア・カルディナーレのこと。スタイルはいいし、今時の人にもアピールしそうな可愛いらしさとセクシーさを併せ持った女優だった。この作品ではナイトクラブの歌手の役で、知性は感じられないが下品ではなく、幸薄い風情が日本人受けしたのではなかろうか。

 因みに、CC以外の人気女優で当時イニシャルで表記されていたのは、ご存じMMマリリン・モンロー、そしてBB(ベベ)ことブリジット・バルドーだった。

 ミラノのクラブ専属歌手アイーダ(カルディナーレ)は美味い仕事を紹介すると言う男に騙されて店を飛び出すも、その男マルキオーリは自分の故郷パルマの近くで彼女を置いてきぼりにする。映画は、アイーダと男がオープンカーで走っているシーンからスタートして、車の調子が悪いと立ち寄った修理工場でアイーダが席を外した隙に彼女の鞄を置いて男は逃げ去る(~タイトル)。

 パルマの裕福な家庭に育ったマルチェロとロレンツォ(ペラン)の兄弟。
 マルキオーリという偽名を使っている遊び人マルチェロが家に帰ると、父親は仕事で出張中で16歳の弟ロレンツォがいた。母親は亡くなっており、家は叔母さんが切り盛りしていて家政婦もいる。学校は休みのようだが、成績が芳しくなかったロレンツォは毎日家庭教師付きで勉強中だ。

 その夜、仕事も男も捨ててきたアイーダは必死の思いでマルチェロの家を探し当てる。マルチェロは元々彼女には偽名を使っていたので家違いだとロレンツォに嘘をつかせて彼女を追っ払う。アイーダとのやりとりで事情を察したロレンツォは、近くのホテルへの道を案内し、その後も行く宛が無いという彼女の相談にのるようになる。それは、兄の悪行を償おうとしたからだが、次第にアイーダに惹かれていくロレンツォであった・・・。


 安ホテルで風呂に入れなかったというアイーダに、家の大理石張りのお風呂を使わせるロレンツォ。階段を下りてくる風呂上がりのアイーダをウットリと見つめるシーンに少年の恋心が溢れておりました。
 ズルリーニでは「激しい季節(1959)」が情熱的な恋愛映画とのことで有名ですが、上記のシーンを観ると無性に観たくなりましたな。
 一つ一つのシーンが割と長めで、ショットも長めのものが多い。しかし、カメラワークを巧く使って緊張感を持続させておりました。役者陣もじっくりと撮られるシーンが多いのですが、しっかりと耐えておりましたな。カルディナーレ、ペラン、共に見応えがありました。
 二人が絡むシーンでは印象深くなるように音楽を少し変えていてこれも面白い演出でした。

▼(ネタバレ注意)
 マルキオーリを諦めたアイーダが元の鞘に収まろうとクラブの男に連絡をし、男がパルマにやってくる。ロレンツォはアイーダと別れたくなくてマルキオーリと連絡がついたと嘘をつく。
 男からつれない返事しかもらえなかったアイーダ。ロレンツォは彼女がバツイチであったことや施設に預けた子供がいる事なども知ることになる。嘘の繕いが出来ずに、ロレンツォは数学の家庭教師でもある馴染みの神父に相談をする。

 神父はアイーダに会い、ロレンツォの為にパルマから出ていくように言う。アイーダが宛てがないので出て行けないと言うと、神父はマルキオーリがロレンツォの兄であることを告げる。ロレンツォの自分への恋心に気付いていたアイーダだが、ここで初めてこの地を離れる決心をする。

 数日後、アイーダは元の店に戻ろうとかつての男を訪ねる。男は二度と来るなと暴力を振るい、従兄弟だという映画監督は彼女に優しくし身体を求めようとする。アイーダが金銭で落ちようとする頃、彼女を追いかけてロレンツォがやってくる。

 神父に相談したことを謝るロレンツォ。映画監督と格闘した後、二人は夕暮れの砂浜で初めて口づけをかわす。

 その夜の最終便でパルマに帰るロレンツォは、返事はくれなくてイイからと彼女に手紙を渡す。ロレンツォが去った後にアイーダがその手紙を開けると中には・・・。
▲(解除)

 ラストは現実的な成り行きで、その分やるせなさが残る。但し、映画作品としてはもう少しインパクトのある締め方も出来たような気がしましたな。

 1939年生まれのカルディナーレはこの時22、3歳。この映画の4年前の美人コンテストで優勝したのが映画界入りのきっかけらしいが、それにしては演技巧すぎじゃないですか? 観る角度によってはキャサリン・ゼタ=ジョーンズやキャサリン・ロスに似てました。テーマ曲が有名な「ブーベの恋人(1963)」は記憶の彼方で、「刑事(1959)」はBS放送を録画してますが熟成中であります。

 対するJ・ペランはカルディナーレの2歳下。イイとこのお坊ちゃんらしい品が良く出てました。芸能一家の出身で、69年の「(コンスタンタン・コスタ=ガヴラス監督)」からはプロデューサー業にも乗り出していて、2004年製作の「コーラス」には息子マクサンス・ペランと一緒に出演もしているらしいです。
 ドキュメンタリー「WATARIDORI」も彼の作品でした。

 本作品は1961年のカンヌ映画祭でベスト・セレクションに選ばれたようです。

 そうそう、ラスト近く、ロレンツォと映画監督が格闘している時にバックで流れていたのは、かつて森山加代子が唄っていた「月影のナポリ」じゃなかったでしょうか?ちょっと自信ないけど。

・お薦め度【★★★=一度は見ましょう、私は二度見ましたが】 テアトル十瑠

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2 コメント

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Unknown (オカピー)
2006-08-08 14:05:50
コメント、有難うございました。

ズルリーニやピエトロ・ジェルミは、日本の50年代のモノクロ映画と共通する香りがあり、日本人好みでしたね。ズルリーニはジェルミより苦い味がしますが、情感の出し方が抜群でした。「激しい季節」も、細かい点は忘れてしまいましたが、リアルな感触に支えられた戦後のムードという点で優れていたような気がします。

一番のお奨めは「家族日誌」で、こちらもマストロヤンニとペランの共演。



確かに「月影のナポリ」ですね。オリジナルのミーナ版が使われています。私の本館で確認できる頁がありますので、こちらも宜しく(宣伝でした)。
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TB&コメント、ありがとうございます (十瑠)
2006-08-08 20:58:10
「家族日誌」も未見なんですよね。ズルリーニで一番観たいのは実はソレなんです。



「月影のナポリ」。当たってましたかぁ★

映画の流れとは関係ない感じの音楽でしたけど・・・。
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