(1970/ベルナルド・ベルトルッチ監督・脚本/ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ、ガストーネ・モスキン、エンツォ・タラシオ、ピエール・クレマンティ/107分)
「ラスト・エンペラー (1987)』でオスカーを受賞したベルナルド・ベルトルッチの出世作であります。もう40年以上前になるんですねぇ。
原作はイタリアの文豪アルベルト・モラヴィアの「孤独な青年」。原題【IL CONFORMISTA】は「体制順応主義者」という意味らしいのですが、見事に主人公を言い表しているというか、でも、観終わると何処か悲しさも感じさせるタイトルでありますな。
第二次世界大戦前夜のイタリア、ローマ。
少年の頃に男色家に言い寄られて拳銃を撃ってしまったマルチェロは、神に懺悔するのではなく、社会に貢献することで罪を払拭しようと思うようになり、時代の流れに沿うようにファシズムに傾倒していく。
ファシストの友人に紹介されて秘密警察の一員になった彼は、大学時代の恩師で今はフランスに亡命している反ファシズム思想の教授に接触して彼等の情報を得ようと新婚旅行を兼ねてパリに向かう。嫁の名はジュリア。苦労知らずのプチプル娘は、頭は良くないが、マルチェロが普通の既婚者を演じるには格好の女性だった。
当初の目的は教授近辺の情報を得るだけだったが、旅の途中で上層部からの指令は教授の殺害に変わった。最近の教授の言動が挑発的だと判断されたからだった。
教授夫人のアンナは若く魅力的で、ファシスト政権下の要人のオフィスでかつて見かけた女性に間違いなかった。マルチェロには娼婦のように見えたが、はたして何者だったのか。彼女からはファシストだと見抜かれ警戒され続けたが、ジュリアが緩衝材となって、教授夫妻と食事をしたりダンスを楽しんだりする関係になった。教授からは、いつか君もファシストから転向するようになるだろうと言われた。魅惑的なアンナもいる事で計画は一向に進展せず、マルチェロの護衛兼見張り役の男を苛立たせた。
教授夫妻が車で別荘に向かうという情報をジュリア経由で得たマルチェロは仲間に知らせ、アンナには教授の車には乗らずに後から僕ら夫婦と一緒に行こうと提案した。教授と一緒に行けばアンナは目撃者となるし、当然彼女も抹殺されるからだ。
当日の朝、教授の車が出たことを確認して、マルチェロも後を追うことになる。見張り役の男が言うには、アンナも一緒に出かけたらしい。何故だ? 危険は承知しているはずなのに。マルチェロは早く追いついてアンナの殺害を回避したいと思うのだが・・・。
オープニングは、早朝のホテルで仲間からの電話をマルチェロが待っているシーン。教授が別荘に出かけたのを確認して後からマルチェロ等が車で追うわけですが、アンナも教授に同行したのを聞いてマルチェロはあせります。
教授を暗殺しようと車で追いかけるシーンが現在で、そこに至るマルチェロの周辺を描いた過去のエピソードが断続的に挿入されます。過去が段々と現在に近づいていく構成がうまいですね。原作は多分こういう構成ではないと思いますが、脚本も書いたベルトルッチはアカデミー脚色賞にノミネートされたそうです。
アイヴォリーの「日の名残り」と似ていて、概ね過去がメインとなる所も同じ。但し、今作はサスペンスなので現在のシークエンスに「日の名残り」のようなロード・ムーヴィーの味わいはありません。
主人公のマルチェロを演じたのは「男と女」のジャン=ルイ・トランティニャン。最新作は「愛、アムール」であります。
過去の過ちに引きづられて体制に迎合していったマルチェロ。無神論者でもあったのが彼をファシズムに向かわせたのでしょう。「男と女」の穏やかなレーサーとは違って、突然キレそうになったり、臆病になったりする歪んだ性格の男を見事に演じていました。
当時19歳だったというドミニク・サンダ。
歳の離れた夫を守りたいと、マルチェロやジュリアを幻惑させるような色仕掛けを労するアンナを演じて、日本でも多くのファンを作ったようです。なんといっても終盤のクライマックスシーンの彼女が圧倒的でした。映像も含めてですが。
ドミニク・サンダとのダンスシーンがエロティックと評判になっていたステファニア・サンドレッリ。
想像以上に肉感的で、サンダよりも背が低かったのが意外でした。ピエトロ・ジェルミの「イタリア式離婚狂想曲」や「誘惑されて棄てられて」、同監督作でダスティン・ホフマンと共演の「アルフレード アルフレード」など観たい作品が多いのにいずれも未見なのでありました。
マルチェロの見張り役のマンガニェロにはガストーネ・モスキン。「黄金の七人」なんかがポピュラーでしょうが、シリアスな今作でも存在感がありました。
男色やらレズビアンっぽいシーンがあったり、ジュリアの過去には近親相姦、マルチェロの母親は若い運転手と懇ろであったりと性的表現が多いのも、この映画の官能的で退廃的なムードを割り増ししている感じ。
演出もフェリーニを意識してるような多少オーヴァー気味でありますが、その分終盤のクライマックス・シーンがドキドキするほどリアリスティックで強烈な印象を残します。
キャメラは「地獄の黙示録 (1979)」、「レッズ (1981)」、「ラストエンペラー」で3度アカデミー撮影賞を受賞したヴィットリオ・ストラーロ。レトロな雰囲気と重厚で華麗な色彩が舞うような、いわゆる耽美的との表現がぴったしの美しさでありました。なんだか淀川さんが好みそうな映画ですな。『絵画を見ているようですねぇ』なんてね。
1971年の全米批評家協会賞で、監督賞と撮影賞を受賞したそうです。
オープニングからそうですが、全般的にもサスペンス色の強い不安をかきたてるようなジョルジュ・ドルリューのBGMが効果的でした。
※ ネタバレ備忘録はコチラ。
「ラスト・エンペラー (1987)』でオスカーを受賞したベルナルド・ベルトルッチの出世作であります。もう40年以上前になるんですねぇ。
原作はイタリアの文豪アルベルト・モラヴィアの「孤独な青年」。原題【IL CONFORMISTA】は「体制順応主義者」という意味らしいのですが、見事に主人公を言い表しているというか、でも、観終わると何処か悲しさも感じさせるタイトルでありますな。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/2d/649254adc806e874bfb017495e29e85f.jpg)
少年の頃に男色家に言い寄られて拳銃を撃ってしまったマルチェロは、神に懺悔するのではなく、社会に貢献することで罪を払拭しようと思うようになり、時代の流れに沿うようにファシズムに傾倒していく。
ファシストの友人に紹介されて秘密警察の一員になった彼は、大学時代の恩師で今はフランスに亡命している反ファシズム思想の教授に接触して彼等の情報を得ようと新婚旅行を兼ねてパリに向かう。嫁の名はジュリア。苦労知らずのプチプル娘は、頭は良くないが、マルチェロが普通の既婚者を演じるには格好の女性だった。
当初の目的は教授近辺の情報を得るだけだったが、旅の途中で上層部からの指令は教授の殺害に変わった。最近の教授の言動が挑発的だと判断されたからだった。
教授夫人のアンナは若く魅力的で、ファシスト政権下の要人のオフィスでかつて見かけた女性に間違いなかった。マルチェロには娼婦のように見えたが、はたして何者だったのか。彼女からはファシストだと見抜かれ警戒され続けたが、ジュリアが緩衝材となって、教授夫妻と食事をしたりダンスを楽しんだりする関係になった。教授からは、いつか君もファシストから転向するようになるだろうと言われた。魅惑的なアンナもいる事で計画は一向に進展せず、マルチェロの護衛兼見張り役の男を苛立たせた。
教授夫妻が車で別荘に向かうという情報をジュリア経由で得たマルチェロは仲間に知らせ、アンナには教授の車には乗らずに後から僕ら夫婦と一緒に行こうと提案した。教授と一緒に行けばアンナは目撃者となるし、当然彼女も抹殺されるからだ。
当日の朝、教授の車が出たことを確認して、マルチェロも後を追うことになる。見張り役の男が言うには、アンナも一緒に出かけたらしい。何故だ? 危険は承知しているはずなのに。マルチェロは早く追いついてアンナの殺害を回避したいと思うのだが・・・。
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オープニングは、早朝のホテルで仲間からの電話をマルチェロが待っているシーン。教授が別荘に出かけたのを確認して後からマルチェロ等が車で追うわけですが、アンナも教授に同行したのを聞いてマルチェロはあせります。
教授を暗殺しようと車で追いかけるシーンが現在で、そこに至るマルチェロの周辺を描いた過去のエピソードが断続的に挿入されます。過去が段々と現在に近づいていく構成がうまいですね。原作は多分こういう構成ではないと思いますが、脚本も書いたベルトルッチはアカデミー脚色賞にノミネートされたそうです。
アイヴォリーの「日の名残り」と似ていて、概ね過去がメインとなる所も同じ。但し、今作はサスペンスなので現在のシークエンスに「日の名残り」のようなロード・ムーヴィーの味わいはありません。
主人公のマルチェロを演じたのは「男と女」のジャン=ルイ・トランティニャン。最新作は「愛、アムール」であります。
過去の過ちに引きづられて体制に迎合していったマルチェロ。無神論者でもあったのが彼をファシズムに向かわせたのでしょう。「男と女」の穏やかなレーサーとは違って、突然キレそうになったり、臆病になったりする歪んだ性格の男を見事に演じていました。
当時19歳だったというドミニク・サンダ。
歳の離れた夫を守りたいと、マルチェロやジュリアを幻惑させるような色仕掛けを労するアンナを演じて、日本でも多くのファンを作ったようです。なんといっても終盤のクライマックスシーンの彼女が圧倒的でした。映像も含めてですが。
ドミニク・サンダとのダンスシーンがエロティックと評判になっていたステファニア・サンドレッリ。
想像以上に肉感的で、サンダよりも背が低かったのが意外でした。ピエトロ・ジェルミの「イタリア式離婚狂想曲」や「誘惑されて棄てられて」、同監督作でダスティン・ホフマンと共演の「アルフレード アルフレード」など観たい作品が多いのにいずれも未見なのでありました。
マルチェロの見張り役のマンガニェロにはガストーネ・モスキン。「黄金の七人」なんかがポピュラーでしょうが、シリアスな今作でも存在感がありました。
男色やらレズビアンっぽいシーンがあったり、ジュリアの過去には近親相姦、マルチェロの母親は若い運転手と懇ろであったりと性的表現が多いのも、この映画の官能的で退廃的なムードを割り増ししている感じ。
演出もフェリーニを意識してるような多少オーヴァー気味でありますが、その分終盤のクライマックス・シーンがドキドキするほどリアリスティックで強烈な印象を残します。
キャメラは「地獄の黙示録 (1979)」、「レッズ (1981)」、「ラストエンペラー」で3度アカデミー撮影賞を受賞したヴィットリオ・ストラーロ。レトロな雰囲気と重厚で華麗な色彩が舞うような、いわゆる耽美的との表現がぴったしの美しさでありました。なんだか淀川さんが好みそうな映画ですな。『絵画を見ているようですねぇ』なんてね。
1971年の全米批評家協会賞で、監督賞と撮影賞を受賞したそうです。
オープニングからそうですが、全般的にもサスペンス色の強い不安をかきたてるようなジョルジュ・ドルリューのBGMが効果的でした。
※ ネタバレ備忘録はコチラ。
・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 ![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
それもこれも「邦題」がひどすぎ・・が理由だと。
でもね、内容が地味でシビアなので大衆向けじゃなかったよね。
ほんの少しだけテレビ放映時に鑑賞。
いずれ全編見ないと・・
SCREENの双葉さんの評価が☆☆☆★★★(75点)で気になる作品だったことは覚えてます。
>いずれ全編見ないと・・
ツタヤのお薦め良品に並んでいるはずなので、観てつかーさい。
>体制順応主義者
日本では映画のタイトルになりませんが、言い得て妙な原題ですね。
邦題はなかなか良いと思いますが。
内容がネタバレということだったのかなあ?
確かに結末の一端はバレバレですが、返って興味を牽引してくれるような気もするんですけどねぇ。
ベルトリッチは「ラストエンペラー」も好きです。
と、コメントがありましたネ。
パクリであればなおさら・・・ですね。
個人的には悪い邦題とは思っていませんが。