テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

肉体の悪魔

2009-03-23 | ラブ・ロマンス
(1947/クロード・オータン=ララ監督/ジェラール・フィリップ、ミシュリーヌ・プレール/116分)


 『映画に好き嫌いはありません。何でも観ます』と言いたいところですが、実はホラー、スプラッター系は苦手、お化け映画、任侠映画、ギャング物も好んで観る方ではありません。そして、途中で呆れて観るのを止める事が多いのが、あほなカップルが主役を務めるラブ・ロマンスだったりします。今もレンタル店の一角を占める韓流ドラマ、お茶の間の和製ドラマにもそんなお話が多いですよね。そしてそして、ヨーロッパのロマンス映画にも時たまそういうのがあって、唖然とすることがあります。
 クロード・オータン=ララの「肉体の悪魔」はフランスのロマンス映画の名作として有名ですが、今回が初見。前回記事のコメントにも書いたように、観るのを途中で止めたくなったロマンス映画のひとつとなりました。残念!

*

 僅か20歳で疫病によりこの世を去った早熟の天才作家、レイモン・ラディゲ17歳の処女小説の映画化。

 時は第一次世界大戦の終結間際、パリ郊外に住む高校2年生のフランソワ(フィリップ)は、一角が病院になっている学校で、看護婦をしている母親に呼ばれてやって来たマルト(プレール)に出逢い、一目惚れする。許嫁(いいなずけ)のいるマルトだったが、彼女が結婚に消極的なのに気付いたフランソワは、パリでの買い物に付き合い、次の逢瀬の約束する。ところが、マルトからの連絡が遅いために裏切られた気分になったフランソワは彼女の勤める病院に乗り込み、おかげでマルトの母親にも彼の存在を知らしめてしまう。マルトは手紙で逢う場所を知らせて来るが、結局フランソワは彼女を遠くから見るだけで帰ってしまい、マルトとの事が父親にもばれたフランソワは彼女への恋心も醒め、夏休みを田舎の修道院で過ごすことにするのだった。
 夏休みが終わり、再び学校に行くと、又してもマルトに会い、二人は何事もなかったかのように近況について話をした。彼女は結婚をして、ご主人は戦争に行っていた。フランソワは彼女の家を見ても良いかと尋ね、マルトも快く招き入れる。そこには、以前フランソワが付き添ってパリで買った家具が置いてあった。寝室に入ると、そこにあったベッドはフランソワが選んだものだった。
 『僕の選んだベッドで違う男と・・・』
 再び彼女への情熱が燃え上がるフランソワ。
 『今夜は母が来るから帰って。明日の夜待ってるわ』
 二人は数ヶ月前のように熱く口づけを交わすのだった・・・。

 と、まあ、こんな話です。
 次の夜、フランソワは友達と遠出をすると両親に嘘をついてマルトの家に向かい、二人は結ばれる。結婚前に約束の場所で逢えていたら結婚はしなかったとマルトは言い、でも結婚したら母親の監視が無くなったのでこうして逢うことが出来るのね、とも言う。1回しかデートをしていないのに、ストーカーのようになってしまうフランソワの前半の激情も付いていけないモノを感じますが、マルトのいい加減さにも呆れてしまいます。
 夫の居ない間に未成年の男を自宅に招き入れ、夫からの手紙を見せたり、困ったことが起きるとその年下の愛人に判断を委ねる。自分は散々嘘をついていながら、母親の(二人を別れさせる為の)嘘は許せないという態度をとる。なんの経済力もない男の子供を孕み、身重の体で深酒をし、最後は母親に助けを求め、挙げ句の果てに死んでいく。夫も寄り添う死の床で愛人の名を呼び、母親に『アレはあなたの赤ん坊の名よ』と嘘をつかせる。酷い娘です。酷い嫁です。
 どですか、皆さん。

 恋は盲目という感情は分かります。でも、大抵の映画は、途中で気付くモンです。何が正しい道か。この二人は、そういうチャンスがいくらもあったにもかかわらず、結局右往左往しただけで、なんの成長もなく過ぎていってる。
 妊娠が分かった後、二人は夫に正直に打ち明けようと話し合いますが、その日になってフランソワは止めようと言い、『昨日決めたことをすぐに止める。なんていい加減な人なの』とマルトは責めます。その台詞を聞きながら、私は笑ってしまいました。『おいおい、それはあんたも同じだろ』と。『これ以上学校は休めないし、両親がカンカンなんだ』というフランソワの理由(映像からは台詞以外のもっともらしい理由は語られていません)も確かにいい加減ではありますがね。
 皮肉な視点で描かれたのであれば、この話は面白いと思いました。でも、オータン=ララは真面目に共感を持って彼らを描いてます。悲恋として描いています。ここがどうしても付いていけない。
 原作はフランソワの一人称で書かれた小説のようです。自分自身の分析やら多分マルトについても事細かに書かれているらしいので、原作を読めばもっと分かるのかも知れません。映画はモノローグ無しに作られており、彼らの心の中は画面から推測するのみで、深い心情は感じ取れませんでした。

 前回の記事で、「一見何処にでもあるような話であっても、細やかに描くことによって状況は少しずつ変わっていく。状況が変わっていくから目が離せない。良く出来た映画というのは、そういう映画なんだ」と書きました。
 好いたはれた、裏切ったの心変わりだのと言い合って、心の中はあっちフラフラこっちフラフラ。そんな主人公達の稚拙な人生を事細かに追いかけられても、「同じ事を繰り返してるように感じる」だけで、面白いとは感じませんね。

 お薦め度は難しい。上記の内容で、それでも観たいお方はどうぞと言うしかありません。
 多少、ストーリーを端折ったような強引な部分もありますが、概ね詩的リアリズムと言われるように丁寧な語り口になっています。マルトの葬式の日に、フランソワが彼女が住んでいた家を訪れ、彼女を思い出すというオープニングで、途中に葬儀のシーンが数回差し込まれます。

 ジェラール・フィリップは既にこの時25歳だったそうで、やはり16歳はきついかな。フランソワは童貞ではなかったようなので、そういう意味ではなんの違和感もありませんです^^

 尚、オータン=ララの作品では「青い麦 (1953)」という、やはり文芸作品があります。いわゆる筆下ろし青春映画のようですが、コチラのほうが分かりやすいような気がしますネ。

・お薦め度【上記本文にて御判断下さい】 テアトル十瑠

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8 コメント

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掃除機も (vivajiji)
2009-03-23 08:50:17
ブンなげて(笑)読みふけさせていただきました。
そうなの!そうなの!うんうん!
うなづき過ぎて首折れそ!^^
っとは誰かのパクリですが(爆!)
まさに十瑠さんがぜんぶ私の言いたいこと
書いてくれているのでお胸スッキリ!

マルトもほんと困ったオナゴでしたよね~(--)

見た目として彼女は年上の人妻ですから仕方ないとしても
フランソワ役の人選、あれはまずい。
私、画面観ながら
“この人はまだ10代なんだ”
“世間知らずのお坊っちゃまなんだ”
っていくら心に言い聞かせても
目の前にいるのが完全にトウのお立ちになったフィリップ氏でしょ。(--)^^
まんずアホタンキョな二人をキレイにキレイにお撮りになってるもんだから
内容とシャシンのアンバランスで観ているこちらはキリモミ状態。

ところで
「肉体の悪魔」って5本もあるんですのね。

私の中ではダントツ71年ケン・ラッセル監督の「肉体の悪魔」が、
『肉体の悪魔』。^^
あ、これも十瑠さん好みではないと思われ。
返信する
内容とシャシンのアンバランスで・・ (十瑠)
2009-03-23 16:01:25
ソレッ!
書こうと思って、もらした文句です。
私はチグハグって書こうと思ってましたがネ^^

それにしても、あちらの高校生は煙草は吸うわ、酒は飲むわ、女は頂くわ(笑)・・凄いですね。羨ましい(涎)
おっと

>「肉体の悪魔」って5本もあるんですのね。

ケン・ラッセルのだけが別物らしいですね。
キャッチコピーが『セックスの匂いがむんむんする 血と欲情と衝撃の巨篇!』
こりゃあ、レンタルでも借りにくい(ヘヘ)。
オリヴァー・リード とヴァネッサ・レッドグレーヴだから、気にはなりますな。
返信する
Unknown (シュエット)
2009-04-06 16:22:11
>観るのを途中で止めたくなったロマンス映画のひとつとなりました。残念!
十瑠さんはそうだったんですか?
私ははまり込んで3日つづけて観てしまったくらいです。
若気の至りなんだけど、その若気の至りが切なくって…(笑)
ジェラール・フィリップの声も甘さを出して、彼の声にも表情を感じたわ。
お邪魔でしょうが、TB持ってきますね。
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難しい (十瑠)
2009-04-06 18:04:21
viva jijiさんと私、オカピーさんとシュエットさんで完全に評価が違ってますね。
映画ってホントに難しい。というか面白い!

あまりに受け止め方が違うので、知らんぷりしてたのですが、せっかく来ていただいたので、コソッとTBだけさせていただきますね。
ドキドキ・・・
返信する
つまりは (みゃーお)
2009-04-25 01:46:48
ViVaJiJi様とやらは
G,フイリップが気に入らないんでしょ。
アラン・ドロンが大好きでフランス映画で彼以上の美男はいないとブログで言ってられるし。同じ
役を(当時のフイリップと)同じ年でドロンが演じていれば絶賛していたのではないでしょうか?
返信する
みゃーおさん (十瑠)
2009-04-25 07:52:00
お幾つの方かは存じませぬが、「ViVaJiJi様とやらは」というのは、実に失礼な発言ですな。
「やら」というのは明らかに見下しておる表現ですぞ。その前に「様」をつけておられるのはご愛敬ですが。

>G・フイリップが気に入らないんでしょ。

それは、フランソワ役としては合ってないと言われているだけで、しかもそれをもって映画の評価とされている訳ではないことは、コメントをしっかり読めば分かることです。
ちゃんと読んで下さい。お願いします。
返信する
Unknown (トム(Tom5k))
2009-05-09 12:21:23
こちらにもTB・コメントいたします。
わたしは、とても好きな作品です。フランスのクラシック作品には、とても魅力を感じてしまいます。
映画の嗜好と評価って、本当に難しいものですね。
批判も、高評価も、どちらも誤りとは思えない。
それに各人の好き嫌いや嗜好などもあるし、時代における無理解や絶賛が他の時代では、また異なってくることもありますものね。
では、また。
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トムさん (十瑠)
2009-05-09 17:56:07
演出とか編集とか、そんなレベルでなく、何しろ主人公に嫌悪感を持ちましたので、どうしよもないです。
「青い麦」は予定リストに残しておりますが。

スキンを変えられましたねぇ。
アカデミックな印象にグッと渋みが加わった感じですな。
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